第2話 「極めし者」の究極の召喚
だから、まだ第二部の投稿が終わってないでしょ? どうすんの?
え? 仕事から帰ってからやる?
ちょっと、仕事中になにしてんのよ!?
「うひゃぁ!」
10歳くらいの少年が叫ぶ。ここは召喚都市レイクサイドの領主館宝物庫であった。誰かから逃げるようにしてここに入ってきた少年の魔力はあり得ないほどに高い。それは当時世界最強と言われていた彼の父親を超えるほどの物であったために、誰もが信じられないほどの魔力量なのであるが、それを知っているものはいない。彼は落ち着いて魔力測定など、させたことがないのだ。いわゆる集中力のない少年である。
「なんだ、誰か来たのかと思ったぜ」
その少年は追手から逃れて宝物庫に隠れたはいいが、ついさっきまでやることがないので宝を漁っていたのだ。ここの宝物庫にはかなりすごい宝が無造作に置いてあった。ちなみに鍵は領主の血縁者を判別する魔道具が使われている。他の者が開こうとするためには魔道具にいちいち領主の認証が必要となる優れものだった。少年には鍵としての意味のない物であるため、逃亡先にはよく選択される。
今、少年が手に取っているのは「玄武の甲羅の欠片」「朱雀の尾羽」「青竜の逆鱗」「白虎の牙」特大の「火の魔石」。どれもこれも他の領地にはないほどのお宝である。下手すれば島一つくらいなら購入することができ、傭兵団なら丸ごと終身雇用でき、やすやすと敵の親衛隊長を寝返らせることのできるほどの価値がそれぞれにある。そしてその価値も分からずになんとなく眺めている少年。
「なんか、すっげえな」
一度に全部並べてみたくなった。その辺りにあった羊皮紙を床に敷く。順番に並べる。
「おぉ!」
並べてみると壮観だった。しかし大人が見ればこれは血の気が引くし、召喚士が見れば「これはマズいけど、その先を見てみたい」と言うだろう。しかし少年にその意味は分からない。
「へへっ、誰か来てないかな?」
貴族院入学したての10歳の少年は夏季休暇を利用して、領地へと強制的に連れ戻されている最中であり、その成績の事で母親から叱責という名の拷問を受けており、その拷問と呼んでいる勉強を強制的にさせてくるのが親衛隊長率いる親衛隊の面々である。今は、親衛隊長のシフトではないために彼の養女から逃げおおせたところだった。
そして誰か来てないかな? という言葉と同時に物音がする。そして冒頭の奇声をあげてしまったという事だった。慌てて宝物庫の扉の方向を振り向き、忍び足で扉に耳をつける。しかし、近くには誰もいないようだった。
「な、なんだ空耳か」
「いや、呼んだよね?」
「うひゃぁぁぁ!!」
いきなり後ろから声をかけられて少年は驚く。
「呼んでねえよ!」
後ろには同じく10歳程度の少年が立っていた。
「え? 呼んでないの? じゃあ、僕を呼んだのは誰だろう?」
「というか、お前誰だよ!! なんでこんな所にいるんだ!」
「いや、僕も呼ばれたから来ただけで…………」
その時、宝物庫の外で足音が聞こえた。
「なんか、こっちで音がしましたよ! ロージー坊っちゃま! どこですか!?」
「おい、マリー=オーケストラ。ロージー様が呼ばれて出てくるわけがない。静かに探せ」
「あっ、はい。すいませんマジェスターさん」
「こんな時はノームがもっとも役立つ」
その会話で青ざめる少年。そして扉の向こうで大量のノームが手あたり次第に周囲を探索しだしたようだ。おそらく追手は「宝剣」マリー=オーケストラに「流星」マジェスター=ノートリオ。二人ともにその腰に佩いている唯一無二の剣が二つ名の由来であり、そのような剣を扱う剣の達人であると共に召喚や破壊魔法に優れている猛者である。
「でも、多分君だと思うんだけど、契約を結んで欲しいんだ」
「あー、なんでもいいから静かにしてくれよ!」
ひそひそ声で怒鳴るという器用な事を少年はしている。
「あ、分かったよ。なんでもいいんだね」
「俺を助けると思って!」
「了解。なんかあったら呼んでよ」
「静かに!」
しかし、宝物庫の扉が開けられ、ノームが入ってくる。ばっちり目があった。
「あっ、開いてる!! ロージー坊っちゃま! 見つけましたよ! 今日は私非番で孤児院に帰るつもりだったんですからね! はやく宿題やらないと!」
「げぇっ! マリー!」
「マリー=オーケストラ。後は私がやる。お前は「家」へ帰るといい」
「マジェスターさん! 有難うございます!」
「孤児院はお前にとって「家」だ。父親と共にいることも必要だが、家族を大事にするその心構えを私は高く評価している」
「さっすがぁ、ルークとは違いますねえ!」
「あんな残念エルフと比べるな」
ノームまみれになったロージーの首根っこを捕まえて、マジェスターが微笑む。ノーム達が送還されていきロージーが見えてきた。
そして、その時宝物庫の中の国宝級の宝の多くが羊皮紙とともになくなっていたこと、もう一人の少年がいなくなっていた事に気付いた者はいなかった。この出来事は日常と同様の出来事とされ、少年の想いでの中からはすぐに消去されたのである。
「あぁー、誰か助けてくれんかなぁ」
貴族院が始まるころ、少年は王都ヴァレンタインに向かうワイバーンの上でぼそっとつぶやいた。そして、ワイバーンが飛び立った場所には宝物庫にいた少年がぽつんと立っていた事に気付いた者はいなかったのである。
「え? 呼ばれたんだよね? 誰もいねえんだけど。というか、あいつは誰で、ここはどこ?」
誰も信じてくれないだろうが、これが後の世に「極めし者」が召喚した「究極の召喚獣」である「ヒューマン」の最初の召喚であった。そして、その日に家族がおらず、記憶もないことになっている10歳の少年が召喚都市レイクサイドの孤児院に引き取られる。
「おい、タイタニス。なんかこっち来てから、体がだるい」
「ロージーさん、休みボケじゃないですか?」
「気分的には領地から逃げてきた感じなんだけど……」