過去回想編 2日目③
仮眠室は入口の靴置き場以外は畳で10畳くらいあり、いかにも寝るだけという場所だった。
仮眠室の隅には警察側で用意してくれたであろう衣類が三人分置かれていた。
携帯を見ると大樹達は食堂に向かったらしく、自分もそっちに向かう。
食堂には大樹達だけでなく、多くの職員が集まっていた。
自分は大樹と軽く食事をし、この後について話した。
大樹はアリサさんに話があると言っていたので、自分は先に入浴室を使うことにした。
入浴室は湯船とシャワーが2本あり、とても狭かった。
自分は軽くシャワーを浴び、すぐに着替え、部屋を出る。
そのまま仮眠室に向かう途中、ある個室の中から大樹とアリサさんの話し声が聞こえた。
「親父は今どこにいるんですか? 母も教えてくれませんでした! アリサさんなら知っているんじゃないんですか!?」
大樹の必死そうな声が聞こえてくる。
あまりいい行いではないが、自分はその個室に聞き耳を立てる。
「・・・・・・大樹くん、落ち着いて聞いてね? あなたのお父さんは、ここにいるわ」
カランッ、という音が聞こえた。
「ば、馬鹿にしてるんですか!? こんな指輪の中に――」
「いるのよ、私も最初は信じられなかったわ。 でも確かにここにいたわ」
騒がしかったのが一気に静かになる。
「この指輪は拓海くんと千里さんがもってきてくれたわ、あなたの父親は彼らを助けるために動いた、この指輪になってまでね」
「そんな・・・・・・」
「これはあなたに渡しておくわ」
しばらく沈黙が続いた。
「指輪・・・・・・、指輪になっても、もとに! 元に戻るんですか!?」
「・・・・・・それはわからないわ、でもそれを作った人ならもしかすると」
「わかりました・・・・・・ありがとうございます」
「あんまり気を落とさないでね、明日のためにも今日は早く寝なさい」
「お気遣い感謝します」
そう言って大樹は個室から出てきた。
隠れていたためか、自分には気づいていないようだった。
大樹がさきほど貰ったと思われる指輪を見つめている。
その指輪の核は装着していないにも関わらず黄色に光輝いていた。
大樹は少し考え、指輪を付けると、元々つけてあった指輪は核が溶け出し、輪の部分は砕け散った。
その光景に大樹だけではなく自分も驚いていた。
おそらくこの指輪は複数付けれないということを示しているのだと察する。
驚いていたことに気づいたのか、大樹が自分を見つける。
「なんだ光、聞いていたのか?」
「あ、あぁ、その・・・・・・ちょっと、すまん」
「気にすんなって、アリサさんの話は本当だった」
「え?」
「いたんだよ、親父が、ここに」
そう言って大樹は付けている指輪を指さす。
大樹のつけた指輪の核は付ける前より奇妙な発光をしていると感じた。
「ど、どうしたんだ大樹? アリサさんみたいに頭がおかしくなっちゃったのか?」
「ち、ちげえよ! まぁ、信じてくれなくても別にいいよ」
大樹は不満そうに呟く。
「それよりもう寝るのか?」
「そのつもり、大樹は?」
「俺は先に風呂に入ってくるよ」
「そうか、じゃあ先仮眠室行ってるな」
大樹とはそこで別れ、自分は仮眠室向かう。
仮眠室につくと、自分用の布団を用意し、ふと思い出す。
(そういえば自分の才能をあんまり試してなかったな)
指輪に手を乗せ、さっとナイフを生成する。
自分が生成したナイフはFPSなどで見るようなサバイバルナイフだ。
ナイフの色は指輪の核と同じ色で紫に近い、見た目だけなら毒があると言ってもおかしくはない。
柄の部分も刃と同じ配色で、刃と同じ硬さを持っているが鋭さはない。
触り心地は金属そのもので、これを手にまとって殴るだけでも重症にさせられると確信していた。
もう一つ、投げナイフを作ってみた。
自慢ではないが投擲能力には自信がある、いざとなったらその場は逃げて、遠くからこれで攻撃できるだろう。
この時気づいたが、複数作ることは可能なのだが、同時に生成することはできなかった。
さらに一度作ったものを置いて二個目を作る時、ナイフはだんだんと蒸発するように消えていった。
手に持っているときはそんなことはなかったのだが、体から離れると、同じ現象が起こった。
そんな感じで自分がいろいろ試していると、
「なんだその変な・・・・・・ナイフ? どうしたんだ?」
風呂から上がってきたと思われる大樹が話しかけてきた。
「ん? 大樹か、いや実はな?」
コンビニの事件の後に手に入れたことから大樹に説明した。
「へぇ~、そうだったのか」
「だからこうするとナイフが――」
すると大樹が驚き
「な!? すごいな・・・・・・、あと今光の体の中で何かが動いたように見えたぞ、なんというか・・・・・・このナイフがそのまま体から出てきたように見えた」
どういうことだろう、たしかに体から出している感覚であるが
すると、大樹が突然自分の体に触りだした。
「な! なにすんだよ!?」
「あ、いやなんかその指輪の色と同じものが光を覆ってるように見えてさ、ちょっと気になって・・・・・・」
「大丈夫か? 親父さんのこともあるから今日は疲れてるんじゃないか? 早く休んだ方が――」
「ちょっと待って、親父に聞いた」
「は?」
どうやら自分を覆っているというものは魔力らしく、指輪を付け替えたことにより大樹はそれが見えるようになったという。
それは人だけでなく、自分が生成したナイフにも見えるという。
だが、こんな話信じられるわけがない。なにより
「親父さんに聞いたってどういうことだよ・・・・・・」
「だからさっきも言ったけどここにいるんだって! まぁ、いいよ、あと光の中にもう一つ色があるんだ、それも水色っぽいのが」
「!?」
自分の中にもう一つの色? ということは違う魔力があるということか?
つまり、自分に洗脳してきた者の魔力・・・・・・
アリサさんと話したことは大樹には話してはいないし、あの人が大樹に言うこともないだろう。
自分はこれまでの大樹の話を信じることにした。
それにしても
「水色か・・・・・・」
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもないよ」
水色、恐らく深遊。
洗脳を仕掛けたのは確実にあいつだろう。
あいつには気を付けなければならないと心の中で念を押す。
そんなことを思っていると、仮眠室に拓海が入ってきた。
彼は自分を見るなり突然
「さっきはごめん! ちょっと嫌なことを思い出しちゃったんだ、悪気があったわけじゃないんだ」
必死になって謝ってくれている。
おそらく会議中に起きたことについてだろう。
自分だって警戒はするだろうし、なにしろ自分は気にしてはいない。
さらに言えば拓海の事情まで知ってしまっている。
「別にきにしなくていいよ! 」
「本当にごめん、実は僕の友達が学校側にいるんだけど――」
そこからはアリサさんが言っていた拓海の事情。
そしてその状態になってもその友達を助けたいという思いを聞いた。
「僕と・・・・・・千里の友達でもあるんだ、彼を助けたい、明日はその・・・・・・お願いします」
「あぁ!」
「もちろんだ」
「・・・・・・ありがとう!」
自分と拓海の返事を聞き、拓海は笑顔になった。
「よし、そろそろ寝ないと怒られそうだな」
「それもそうだな、明日のこともあるし」
「そうだね、それじゃぁ・・・・・・おやすみ!」
三人はそれぞれの布団に入り、瞼を閉じる。
大樹の布団では、指輪の核が仄かに輝いていた。
そして光は、深遊から送られたメールに気づくことなく眠ることになる。
「ピンポーン」
「はぁーい、こんな夜遅くに誰かしら・・・・・・」
東條光の母は、もうすぐ午前0時になろうとしている時計を見て、玄関に向かう
扉を開けると、一人の少女がいた。
「どちら様でしょうか?」
「私、光くんのクラスメイトなのですが、光くんはいらっしゃいますか?」
「あら! そうなの! 夜遅くにごめんなさいねぇ、あの子今家にいないのよ」
「・・・・・・そうなんですか、もしかして警察の方にお世話になっているとか?」
「やだもうそんな言い方はやめてちょうだい? たしかに警察の方々とお話してるって電話があってね、今日は帰れないって聞いたわよ?」
「そうですか、わかりました」
「ごめんなさいね、光にはちゃんと言っておくから」
「いえ結構です」
「あら? そうなの?」
「ええ、標的があなたに変わっただけですから」
「はい?」
「いえ、なんでもないです、あ、そういえば"お父さんはお帰りになられましたか?"」
「・・・・・・それはどういう意味ですか?」
「見たところ男性用の靴がないようなので、こんな夜遅くまでお仕事大変だなと」
「・・・・・・あなたも夜遅いんだから早く帰りなさい、両親が心配してると大変でしょう?」
「ええ、そうですね、夜分遅くに失礼致しました、さようなら」
深遊はそう言い残し、東條家の玄関をドアを閉めた。
その夜、東條家から明かりが消えることはなかった。
東條 光 :カラーコード:#ee82ee
バイオレット "銀色"
R:238 G:130 B:238
才能<魔力具現化>
伊延 大樹:カラーコード:#ffff00
イエロー "蛍光色"
R:255 G:255 B:0
才能<魔力探知>
澄川 拓海:カラーコード:#191970
スチールブルー
R:70 G:130 B:180
鷺森 千里:カラーコード:#9acd32
イエローグリーン
R:154 G:205 B:50
折原 深遊:カラーコード:不明
水色?
R:0 G:? B:255
才能<?????>