第18話 親友
本日6話目………
「完全にぼったくられたんじゃないの?」
「そ、そうなのか?」
素材の交渉をロージーに任せたのがまずかったかな? しかしできればタイタニスがいない時に契約してしまっておきたかった。
「まさか、一番上の素材がAランクのマザースネークとは思わないよ」
「ちょっと待てよ、Sランクの素材がかなりあったぞ?」
「だからぼったくられたって……」
たまに召喚獣の異世界にもどるとこれだよ。マリもいたのに何やってんの。
「面目ない……」
まあ、二人とも交渉事は基本的には上手じゃないよね。仕方ないといえば仕方ないか。それにこれはロージーの修行を兼ねてるんだもんね。うん。
かなりたくさんの素材を特殊諜報部隊の人に渡して戻ってきたウインドドラゴンの契約素材はしょぼいものだった。これだったら他の領地も契約できる奴がいるんじゃないのかって、思うほどだ。でもある程度召喚魔法のレベルがないと契約できないらしいから、こういったものを一概に断定する事はしない方がいいかもしれない。それに、これで二人ともウインドドラゴンと契約できるようになったのでよしとしよう。
さっそく、ロージーとマリが召喚契約を行う。周りには誰もいない郊外で行うのも秘密を守るためである。
「よっしゃ、さっそく召喚だ!」
ロージーがウインドドラゴンを召喚した。こういうものは召喚しまくって慣れるのが一番いいらしい。召喚士の感覚は僕には分からない。
「とりあえず、宿に戻る?」
今日も依頼をこなしたからお腹がすいたのか、マリが提案した。
「ふふん、いいぜ。乗っていくか?」
無言でマリがウインドドラゴンを召喚する。マリも負けず嫌いだな。
「で、ヒューマはもちろんこっちに乗るのよね?」
……どうしようか。
さんざん悩んだあげく、僕はロージーから魔力を盗んで飛んで帰ることにしたけど、町の近くまできて騒がれるのが嫌だったから最終的にロージーのウインドドラゴンに乗りこんだ。マリがちょっと怒ってた。
「ちっ、もう契約したんかよ」
依頼を終わった二人と集合するとタイタニスが毒づいていた。しかし、その表情はまんざらでもなさそうであり、ロージーが契約に成功した事を喜んでいるのではないだろうか。
依頼料がそれなりの額になってきたから酒場で酒や料理を注文するのに誰も遠慮はしなくなってきた。最初に頼んでたときにはニコラウスの財布的にギリギリになっていたのだ。高給取りのくせにあまり携帯しないらしい。
「そしたらウインドドラゴンの契約が済んだことだし? 天災級の魔物の目撃情報でも聞いて来るよ」
タイタニスが席を外す。次期領主のくせに最近は腰が軽く、こういった雑務をしてたりする。情報収集は基本的に好きなみたいだ。対してニコラウスは全くそんな事しない。マリはロージーの護衛に徹している。僕は、たまにタイタニスがしてくれなかったら代わることはあるけど、できればしたくない。
「天災級はいなかったけど、エルダードラゴンはまだ討伐されてないらしいよ」
リヒテンブルグ王国のエルダードラゴンは基本的に余裕がなければ放置される事も多いらしい。というよりもわざわざ狩りに行って怪我するのも阿保らしいから素材が必要な時に討伐されるのだとか。
「それじゃ、次の目的地はリヒテンブルグ王国になるのか」
「ウインドドラゴンなら二日ってところじゃないの?」
「ふふん、俺のだったら一日だな」
「なっ、私のだって一日です!」
二人が張り合っている。めんどくさいから2頭で行くなんて結論にならなきゃいいけどさ。
「リヒテンブルグ王国か……」
「どうしたの?」
マリが聞いてくる。
「いや、シウバさんどうしてるかなって……」
リヒテンブルグ王国は「邪王」シウバ=リヒテンブルグが興した国であり、そのシウバ=リヒテンブルグはレイクサイド召喚騎士団に所属した過去があり、さらにはSSSランク冒険者フォレストとして世界中を回っているのであった。先日はある意味世話になった。そんな男の作った国である。
***
「あいつら、順調?」
「よく分からん。だが、ロージー様もマリーもウインドドラゴンとの契約はできた。これで機動力は問題ないだろう。戦闘力は申し分ない。うちのジーロがなす術もなかったからな。お前も見ていただろう?」
「それで、素材をぼったくったの?」
「これはセーラ様の指示だ。交換するならば、5倍の価値のあるものと、との事だった」
「うげぇ、大変だな。あいつら」
カワベの町のある場所ではシウバとアレクが酒を酌み交わしていた。久々に会った二人であったが、たまにこうして酒を飲む関係となっている。
「さすがに今夜飛び立つって事はないだろう。もうちょっと付き合えよ」
「任務中なんだがな」
「大丈夫だって」
「うむ、仕方ないか。おい、ジーロを呼べ。明日の朝まで交代しろと伝えろ」
アレクが権力を発揮して部下に仕事を押し付ける。通信用魔道具からは悲鳴が上がっていたような気がするが、アレクは気にしなかった。
「なんだよ、ちゃんとさぼれるんなら降りようぜ? あっちの店で飲もう」
二人が酒を飲んでいたのは宿の屋根の上だった。ここならばカワベの町全体にシェイドを張り巡らせる事ができるのだ。
「ふむ、よかろう」
跳躍して地面に降りる二人。通行人がギョッとしている。
「そういえば、この前ハルキ様がヒューマと一緒にラーメンってやつを開発してな。美味かった」
「あの人はなんでそんな物知ってるんだ?」
「知らんよ、理解できん。うちの嫁と一緒だ」
「ユーナは元気か?」
「元気すぎる。娘を連れて今頃狩りをしてるんじゃねえのか?」
最近、SSSランク冒険者であるアイリスは子連れで狩りをしているという情報が回っている。その正体はリヒテンブルグ前皇后「疾風」ユーナ=リヒテンブルグである。貴族院に入れるまでは世界を連れて回るそうだ。
「それで、旦那が何でこんな所にいるんだ?」
「……ちょっと、喧嘩中」
「そうか、お疲れ」
喧嘩の相手が嫁ではなくて8歳になる娘だとは言わない。