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第11話 後悔と旅立ち

あなた! ついに「転生召喚士はメンタルが弱いんです。」が発売されたわよ!

今日くらいは茶番は前書きで良いわよ! 良いに決まってるのよ!

え? 昨日くらいから店頭に出されてる所もあったですって?

あなたの住んでる所にそんな本屋さんがあるわけないじゃないの! というか本屋さん自体が減っちゃって、ほとんどないわよ!

今日は仕事の帰りに本屋寄るんですって?

Amaz〇nで買ったのに? 本屋でも買うの? ……見本を10冊ももらっちゃったのに?

「やってしまった」

「いや、デザイアにしては良く言ったよ。例えそれが母上の前じゃなかったとしても」

 ジーロたちを撃退して、僕たちは旅立つつもりでいた。今はどこに行けばいいか分からないけど、とりあえずフラット領を離れた方がいいだろう。場合によっては国外に出る事も考えなければならない。

「しかし……母上が……このまま……黙っ……」

「あれ? 大丈夫?」

 速足で宿の方まで歩いていたのだが、徐々にデザイアの動きが悪くなる。

「やばい、ヒューマ……魔力が……」

 僕の究極体のせいで魔力が枯渇したのだろうか。たしかに今はほとんど維持魔力をもらっていないとは言え、ヒューマがあれだけの魔力を解放した事は今までないだろう。

「あ……、もう……無理……」

 デザイアが倒れ込んだ。それを支えようとしたけれど、僕は強制送還されてしまった。残ったのは僕の初心者装備と倒れているデザイアだけである。


「まずいまずい!」

 召喚獣の異世界に戻った僕は焦っていた。しかし、焦ったところでどうにもならない。

「いくら究極でも魔力がなければなにもできないっ!」

 そう、召喚獣は召喚されて現世に具現化されて初めて何かができるのだから。魔力を枯渇してしまったデザイアを助けることはできないのだ。

「ヒューマさま、お心を沈めてください。でないと、召喚獣の世界が荒れ果ててしまいますわ」

 やってきたのはシルフである。彼女は風の大精霊であったはずだが、なぜかレイクサイドで読んだ召喚獣の本には載っていなかった。

「召喚されない事を焦っても、何もなりませんのよ」

「お前がそれを言うと説得力があるな」

 イフリートもやってきたようである。皆僕が戻ってくるのを待っていたようだ。

「それに、ロージー様は大丈夫です。ムカつきますが、奴が向かいましたから」

 珍しい事に悪魔族のリリスが来ていた。天使族と悪魔族のユニークはあまり顔を出さないというのに。

「奴?」

「料理人です」

「料理人?」


 ***


「気が付きましたか?」

 デザイアが起きると、そこはどこかの宿であった。部屋の中にいるのは冒険者風の男が一人。見た感じは30代くらいだろうか。アダマンタイト製と思われる剣を佩いている。軽めの鎧は見たことがないような素材でできているようだったが、シンプルな作りで決して目立つようなものではない。

「ここはまだフラット領ですよ、ロージー様」

「お前は?」

「最後にお会いしたのはいつだったか分かりませんね。覚えておられないのも仕方ないでしょう。私の事はフォレストとお呼びください」

「フォレスト……SSSランクのか?」

「たしかに、SSSランクはもらってますね」

 そう言うとフォレストはSSSランクの鉄色のカードを取り出して見せた。

「ですけど、俺…いや私にとってこれはそんなに価値のあるものではないというか、オクタビアに押し付けられたというか、なんと言うか……」

 急に歯切れが悪くなるフォレスト。背丈が高いわけでも筋骨隆々というわけでもない。ただ、そのたたずまいと銀髪からはデザイアは威圧感に似たものを感じた。

「しかし、私の正体を知らなかったというのは少し寂しいですね。これでもレイクサイドで部隊長を務めていた事もあったんですが」

「嘘つけ、父上が設立されたレイクサイド召喚騎士団から部隊長は誰一人引退も戦死もしていないはずだ」

「私は第6特殊部隊でしたので」

「そんなの聞いたことがない」

「極秘の部隊だったもので。部下にはマジェスターとかがいましたよ」

「マジェスターって、「流星」か?」

「あいつにはいろいろと助けてもらってます。今でも」

 そう言うと、フォレストは宿の窓からあたりを窺った。

「さて、起きてすぐであれですけど、逃げますよ?」

「逃げる?」

「ええ、セーラ様の追手から」

「!?」

 一瞬で事態を思い出したデザイアであったが、状況の把握が完璧ではない。

「まさか、俺がロージー様に付くとは思ってないだろうから、アレクもビビるだろうな」

 アレクとは特殊諜報部隊の副隊長の名前である。ジーロの直接の上司にあたり、知る人ぞ知る達人だった。二つ名はあえて名乗らないらしい。

「屋上に向かいます。ここから出て」

 そういうとフォレストは窓を開けた。

「は?」

 むんずっとデザイアを掴むと、窓から上に目がけて放り投げる。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「忘れ物ないですね?」

 自分はノーム召喚でつくった階段を普通に歩いて登るフォレスト。そして屋上に上がったことで周囲にいた特殊諜報部隊の気配があらわになる。

「おい、意外と人数が多いぞ? 逃げ切れるのか?」

「そりゃ、奴らのワイバーンもそこそこ速いですけどね」

「俺はまだウインドドラゴンとの契約終わってないんだぞ?」

「そんな遅い竜だと追いつかれちゃいますよ。だいたい、今日中に向こうに行かなきゃならんのですから、できればランチはオクタビアに奢らせたい」

「は? 遅い? ランチ? オクタビアってカヴィラ領の?」

 フォレストの正体を把握したのだろうか。特殊諜報部隊の数名が慌てて宿の屋上へと登ってきた。だが、間に合うはずがない。

「行きますよ」

 フォレストが召喚するのは最速の召喚獣ぺリグリン。そしてその速度はウインドドラゴンですら追いつけるものではない。

「付いてこれるのはアレクくらいでしょう。でも大丈夫、あいつはそんな無謀な事はしません」

 アレクもぺリグリンの召喚契約はしてあるはずだった。しかし、単独でやり合えるとは思っていないはずだとフォレストは考えていた。

「さあ、飛ばしますよ。まずはちょいと東に飛んでヒノモト国に行く振りをしてから昼までにはカヴィラ領に到着しましょう」

 一晩寝ていたのであろうか。デザイアは朝日を浴びながらぺリグリンの後ろに乗ってフラット領を飛び出すことになった。


 ***


「もう何年になる? すでに二十年は我慢したんじゃないか?」

 男は四十に近づき、自分の限界を悟っていた。かつて、同じ道を通った気もしないでもないが、体が徐々に動かしづらくなることを嫌でも自覚する。

「そんな事をおっしゃっても、あなたの代わりが務まる人なんていません」

 対するのは若き頃より常に助けてくれた部下だった。年上の彼の成長を見守るというおかしな関係でもあったが、彼は男の足りない部分をいつも補ってくれる存在であった。

「代わりなんていらない。すでにこの都市は俺の手を離れているようなものだ」

「そんな事はないです。あなたがいたからこその世界です」

「そんな傲慢な考えにはもうこりごりだ」

 自分がいなければこの世界はないと周囲から言われ続けてきた。それを当たり前だと思う気持ちと、ではいなかったらどうだったのだという気持ちに挟まれ、押しつぶされそうである。自分が世界に与えた影響が良い物かそうでないかなど、誰が評価できるのであろうか。

「では、どうなさると?」

 この問答も何度か行われていた。しかし、すでに男は限界であった。

「逃げる」

「は?」

「フィリップ、後は任せた! イツモノヨウニ!」

 こうして「大召喚士」ハルキ=レイクサイドは出奔した。レイクサイド領は成人した長男であるロージー=レイクサイドに引き継がれると思われたが、彼もまた家出の最中であったのである。世界はこの大事件に驚いたのであるが、領主がいなくても普段通りにの活動を行うレイクサイド騎士団の評価はさらに上がることになるのであった。まさかハルキ=レイクサイドがその足で王都ヴァレンタインに出向き、アイオライ王へ引退を伝えるとは誰も思わず……。



 時は「アイオライの治世」の終盤である。十数年にも及ぶ「大同盟」による平和が、人類に脅威を忘れさせ、何が重要かを勘違いさせるには十分な時が経っていた。いつの世も「黄金世代」と呼ばれる次の世代は酷評されるものである。しかし、そんな中、その「黄金世代」を越え、さらなる名声を得る「第二世代」が出てくるとは誰も期待していなかったのであろう。老人は過去を懐かしみ、現状に満足した若者は腐り果てる。彼がいなければ人類の危機はこの時であったのかもしれない。故に彼は世界を救ったと言われ、「極めし者」と呼ばれるのだ。


 「大召喚士」の引退。それを待っていたかのように動き出した者たちがいた。

「転生召喚士はメンタルが弱いんです。」本日発売です。

よろしくおねがいします。

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