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理系女子の恋  作者: 流音
95/246

91、離れがたい

前回に引き続き井坂視点です。


俺が全力疾走して詩織の家までやって来ると、驚いた顔をした詩織が玄関から飛び出してきた。

部屋着なのかTシャツにゆるっとした七分丈のパンツ姿が可愛い。


「井坂君、カラオケは!?」


詩織は俺がメールしてから30分も経ってない事に驚いているようだった。

俺はそんな詩織の手をとって握りしめると、自然と笑みが漏れて言った。


「詩織の方が気になってさ。」


俺は思っていた気持ちがポロッと口から飛び出して、内心すごい事言ってしまったと焦った。

詩織は一瞬ポカンとしたあと、意味を理解したのか真っ赤になってしまって、俯いて俺以上に焦って口を開いた。


「あ、えと…ありがとうって言っていいのかな…。う、嬉しいんだけど…。でも、お友達も大事にしなきゃ…だよね…。大丈夫なの?」


詩織が照れた顔で心配そうに俺を見上げてきて、俺は胸が鷲掴みにされた気分でギュッと胸が苦しくなった。


うっわ…やべぇ…。…すっげぇ抱きしめたい…


俺は心臓がバクバクしてきていて、平静を装いながら答えた。


「平気、平気。あいつ、鹿島さぁ…礼とか言ってケバい女子呼んでやがってさ。腹が立って、赤井と逃げてきたんだ。」

「女子…。」


俺は一瞬詩織の瞳が揺れたのを見逃さなかった。


あ、やべ…。女子と遊んでたって気分悪くさせたかもしれねぇ…


「あ、違うからな!!女子って言っても、呼んでた事に腹立ててすぐ帰ったから、全然歌ってねーし、絡んでもねーから!!」」

「うん。分かってるよ。その…鹿島君…って人が勝手にやった事でしょ?」


俺は詩織が何も気にしてないように言ってくれてホッとした。


でも詩織はすぐ笑顔の裏に隠してしまうから注意しないといけない。


俺は詩織に嫌な思いだけはさせたくなくて、ギュッと手に力を入れて告げた。


「俺はカラオケの最中も詩織のことばっか考えてたよ。もう、俺とは切っても切り離せねぇなって思って、一人でニヤけてた。赤井に見られてて、すっげー恥ずかったけど。」


ははっと声に出して笑うと、詩織が手を握り返してくれて、いつもの優しい笑顔を浮かべた。


「私も…メールくれて嬉しかった。一緒に帰れなくて寂しかったから…。ちゃんと私のこと考えてくれてるんだって…幸せな気持ちになったよ。だから、来てくれて…ありがとう。」


詩織の笑顔が夕日に照らされて輝いて見えた。

俺はその綺麗な姿に吸い寄せられるように、体が勝手に詩織を抱きしめる。


詩織の華奢な肩を抱いていると、彼女の体温を直に感じて胸が熱くなった。


やっぱり俺の世界の中心は詩織だ。

詩織が喜んでくれれば俺も嬉しいし、詩織が不安なら俺も不安になる。

だから彼女がいつも笑顔でいられるように、俺はこうして必死に会いに来てしまう。


俺が傍にいれば詩織は自然と笑顔になってくれるから。


詩織にも俺が必要なんだと分かる度に、俺はどんどん詩織なしでは生きられなくなる。

一分一秒だって離れるのが嫌になる。


俺は詩織を離してしまったら今日は「さよなら」をしなければいけなくなるような気がして、ギュッと腕に力を入れた。


すると詩織が俺の腕の中で焦って動き始めて、少しだけ俺を押し返して言った。


「お…お母さんに見られる…。公園行こう…。」


詩織は真っ赤な照れた顔でそう言うと、俺の手を握って早足で歩き出した。

俺はその手に引かれながら、詩織の背中を見つめてほわ…と胸が温かくなった。


まだ一緒にいられる…


もうこれは病気なのかもしれないけど、詩織の傍にいられるというだけで、幸せな気持ちでいっぱいになったのだった。




**




そうして詩織と並んで歩いて時計公園までやって来ると、時間もまだ夕方なので遊んでいる小学生や散歩中の年配の方などで賑やかだった。

俺はふしだらにもこんなに人がいると、詩織には何もできないな…なんて考えて落胆してしまう。

詩織はというと、何も考えていないのか近くにあったベンチに座って俺に隣を促してきた。


俺はそこへ座ると、少しでも詩織の近くがよくて、腰をずらして詩織と肩がぶつかるようにくっついた。

これぐらいなら人目があっても大丈夫なはず…

俺は肩から伝わる温かさに頬が緩んでいたのだけど、詩織は違ったようで少し俯くと小さめの声で言った。


「なんか…今日の井坂君…変…。」

「え?変って…どこが?」


俺はベタベタし過ぎただろうかと不安になった。

でも詩織はちらっと俺の顔を見ると、頬を真っ赤にさせて視線を逸らしてしまった。


「目…目が…色っぽくて…ドキドキする…。」


目!?


これには俺の頬が熱くなった。

目が色っぽいとか…詩織のことが愛おしくて、その気持ちが目に現れたとかか!?

俺はふしだらな事まで伝わっただろうかと詩織の顔色を窺った。


詩織は「困る…。」と呟きながら、赤い頬を両手で挟んで俯いている。


どうやらただ照れてるだけのようだったので、俺は安心感から悪戯心が顔を出した。

俺は背もたれにもたれかかると、俯いている詩織の後ろ頭を見て、首筋の髪を手で払いのけた。

そして顔を近づけると、詩織の白い首筋に唇を落としてキスした。


触れた瞬間、詩織の体がビクついて詩織の顔が俺に振り返ってきた。

詩織は瞳を大きく見開いて、食い入るように俺を見つめるので、俺はヘラッと笑ったあとに言った。


「なんかしたくなって。」


詩織は真っ赤になって口をわなわなと動かすと、俺を小突いて言った。


「井坂君はずるいっ!!」


俺は照れながら怒ってる詩織も可愛くて、怒られてるのに笑ってしまう。

詩織は口を引き結んで顔を背けてしまうと、足をベンチの上にのせて体ごと俺に背を向けてしまった。

そんな詩織の怒ってますという姿勢に、俺は機嫌をとろうと話しかけた。


「詩織~。勝手にキスしてごめん。今度からはちゃんと一声かけるから、許してくんないかな?」


俺が手を合わせて謝ると、詩織から「怒ってないよ。」という返事が返ってきた。

俺は怒ってないなら背を向けてしまった理由が分からなくて詩織に問いかけた。


「じゃあ、何で俺の方向かないの?」

「…それは…、…照れ臭いから…。」


詩織は言葉の通り照れ臭いのかボソッと呟くように言って、俺はそんな素直な詩織に胸の奥がむず痒くなった。


―――っ!!!!これだから詩織には敵わない!!!


俺が見悶えするように胸を押さえていると、詩織が小さな声で続けた。


「…鹿島君が…井坂君は同類だって言ってたけど、やっぱり全然違うんだもん…。」


は!?鹿島!?


俺は鹿島の名前が出たことに驚いて、詩織の背中を凝視した。

詩織はそんな俺に気づかずに、黙々と話し続ける。


「井坂君の言葉や行動は全部まっすぐで…私、いつかドキドキし過ぎて死んじゃうと思う…。今もキュンとし過ぎて、胸が苦しい…。」


詩織の言葉に胸をズキュンと射抜かれて、俺は自分の方が死ぬ…と思いながら、詩織を背中から抱きしめた。


「俺も同じだから…。詩織に心射抜かれ過ぎて…いつか死ぬよ…。」


詩織は驚いたように俺に顔だけで振り返ってくると「ホント?」と目を丸くした。

そんな子供みたいな姿に吹きだして、俺は笑いながら頷いた。


「ホントだって。なんなら確かめる?俺の胸に耳当てたら分かるよ。」


俺が証明しようとしたら、詩織が「いい。」と言って前を向いてしまった。

俺はそれが少し残念だったが、こうしているのも幸せだったので黙って詩織を抱きしめる。


すると詩織が小さく息をついてから、言った。


「…瀬川君にもこういう幸せが見つかればいいなぁ…。」

「…瀬川?なんで今、瀬川なんだよ?」


俺は急に詩織の幼馴染の名前が出たことにもやっとした。

我ながら心が狭い。


「なんか…女性不信になっちゃったみたいで…。」

「は…?女性不信ってどういうこと?」


俺はモテて女子に囲まれている瀬川を知ってるだけに、似つかわしくない言葉に顔をしかめた。

詩織は息を吐いて肩を落とすと、悲しそうに言った。


「ミスタコンで一位になって…女子に襲われかけたんだって…。それで…、女子が苦手になっちゃったみたい…。」


襲われかけ…


俺はそう反芻して、瀬川が女子に言い寄られている場面を想像してグワッと体温が上がった。


「へ…!?それって…作り話じゃなくて…?」


俺はチラつく妄想に声が裏返った。


「こんな事で嘘なんか言わないよ。」


詩織がムスッとしながら振り返ってきて、俺は妄想を自分と詩織に置きかえしてしまった。

女子に襲われるとか普通だったら憧れるシチュエーションだ。

俺は詩織に迫られているシーンが頭から離れなくて、詩織の横顔を見つめながら口をパクつかせた。


やっべ!!何考えてんだ!!

消えろーーー!!!


俺がいけない気持ちを押さえつけてギュッと目を瞑って堪えると、詩織が前に向いて続けた。


「好意を寄せる女子を見ただけで、吐き気がするんだって。そんな状態で体育祭の男女混合二人三脚になんか出られないって、私にパートナーを頼みに来たの。」


???――――うん?


俺はここで一気に衝動が収まって、変な違和感が過った。


「え?女性不信なのに、なんで詩織に頼むわけ?」


俺は胸のもやもやが大きくなって、急に不安が湧いて出てきた。

詩織は何も気にしてないようにサラッと言う。


「なんか私は大丈夫なんだって。小さい頃から知ってるからって言ってたけど。」


は!?!?

そんなのどう見ても、詩織のことが好きだから大丈夫なんだって言ってるようにしか聞こえないんだけど!!!!


俺は嫉妬心から腕に力が入って、詩織を強く抱き締めた。

もやもやがムカムカに変わり、心が落ち着かない。


「い…井坂君。なんか苦しくなってるんだけど…。」

「それで!?二人三脚は出るわけ!?」


俺は詩織の苦情を無視して、聞きたい事を口にした。

詩織は俺の拘束を解こうとしているのか、腕に自分の手を当ててきた。


「う、うん。だって、あんな弱ってる瀬川君初めて見たから…。」


~~~~~っ!!!!

詩織はぜっんぜん分かってねぇ!!!


心の狭い俺は苛立ちMaxで、ギリ…と奥歯を噛みしめて怒鳴るのを堪えた。

誰にでも優しい詩織だから、悩みを打ち明けてきた瀬川を放っておけなかったのだろう…

それは分かる…分かるけど!!


自分の彼女が学校一のモテる男、且つ俺以上に詩織を良く知ってる幼馴染と二人三脚だなんて…

仲良く肩を組む姿を見てる事しかできないとか!!

あり得ない!!


二人三脚しただけでラブが目覚めるとは思わないが、できることならそのきっかけとなり得るものは全て排除しておきたい。


俺はこんな事詩織には言えないので、じっと詩織の後ろ頭を見つめて悶々とした。


詩織は俺が怒ってるのを分かってるのか、雰囲気からオロオロしているのが伝わってくる。

俺は苛立っていたのもあって、詩織をちょっと困らせてやろうなんていう悪い気持ちが出てきて、さっきのように詩織の首筋に軽くキスした。


「いっ!井坂君!?」


詩織が焦って俺の腕の中でバタついたが、俺は手を緩める気はなかった。


詩織は俺のだ。瀬川のじゃない。


俺はその気持ちから首筋に顔を埋めて、何度も口付けては離した。

その度に詩織がビクついたり、小刻みに体を震わせていて、小動物みたいだな…と思っていた。

どうやら詩織は声が出るのを必死に堪えているらしいというのは、手で口を押えている姿を見て分かった。


可愛いな…


俺がいつの間にか苛立ちがなくなり笑顔を見せたとき、横で大きな声が聞こえた。


「あー!!こんなとこでエッチな事してるー!!」

「わぁ~、ラブラブ!!ラブラブだよ!!」

「えっち~!!ラブラブー!!」


俺が詩織から口を離して視線だけそっちに向けると、小学二、三年生?ぐらいの集団がボールを手にキラキラした笑顔を向けていた。

俺はこんな奴ら放っておこうと思ったのだけど、詩織が俺の手が一瞬緩んだ隙に押し返してきて、面食らった。


「かっ…帰るね!!また、明日!!!!」


詩織は真っ赤な顔でそれだけ言うと、ポカンとしてる俺を置いて走っていってしまった。

俺は半分ベンチに寝そべりながら詩織の走り去る後ろ姿を見つめる。


すると前から小学生の笑い声が響いた。


「あははは!!兄ちゃんフラれたー!!」

「フラれたー!!」

「はははっ!!お姉ちゃん帰っちゃったね~!大丈夫ー!?」

「大丈夫ー!?」


俺は小学生に同情されてる…とイラッとして「うっせぇ!!」と怒鳴った。

でも小学生は立ち去る様子はなくキャーと喚きながら、「怒られたー!!」なんて言って走り回っている。


俺はその様子を眺めながら、ちょっとやり過ぎたかな…と反省してため息をついたのだった。





***




次の日、俺は5組の教室の前で注目を浴びながら瀬川を呼び出した。

瀬川と二人でいると目立つのか、廊下を歩く面々が興味津々といった視線を向けてくる。

たびたび黄色い歓声まで飛び交って鬱陶しい。


俺は用件を素早く済まそうと不思議そうな顔をしている瀬川に告げた。


「二人三脚のこと、詩織から聞いた。」

「あぁ!!その話か!!井坂君と何の接点もないのに呼び出されるのは何でだろうって思ってた!」


瀬川は女子の騒ぐ爽やかな笑顔を浮かべて笑っていて、俺はその笑顔に気が緩んだ。

なんだ…?やっぱり、詩織のことは何とも思ってないのか…??

詩織が言ってた小さい頃から知ってるっていう話は本当なのか?

俺は瀬川の本心を聞きに来ただけに、ズバリ尋ねることにした。


「なんで詩織なわけ?他の女子には頼めねーのかよ。」


瀬川は俺の問いに一瞬顔を強張らせると、俺らを見て騒いでる女子に目を向けて顔をしかめてしまった。

以前とは違うこいつの態度に俺は多少なりとも驚いた。


女性不信という言葉が頭の中を駆け巡る。


「悪い…。俺が平気で触れるの…谷地さんぐらいなんだよ。ガキの頃から知ってて、井坂君っていう彼氏がいるのも知ってるから安心するんだ。」

「安心って…。やっぱり女性不信って…マジな話なわけ?」

「あ、それも聞いた?そりゃ、そうだよなー。彼氏と違う男と肩組むわけだし、罪悪感がないわけじゃないもんなー。」


罪悪感…

俺はここで詩織が俺に包み隠さず言ってくれた理由を理解した。

詩織は瀬川を助けるつもりだとは思っていても、俺に対する罪悪感があったんだ。

だから俺を不安にさせないように瀬川の事情も全部話してくれた。

これは詩織なりの誠意の表れなんだと、今なら嫉妬に狂わずにスッと中に入った。


昨日の俺はただのバカだったな…と思いながら、瀬川の話に耳を傾ける。


「安心してくれていいよ。俺、谷地さんのこと好きとかじゃねぇし。好きな奴もちゃんと別にいるからさ。」

「は…?好きな奴いるのか?」

「あぁ。ずっとケンカ中で嫌われてるけどね。」


俺はそいつに頼めばいいのに…と出かけたが、ケンカ中と聞いて口を噤んだ。

瀬川は切なげな笑顔を浮かべると、ポンポンと俺の肩を叩いた。


「そういう事だからさ、体育祭のときだけはごめんな。嫌かもしれないけどさ、目を瞑ってくれると助かる。」

「…わ、分かったよ…。でもさ、その女性不信?って…どうしても直りそうにないわけ?」


俺は、ずっとこのままなのだろうかとそこだけが気になった。

瀬川は少し考え込むと、俯いて首を振った。


「分からねぇ。なんか俺の目には女子が皆ギラギラして見えるんだ。ただの思い込みだって分かってるんだけどさ…。あの出来事が衝撃的過ぎてさ…。どうにも消えてくれねーんだよ。」


瀬川は「童貞なめんなー。」と言って笑顔を浮かべているが、どう見ても苦しそうに見えた。

俺は何か力になれないだろうか…と考えて、ふっといい考えが浮かんだ。


詩織が大丈夫なら、きっとこの方法なら上手くいくはず。


俺は瀬川の肩を掴むと、その方法を瀬川に伝えたのだった。








小学生を書いてて楽しかったです。

また機会があれば出したいですね(笑)

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