第10話 人としての究極
ゲームのバトル音楽聞きながらだといつまでも書いていられるけど、内容が戦闘になってしまう……。
「マリー! よろしく!」
「はいっ! どらぁぁぁ!!」
マリーの「宝剣」サクセサーがSSランクの魔物であるグレートデビルブルを切り裂く。そこまで誘導したのはデザイアが召喚したフェンリルたちだった。
「おぉっ! 討伐成功だね!」
レオンが笑っている。最近は順調に冒険者もでき、かつフラット領内の治安向上にも貢献できているためにニコルさんたち護衛の追撃も少なくなってきた。というよりも、レオンが追い返してしまうために護衛達では歯が立たないようだ。成人したての次期領主に太刀打ちできない騎士団とは如何なものか。
「よし、デザイア。次の討伐目標はあっちの方角で目撃情報があるんだけど、グレートデビルブルの解体をどうしようか?」
「ヒューマ、アイアンドロイド召喚してちゃっちゃとやっちまおうぜ!」
デザイアがアイアンドロイドを5体ほど召喚する。フェンリルと合わせてもかなりの数の同時召喚になるが、この召喚士の総魔力量は尋常でないようだった。
「最近は魔力が有り余ってるからな!」
「ふふふ、僕のおかげだね」
「いや、てめえのせいで今まで魔力がなかったんだよ!」
マリーとレオンの二人には聞かせられない話である。
あれから数週間後、僕たちはフラット領で冒険者として過ごすことになった。もともと非常に魔力量の高いデザイアであったために、冒険者として召喚魔法を使いだせば、あとは経験を積むだけで優秀になるのは分かり切っていたのだ。だいたい、魔法は総魔力だけでなく使い方が重要だという事は幼少期から叩き込まれている。そしてその総魔力の上昇はもともとの特訓もそうであるが、コキュートスをも上回る究極の召喚獣を5年以上も召喚し続けた事によって跳ね上がっていた。そしてさらには僕の能力にも原因があるのだが、最近のデザイアの調子はすこぶる良い。
「そんな能力があるなら、早く言えよな」
「だから、僕も知らなかったんだって言ってるでしょ?」
「なんで知らないんだよ。他の連中は契約時にはすでに全部を把握してるぜ?」
「それは、僕が特殊だからじゃないかな?」
もしかしたら、知っていたのかもしれないけど、忘れてしまったのかもしれない。そして、前世の記憶ってのが影響しているのは確かだろう。
「よし、デザイア。解体も終わったようだから次に行くとしようか。レオンもそろそろ限界らしいし」
かなり向こうの方ではレオンが護衛達に捕獲されようとしているのを単身で迎撃していた。氷の破壊魔法が護衛に向かって飛び交っている。マリは解体のアイアンドロイドに混じって何かしている。どうせ、自分の好きな部位の肉をきちんと綺麗に取れだとか血抜きはできているかだとかを確認しているのだろう。
デザイアがワイバーンを二体召喚する。一体はデザイアとレオンが乗るもの、もう一体はアイアンドロイドたちが解体した肉と討伐証明部位の角を持つ分だ。僕はマリのワイバーンに乗せてもらう。最近はこのフォーメーションが流行っているな。フォーメーションと言えば、戦闘時に一度レオンに「インペリアルク〇ス!」って言ってくれと頼んで怪訝な顔をされたが、後悔はしていない。
「はい、次行くよー」
「おい、ヒューマ! 手伝ってくれよ!」
レオンに声をかける。最近捕獲に来る護衛の数が多くなったために奴は苦戦しているようだ。
「あぁ、今ちょっと調子悪いんでまた今度ね!」
「嘘つけぇぇ!!」
調子が悪いのは事実だ。だって、今は省エネモードでの召喚だから。
「こんだけの魔力で存在するってのもノームくらいのものだしな……」
後ろでぼそっとデザイアがつぶやく。
「ふふふ、僕は究極の召喚獣だからね」
「究極に使えない召喚獣って事だろ?」
「何をぉ!?」
「ちょっと、二人とも! 手を貸して!」
レオンが網に絡まれてしまった。仕方ない、手を貸してやろうか。ごめんよ、ニコルさん。
「デザイア、よろしく」
「おう」
デザイアから流れてくる魔力が増える。途端に力がみなぎるのが分かる。そしてそれは心をも満たす。
「僕が究極だ」
「はいはい、そのセリフは聞き飽きたから」
能力を把握した僕は究極の召喚獣としてふさわしくなったと思う。だが、それはまだ発展途上であり、今後もデザイア次第である。
「レオン! 伏せて!」
「任せろ!」
何をどう任せればいいのか分からないが、任せろはこっちのセリフだと思う。僕は跳躍する。そして剣を振るう。それはデザイアが思う「人としての全力」の僕で会って、マリに言わせるとマリの義父であるフラン=オーケストラの動きにそっくりなのだとか。それがデザイアの「想像力」なのだから仕方ない。
レオンにまとわりついている網がしっかりくっきりと見える。そしてその網だけを寸分たがわず切り裂く。レオンの服や鎧を斬ると後で文句を言われそうだしな。
「助かった、ヒューマ!」
「おのれ! ヒューマ君! そろそろタイタニス様にはもどってもらわないとフラット領がまずい事になるんだよ!」
「ニコルさん、すいやせん!」
レオンが網から抜け出して走っていく。それをデザイアのワイバーンが迎えに行って、乗せるようだ。
「よし、いくぞヒューマ!」
グレートデビルブルの解体作業も終わったようだった。あっちの方でアイアンドロイドが肉を布にくるんだりする作業が完了し、荷物を持ってワイバーンに乗り込んでいる。マリのワイバーンもこっちに向かってきているようだ。
「タイタニス様ぁぁぁぁ!!!!」
「すまんな、ニコル! 親父によろしく!」
僕たちを乗せたワイバーンが西へ飛ぶ。さすがにフラット領騎士団の最精鋭でもワイバーンを召喚できるものまで連れてきてはいなかったようだ。
「お、追ってこないな」
この前追ってきたワイバーンを翻弄しまくって最終的に強制送還させたデザイアが言う。あれはひどかった。
「なんで少し寂しそうなんだよ」
「いいじゃねえか、ヒューマも笑ってたろ?」
たしかに笑ったけど、あれを仕事としてやっている親衛隊の皆さまは大変だろうと思う。
「うちの親衛隊に比べると、レベルが低いですからねっ!」
マリがレオンにたいしてふふふんと勝ち誇った表情で言い放った。
「仕方ないよ。なにせうちの親父はあの「大召喚士」ハルキ=レイクサイドをいじめてたって話だしね。成人してから逆の立場になってるけど」
「父上というよりも、母上がな……すまんな」
おかげでフラット領はレイクサイド領からの穀物輸送がなければ成り立たない領地になってしまったようだった。その代わりに魔物の発生などで出た利益はほとんどがレイクサイド領に巻き上げられてしまっている。この次期領主に期待しているのはそのレイクサイド領との関係修復も含まれるのであった。
***
その日の討伐目標を全て終え、僕たちはフラットの町にまでもどっていた。冒険者ギルドで換金して宿まで帰っているところである。
「なんか、久しぶりな感じがする」
すでに全員が冒険者ランクのSをもらっている。マリに至ってはSSの話が出たほどだった。しかし、マリはさすがにそれは辞退させてほしいと言ってもらっていない。SSランクは恐れ多いとの事だった。
ちなみにこの世界に最高のSSSランクを持っている冒険者は八名しかいない。「偽名」ホープ=ブックヤード、「神殺し」テツヤ=ヒノモト、「邪神」ヨシヒロ=カグラ、「勇者」フラン=オーケストラ、「謎の冒険者夫婦」フォレストとアイリス、「魔槍」ブルーム=バイオレット、「マジシャンオブアイス」ロラン=ファブニールである。ほとんどが冒険者ではなく、各国の実力者であった。純粋な冒険者はフォレストとアイリスくらいのものであろうか。さらにSSランクもそこまで数が多いわけではない。以前、世話になったヴェルテですらSランクだった。SSランクもほとんどが各国の騎士たちで埋め尽くされている。レイクサイド騎士団の中でも上位がSSランクを持っているため、そのような人物に並ぶのはおこがましいとの事だった。例えば「流星」マジェスター=ノートリオなんかがSSランクである。
「まさか、僕までSランクをくれるとはね」
「だな」
「いやいや、ヒューマはこの中でも強い方でしょ?」
先ほど助けられたレオンが言う。確かに僕の身体能力はデザイアの魔力によってかなり上昇するし、魔法もデザイアの魔力によってかなりの物を放つことができる。まるで「破壊の申し子」のようだとマリは言っていた。そりゃ、デザイアのイメージがそれなんだもん。しかし、僕の言った意味を正確に理解しているのはデザイアだけだし、レオンはこのパーティーの中で一番弱いという事を自覚したようだった。態度は二番目にでかいけど。
「でも本当にまさかヒューマがあんなに強いだなんて」
マリが少しショックを受けている。最初は全く戦えないと思ってた僕がデザイアの魔力で超人のような動きをするもんだから当然と言えば当然か。
「マリ、そんな子供の成長にショックを受けた母親みたいな顔をしているとしわが増えるよ?」
「うるっさいわね! まだしわなんてできないわよ!」
若干涙目でマリが反論してくる。
「ロージー様」
すると、いつの間にかそこには人がいた。
「あれ? ジーロじゃない」
「諜報部隊が何の用だ?」
ジーロと呼ばれた男はレイクサイド領の諜報部隊の人間のようだった。
「Sランク昇格と、その後の戦いぶりの確認をいたしました。奥方様より帰還の命令が出ております」
「げぇっ!!」
最近になってようやく調子が出てきたところだった。デザイアはまだ冒険者を続けていたいのだろう。そして天災級の素材は何一つ集まっていない。
「えっ!? まだ素材が集まってないわよ?」
「素材? それは聞いてません。そして、マリー。いくら親衛隊とはいえ、主人と使者の会話の最中に割り込むんじゃない」
「うっ、すいません」
「ロージー様、奥方様はお喜びのようですよ」
「…………だ……」
デザイアがうつむいて何かを言った。聞き取れたのは魔力でつながっていた僕だけのようだ。
「では、お伝えしました」
ジーロは姿を消そうとする。しかし……。
「やだ! 俺は帰らない!」
「ロージー様!」
「母上に伝えろ! 俺は今日からデザイア=ブックヤードだと!」
瞬時に周囲を取り囲まれたと気配で察した。これはたくさんいたんだね。少なくても30人くらいはいる。
「レイクサイド領はミセラが継げばいい! 俺は父上の代わりじゃないからな!」
デザイアが周囲にアークエンジェルを5体ほど召喚した。迎え撃つつもりのようだ。隣でマリとレオンがあわあわしている。
「マリー、護衛任務ご苦労だった。任務終了にてこれよりレイクサイド領へ戻れ。戻る前にさらなる任務を言い渡す。ここにいるタイタニス=フラット次期領主の護衛をし、フラット領主館へお連れすることだ!」
「えっ……」
「復唱!」
「はっ、はい! マリー=オーケストラはここにおられるタイタニス=フラット様を領主館まで護衛し、その後レイクサイド領へ帰還します!」
「よろしい。タイタニス、しばらくお別れだ! 楽しかったな!」
「う、うん。そうだね。ロージーさんも気を付けて」
「おうっ!」
周囲を取り囲んだ諜報部隊がじわりじわりと距離を詰めてくるようだった。
「デザイア」
「分かってる。頼んだぞ」
魔力が注がれる。そして喜びに満たされる。その間にマリとレオンが離れていった。諜報員たちは彼らに興味はないようだ。
「僕が究極だ」
「だから、毎回それ言うのかよ」
「うん、雰囲気で」
「もしかしてお二人でこの人数とやり合うおつもりですか?」
諜報部隊の幹部エリートが言うと、さすがに迫力がある。フラット領の騎士団とはえらい違いだ。
「僕らが逃げおおせたら僕らの勝ちでいいのかな?」
「よろしいでしょう。しかし、レイクサイド特殊諜報部隊をなめないでいただきたい」
ジーロはそういうと、瞬時にこちらとの距離を詰めてきた。それを危なげなく剣で受け止める。
「ただの剣だと思っておりましたが、そういう事でしたか」
僕の剣に魔力が宿っていたのに気づいたようだ。ジーロが叩きつけてきた短剣にひびが入っている。しかし、その表情は何一つ問題にしているようには思えない。もちろんレイクサイド特殊諜報部隊の幹部が召喚魔法が使えないわけが無いのだ。他の諜報員たちがアークエンジェルと戦闘を開始した。こちらは殺さないように戦っており、向こうは強制送還させるために戦っているために分が悪いかもしれない。
「ジーロ、これは父上も知ってのことか?」
「いえ、ハルキ様はこの事を奥方様に一任されております」
「ちっ」
デザイアがあからさまな舌打ちをする。
「ならば、父上に伝えろ。俺は天災級の魔物の素材を手に入れるまでは帰らないと」
「それはご自分でお伝えください」
「できると思ってるのか?」
デザイアの魔力がまた一段と強くなる。しかし、その間にジーロの召喚が終わったようだ。通りに20体を超えるアークデーモンが出現する。奴一人でこの数を召喚したのだとしたら、かなりの使い手である。身体能力も半端ない。だが、この場合は全てが無駄だった。
「ぐおぉぉぉ!!!!」
魔力がみなぎる。それは人の許容量を超え、さらに増える。一度だけ、二人きりの夜の草原でこれを試した事があった。その威力は恐ろしすぎて試していないが。
「なっ!?」
いままで無表情だったジーロの目が大きく開かれる。それはそうだろう。ロージーの護衛の冒険者だと思っていた僕が、人として形を保てないほどに変化したのだから。その背からはまがまがしい羽が生え、皮膚は黒く硬く、一回り大きくなった姿は悪魔を惹起させるが、角があるわけではない。
「化け物か……」
「違う、究極の存在だ」
「究極にこだわり過ぎだよ」
「うるさいな。ここは恰好良く決める所だろ? なんで茶化すんだよ」
「毎回毎回聞かされる身にもなれっての」
「慣れてよ!」
「無理だ!」
「…………自我を保っているのだな」
冷静に状況を分析するジーロ。そして、アークデーモンたちが僕に襲い掛かってくる。
「足りないよ」
それは「想像力」の範囲内であるが、最速である。つまりはただ、速い。そして、強い。
「くっ!」
一体のアークデーモンが強制的に送還されるまでに数秒。そしてその次はジーロの認識の外であったようだ。全てがなくなるまでに十秒。
「ジーロ、次はない。追ってくるな」
「……かしこまりました」
ジーロは敗北を認め、将来の主に跪いた。そして、それを遠くから見ていた人物がいた。
ちょっと待って、ミセラって誰?