過去回想編 1日目①
ピピピピピ・・・・・・
もはや聞きなれた不快な音が鳴り響く。
「・・・・・・もう朝か」
いつもと同じ時刻に起床、いつもと同じように身支度をし、いつもと同じように家を出る。
そんな平凡に暮らしている自分、東條光は今日もいつもと同じように学校で過ごす予定だった。
今朝、家を出る前にポストを確認すると、白い封筒が入っていた。
普段見慣れない白い封筒に疑問を持ち、まず宛先、差出人を確認する。
(宛先は書いてないな・・・・・・でもこれ学校からだ、何かの集会のお知らせとかかな? ん? これは?)
封筒にはかすかに硬い感触があり、中身が紙類だけではないと判断し、中身を確認する。
中身にはなんと、透明な真珠のような石のようなものがはめ込まれた指輪のようなものと、説明書のような紙切れ一枚が入っていた。
「なんで学校がこんなものを・・・・・・? 母さんにかな? いやまさか・・・・・・それにしてもきれいだなぁ」
自分は指輪を天にかざし、光る指輪を見つめていた。
「っと、いっけねぇ! 遅刻する!」
あまりにも焦っていたため、封筒をもったまま学校へ駆け足で向かっていった。
ギリギリで学校に着いた自分はホッと息をつき、自分の席に向かい、もはや今朝のことなど忘れて普段通りに過ごそうとしていた。
「よ! 今日はギリギリだな!」
後ろの席にいる自分の友人である、伊延大樹が話しかけてきた。
大樹は茶髪で髪の短い自称爽やか系イケメンだ。
「うるせーな! 今日はちょっといろいろあったんだよ!」
そのような他愛のない会話を続けていると、学校のチャイムが鳴り、教師が教室に入っていく。
朝のホームルームが終わり、1限が始まる前に事件は起きた。
教室の廊下側のドアのすぐそばの席に座っている女子を取り囲むように女子二人が話し合っている。
「あれ、みっちゃんその指輪どうしたの~?」
「めっちゃきれーじゃ~ん、ちょっとみせてよ~」
囲む二人が口々に1人が席に座る黒髪ロングの少女、折原深遊に問いかける。
深遊は顔を一瞬歪め、ため息をつき、席を立つ。
「嫌よ、なぜあなた達に教えなきゃならないの?」
と見下すように言い、その場を立ち去ろうとしていた。
「ちょっと! なによその態度?」
と、囲っていた二人のうち一人が美夕の肩をつかむ。
深遊は肩に乗っている手を掴み、そのまま振り払うと、手を乗せていた少女は文字通り吹っ飛び、壁にたたきつけられる。
ドンッ! という音が鳴り響き、教室には深い沈黙が生じる。
囲んでいたもう一人の少女は何が起きたのか分からず、その場で力なく座り込んだ。
深遊は周囲を一瞥すると、付けている指輪をみつめ、嬉々として教室を出て行った。
彼女のつけていた指輪に、自分には見覚えがあった。
だが少し違っていたのは、そのとき彼女の付けていた指輪は最初に見た透明なものではなく、水色に染まっていたことだ。
深遊が教室を出て行ったことにより沈黙は破かれ、教室内を他の生徒たちが騒ぎ立てる
彼女に飛ばされた少女は完全に気絶しているようだった。
囲んでいたもう一人の少女は何かに気づいたように立ち上がり、教室を出て行った。
いったい何が起こったのか自分にはわからなかったが、深遊がみつめていた指輪。
あの指輪に何かあるのは間違いないとみていいだろう。
自分は今朝の封筒を思い出し、急いで鞄の中から取り出し、封筒の中にある紙切れを読む。
【本封筒に付属されている指輪は、装着した者に"魔力"を付与、または増幅させるものです。
この世界の人々は魔力というものが希薄なため、装着すれば今までにないほどの身体能力を得ることができるでしょう。
この指輪についている核は装着者の感情や行為によって色が変化するようになっており、時には新たな才能が開花することもあります。
また、この指輪は付属されている核の色によって増幅する魔力が決定されます。
基本的に純色に近いほど強く、原色は他を圧倒するほどの魔力を得られるでしょう。
また、明清色より明暗色に近い方が質の良い魔力を生み出すという報告もあります。
なお、この指輪は装着者から外されると、その指輪の今までの色情報がリセットされます。
そのため、再度付けることに問題はありませんが、色は白色からのス――】
ほかにもいろいろ書いてあったが、これだけでも書いてあることが異常であることがわかるだろう。
(なんだこれ・・・・・・、まず魔力ってなんだよ! しかも"この世界"なんて書くってことは別世界のことを知ってるみたいな言い方だな・・・・・・)
封筒の中から指輪を取り出す。
(核ってこの真珠みたいなやつのことだよな・・・・・・色が変化したのはさっき確認できた)
あの時見た深遊の核は水色に染まっていた。
だが自分の持っている核は透明なままだ。
(色がつくと才能が開花するって書いてあったよな、それってどんな――)
「光! 深遊のやつやばいよな! すっげぇ腕力! ていうか深遊ってあんなキャラだったか?」
と、考えている途中で、大樹が喋りかけてきた。
「いや、腕力ってそんなレベルじゃ・・・・・・」
ふと大樹の指が目に入る。彼の指には白く光る核がついた指輪がつけられていた。
「大樹! その指輪!」
「ん? あ、あぁ! 今朝ポストに入ってたんだ! この指輪すっごいんだぜ! つけたとたん体が軽くなったっていうかさぁ!」
「・・・・・・お前それが何かわかってるのか?」
「んーと、中の紙は読んだけどいまいちよくわかんなかったわ!」
「おいおい・・・・・・そんなもん信用していいのかよ! 危ないもんだったらどうするんだ!」
「そんなこというならこれつけてみろよ! そーだなぁ、多分宇宙にいる気分になれるぞ! 宇宙になんて行ったことないけどな!」
そう言って大樹は指輪を差し出してくる。
その指輪の核はさきほどの白い輝きはなく、透明な状態になっていた。
(なるほど、外すと透明に戻るんだな ・・・・・・この指輪を付けるといったいどんな感覚になるんだろう)
そう思い、指輪に手を伸ばそうとすると
「はい、みんな落ち着いて聞いてください! 本日は休校とします! ホームルームは行いません! 帰り支度をし、各自速やかに自宅に帰ること!」
突然教室に入ってきた教師がそう言い、生徒たちは静かになる。
その後、教師はさきほど教室を出て行った囲っていた少女の一人と一緒に、倒れている少女を運んで行った。
教師が教室から出ていくと、教室内はまた騒がしくなった。
「休校だってよ!光!」
「そうみたいだね」
「どうせならこの後どっか遊びに行こうぜ!」
「お、いいね! どこ行く?」
指輪のことは頭の片隅に置かれ、自分と大樹は帰り支度をしながらこの後のことを話していた。
(休校なんて久しぶりだな、深遊が原因なのはなんとなくわかるけど"個人"が原因で休校になるなんてなかなかないよな。なんというかもはや不審者扱いなのだろうか)
冗談半分でそんなことを思っている間に自分と大樹は帰り支度を済ませ、席をたつ。
「うーし、じゃあさっさと帰るか」
大樹が言い、自分は相槌を打ち、教室を出る。
(あのあと深遊はどうなったのだろう・・・・・・、さっきちょっと聞こえたけど呼び止めた女教師が飛ばされたらしいが・・・・・・、さすがに今は他の教師達に捕まってるだろう)
休校の知らせが届いたとき、多くの教員が移動しているのが見えた。
自分たちの教室はそう多くないため、呼びかけだけのためにそれだけの人数が集まるとは思えない。
きっと深遊を取り押さえにでも行ったのだろう。
(日頃のストレスとかかな? でもさすがにやりすぎだろ・・・・・・きっと今では生徒指導室でこっぴどく叱られているな)
面白半分にそう推測する。
指輪のこともそうだが、聞いてみたいことはある。
ちょっと気になったが、あんなことがあって、野次馬気分で会いに行ったら嫌悪感を抱かれかねない。
なにしろあの力が自分に向けられたらなんて思うとゾッとする。
(触らぬ神になんとやらだ、あとは教師がなんとかしてくれるだろう、深遊は退学は免れないだろうなぁ)
軽くそう思い、学校を後にした。
東條 光 :未装着
伊延 大樹:カラーコード:#ffffff
ホワイト
R:255 G:255 B:255
折原 深遊:カラーコード:不明
水色?
R:? G:? B:?