過去回想編 2日目②
自分達はアリサから渡されたプリントを見ながら説明を受けた。
説明された内容は簡素的にまとめると、
①まず完全なる目的は指輪関連の事件の首謀者の確保及び再犯に及ばないように原物の犯行道具などの破壊処置
②事件に関与した共犯者は捕えて本部で保護する。
③指輪の存在の流出を食い止め、この世界の魔力生成の指輪をすべて破棄する。
とまぁ、こんな感じで警察は動いているらしい。
1と3は言わずもがな、2の保護についてだが、今回の首謀者は洗脳魔術を使うらしく、捕えられた中には記憶が一切ないという実行犯もいた。
そのため、被害者として扱い、保護するのだそうだ。
(それにしても洗脳魔術か・・・・・・、深遊もかけられているのだろうか)
ふと昨日の昼頃の話を思い出した。
(協力すると名乗りあげた以上、そのことについて話しておくべきだよな・・・・・・)
自分は少し考えこんでから口を開く。
「あ、ちょっといいですか?」
一斉に周りの目が自分に集まる。
「昨日の昼、学校で事件を起こしている側の人から聞いたんですが――」
「それって信用できるのか?」
拓海がなぜか不快そうに、なおかつ的確な質問をする。
自分が困っていると、
「とりあえず聞きましょ?」
千里がフォローをいれてくれた。
周りが頷くのを見て、自分は話始める。
「まずアリサさんには学校の理事長が怪しいという話をしましたが、恐らく黒です。首謀者かどうかはわかりませんが、だいぶ上部の人だと思います。」
「それはその学校側の人から聞いたの?」
アリサが話しかけてくる。
「はい、ですがそれについてはほぼ確信してます。 隠そうという素振りは一切していませんでしたし、理事長のことを"表向き"のトップと言っていました。 黒幕は別にいるにしても捕まえる必要があると思います。」
自分は一息で話し、さらに続ける。
「それと明日の朝から遠足という名の遠征があるそうなんですが、話からしてそんな楽観視できるものではないかと思いました。」
「遠足・・・・・・ねぇ、それは全員が出向くのかしら?」
「いえ、理事長は動かないと聞きました、大きな行動といっていたので遠足にかける動員数は多いと思われます。」
「そう・・・・・・、理事長になるべく安全に接触し、なおかつ捕らえるならその瞬間がよさそうね」
話を聞いていたアリサさんは考え込む。
「わかりました、警察はその動きに準じてみましょう」
「その話を信じるんですか!?」
拓海がくってかかる。
「あら? 協力するって言ってくれた光くんが信じられないの?」
アリサさんが自分にウインクする。
「いえ、そういう意味ではなく! あんな危ないやつらの話を信じるんですか!?」
「信じるか信じれないかって言われたら、もちろん信じられないわ」
「だったら!」
「でもね? どのみち学校をあのままにしておくことはできないの。 あなたの気持ちはすごくよくわかってるわ。 それに私達は罠という前提で動くつもりよ。」
拓海はまだ納得できないという顔をしている。
「私達はあなたたちの身の安全を最優先にするわ、だから安心して、ね? それじゃあ作戦会議を始めましょうか!」
こうして作戦会議が始まった。
事務の方にいた職員達が学校周辺の地図や、学校の間取の記された平面図なども用意してくれ、作戦会議が始まった。
一通り会議した結果、アリサさんが作戦を提示する。
まず、明日は学校周辺の警備を一際強くする。
これはあるかもしれない遠征に対する強化であり、情報提供者の罠であることも考えて救出にいける戦力の増強でもある。
そして、本作戦の肝はここにいる指輪隊員四人と警察側の精鋭複数人で強襲をかけ、最終目標は理事長に接触し、可能ならば確保するというもの。
また、作戦中に戦力差や、思わぬトラブルがあり、作戦続行不可能と判断した場合、指輪隊員は警備強化した学校周辺の施設に避難させるようになっている。
以上が明日の大まかな作戦概要だ。
「他になにか言いたいことがある人はいるかな?」
アリサさんが周囲を確認する。
「では明日はこれでいきます。 今日は明日の作戦のためにみんなにはここで待機してもらいます!
親御さんには連絡しておいたので、安心してね。 この建物の最上階に仮眠室を用意したからそこを使ってちょうだい。」
アリサさんが説明する。
その説明を聞いているとき、内心自分は焦っていた。
(やはり学校にいくべきだろうか・・・・・・)
作戦会議が思った以上に長く続き、外はすっかり真っ暗だ。
今からでも間に合うかは疑問だったが、その時自分は行かなければ大変なことになる気がしていた。
大樹に荷物を置きに仮眠室へ行こうと誘われるが、その場はトイレに行くと言ってはぐらかした。
拓海と千里も先に仮眠室へ行くようだ。
自分はトイレに行く素振りを見せて関係者に怪しまれないようにこの建物の入口へ向かう。
しかし、もうすぐで入口というところで声をかけられた。
「どこに行くの?」
入口で待機していたアリサさんに呼び止められた。
「いや・・・・・・ちょっと外の空気を吸いに――」
とっさに嘘をついた。
「あら、そう? じゃあ私もついていくわ」
アリサさんは笑顔で答えた。
この言葉に自分はかなり焦った。
どう答えようか考えていると
「で? 本音は?」
アリサさんが先ほどよりも笑顔で聞いてくる。
「・・・・・・学校です」
「はぁ・・・・・・、やっぱりね」
「すいません・・・・・・、一人でこいと言われ、来なかったら容赦はしないと言われました」
「それはさっきの情報提供者かしら? 完全に脅迫ね、分かってると思うけど行ってはだめよ?」
「・・・・・・はい。 あの! ですが情報自体に嘘はないと思います、多分・・・・・・」
だんだんと自信がなくなっていく。
そんな状態のアリサさんはまじまじと自分を見ている。
「ど、どうかしたんですか?」
「うーん、やっぱり洗脳はされていないのね、魔力干渉の跡はあるのに」
「洗脳!?」
そんなものを受けた覚えは自分にはない
「えぇ、だから今日はずっと君を見ていたんだけど、とても君らしくて安心したわ。」
そういえば会議中はずっと見られていた気がする。
「でも洗脳されなかったと言っても君の体は少し危険な状態よ、誰かの魔力がまだあなたの中にあるわ。 同じことをされ続けたらまず体がもたないわね」
突然の宣告に自分は言葉が出なかった。
まるでガンと診断された気分になっていた。
「洗脳されていないのはあなた自身の魔力の性質のおかげね、ちょっと特殊だもの。 でもだからと言って安心してはだめよ? さっきも言ったけど危険な状態なの」
そう言って、アリサさんは今回使われている洗脳魔術について説明してくれた。
今の自分のように他人に魔力を植え付け、徐々に体のコントロール奪っていくのが基本らしい。
今は少ない量で止まってはいるが、送られる魔力の量が多いと洗脳に至る前に体が危ないとのことだった。
「拓海くんは洗脳された友達に勧誘されて、危うく同じように洗脳されかかったわ。 その時は私達が近くにいたから対処できたけど・・・・・・、千里さんも似たような感じね、それで彼らも協力してくれたの」
なるほど、そんな事情が
拓海が学校側の情報を提供したとき、過剰に反応したのはそのためか。
「さっきも言ったけど、あなた達は私達が全力で保護するわ だから学校には行ってはだめよ? いいわね?」
アリサさんは再び釘を刺すように言った。
「・・・・・・わかりました」
ここまで言われてしまってはもう行ける雰囲気ではなかった。
その場でアリサさんに礼をし、自分は荷物を置きに仮眠室に向かった。