58 隔離
私はただ安全な場所で見ていただけ…
何かをいう資格など無いのです。
解っていますが…
私が部屋を移動していると敵の叫び声が響いて来ました。
「一撃で終わらせてやる!」
リューさん!!
隣の部屋の窓からは丁度戦っている場所がハッキリと見えました。
アレは…ワニでしょうか?
アリゲーター?クロコダイル?ワニにもあまり詳しくないのではっきりとは解りませんがリューさんの身長から比較して少なくとも4~5メートルクラスなのは間違いありません。
リューさんは抜いた剣をワニの横に投げつけましたが敵の方も怯む事無くリューさん向ってきます。
「馬鹿め!貴様はもう終わりだ」
ワニは大声で叫びながらリューさんに向って突進していきます。
危ない…!
私は怖くなって目をギュッと瞑ってしまいましたが…暫く経ってもリューさんの悲鳴らしきモノは聞こえてきません。
「なんだ!?貴様何を…」
ワニの慌てる声にゆっくりと目を開くとワニの口を抱えこんだリューさんが居ました。
そのままワニの口を自分の腰紐で縛り上げるのを見て思い出しました。
ワニは口を閉じる力は何トンというパワーを発しますが開く力は輪ゴムをかけただけで開けなくなると…
そんな事を日本に居た頃テレビで見ました。
こちらの…しかも喋るワニにソレが当てはまるのか私には解りませんが…
縛り上げたあとリューさんはパッとワニから距離を取りました。
そのまま剣の位置へ着地すると引き抜き直ぐに構えます。
ワニはその間も紐を解こうと暴れていました。
「今……たのは……だ」
リューさんが何か呟くとワニはより一層暴れだしたのです。
けれど紐に手は届かずジタバタと地面を転がりまわるのみ。
これは…もうリューさんの勝利は間違いないでしょう。
私は確信して今度は家の外へ向いました。
扉を開ける前はやっぱり少し怖くて耳を扉にぴったりつけて暫く様子を窺っていましたが特に声は聞こえてきません。
きっと大丈夫。
ゆっくり深呼吸し覚悟を決めて扉を開けます。
バンっと大きな音が出ましたがこちらに向かってくる気配は何も感じません。
念のため辺りを見回してみましたが何かが潜んでいるようにも見えませんでした。
行こう。
決心して私は歩き出しました。
多分位置関係からしてこの裏の筈です。
リューさんが戦っていた所へ…
着いた筈なのですがやはりココにも何の気配も感じません。
赤い血の跡こそ広がって居ましたがリューさんの姿もさっきのワニの姿も見えません。
見ていなかった数分間の間に何があったというのでしょう?
広がる赤に思い出すのは私が真っ二つになったあの瞬間。
背中に嫌な汗が広がるのが解ります。
寒くも無いのに振るえが止まらなくなって私は思わず自分の両肩を抱えました。
過ぎた事…そう、過ぎたことなのに…
思い出せば思い出すほど力が出なくなってヘナヘナと地面に座り込みました。
染まった赤から引きづられたかのように伸びていく赤い線。
どうして私はリューさんの勝利を確信してしまったのでしょう?
ワニの開く力が弱い等と…それは日本での知識でしかなかったのに。
リューさんは引きづられて何処かへ連れて行かれたに違いありません。
視線だけで辿ると赤い後は森の方へと続いていました。
どうして私はあの時戸惑ってしまったのでしょう?
もっと早く飛び出せばワニの注意を逸らす事位は出来たかもしれません。
そうすればこんな事はならなかったかもしれない。
何の役にも立たない私を拾って看病して下さったリューさん。
ずっと元気付けるように笑って居てくださった。
なのに。
なのに私はわが身可愛さに怯えて…隠れて。
ただ見ていただけで何もしなかった。
なんて臆病で卑怯なんでしょうか。
後悔しても後悔しても…リューさんは戻ってきません。
立ち上がろうにも震えた体は力を入れる事すら出来ず。
私はただその場所で震えている事しか出来なかったのです。




