⑥ ドラゴンと魔王
温泉に来てから俺はずっと今までの事を考えていた。
竜は人と違い強大だが種としての繁殖力が弱く数が少ない。
だから俺は他の竜の友人など数える程しか居ないのだ。
俺には可愛い弟が居る。
ずっと見守って居たかったが竜と言うのは他の生物よりも食物を沢山必要とする為一緒に住むのは得策ではない。
弟が一人立ち出来そうな雰囲気になった時に俺は黙ってあの土地を離れた。
もう200年も前の事だ。
それから色々あった。
ウォズに初めて会ったのもこの時だ。
塒から広がる広大な森、ここが奴の住処だった。
最初にココに住む事に決めた時に俺は一応挨拶に行ったしな。
その時は今みたいな雰囲気では無かった。
もう少しは穏やかな奴んだぜ。
ソレが変わったのはここ2~30年の話だ。
色々思い出していると視線を感じて振り返った。
さっきまではしゃいでいたマコトが顔をほんのり赤くさせて俺をジッと見ていた。
なんだ、もう逆上せたのか?
からかってやると更に顔を真っ赤にさせてブンブンと顔を左右にふり否定している。
「失礼な!私は1時間やそこらで逆上せる様な軟な体はしていませんよ!」
必死なマコトの姿が面白くて俺は声を上げて笑った。
からかい過ぎて剥れたマコトに帰るぞと声をかけると尻尾にしがみ付く。
俺はソレを背中に移動させると飛び上がった。
空気が少し冷たい。
やっぱりウォズが帰ってきてるな。
帰ったら直に塒の奥に隠れろ、俺が良いって言うまで出てくるな、良いな?
言い聞かせるとマコトは黙って頷いた。
塒に着くとマコトは転がり落ちるように俺から慌てて降りると奥へ引っ込んだ。
アイツにもこの妙な空気は十分解るらしい。
まるで俺が帰ってくるのを見計らったようにウォズが現れた。
いやコイツの事だから気配を消して本当に待っていたんだろうな。
「よぅ。」
マントを靡かせながら立つウォズは無表情で立っていた。
牙がキラリと光る。
「一緒に暴れないか?」
いつもの誘い文句だ。
俺はこれをいつものように軽く拒否した。
途端まわりの温度が急激に下がった。
「なぁブラック、まさか今更ヒトん側に回るとかいわねぇよな?」
今にも凍りつきそうな空気を纏いながら言い放つウォズに当たり前だと答える。
ヒトに裏切られたのはお前だけじゃない。
俺もだ。
「だったらなんでいきなりペットなんか飼う気になったんだ?」
やはり…こいつ相手に隠せるわけもないか。
やっぱ面倒な事になったな。
だがヘタな言い訳は刺激するだけだろ。
兎に角俺はお前の敵なる気はねぇよ。
「まぁいい…今日の所はその確認だけだ。ヒトに付いたらどうなるかだけは忘れないことだな。」
ククっと喉を鳴らしながら去っていったウォズに俺はホッとした。
警告…か。
マコトもう出てきても良いぜ。
声をかけても全く反応の無いマコトに覗き込んで様子を伺うと全身びっしょりで震えていた。
…あいつの気に当てられたのか。
俺には一切怯えなかったコイツもキレ気味ウォズは怖かったんだろ。
大丈夫だ。
ここに居る限りはあいつも手ださねぇよ。
そう言いながら俺は尻尾の先で肩を叩いてやった。
勿論軽く、俺からすれば触る程度の力加減だ。
「ありがとうございます」
口を開いたマコトはさっきとは違って大分落ち着いていた。
去り際に見たウォズの表情は言葉や雰囲気とは全くそぐわない…悲しげな顔をしていた。
俺とマコトをきっと自分とアイツに重ねてんだろ。
「あの…」
なにか言いたそうなマコトに俺はまだ決心が付かずにいた。
全部言ってしまって言いもんだろうか。
「今日は折角温泉に入ったのにもう汗かいてしまいました」
ははと笑うマコトに俺はそうだなっと相槌だけ返す。
もう一回温泉いくか?そういうと何時も通りの顔で笑った。