21 理想と現実
今日もブラックさんを見送って私は妖精さんの所へ向いました。
そこには妖精さんと戯れる一人の少女がいました。
10歳位でしょうか?
ピンクの髪を揺らして花畑を駆け回っています。
その様子を眺めていた私に気が付くと少女はこちらを振り返って走り寄ってきました。
「私リリィ!あなたがドラゴンと暮らしてる人?」
この子もなんだか不思議な感じがします。
精霊かなにかなのかもしれません。
「じゃあ、あなたなら解ってくれるよね?」
主語が飛んでいるので彼女の言いたい事が掴めず私は首を傾げます。
私なら…解る?
「人間と妖精や魔族も!皆分かり合えるよね」
突拍子もない言葉に私は思わず詰まってしまいます。
個人個人ではそういう事もあるのではないかと思うのですが…
コレは私が戦争を知らない『日本人』だからこその意見なのでしょう。
「皆で仲良く平和に暮らそうよ!私は皆にそう言って回ってるんだ」
キラキラした瞳のリリィに私は思わず目を反らしてしまいました。
皆で仲良く平和に…それが一番である事は私にだって解ります。
けれどそれは夢物語でしか無いのです。
だって今更ウォズさんは止まらない。
それに人間側だってもう…いえ寧ろ人の方が残酷かもしれません。
「それは素敵ですね…」
私はそう答えるのが精一杯でした。
私の国では今でこそ戦争をしていませんが人間が支配し君臨するようになっても人間同士での争いは絶えません。
必ず何処かで戦争をしている。
「貴方もそうなんだね」
悲しそうな声で話すリリィに私は彼女の目を見ることが出来ませんでした。
「みんな無理だって言う!どうして?」
泣き声でどうして、と呟くリリィに私は答えを持っていません。
どうしてなんでしょうか。
どうしてもなんです、なんて馬鹿な答えしか浮びません。
「私は大木に拾われて森で育ったの、だから皆が優しい事は良く知ってる!」
俯いたままのリリィ、握り締めた手が震えている。
私はその手を両手で包み込んで一本一本開いていった。
貴方は間違ってない…貴方は悪くない。
そう言い聞かせるとリリィは辛そうな顔で私を見つめてきた。
「・・・・」
視線を思いっきりそらしたリリィの頭をただ黙って撫でました。
ブラックさん…貴方ならなんて答えるのでしょうね。
「そういう風になれば一番だと私も思っているのですよ」
小さく呟くとリリィさんは困ったような顔で笑いました。
「うん、ありがとう。私は一人でも諦めないから!」
すみませんと口の中だけで呟いて私は頷きました。
リリィはとても真直ぐで眩しい。
眩しすぎて直視できません。
本当ならば「人」としてブラックさんを説得しなければならないのでしょう。
けれど…私には出来そうもありません。
ウォズさんも、ブラックさんも。
結局は『人』の側に原因があるように思うのです。
ブラックさんから直接お話を聞いた事はありませんが彼から積極的に人間を襲いに行ったのを見た事はありません。
リューさんが襲ってきた時も逃げるのを追わなかった…
本当はとてもとても心優しいのです。
「それから、あなたは人間と住まないの?」
考え込んでいた私にリリィが訊ねて来ました。
私は石を投げられた事、言葉が通じなかった事を話すとリリィはまた悲しげな顔で私を見るのです。
「だってその言葉は…ココから真直ぐ行った所とは別の国の言葉だもん」
そう言われてハッとしました。
ブラックさんは元々違う場所からここに来たようですし、リューさんは旅慣れている感じでした。
「戦争してたんだよ、その言葉の国とココは」
俯いたまま話すリリィに私はかける言葉を見つけられずただ黙って聞いていました。
「魔王が現われたから一時的に休戦してるの…皮肉だよね」
対個人でもよくある話です。
共通の敵が現われたら急に仲良くなるなんて事は…
「でもね、安心してリリィがそっちの国に連れて行ってあげる!」
エッヘンと胸を張るリリィに私は苦笑し、それから丁重にお断りしました。
「何で?あなたは元々人と居たんでしょ?だったら人と住むべきだよ!そして皆を説得しなくちゃ」
人と、住むべき…
リリィの言葉が頭のなかで何度も繰り返し響いていました。
私がここに居ることはブラックさんにとってもやはりよくない事なんでしょうか。
「直に決めなくても良いよまた来るね!」
ばいばーいっと大きな声で両手を降ると彼女は森へ消えて行きました。
どう…すれば良いのでしょうか。
ブラックさんと一緒に居たいとそう願う事は罪でしかないのですか?
問いに答えてくれる誰かは居ないのは知っているんです。
でも
それでも
「ただ…世の中が…人が悪いんです、人間は根本で他者を信用していない」
いつだって「人」は身勝手です。
リリィの言っている事はとても素晴らしい事…全ての人がそう願っていればこんな事にはならなかったでしょうね。




