② オヤツの時間
それからは何処へ行くのもマコトと一緒だった。
まぁ出かけるのは温泉と森の往復くらいなもんだけどよ。
その間に色々話した。
元いた日本という国では「科学」とかいう意味不明な術がメインらしく魔法を全く知らないようだった。
科学の話は以外に興味深く理論で成り立った術でその理論と方式が解れば俺でも色々と便利に使えるだろう。
マコトも魔法に興味を持ったようだが残念ながら全く魔力を持っていなかった。
お互いの世界の話をするのは面白かった。
段々慣れてきたのかマコトの方も俺に軽口を言ってくるようになってきた。
だから言い争いと言うほどのことでもない。
たんにアイツがあまりにも俺をからかってくるからちょっと腹がたっただけだ。
直に謝ってきたが俺はそれに答えずそっぽを向いた。
「すみません」の一言で許してなんか…。
暫くするとマコトは無言で洞窟を出て行った。
なんだよ、ちょっと怒ったくらいで…
俺はお前が出てった位気にしないぜ。
そう思っていたのに日か落ちかけてもマコトが戻ってこないと不安になってくる。
アイツがココに来てこんなに離れたのは初めてだ。
またどっかで怪我してんじゃねーだろうな?
ここに帰ってきた時の傷だらけの姿を思い出すと少しだけ心配になる。
まさか…な。
ちょっとだけ見に行ってやるか。
そう決意して塒から飛び出すと上空へ舞い上がった。
俺が飛べば1分と掛からない距離をマコトが歩いているのを直に見つけた。
手には以前俺が美味いと言った小さい赤い実を沢山持って。
マコトのヤツ…
何をしに出て行ったのか直に解って俺はなんとなく嬉しくなった。
「帰るぞ、乗れ。」
俺が声をかけるとマコトの顔が急に色をさしたように明るくなる。
嬉しそうにしっぽに捕まったのを確認すると俺はそのまま背中へ移動させた。
「おやつの時間には帰るつもりだったんですよ。」
マコトの言葉に俺は何も返さない。
それでもマコトは気を悪くしたようには感じなかった。
塒に戻るとマコトは懐から布で包んだ赤い実を俺に渡した。
「一緒に食べましょう。」
マコトが手渡したソレは俺には一口にしかならないけれど。
集めるの大変だったんだろ?
貰った実を噛み締めるように食べた。
「美味しいですか?」
マコトの言葉にああと返事を返しつつ丸々俺の横で一粒一粒口に運ぶのを観察していた。
…ちまちま食べてるのが可愛いなんて。
俺はどうかしてきてるに違いない。
「手…怪我してんじゃねーか。」
よく見れば実の汁に混じって手には沢山の切り傷があった。
そういやアレの葉には棘があったな…
「ちょっと遅いけど今から温泉いくか?」
言うとマコトの目が輝いた。
相変わらず温泉好きだよな…こいつは。
「勿論行きたいです!」
食べ終わると俺はマコトを背中に乗せていつもの温泉に向った。
温泉でゆっくりするつもりだったが俺は嫌なヤツが目に入って直に場所を変えた。
背中でマコトの不満そうな声が聞こえているがコレばっかは仕方ないだろ?
だってアソコにはウォズが居たんだぜ。
マコトはきっと知らないだろうがウォズはいわゆる魔王ってヤツで俺とは違って本格的にヒトを滅ぼす事をはじめている。
俺は親人派のヤツじゃねーから今のトコ目をつけられちゃ居ないが一緒にどうだと何度も誘われてはいる。
他のヤツの手下になるってのが気がのらねぇ俺はお前の敵にゃならないが味方もしねーよ。
いつもそう言って追い返していた。
マコトと一緒に居るトコを見られた日にゃ確実に目を付けられるだろ。
アイツとは今鉢合わせれば面倒な事になる。
少し距離があるが俺は何時もとは違う少し小さめの温泉に着地した。
「ここは初めてですね…でもどうして何時もの所は止めたんですか?」
こっちに来たい気分だっただけだ。
と返すとマコトは納得はしていないようだがそれ以上聞かれなかった。
いずれ…アイツの事も話さないといけないだろうか。
そうしたらマコトはどこかへ行ってしまうのか?
「たまには違う所も良いですよね。」
楽しそうなマコトに俺はそうだろうと笑う。
この関係が心地良いのは俺だけじゃないよな?
壊したくない。
ウォズがアソコに居たということは近く俺のトコにくるかも知れない。
俺はこれからどうするべきか、はしゃぐマコトを眺めながら考えていた。