⑲ 裏切りの歴史
飛び立って行かれるブラックさんを今日も黙って見送る。
寂しい気持ちは無くなったりしませんが…それでも昨日お話できただけあってそんな気持ちも落ち着いて少しだけ穏やかな気持ちになれました。
それからはいつも通りの散歩コースです。
妖精さんに手を振って苺を摘みに…
そう、いつも通りだった筈だったのですが。
その苺の木の前にはウォズさんが立っていたのです。
もう会うことは無い、そう言っていた筈のウォズさんが私を待っていたように苺の木の前にいるのです。
私は固まってしまい何も言葉が出てきません。
「マコト…アイツはどこに行っている?」
ウォズさんがブラックさんの事を尋ねているであろう事位は推測はできます。
けれど…私は具体的に「何処」という場所は存じ上げません。
「弟さんの所だと伺っています」
そう伝えるとウォズさんは小さくそうか、と呟きました。
ブラックさんに何か用事があるのでしょうか。
「…ブラックの過去を知っているか」
ウォズさんの言葉に私は何も返せません。
知らない、私はブラックさんの過去どころか『今』すら知らないのですから。
「あいつも俺と同じ人間に裏切られた口だ」
長い話になりそうなので私は木陰に入りましょうと声をかけました。
それにしても…やはりブラックさんの過去にも人間が絡むのですね。
「アイツが初めてこの森に来たのは200年前だ」
言われればそんな事をちらりと仰れていたうような気がします。
「俺はもっと以前からココに居たからなアイツがココに匿ってくれと挨拶に来た」
ああ、ここの主はウォズさんですものね。
それにしても匿ってくれっていうのはなんだか気になる響きです。
「全身に沢山傷を負って翼は片方折れていた…人間にやられたと、あいつはそう言った」
俺はそれ以上詳しくは知らない。
というウォズさんに私は頷く。
「アイツは今でも人を信用してないそれでもお前はアイツについて行くのか?」
できるだけ穏やかな表情を浮かべながらウォズさんに笑いかける。
私は他に行く場所もありません。
それにもう、ブラックさんは家族みたいなモノですから。
「そうか…家族な、まぁいい。ブラックにはココを空けるからよろしく頼むと伝えてくれ」
ウォズさんはそう言い残すと立ち上がりました。
そのまま3歩ほど進み丁度逆光で表情が判別できない場所で私の方を振り返ったのです。
「俺はお前達が羨ましい…そして少し憎い、だから何時までも変わらずいろよ」
は…話が見えません。
ねぇウォズさん貴方は何を…
私が口を開こうとすると今度は空を指差しました。
もうその手には引っかかりませんよ。
私は指の先に視線をやりませんでした。
ところがそこから凄い光が溢れて目を開いて居られません。
目の前が白で埋まる。
そんな感覚さえ覚えます。
ようやく開いた時には元の普通の森でした。
「ウォズさん…まさか帰って来ないつもりじゃ無いですよね?」
妖精さんを一人残して消えたりしませんよね?
私の言葉はただ宙に舞う。




