56 残されたモノ
気まずい…
そんな言葉で言い表せるような雰囲気ではありません。
一体どうやってこの空気を変えれば良いのでしょうか?
私をとりあえずは認めていただけたようです。
一安心…そう胸を撫で下ろしているとブラックさんが口を開きました。
「早速だが…お前はどうしたい?」
考え込んでいるようで返答はありません。
けれどそれは仕方の無い事でしょう。
暫く俯いた後ガルバスさんは決心したように顔を上げました。
「俺を部下にして欲しい」
その言葉に私は驚きを隠せませんでした。
あんなに敵対心を露にしていたにもかかわらず…部下にして欲しい等と…
ブラックさんも少し驚いた顔をされていました。
今は意識がありませんがザルドさんだって起きていれば驚いた事でしょう。
ある意味で意識がなくて正解だったのかもしれません。
「元々俺はそのつもりだった」
ガルバスさんは念を押すように言いますが私は信用できません。
頭を下げるガルバスさんにブラックさんはあっけらかんと答えてしまいました。
「好きにしろ」
ソレは私を置いて下さった時と同じ言葉でした。
そう言えばザルドさんが来た時も同じような言葉だったと思います。
いつだってブラックさんは誰かを拒んだりしませんでした。
彼が本当は優しい方だと私が一番知っています。
複雑な気持ちで眺めているとブラックさんは何か考えているようでした。
「ウォズ様の配下内でも意見は割れているが、俺は…」
ガルバスさんの言葉を遮ってブラックさんが言う。
「それは当たり前の事だ。俺は疎まれようが反発しようがどうだっていい。」
言い切ったブラックさんですが…私はなんだか不思議な感じがしました。
どうしてウォズさんはブラックさんと、なんて頼んだのでしょうか?
私に言い残して行った事もあります。
ウォズさんもきっとブラックさんのような優しい方だったのだろうと私は思うのです。
「それより…ガルバス察知は得意か?」
察知?
また解らない単語が出てきました。
「臭いならココからでも森の入り口近くまでは常に感じる」
そう言えば蛇はたしか嗅覚が良いんでしたね。
目は蛇の種類にもよりますが確か熱感知的な事が出来るような種類も居たはずです。
会話から察するにやはり『察知』とは気配を探る事でしょうか。
ブラックさんはガルバスさんの言葉に満足気に頷きました。
「じゃあとりあえず森の警備はお前に任せた、俺は部下を増やしに出かけてくる」
え?
う、嘘ですよね!?
ブラックさんはそれだけ言い残すとあっさりと塒を飛び出して行ってしまったのです。
とりあえず直ぐに殺される危険性は薄いですが険悪な関係ままのガルバスさん。
私達にどうしろと!?
言いたい事は沢山ありましたがココは動ける私が切り抜けるしかありません。
「ザルドさんの様子を見てきますね」
勿論返事はありませんでしたが元々期待なんてしてませんでしたし。
塒の奥に寝かされたザルドさんを確認します。
肋骨位は折れているかもしれません。
骨が内臓に刺さってなければ良いんですが。
とりあえず固定しましょうか。
私は包帯をザルドさんの胸部に巻きつけて固定しました。
体の構造が人間と同じならばこれで少しは楽になる筈です。
「回復魔法は使わないのか?」
私は包帯を巻くことに夢中になってガルバスさんの気配に気が付きませんでした。
気が付けば後ろに居るんですから…ほんとやめて欲しいですこういうの。
けれど顔には出さず会話を続けます。
「使えないんですよ」
その言葉にガルバスさんは酷く驚いたようでした。
まぁ…普通に考えれば私かザルドさんは回復要員のように思うかもしれません。
「私の魔力は私のものではありませんから」
そう言えばガルバスさんはそれ以上口を開きませんでした。
空気が非常に重いです。
相手がブラックさんなら無言は気になりませんがガルバスさんとはとても気まずい。
ブラックさん恨みますよ。
「ソレを巻く事に意味はあるのか?」
向こうも同じ事を思ったのかそれとも単なる疑問だったのか。
今の私には判別は付きませんが訊ねられた事に答えないのは失礼ですよね。
「こうすれば楽になりますし回復も早いんですよ」
人間と体の構造が同じならば、と心の中だけで付け加えます。
「それにしても魔法が…使えない?」
私は小さく頷きました。
それを確認したガルバスさんはワナワナと震えだしました。
あ…
「ではさっきのものは一体なんだ!?」
えーっとそうですね…
私には元々魔力がありませんでした。
この力はいずれ必要となった時にブラックさんにお返しする為に預かっているのですよ。
「言ってる意味が解らない」
ですよね。
私もこんな説明では解りません。
けど上手く解説出来そうにもないのです。
「いずれ私の役目の意味が解っていただけると思います」
それに…私の知識でなにか役に立てることもきっとあると思うのです。
私の国では魔法が無い変わりに『科学』というモノが存在していたのです。
簡単にいうと物事には全て『理屈』が存在しソレに対する『知識』という考えです。
「科学など聞いた事がない」
でしょうね。
例えば私が生きていく上に必要な呼吸もこの空気中に浮遊する酸素や窒素、それから二酸化炭素が…
「その単語の一つ一つどれも解らないが」
でしたら…一つ簡単な実験をしてみましょうか。
口で説明するよりも実際に目で見てもらう方が解り易い。
ほら、子供も実験は好きでしょう?
百聞は一見にしかず、昔の人はよく言ったものです。
私は塒の奥から薪を一本取り出し火を付けました。
それから木炭をすり潰した粉を取り出して塒の外へ持ち出します。
ガルバスさんは何も聞かずに付いてきて下さいました。
火の付いた薪を地面に置き木炭の粉を両手の平一杯にのせます。
そして後は簡単、ソレを思いっきり火に向けて一気に吹き飛ばす。
そう、粉塵爆発です。
一瞬火の玉が出来上がります。
ガルバスさんはそれを見たまま固まってしまいました。
様は吹き飛ばした粉の粒と粒の間に炎が伝わっていく事で起こる現象なのです。
粉塵爆発が危険なのは狭い場所で大量の粉がある時でまぁ外でこれくらいの量ではたいした事はございませんが…。
「…これも魔法か?」
だからコレは科学だと…
言いかけて私は結局口を閉じました。
もう、面倒なので魔法で結構です。




