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なんでもないようなことが幸せ

作者: イマエサン

20年くらい前、何でもないようなことが幸せだったと述懐する歌詞で一世を風靡した曲があったけれど、親が病気したり、妹の勤め先がどうなるんだろうとか、自分の力ではどうにもならない状況に直面したとき、この言葉がとても重くて美しく感じられる。

 気が滅入る話をするのもどうかと思うので、私が感じているちょっとした幸せを披露したい。


 ネコサンとの別れもあり、これといってプライベートが充実していない私にとって楽しみにしているのが、自転車で賀茂川の河川敷を徘徊することだ。台湾製の自転車「GIANT」を駆り、西賀茂橋から七条大橋を往復するのが週末の定番になっている。

 昨年の9月までは無印良品のクロスバイクだったが、使いすぎてボロボロになったため、GIANTの自転車に買い換えた。まず、新しい自転車で走って感じたことは、これではダイエットできない、ということだった。サイクリングを始めるきっかけは体重の増加を抑えるためだったのだが、新しい自転車では楽すぎて、汗をかけないのだ。おかげで、風景を楽しめる余裕が生まれた反面、同じ生活を送っているのに、5kg体重が増加してしまった。


 賀茂川の河川敷をのんびりと走っていると、様々な光景が飛び込んでくる。子供連れの親子が楽しそうにしていると微笑ましい気分になり、手を繋いだカップルを見掛けると、けたたましく鈴を鳴らしたくなる。一人でぼんやりと川を眺めている女性を見つけては、気付かれずその表情を窺い知ろうという下世話な貪欲さから生まれた技術により、鷹のような視野を手に入れることに成功した。

 

 このように、サイクリング中は、仕事のことも考えず、ましてや自分のプライベートのお粗末さを考えることもなく、目に映る光景に対して反応しているため、約1時間15分の徘徊から帰ってきたときには、気分がスッキリしているのだ。人によっては、風呂やコンピュータゲームによって同じ効果が期待できるかもしれない。

 また、自転車通勤をしているおかげで、仕事に行きたくない気持ちを紛らわせてくれる効果もある。賀茂川の東側河川敷を走っていると、右手にツバメが併走している時期があった。結構なスピードを出しているはずなのに、それを追い越す勢いで、飛行している。巣作りのためだろうか、いつも同じところで別れることになる。家を出る時間が変わらないせいか、毎日のように遭遇するため、愛着が湧いた。

 自分の右を川の中央に沿って併走する存在として、「中ノ(チュンノスケ)」と名前を付けた。

 雀みたいな名前だし、賀茂川の東側を併走しているなら、右じゃなくて左じゃないの?とツッコミどころは満載だが、中ノ右と呼び掛けることで、たとえ反応はなかったとしても、友達ができたような気持ちになって頬が緩んだ。5月は気持ちが沈んでいたにもかかわらず、中ノ右のおかげで家を出るのが待ち遠しくなったくらいだ。


 他人にとってはどうでもいいようなことでも、楽しいと感じられる気持ちがあれば、つまらないと感じている日常でも幸せを感じられることもある。逆にそれがなければ、環境的に満たされた状況に身を置いていても、いつも満たされない何かに追い立てられる。

 6月になって中ノ右を見なくなり、少しだけ寂しい気持ちになったけれど、今は毎日通っているローソンのお姉さんが、日を追うごとにヤンキーから普通の人になっていく過程を見るのが楽しみだったりする。こういうのを、小市民的な幸せというのだろうか。

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