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第16話 生首事件

しゃーこのやろー 本日4話目ぢゃー

「ドウシテコウナッタ!?」

「いや、俺が聞きたいんだけど?」

「まあまあ、それ、私のセリフ」

「なんで、私まで……」


 召喚都市レイクサイドの領主が引退を表明した。「大召喚士」が引退するという事で、レイクサイド領の今後が危ぶまれると考えたものもいれば、そんな事はなく次の領主となったところで召喚都市はゆるぎないと考える者もいた。それぞれがそれぞれの考えを胸に秘め、行動を起こした。つまり彼の引退は世界に波紋を投げかけることになり、それが良くも悪くも世界に影響を与える事になったのだ。

「セーラさん、そんな事よりもラーメン食べて見ない?」

「いただきます。……あ、美味しいですね!」

「まだまだだけどね、もっともっと美味しくなるよ!」

「それは楽しみです!」

「そう言えば、みーたんにも食べてもらわなきゃ」

「えぇ、今ロージーを呼びに行かせたところですよ」

 まさか世界の変動がラーメンに負けたとは誰も思わなかっただろう。そしてそのタイミングでレイクサイド領主館を訪れたこの世で最も運の悪い男がいた。彼の名前はニコラウス=ファランクス。後の世に「大魔導士」と呼ばれる男であるが、今はただの宮廷魔導士である。



「いや、宮廷魔導士って、王国の魔導士の頂点に近いんだけど?」

 王都ヴァレンタインから派遣された彼は、実は貴族院で教師をやっていた事もある。そしてその生徒の中には何を隠そうロージー=レイクサイドがいた。

「なんで、私がこんなお使いのような事を……」

 この度領主となるロージー=レイクサイドに対して祝辞を持っていく使者に任命されたのが彼である。もともとの教え子にこのように使者としていく事自体は特に問題ない事であり、むしろ栄誉でもあるのであるが、なにせロージー=レイクサイドには、というより保護者にはいい思い出がない。

「王都ヴァレンタインより、ニコラウス=ファランクス宮廷魔術師のおいでです!」

 レイクサイド領主館の中央の間に通される。中央の間の中心には今にも死にそうなロージー=レイクサイドが座っていた。そして、その左隣には彼の家族がいる。前領主ハルキ=レイクサイドはいなかったが。


「この度は領主就任おめでとうございます」

 形式的な挨拶から入る。そしてアイオライ=ヴァレンタイン現王からの手紙を読み上げるのだ。それが終わればロージーの恩師として歓迎してもらって、たらふく飯食って帰る算段である。レイクサイドは美食で有名な都市でもある。こればかりは楽しみだった。

「ロージー=レイクサイドをレイクサイド領の領主として任じる。アイオライ=ヴァレンタイン。」

 簡素な任命文である。普段はこれだけで終わりのはずだった。

「追伸 ここにいるニコラウス=ファランクスはかつてロージー=レイクサイドの教師として貴族院で教壇に立っていたものである。要請通り、この男を貸し出すこととする。って、ええぇぇぇぇ!?」

「おぉ。ニコラウス先生が来ていただけるのでしたら大船に乗った気分ですね、ロージー」

「あい」

「さあ、ニコラウス先生。今後も我らが領主をよろしくお願いしますわ」

 セーラ=レイクサイドにそう言われて、かつての保護者面談を思い出すニコラウス=ファランクス。そして、自分は逃げられないという事を悟る。中央の間には彼を含めて三人の放心状態の男がいたのであった。


 時間はさかのぼって、数時間前。ロージーは母親に呼び出されていた。

「ロ、ロージーです」

「お兄様をお連れしましたー」

「みーたん、ラーメン食べてみてよ」

「父上、私は今ダイエット中です」

「そんな事しなくてもみーたんかわいいから大丈夫」

 ハルキ=レイクサイドが小ぶりのお椀にラーメンをよそい出す。まんざらでもない顔でミセラ嬢が食べ始めた。顔が母親そっくりの美形である。

「ロージー」

 そして笑顔の母親がロージーを連れて行った。母親の前に出ると急に元気がなくなるのは身に刻み込まれた何かだろうか。可哀そうに。一応、僕もついて行く。

「話は聞きました。そして、これからはあなたがこのレイクサイド領の領主です」

「はい」

「これまで、私の教育によくぞ耐えてきました」

「えっ?」

 ロージーにとっては予想外だったのだろう。怒られるとでも思っていたのではないかな?

「領主になるにあたって、あとは私も父上も口を出したりする事はないでしょう。よく頑張りました」

「は、母上……」

「最後に、領主になる前に……いいかしら?」

「母上! 俺は立派な領主になって見せます!」

 ロージーが泣きそうな声で言う。今まで自分のために厳しく教育をしてきた母の愛を受け取ったのだろう。それに、いままで僕と旅をした事で母親という物を見つめなおすいい機会になったに違いなかった。なんか、僕も嬉しくなる。

「えぇ、ロージー。愛してるわ」

「はーはーうえー!」

 二人が抱き合う。美しい母子の愛だ。


「では、領主になる最後の試練よ。ここに書かれている素材を集めてきなさい」

「え……?」

 一瞬で場が固まる。すっと横からその素材が書かれた羊皮紙をのぞき込んでみた。「玄武の甲羅の欠片」「朱雀の尾羽」「青竜の逆鱗」「白虎の牙」特大の「火の魔石」。あ、これ僕の契約素材じゃん。全然許してもらってねえや。

「えっと、あの……」

「一人では無理だろうから、護衛をつけますね。それもあなたが最も気を許した人物がいいでしょう」

 後ろの扉が開けられる。そしてそこには申し訳なさそうにしたマリと、ぐるぐるに縛られて拘束されたレオン、いや、タイタニス=フラットが床に転がらされていた。

「あ、責任とってもらう意味でニコラウス先生も呼んでおいたから。4人なら戦力的にも十分でしょうし、そこの召喚獣の彼もいますしね。マリー、お願いね」

「は、はい! 奥方様!」

 


 そして、僕たちはロージーが使ってしまった素材の再回収を命じられた。これが終わらない限りはロージーは領主になれないんだってさ。次の日、領主館を出発した僕たちの視界にタイタニスを護衛していたニコルさんたちが身ぐるみ剝がされて畑に埋められて首から上だけが地上に出てたけど、生きてそうだったから全員見なかった事にしてしまった。



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