極初期の姉弟
姉「弟君、弟君」
弟「何ですか、姉さん」
姉「キスというものをしてみたいのです」
弟「はぁ、そうなんですか」
姉「しましょう」
弟「しません」
姉「しましょう」
弟「何此の人怖い」
姉「減るものではありません」
弟「減ります。常識と人としての尊厳が失われます」
姉「常識なんて、他人が決めた事では有りませんか」
弟「僕は世間に恥じる生き方はしたくないのです」
姉「其れでは、同性愛も否定されるのですか?弟君は」
弟「いや、其れは」
姉「生物的には矛盾していますよね?気持ちや情は抜きにしろというのなら、同性愛も徹底的に批判し糾弾し攻め立てるのですね?弟君は」
弟「……否定はしません」
姉「では、私の感情も否定は出来ませんね?そうですね?」
弟「待って下さい。僕の気持ちや感情はどうなるのですか?」
姉「……嫌いですか。嫌ですか。死んだ方がいいと思いますか?」
弟「どうしてそういう方向に行くのですか。其処まで嫌ってはいません」
姉「嫌ってはいない……好きではないんですね。そうなのですね。じゃあ私が道端で車に轢かれて死んでも悲しむ程度で何とも思わない訳ですね」
弟「だから、どうしてそういう事を言うのですか。どちらかと言えば好きな方ですよ」
姉「じゃあ、口付け程度はして頂けますね?」
弟「其の理屈はおかしい」
姉「何がおかしいのでしょうか」
弟「そんなに軽い物では無い筈です」
姉「私が軽い女だと仰るのですか。酷い人ですね。……実は、酷くされるのも好きだったりしますが」
弟「そんな事実知りたくなかったです」
姉「此れで私を知る前には戻れませんね」
弟「其の言い方止めて下さい」
姉「どうあってもキスはしたくないと?」
弟「えぇ」
姉「女である姉よりも男の方が良いと?」
弟「えっ」
姉「そうなのですね……其れなら仕方が有りません。諦めましょう。諦める序に、弟君がホモで有ると言い触らしましょう」
弟「待って下さい。同性愛を否定はしませんが、僕は違います」
姉「ならば何故、姉を否定するのですか?」
弟「否定と言いますか……そういう対象には為り得ないのです。解って下さい」
姉「外見が好みでは有りませんか?」
弟「いえ……身内から見ても綺麗な方だと思いますよ」
姉「なら」
弟「でも、其れはあくまで身内の感情でしかないのです」
姉「死にます」
弟「えっ?」
姉「弟君が私を女として見られない様に、私も弟君以外は男として見られないのです」
弟「だとしても、其れはいきなり過ぎませんか。此れから先、いい人が」
姉「弟君以上にいい男が居る訳無いでしょう?何を言っているんですか?」
弟「…………買い被り過ぎでは有りませんか?」
姉「幾ら弟君といえど、弟君を馬鹿にするのは許せません」
弟「……すみませんでした。謝りますから」
姉「では、お詫びにキスして下さい」
弟「結局其処に戻るのですね……」
姉「はい。私は諦めませんので、永遠に無限ループです」
弟「何かを思い出すと思ったら、RPGで『はい』を選ばないと進まないイベントですか、此れは……」
姉「そういう事です。諦めてください」
弟「……解りました。では目を瞑って下さい」
姉「……目を瞑っている間に逃げたりしませんよね?」
弟「今日は冬にしては暖かいですね」
姉「弟君はびっくりする位嘘が下手ですね」
弟「……解りました。逃げませんから」
姉「期待していますよ」
弟「…………」
姉「……あれ?」
弟「……目を開けていいですよ」
姉「……何ですか、これは」
弟「……ぬいぐるみです」
姉「見れば解ります。其の上で聞いているのです」
弟「僕がするとは、言いませんでしたよね?」
姉「…………」
弟「――――言いませんでしたよね?」
姉「詭弁です」
弟「姉さんにだけは言われたくありません」
姉「此のイベントは無効です。最初からやり直して下さい」
弟「姉さんは一体何の話をしているのですか。やり直しませんよ」
姉「……解りました。では、其のぬいぐるみを下さい。弟君のですよね?」
弟「えぇ。構いませんが……。どうするのです?」
姉「……弟君だと思って大事にします」
弟「へぇ……」
姉「弟君は童貞ですね」
弟「――――はッ!?」
姉「いえ。間違えました。純粋ですね。此れからも其のままの弟君でいて下さい」
弟「ッ……何なんですか?」
姉「お気になさらず。後ですね、どうでもいい事では有るのですが」
弟「いきなりですね……今更ですが」
姉「私も未だに処女なのです」
弟「――――はァッ!!?」
姉「二人で童貞と処女を捨てたいものですね」
弟「――――捨てる訳無いだろ恥を知れ!!!」