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一話

 ――果たして彼は、神なのだろうか。


     ●


『この本を、私たちの世界ではないであろう誰かに向けて


 一日目


 これを読んでいるあなたはこの文字を読めるのだろうか? いや、それは些細な問題に過ぎない。そもそもこれをあなたが読むこと自体可能性の低いもので、その先の配慮などまるで杞憂に過ぎないからだ。

 お願いだ。あの男をどうか、消し去ってほしい。漆黒の剣と、純白の剣を持つ、あの人物を。』


     ●


 簡素な祭壇にシンプルながらに気品を纏う装飾がされた本を置くと、カモミールはその場を後にした。

 狭く、おそらく天然のものであろう洞窟の最奥にある祭壇から日の当たる場所まで戻るのは少し億劫だ。しかし、腰を下ろして休んでいる暇はない。

 余計な傷を負わないように注意し、入り口から見える空は入った時と変わらず快晴だ。

 彼女の姿を認めるとゆったりと立ち上がる者が三人。

「終わりましたか」と口を開いたのは黒い鎧を身にまとった若い男。

「お疲れさん。と形式上は言っておくわ」と言うのは白い鎧を来た、一番手より歳を取った男。

「さぁ、行きましょう。早めに」そういうのは白い鎧の女。

 足を止めずに返事をして先導する。

 目指すのは近くの村だ。そこが活動拠点でもある。

「しかしまぁ、神頼みってのもオカシな話だよなぁ。神を相手にしてるってのに」

「神かもしれない相手だクロフ。それに上位者と呼べ」

 退屈そうに言う白い鎧の男、クロフにカモミールは前方から視線を外さず律儀に答える。

「別にいいだろうが。ここには喧しい団体の方々もいらっしゃらないワケだからよ」

「そういう問題ではないでしょう。確かに上位者という呼び名は神への冒涜だと騒ぎ立てる、一部団体の反感を避けるようにして付けられたものですが、それと同時にまだこちらの手の及ぶ人間の範疇にいる、という意味も込められている訳ですから」

 黒い鎧の男がまた律儀に返した。

「クロフさんもそのくらいわかってるでしょう。そういうことを言ってるんじゃなくて、一々小さな声に気を使っていたらめんどくさくて仕方がないと。そういってるんです。でしょう?」

「さっすが、よくわかってるねカシスちゃんは」

「言いたいことはわかるが、従っておくのも騎士の務めというものだ。それにこの手の言葉は普段から使い慣れておかないと、重要な場面で口を滑らせる。そうなると私たちの立場、ひいては私たちを選出した国に苦い顔をされる。大人しく上位者と呼んでおくことだ」

「黒のカモミールさんは随分真面目だこと」

「お前が大雑把なだけだクロフ。ついでに言うがオレガノ、人を納得させるためには解説のように長々と話すな。対象者が一番理解しやすく、かつ納得しやすい言葉を選んで話せ。お前は律儀すぎる」

「しかしカモミール。先程はあなたの説明の方が長かったようですが」

 振り返って黒い鎧の男、オレガノを見る。不服というよりも疑問が多く出た表情を一瞥し、その後ろにいる白い鎧の女、カシスのうんざりしたような顔を見てから前に向き直った。

「長くても対象者が納得すればそれでいい」

「そういうものですか」

「そういうものだ」

 ふうむ、とオレガノが息を吐き考え込む気配がした。

「なんでこの二人はこんなにお堅いワケ……」

 カシスが呟き、溜め息を吐いた。

 別に雑談を続ける気もないし、新しく始める気もない。第一移動中であるし、警戒を怠るべきではない。

 何か話すことがあれば村ですればいいのだとカモミールは思い、足を動かす。

 村は半刻程もあれば辿り着く。話はそれからだ。



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