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理系女子の恋  作者: 流音
94/246

90、呼び出し

井坂視点です。


体育祭まであと三日という日に、俺は鹿島に呼び出されて廊下で話をしていた。


「この間は悪かったな。ケンカ腰にあんな事言っちまってさ。別にお前の彼女を非難したわけじゃねぇんだ。この通りだ!!許してくれ!」


鹿島はいつものチャラついた雰囲気が消えていて、まっすぐな目で頭を下げて謝ってくる。

俺はあのときはムカついたけど、今はそれほどでもないので鹿島を許すことにして声をかけた。


「もういいよ。気にしてねぇから。」

「マジ!?サンキュー!!やっぱお前はそういう奴だよな!」


鹿島は俺が許しただけで態度を元に戻してきて、いつもの調子でケラケラと笑いながら俺の肩を叩いた。


もうちょっと誠意を見せればいいのに、ホント軽い奴…


俺は高校に上がってから仲の良かった鹿島と何だか考え方に溝ができたな…と思って、鹿島の顔をじっと見つめた。

鹿島はそんな俺を見て目を瞬かせると、思い出したかのように手を叩いて言った。


「お!そうだ!!そのお礼とかじゃねぇけどさ。今日、放課後付き合ってくんねぇ?」

「…何するわけ?」

「カラオケ行こうぜ?俺が全部奢るからさ!!」

「別にいい。そこまで歌いたいわけでもねぇし。」


俺はカラオケより詩織と帰りたいと思って、誘いを断った。

でも鹿島はどうしてもカラオケに行きたいのか、顔をしかめて抗議してきた。


「俺に礼をさせてくれねぇのかよ!!冷めてーやつだな!!」

「おいおい。それが礼をしたい人間の言う言葉か?」

「うっせーよ!いいから、俺に奢らせろ!!今日一日だけ!!な!?」


鹿島は鬱陶しいぐらいのテンションで詰め寄ってきて、俺は一回誘いにのれば気が済むだろうとしぶしぶ頷いた。


「分かったよ。今日だけな。」

「よっしゃ!!放課後迎えに来るな!!」


鹿島は嬉しそうに昔と変わらない笑顔を浮かべると、手を振りながら教室へ戻って行った。


げんきんな奴…


俺はふっと息を吐いてから教室へ戻ると、すぐに北野と島田に取り囲まれた。

二人の様子は珍しく剣幕で、俺は何かしただろうかと不思議に思った。


「あいつ、何の用だったわけ?」

「あいつって?」

「鹿島とかいう奴!!さっきお前に会いに来てただろ!!」

「あぁ…。なんかこの間の礼がしたいってカラオケに誘われただけだよ。」

「礼!?それ、お前行くのかよ!?」


北野が顔をしかめて怒鳴るように尋ねてきて、俺は勢いに流されるように答えた。


「まぁ…行くことになったけど…。」

「はぁ!?お前、この間のこと忘れたのかよ!!」

「そうだ!!あんだけ言われて、まだあんな奴と遊ぶとかあり得ねぇ!!」


「あんな奴って…。」


俺は実際に絡まれた俺以上に憤慨している二人の様子に苦笑した。


何だってこんなに怒ってるんだ?

こいつらと鹿島なんて何の接点もねぇだろ…


俺が意味の分からない二人だな…と思っていると、そこへ顔を歪めて怒る二人に割り込むように赤井がやって来た。


「おいおい、お前らやめとけって。井坂に絡んだところで仕方ねぇだろ。」

「赤井…。」

「赤井!!お前はそうやってヘラヘラ嫌味にも笑顔で返しやがって!!何も分かってねぇよ!!」

「あいつ絶対腹黒だぞ!?関わると碌な事ねぇって!!」


どうやら鹿島は島田と北野にはえらく嫌われてると伝わってきたが、そこまで嫌う経緯が分からなかったので揉める三人の様子を見守った。

すると赤井が二人の頭をポンポンと宥めるように叩いて言った。


「まぁ、あいつは悪い奴じゃねぇんだよ。ちょっと俺らの考え方とズレてるだけでさ。なぁ、井坂?」

「ん?あぁ…まぁ、そうだな。」


俺は中学のときの鹿島を思い返して答えた。


鹿島は俺と赤井と同じバスケ部だった。

おちゃらけてて調子の良い奴だけど、決して悪い奴じゃない。

たくさんの女子と付き合ったりしてるのも、断るのが可哀想だからというあいつなりの思いやりからの行動だと知っている。

俺には理解はできないけど、こういう事は人それぞれだ。

俺があいつの交友関係に口を出す事じゃない。

あいつが俺の事に口を出すのに腹が立ったように…


それに口が悪いのも今に始まったことじゃない。

あいつは上級生に対してだっていつもケンカ腰だった。

それだけによく絡まれてはケンカになりそうなのを、赤井がいつものように笑顔で宥めていた。

あいつは人より怒りの沸点が低い。

それを知っていれば扱いは上手くできるのだけど…


まぁ、これは免疫のある赤井や俺だから言えることだ。


初対面の北野や島田には理解できないのも仕方ないと思う。


「でも!!俺はあいつは嫌いだ!」

「俺もだ!お前がどうしてもあいつとカラオケに行くなら、俺はお前とは友達やめる!!」

「はぁ?お前何言ってんの?」


俺はプイッと子供のようにそっぽを向いた島田に呆れた。

北野も同じように顔を背けているし、俺は自然とため息が出た。


するとそれを見兼ねた赤井がペシッと二人を叩いて言った。


「高校生にもなってそれはカッコ悪いだろ。ところでカラオケって何だよ?鹿島と行くのか?」

「あぁ。なんかこの間の礼をしたいって誘われたんだよ。」

「ふーん…。なら、それに俺もついてくよ。それならお前らの気も少しは休まるだろ?」


赤井が二人の様子を見ながら言って、北野と島田は顔を見合わせると「まぁ、それなら…。」と納得したようだった。


俺は一人、なぜカラオケに行くだけでこいつらの許可を得なければいけないのか不思議だったが、どうやら三人と鹿島に何かあったということだけは雰囲気で伝わってきた。


でなければいつも他人に対してフレンドリーな二人がここまで嫌がるわけはない。


「じゃ、そういう事で。お前らはもう鹿島に食ってかかるなよ?」

「わーったよ。こっちだってもう関わりたくもないね。」

「さっさとカラオケ切り上げてこいよな。」


北野はまだ少し怒りながら顔を背け、島田は俺に釘を刺すように真剣な目で言ってきた。

俺はこんな二人をあまり見たことがないだけに、変な感じがしてふっと笑みが漏れたのだった。





***





そして放課後、俺は迎えに来た鹿島に赤井も行く事を告げた。

鹿島はいつものように軽い感じで「大歓迎だ!」と笑って、俺たちは三人で打ち上げでもよく利用するカラオケ店にやって来た。

こうして三人でいると中学のときに戻ったような錯覚に陥って、部活後によく話していた事を思い出した。


「なんか懐かしーよなぁ…。こうして三人でいると、あんときの事思い出す。」

「あんときって?」


俺が個室のソファにもたれかかりながら言うと、マイクを手に持った鹿島が尋ねてきた。

赤井は曲を選んでいるのか機械を手に視線だけ投げかけてきた。


「部活の後にさ、よく話しただろ?誰が一番背が高くなるかとかさ。」

「あー!!言ってたなぁ!部活終わった後に背くらべしたもんな!」

「そうそう。俺、いっつも一番低くて悔しかったのを覚えてる。」


俺は小学生のガキみたいに小さかった自分を思い出しておかしかった。

それは二人も同じだったようで笑いながら頷いた。


「だな!赤井がいっつも一番でかくて、俺が二番。井坂は中二の終わりぐらいだっけ?でかくなってきたの。」

「それぐらいだったと思うけど…。それでもやっぱり一番低かったからなー…。」

「でも、今は井坂のが俺より高いだろ。赤井よりは低いかもしれねーけど。」

「そうか?」


俺は鹿島とは目線の位置も同じぐらいだったので、どっちが低いとかはあまり感じてなかった。

でも赤井は190近いので俺よりは高い。

赤井の背の高さはちょっと憧れがある。

まぁ、自分はそこまで低い方ではないけど。

詩織も背が高いので、できるだけでかい自分でいたいってのは…あるかもしれない。

単なるカッコつけなんだけど…


こうして三人で遊んでても詩織のことを自然に想う自分にふっと顔が緩んだ。

もう詩織の存在は俺とは切っても切り離せないみたいで嬉しくなる。


「なに急にニヤけてるわけ?気持ちわりーなぁ…。」


鹿島がマイクを赤井に手渡しながら、俺を見て苦笑した。

俺は「うっせ。」と返すとケータイを取り出して、詩織にメールすることにした。


今日は一緒に帰れないって言ったら、詩織は少し寂しそうな顔を隠して笑顔を浮かべていた。

詩織はいつもそうだ。

すぐ笑顔で本音を隠してしまう。


俺を困らせないようにと思っての事だと分かってるけど、もっと我が儘を言ってくれてもいいのにな…


俺は詩織にメールを打ちながら、今すぐ会いに行きたくなってしまう。

あんな寂しげな顔を隠されたら余計にだ。


俺は『今、カラオケ。帰りに会いに行くよ。』と打って詩織に送信した。

返事が返ってくるのを楽しみにしながら、ケータイをポケットにしまう。


すると俺と同じようにケータイを触っていた鹿島がおもむろに立ち上がって、部屋を出ていってしまった。

赤井は一人でドラマの主題歌を熱唱していて、俺は自分も歌う曲を入れようと機械を手にとった。


そのときポケットに入れていたケータイが揺れて、メールの受信を知らせたので、俺はそれを手にとって確認した。

メールは詩織からで珍しく早い返信だなと顔が勝手に緩む。


内容は『うん!待ってる!!』だけだったけど、ビックリマークの多さで詩織が喜んでいるのが伝わってきて、こっちまで嬉しくなる。

返信が早かったのも、俺と同じ気持ちからくるものだと分かる。


よしっ!さっさとカラオケ終わらして、詩織のところに行こう。


俺は持っていた機械で適当に曲を選ぶと予約した。

そうしていると、鹿島がケータイ片手に戻ってきた。


「悪い!連れを迎えに行ってた!!」

「連れ…?」


鹿島は俺たちにそう告げると、廊下に顔を向けて誰かを迎え入れるようだった。

俺も赤井も誰が来るのかと身構える。


「こんにちはー!」

「お邪魔しまーす!!」

「わっ!本当に井坂君と赤井君だ!!ミスタコンおめでとう~!」


鹿島の後ろから派手な女子が三人現れて、俺はどういうことだと鹿島を睨みつけた。

鹿島は俺の視線に気づいてか、ヘラッと笑顔を浮かべると言った。


「今日は俺の礼だからさ!花がねぇとなぁ~!!」

「花とか!勇ちゃん、何も出ないよー!」

「あははっ!!そうだよ!」


鹿島と同じテンションの女子は軽く笑いながら平然と俺と赤井の隣に座り込んでくる。

俺は詩織以外の女子と近づきたくなかったので、腰を浮かして女子と距離をとった。

そしてそのまま鹿島に尋ねる。


「鹿島。これはどういう事だよ。俺らに彼女いんの知ってるだろ。」

「知ってるけど?だからなんだよ?」

「は!?こんな状況、どう考えたっておかしいだろ!?彼女以外の女子とカラオケとか!!」


俺が苛立って声を荒げると、俺の隣に座ってたやたら胸のでかい女子がくっついてきた。


「井坂君ってかったーい!見た目と性格正反対だね~?」

「はははっ!!何警戒してんだよ!!彼女がいるとか関係ねーだろ!ただの友達じゃん!!この場を盛り上げるためのな!」

「そうだよー!彼女以外の女子と遊んだことないの?」

「モテるのにもったいないねぇ~。」


なんなんだ!?


俺はくっついてきた女子から更に距離を離すと、明らかに俺とは相容れない面子を見て頭が痛くなった。


「詩織ほったらかして遊ぶとか考えられねぇ。帰る。」


もう一秒だって同じ空気を吸うのが耐えられないと思って立ち上がると、横の女子と前から鹿島に引き留められた。


「まぁまぁ、今日一日だけじゃん?ちょっといつもよりハメ外すって感じで肩の力下ろせよ。」

「そうそう。井坂君、帰っちゃったら寂しいなぁ~。」


「どけよ。お前が礼したいっていうから来たんだぞ?こんなの話が違う。」

「礼の一貫じゃねぇかよ?きっと楽しいぜ?」

「楽しいわけねーだろ。礼したいっていうなら、そこどけ。」


俺は出口を塞ぐ鹿島に苛立ちながら、なるべく怒鳴らないように返す。

でも鹿島は帰らす気はないようで、笑顔を浮かべたまま俺の体を押し返してくる。


するとそれを黙って見てた赤井が急に立ち上がって言った。


「帰るか。井坂。」

「赤井!?お前までどうしたんだよ!!」


いつも女子に囲まれて喜んでる赤井までも帰ると言い出して、鹿島はさすがに笑顔を崩して驚いている。

俺も赤井らしくないなと思いながら、赤井に目を向けた。

赤井はくっついていたであろうモデルみたいな女子を引き離すと、俺の横までやって来た。


「鹿島。俺はともかく井坂はこういうノリはついていけないんだって。お前、井坂のことホントよく分かってねぇよ。」

「な、なんでだよ!?昔は普通に女子とも出かけてただろ!?」

「あのときとは置かれてる環境も違うだろ?井坂には彼女が一番なんだよ。」


俺は赤井に彼女一番だと言われて、少し照れくさくなった。

赤井には結構何でも相談していたが、こういう風に言われるとは思わなかった。

それだけに俺の一番の理解者は赤井かもしれないと、このとき初めて感じた。


「な、なんで…彼女が一番とか…。ぜってーお前のキャラじゃねぇよ!!」

「鹿島。お前と井坂は違うんだって。いい加減理解しろよ。」

「分かるわけねぇよ!!あんな彼女のどこがそんなにいいんだよ!!」


あんな彼女…?


俺は詩織が侮辱されたことが分かって、さすがに黙ってられなかった。


「おい、鹿島。お前、言っていいことと悪いことがあるだろ。人の彼女のこと、んな風に言ってみろ。今度はぶっ飛ばすからな。」


詩織の事に関しては沸点の低い俺を見て、鹿島がさすがに口を噤んだ。

でも目がまだ納得していない色を見せていて、俺はじっとその目を睨みつけた。


「ほら、分かっただろ?井坂は彼女にベタ惚れなんだって。もう、何かしようとしてくんな。」

「……ぜってーおかしい…。」


鹿島は赤井に宥められても自分の姿勢は曲げないようで、苦虫をすり潰したような顔を背けた。

それを見た赤井が俺の背を押しながら言った。


「そういうことだからさ。ま、お前一人なら、いつでもカラオケ付き合うぜ。じゃーな。」


俺は赤井に押されるままにカラオケボックスを出ると、赤井がポカンとしている女子に手を振ってから扉を閉めた。

そして赤井は俺に目を向けると大げさにため息をついた。


「お前さー…。谷地さんのことになると、すぐケンカ腰になるクセどうにかしろよなー。」


俺は赤井に図星を突かれてムスッとして赤井から目を逸らした。

赤井は廊下を歩きながら続ける。


「まぁ、あんだけ言っとけば鹿島のやつももう突っかかってこねぇだろ。安心して谷地さんとこ行って来いよ。」


俺は平然と詩織のところに行けという赤井に目を剥いた。


「な、何で…詩織のとこに…?」

「あれ?違った?ケータイ見て、ずっとニヤニヤしてたじゃねーか。てっきりカラオケの後に会いに行くんだと思ってたけど。」


見事に見透かされていたことに、俺は返す言葉もなく俯いた。

これは恥ずかしすぎる…

赤井のことだから、ケータイ片手にニヤニヤする俺を見てほくそ笑んでいたに違いない。

いつか絶対からかわれるに決まってる。


俺は理解者もここまでくると、厄介だな…と熱くなる頬を手で隠した。


「俺に気を使ってんなら構ねーよ?お前の谷地さん贔屓は今に始まったことでもねーし。」

「……わ、分かった…。行ってくる…。」


俺はからかわれる前に行ってしまおうと、足を速めて振り返った。


「今日はありがとな。赤井!」


俺が照れ臭さからぎこちない笑顔で告げると、赤井は満面の笑顔で「おう!」と手を挙げて拳を作った。

俺はそれに拳を向けて応えると、詩織に会うため出口に向かって走ったのだった。








三人の大体の身長は赤井、188cm。井坂、184cm。鹿島、180cmです。

皆、高身長の設定です。ちなみに詩織は169cmです。

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