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第12話 発覚

「ちょっと待てや、バカ息子。なんでお前がここにいる?」

「それはこっちのセリフだクソ親父。なにが引退だ?」

「マジかよ……これどういう事?」

 カヴィラ領に到着したデザイアはフォレストに連れられて領主館を訪れていた。なんでもフォレストはここの領主に殺されかけた事があるらしく、それ以来ここの領主に借りを返させ続けているらしい。と言っても宿替わりに利用する程度のものであるが。

「いやいや、ハルキ様。話が違うって」

「ちょっと、シウバ。これどういう事だよ?」

「シウバ? お前フォレストじゃなかったんか?」

 そしてここの領主オクタビア=カヴィラはヴァレンタイン王国と他の国をつなぐ外交官としての役割を与えられており、さらには冒険者ギルドの統括もその任務に含まれている。反面、カヴィラ領には作物の生産などの能力があまりなく、自給自足ができないために本国からの輸送に頼らざるを得ない部分があった。

「シウバも知らんのか、バカ息子。もうちょっと勉強しねえと母親に言いつけるぞ?」

「ロージー様、ジーロをコテンパンにしてまでセーラ様に反抗中ですよ。反抗期としては遅めですね」

「てめえ、見てたのか!? というか、シウバって、お前まさか「邪王」か?」

 レイクサイド領を出奔した元領主ハルキ=レイクサイドは王都ヴァレンタインにてアイオライ王に面会し、領主をロージー=レイクサイドに譲るという意向を一方的に通達した。そしてそのまま海を渡ってカヴィラ領まで来ていたのである。ヴァレンタイン大陸にいると何かと面倒だというのが理由だった。

「引退に関して俺が何か言える立場じゃないですけど、時と場合を選んでくださいって。タイミング悪すぎ」

「うっさいな。もう限界なの。あとはこいつが頑張ればいいじゃん! 俺ツカレタ」

「何の話だ!? というかどういう事だ!?」

 一方、ロージー=レイクサイドを保護したフォレストことシウバ=リヒテンブルグは特殊諜報部隊から逃れるために国外逃亡を企てていた。カヴィラ領に寄ったのはランチのためである。まさかそこにレイクサイド領主が引退してやってきているなどとは思いもしない。

「しかし、あの召喚獣すごいですよ。すでに父親は抜かれたかもしれませんってほどに。普段は人間にしか見えないし、たまに説教までしてくれるんですから」

「マジかよ、そんなにすごいんなら俺も安心して引退だな」

「こら待て! お前らヒューマの事知ってるんか!?」

 領主がいなくなり、さらには次期領主まで家出中のレイクサイド領は平常運転であるという。すでに権力が細分化されてしまっているというのもあるが、もともと大まかな方針以外は部下を信頼、もとい丸投げしていた領主の経営がここに生かされているといっても過言ではない。

「最初に聞かされた時は信じられませんでしたけどね。どうしても宝物庫に入った賊の足取りが分からんくて」

「俺だって、まさかとは思ってたけど、あれほどの宝物に加えてでっかい炎の魔石だろ? 召喚契約って考えるのが一番分かりやすい。そんで、俺じゃなかったらこの魔力バカくらいなもんだ」

「ばれてたんか!?」

 そしてこのやり取りを聞いているが相手にされていない領主オクタビア=カヴィラ。完全に空気と化した彼からはすでに諦めのオーラが漂っている。

「しかし、まさかハルキ様が引退するなんて思ってなかったからロージー様がセーラ様に反抗するのを手助けしちゃったじゃないですか。どうしてくれるんですか」

「とりあえず、お前一旦帰って後を継げ。ついでに母親の機嫌も取ってこい」

「阿保か、親父が帰れば全てうまくいくじゃねえか。領地はミセラに継がせろや」

 妹に全てを押し付けようとする兄。しかし、その妹はまだ10歳であり、さらには父親の愛が半端ない。

「馬鹿野郎! みーたんにそんな危ない事させられるか!?」

「出た、親ばか……」

「いつも思うけど、何がみーたんだ!? だいたいミセラの方が成績優秀じゃねえかよ! 母親に似て!」

 貴族院の入学試験を主席で通った妹は兄と違って文武両道の成績優秀者である。ほぼ全ての魔法が使え、さらには召喚魔法まで使いこなす。武術も兄とはくらべものにならないと言われていた。

「安心しろ! 貴族院での成績は全く関係ないとお前の父が証明してやったぞ! 感謝しろ!」

「てめえのせいで、貴族院では苦労しまくったんだからな! できなくても許してもらえない息子に詫びを入れろ!」

「あ、オクタビア様。腹減ったんですけど、昼飯まだですかね? 熊肉の香草煮込みある?」

 昼食を取りながらも親子の罵り合いは終わる事はなかったという。


 ***


「さあ、召喚獣よ。契約に従いこのクソ親父を説得もしくは論破したまえ。物理的にでもよいぞ?」

「いや、無理だよ」

 ロージーが僕を召喚するまでには結構な時間がかかった。もともと魔力を枯渇したあとというのもあったんだろうけど、父親との親子喧嘩が忙しかったみたい。召喚獣の世界から見てたけど、ひどいものだった。まさか世界に名を轟かせるレイクサイドの領主と次期領主がこんな低レベルな口喧嘩をするなんて。

「えっと、はじめまして。ヒューマです。召喚獣です」

「おお、本当に召喚されたな。人間にしか見えん」

 ハルキ=レイクサイド。レイクサイド領を一代でここまで大きくし、今のヴァレンタイン王国の礎を築いた大英雄である。ちょっと緊張する。

「これが、戦闘になると強いんですよ。俺もちょっと無理かもしれません」

 こっちは「邪王」シウバ=リヒテンブルグ。まさかの伝説の「邪王」がレイクサイド召喚騎士団出身だなんて誰が想像するだろうか。

「もう、今日は全力出して魔力を入れるのは無理だ。疲れたもん」

「ハルキ殿、私がこのような事をする場にいてもいいのだろうか?」

 それまで空気だったオクタビア=カヴィラが言う。レイクサイドでも極秘中の極秘事項であるだけに彼の懸念はもっともな物だろう。

「まあ、場所を提供してもらってるし?」

「これは押しかけたというのが正しいと思うが……」

 もしかしたら知らなかった方が良かったかもという顔でカヴィラ領の領主が黙り込んでしまう。可哀そうに。

「それで、君の能力は?」

「えっと、ロージー様の想像力に合わせてなんでもできます。その代わり、魔力をがっつりいただきますけどね」

「ね、すごいでしょ? 魔力があればなんでもできる人間ってやつですよ。フラン様みたいな動きでシルキット団長みたいな魔法をガンガン打つんですから。さらには変身までしちゃって、ジーロが可哀そうだった」

 シルキット様は第2将軍じゃなかったっけ?

「ふーむ、素材の事を考えるともう他には誰も契約できそうにもないしな」

「めっちゃ貴重でしたもんね」

「シウバから預かってた青竜の逆鱗が一番難しそうだな。あれ、生きたまま剥がす必要があるらしいぞ?」

「マジかよ……確かに生きたままベリッて剥がしたような気がしますが」

「過去に発生したのも3頭だけだしな。討伐後に探してもなかったそうだ」

 天災級の魔物の発生など、それこそ天災だよね。それをこともなげに言うこの人達が世界を守っていたんだろう。

「ロージー、すごいね。伝説の人たちだよ」

「うーん、俺にとっては身内なんだけど」

「まあ、そうだよね。でも、僕にとっては伝説だよ。この世界は意外といいよね。ちょっと血なまぐさい事もあるけど」

 その言葉にシウバが反応した。

「召喚獣の世界では生活ってどうやってしてるんだ?」

「ええ、あっちの異世界では時間の感覚がなくなりますね。暇っていう概念がないんですよ。好きなように時間が経過していくというか、ちょっと言葉では表しにくいんですけども」

「へえ、そんな風な世界なんだな。四次元見たいだな」

「あ、でも四次元とは違って時間のさかのぼりはできませんよ? 四次元目が時間なのかどうかも分かりませんけど」


 でも、ここでちょっと変な空気が流れる。

「ヨジゲン?」

「ちょっと、親父。意味分からんのだけど」

「ハルキ殿、私もその言葉は初めてだ」

「え…………?」

 ハルキ=レイクサイドの表情が固まる。何かおかしな事を言ったかな?

「……ちょっと、ヒューマ。カップメンで好きな味は?」

「え? カレーですけ……ど……? え!?」

 まさかとは思うけど! この人、日本人か!? 僕と一緒?

「シウバ、テツヤとヨシヒロ呼んできてくれるか?」

「え? 嫌ですけど」

「ちょっと、世界の根本にかかわる重要案件ができた。オクタビア、悪いけど2人きりにしてくれ。バカ息子は……契約主だから仕方ないか。3人で話がしたい」


 まさか「大召喚士」ハルキ=レイクサイドが日本人だったなんて! しかも、あの口ぶりだと他にもいそうだぞ!?





さあ、「転生召喚士はメンタルが弱いんです。」が発売されたぜ!

近くの本屋に仕事の帰りに寄ったぜ!

なかったぜ!



本当に発売されたのかなぁ…………盛大なドッキリだったりして。


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