48 平和
日本は平和だった。
少なくとも私はそう生きてきました。
そして私は日本が好きでした。
帰ったら何もない焼け野原だった。
そんな事は戦時中、もしくは災害等が起こった時には日本でも有ったのでしょう。
けれど幸いにも私はそういう事を経験する事無く今まで生きて来れました。
だから正確にはリューさんの気持ちは解りません。
想像するだけです。
ですが…日本に居る私の大切な人達全てが殺されたら…私も正気ではいられないでしょう。
それ位は考えなくてもわかる事です。
だからリューさんが『魔王』を憎む事は無理からぬ事。
そう思う一方で私はまだブラックさんが好きなのです。
私を切り捨てたのに。
それでもやっぱりあの楽しかった思い出を忘れる事が出来なくて…
なんて女々しいんでしょう。
リューさんの前ではもう言えませんがやはり私はブラックさんを恨めないでいるのです。
「マコトの国はどんな所なんだ?」
聞かれて私が一番最初に浮んだ事は『平和』でした。
どう説明すれば良いんでしょうね。
「私の国は大きな戦争に負けて以来軍隊を持たない国になりました。」
敗戦国だと伝えた瞬間リューさんの表情が曇りました。
「マコトは奴隷だったのか?」
確かに牙を抜かれたわが国はアメリカの属国扱いでずっと…やって来ました。
けれど奴隷とかそういう扱いは当時全く無かったのかというと断言は出来ませんが。
少なくとも私は今まで幸せに過ごしてきました。
伝えるとリューさんはとても驚いた顔をしていました。
「戦争に負けたのに平和だって?」
信じられないと繰り返すリューさん。
まぁその平和が訪れるまでの辛く険しい長い道のりを私が知らないだけなのですが…
この世界では敗戦国は戦勝国の支配下に置かれ国民全てが人間扱いされず、焼印を押され奴隷に…そこから這い上がるのはとても大変だそうで…
私が知らないだけで世界にはそういう事が今も存在しているのかもしれません。
どれだけ幸せな環境で育ったのか、此方に着てから実感する事ばかりです。
「マコトの国は俺の知ってる何処とも違うんだな」
ここと日本は随分違います。
魔法なんて存在しない代わりに科学が剣を使わなくなった代わりに兵器が。
世界はある意味でバランスがとれているのかもしれません。
「科学?兵器?」
不思議そうな顔をするリューさんに私は慌てて話を変えました。
だって説明なんて出来ませんから。
「春には桜が咲いて夏には大きな花火が上がって秋には紅葉が冬には雪景色も…」
景色を思い浮かべていると涙がこみ上げて来ました。
桜…こっちには無いんでしょうか。
「桜?花火??」
桜は薄いピンクの小さな花で春になると花びらで一面ピンク色で埋る景色がとても綺麗なんですよ。
夏には空に色取り取りの炎を花のように広げるのです。
すごく綺麗で上がる時の音が心臓に直接響くような感じで…
それを皆で愛でる…もう2度とそんな日々は訪れない。
「なんかよく解らないけど凄いんだな」
リューさんの言葉に私は頷きました。
本当に日本は素敵な所だと思います。
考えないようにしていたのですが…どうやら私はホームシックになってしまったようです。
帰りたい。
帰れない事は解っているんですが。
解っていても帰りたい…私が黙って俯いているとリューさんが私の肩を叩きました。
「何か食べたい物とかあるか?故郷の料理とか俺には作れないだろうけど材料位なら揃えられるかもしれないし…」
気を使って下さるリューさんに申し訳ない気持ちで一杯になります。
故郷の料理と言ってもカレーやハンバーグなんてモノは材料はきっと揃える事は難しいでしょう。
だったら…
「カキ氷…」
呟いてからハッと気が付きました。
ここに来てから暖かい物は食べても冷たい物は口に出来ませんでした。
精々川の水で冷やした果物位です。
冷蔵庫なんて勿論無いでしょう氷なんて手に入る筈も無かったのです。
「氷を用意すれば良いのか?大丈夫任せろって!」
リューさんはそう言って家を飛び出していきました。




