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第二章:故郷と2人の旅人

更新が遅れて申し訳ありません!


取り敢えず1話だけ今夜は投稿し、今月中に後1話投稿したいと思います!!

新大陸から船に乗り、懐かしき故郷の日の国に舞い戻った荒木又左衛門と、井伊美咲の2人は海底火山が噴火して出来た島---「坂東町」を目指す為に江戸港より北へと進んだ。


この坂東町だが、命名したのは江戸幕府を開いた神君徳川家康である。


先の大阪の役で豊臣家を滅ぼした家康だが、権力者が持つであろう呪術などによる調服を恐れたのか、江戸全体に結界を張った。


古き都の京都に在った平安京も結界を張り東西南北に睨みを利かせたが、家康が要注意に挙げたのは西と北である。


西には「天下の台所」と称される大坂があるし、「禁裏」と称される朝廷も爪牙を抜かれているが・・・・今も強大な存在感と影響力は健在だ。


おまけに薩摩、長州と言った関ヶ原において対決した外様雄藩も多くあり安心できない。


逆に北は古来より鬼門に位置しており、どちらかと言えば魑魅魍魎が跋扈し易い方角として忌み嫌われている。


この2方が家康としては気掛かりだったのだろう。


自身が死ぬ間際に三池典太の作の一振りを「西国に向けろ」と遺言した。


その刀のなかごには「ソハヤノツルギ」と書かれており、意味は不明なるも朝廷の結界を破壊せんとしたか、または刀の力で更に強力な結界を張ったという点は間違いない筈だ。


話を戻そう。


家康は刀を西に向けて呪術的に禁裏朝廷を始めとした西国に睨みを利かせつつ、北には数々の神社仏閣を建設し、日光東照宮にも軍事拠点と呪術的な意味合いを持たせたのである。


しかし、現実主義者にして合理主義者と言われた家康も魑魅魍魎には勝てないのか、海底火山で出来た島に坂東と名付け・・・・・そこにも巨大な神社を建造した。


祀られている神は関東に独立国を建てんとしながら志半ばで死んだ「平将門」である。


将門を祀る神社は他にもあるが、その島にも家康は将門を祀る事で北に対する備えも行った訳だ。


そんな町に又左衛門と美咲は生まれ育ったのである。


「先ずは親父達に帰って来た事を伝えるか」


「それが良いわね。後は坂東同心の人達にも挨拶しないと」


又左衛門の言葉に美咲は相槌を打って一文字笠を被り直す。


旅に出た時と今も変わらぬ道を2人は歩くが、心中では今から十数年前に旅した時を思い出していた。


どちらも10歳になった位で旅に出て、それからは波乱万丈とも言える旅になったのは言うまでもない。


何せ外国と貿易を始めてからは外国人も居り、何から何まで2人にとっては物珍しい物ばかりだったのだから。


しかし、旅の内容は「武者修行」であるから決して観光巡りではない。


証拠として訪れた先々で2人は名のある道場または同門を訪ねては腕を磨いた。


その時、海外に眼を向ける者も居り縁あって一緒に付いて行き・・・・外国も旅した訳だ。


『楽しい旅だったが、そろそろ腰を据えないとな。もう来ているかな・・・・?』


又左衛門は幼い頃に約束を交わした女の事を思い出した。


あの女との出会いは今でも鮮明に覚えている。


それは初めての「女」を教えた面もあるが、同時に将来を誓った面もある。


だが、女には解決しないといけない問題があり・・・・一度、別れる事になったが、それは自分も同じだった。


『あのひとを護れるだけの強さを持ちたかったんだよな……そして父親にもなる為に』


女も問題を解決しないといけない、自分も強くなりたい……2つの思いが互いにあったが、それは美咲も同じである。


故に一度、別れたが約束を交わしたのだ。


『問題を解決したら必ず戻って来るわ』


そう女は言い、又左衛門も約束したのだ。


「……必ず強くなって再会する、か。青臭い約束だったな」


幼い自分の交わした約束に自嘲した又左衛門だが、今でも変わらぬ思いは確かだった。


そして自分と美咲は武者修行の旅に出た・・・・というのが経緯である。


もう10年以上は旅をしたのだから、そろそろ故郷に腰を据えて彼女を迎え入れる準備をしなくてはと又左衛門が思った時だ。


「ん?」


前方で2人の女が石に座り、休んでいたのが眼に入る。


どちらも男物の着物を着ており、どちらも驚くべき事に……2本差しだ。


「・・・・・・・・」


又左衛門は剣者としての本能とも言うべき第六感で、かなり腕があると見抜く。


それは美咲も同じだったようで一文字笠で隠した双眸を光らせたが、それ以外の物も感じ取ったように眼を細める。


「美咲、どう見る?」


「・・・・仇討ち、でしょうね。あの2本差しと、身体中から放たれる“悲壮感と絶望感”は仇討ち特有の気よ」


又左衛門の言葉に美咲は答えた。


「なるほど……なら」


「係わるだけ無駄よ。そして仇討ちをする者は無関係な人間を毛嫌いするの」


美咲は又左衛門の言葉を遮り冷たく談じた。


「仇討ちなんて武士の心構えとか、誉れとか言われているけど・・・・それで一生を潰されるんだから割に合わないわ。あんたの御先祖様も同じでしょ?」


大名と旗本の代理戦争に狩り出されて、そこから足掛け4年5ヶ月と15日にも及ぶ仇討ちを果たしたが、結局は・・・・有耶無耶になった。


他にも仇討ちの例は武士、町人を問わず数多くあるが・・・・講談話で語られる仇討ちは成功したからに他ならない。


その他の仇討ちは返り討ちか、果ては仇討ちする相手が死んでいたり、周囲から忘れ去られてしまったり、病に臥したり・・・・どれを取っても悲惨な末路ばかりだ。


「私の方だって失敗して人生を狂わされた方よ。だから下手に係わらない方が身の為なの」


「まぁ・・・・仇討ちなんて、そんな所だろう。しかし、だからこそケジメを付けたいんだろうぜ」


少なくとも又左衛門の先祖は有耶無耶の処置とも言える感じにされたが・・・・それが世の中の仕組みであり、同時に仇討ちを行う者達の心情だ。


「相変わらずね・・・・どうやったら、そんな風に思えるの?」


心底、美咲は又左衛門の気持ちが理解できなかった。


「さぁて・・・・何でだろうね?」


はぐらかすように又左衛門は言い、2人に近づいて行き・・・・美咲も仕方なく後を追う。


「どうかされましたか?」


又左衛門は石に腰掛けた2人に声を掛けた。


すると2人が顔を向けるが・・・・美咲と同じく一文字笠を被りつつ厳しい表情をしていた。


2人は先ず又左衛門の長身に驚き、続いて美咲の厳しい表情に眉を顰める。


それが何を意味していたのかは・・・・美咲の予想通りだった。


「いえ、何でもありません。どうか私達には係わらないで下さい」


素気無く拒絶の言葉を口にされた。


「だから言ったでしょ?仇討ちをする者は他者との係わりを拒絶すると」


美咲は又左衛門の肩に言い、余りに御人好し過ぎる性格を暗に批判する。


「そうは言っても疲れているように見えたからな。旅は道連れ、世は情けだ」


「違うわ。旅は道連れでも、世は金と力よ。情けは仇となって返ってきて後に地獄を見るわ」


間髪入れず美咲は又左衛門の言葉に訂正を入れるが、それは美咲が培った人生教訓だったのは言うまでもないだろう。


傍から見れば面白い会話だが、声を掛けられた2人にとっては迷惑でしかない。


「・・・・私どもは先を急ぐので失礼します」


「ありがとうございました」


石から立ち上がると2人は早々に去ってしまい又左衛門と美咲は残された形になった。


「まったく時間を無駄にしたわ」


「そう言うなよ。さぁ、行こうぜ?」


又左衛門は嫌な素振りも見せず再び歩き出した。


美咲の方は「自分で声を掛けておいて」と愚痴を零しつつ後を追い掛ける。


そして坂東町を渡る為に設けられた橋---坂東橋を通り、その先に在る番所に着いた時に先ほどの2人と再び出会った。


しかし、その2人は門番に柄が5尺(150cm)で穂先が5寸3分(16cm)の番所槍を十字にされて立ち止めされている。


「ですから私共は・・・・・・・・」


女の1人---又左衛門と同い年くらいの女が番所の者に説明しようとするが・・・・・・・・


「何人たりとも坂東“手形”を持たなければ入れません」


説明する間を置かず、門番は告げるが女は尚も説明しようとした。


「で、ですから、それは・・・・・・・・」


「落としてしまったんですよね?それならば新たに発行するまで待って下さい」


『ああ、なるほど。さっきの様子は手形を無くしたからか』


又左衛門は先ほどの様子に合点した。


他国に行けば関所で必ず見せろと言われる「通行手形」だが、坂東町は更に特別な手形を要する。


「坂東手形」という物で平将門公をあしらった特別手形であり、坂東町に住む者達は生まれた時から持っているが他の場所から来た者には新たに発行される仕組みだった。


それは今でも「脛に傷ある者達」が居る故か、特に外部の者には注意深くなるのだ。


「そこの2人さん、どうぞ」


番所から出てきた初老の男が又左衛門と美咲に声を掛けて先ほどの2人を横にやる。


「手形を」


「はいよ」


「どうぞ」


男に言われるままに又左衛門と美咲は懐から手形を出す。


その手形には身分、名前、年齢、出身地などが書かれた他にも・・・・平将門公を描いた絵図がある。


「!?お前さん方・・・・又坊と枯れ宿の姫さんか!!」


男が手形を見て2人を見れば、2人は笠を取って男に顔を見せる。


「間違いねぇ・・・・又坊と枯れ宿の姫さんだ!かぁ、こんなにデカクなって、そして別嬪になりやがって!最後に会った時から何年だ?」


「ざっと10年以上さ。おっちゃんも元気そうだな?」


又左衛門は浅黒い肌を見せながら男に笑い掛ける。


「まぁな。しかし、年を取ったと痛感するぜ。で、今まで何処に行っていたんだ?」


「最初は日の国を廻って、ちょっと色々とあって大陸にも渡った。こいつが大陸帰りの代物さ」


又左衛門はマントを見せるが・・・・・・・・


「んな物は坂東町に腐るほどある。まぁ良い。入りな」


親父も御袋も元気だぞと男は言い、又左衛門と美咲だけを門番に命じて通す。


門番2人も又左衛門と美咲は知っている為か、足止めを喰らっている2人より親密な態度を取った。


「あ、あのっ!!」


2人が門を潜り終えた所で女の1人が声を掛ける。


「何か?」


又左衛門は顔を向けて問い掛けた。


「あ、あの、先ほどは・・・・・・・・」


「図々しいわよ。あんた達」


女が言う前に美咲が冷たくて厳しい声を放って、何か言おうとした女を遮る。


「さっき声を掛けたら構わないで、と言ったわよね?ここに来て入れない途端に私達に助けを求めるの?」


女は美咲の言葉に言い返せなかった辺り・・・・どうやら図星のようだ。


「何様の積り?」


美咲の舌が滑らかに動くが、その舌は苛烈にして猛毒に溢れている。


「おい、美咲。何もそこまで初対面の相手に強く言う事は・・・・・・・・」


「あんたが甘いだけよ」


美咲は止めに入ろうとした又左衛門を手厳しい口調で跳ね付けた。


「この2人は仇討ちをしようとしている。そして私達を冷たく拒否したわ」


それなのに・・・・・・・・


「ここに来て甘えようとしている。こんな都合の良い話を・・・・誰が受け入れるのよ?」


「お言葉は御尤もです・・・・先ほどは失礼しました」


女は美咲の毒舌に神妙な顔で頷く。


「だったら・・・・・・・・」


「ですが私共は坂東町に居る方に用があるんですっ。お願いですから私共を入れて下さい!!」


美咲の言葉を遮り、強い口調で女は望みを口にした。


「私共の力になって欲しいのです。かつて鍵屋の辻の決闘で名を馳せた荒木又右衛門様の子孫に!!」


「・・・・」


「・・・・」


又左衛門と美咲は無言となり、門番達も無言になった。


しかし、眼は又左衛門に向けられている。


「・・・・親父に用があるのか?」


又左衛門は静かに女に問い掛けた。


「え?」


女は又左衛門の問い掛けに一瞬だけ顔を点にする。


「あんた、さっき荒木又右衛門の子孫と言ったが・・・・そいつは俺と親父だ」


「で、では、貴方様が・・・・・・・・」


「あぁ。かつて伊賀の地にて仇討ちを敢行した荒木又右衛門の子孫---荒木又左衛門だ」


又左衛門は静かに己の先祖の名を口にして自らの名前も名乗った。


「お、お願いですっ。どうか、私共に力を貸して下さい!!」


女は地べたに膝をつくと両手も地べたに付けて頭も押し付けた。


連れの女も一緒にやる。


「まぁ・・・・それは親父に聞かないと分からないな。おっちゃん、この2人を中に入れてくれ。手形は無いが、親父に用があるなら良いだろ?俺が保証人になる」


又左衛門は門番の長である初老の男に許可を求めた。


「そうだな・・・・今回は特別に許可しよう。あんた等、又坊に感謝しろよ?」


『は、はいっ』


男に言われた2人は土下座したまま頷くと急いで立ち上がり番所槍を退けた門番の横を潜り又左衛門に走り寄る。


「まったく・・・・帰って来て早々に嫌な感じだわ」


2人を見てから美咲は静かに吐息したが・・・・これから更に重い吐息をするとは思いもしなかった。


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