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理系女子の恋  作者: 流音
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88、くっつく


井坂君と仲直りした後行った打ち上げで、井坂君の中学?の同級生っぽい人となにやら揉めてしまって、井坂君は私の手を引っ張ったままファミレスを飛び出した。


雰囲気から怒ってるようで、私は黙って歩き続ける井坂君の背中を見つめる。


今日は喜怒哀楽が激しいなぁ…


私は自分が泣かせてしまったことを思い出して、なんとなく井坂君の腕を抱え込んでくっついた。

すると井坂君が驚いたのか体をビクつかせて、私に振り返ってきた。

私はそんな井坂君の顔を見ながらふっと微笑む。


「今日は忙しい日だよね。」

「…え…?」

「だって、井坂君笑ったり泣いたり怒ったり…コロコロ態度が変わるから。」

「………それは…。」


井坂君が気まずそうに私から目を逸らすと、少し赤くなって俯いてしまった。

私は井坂君が柔らかい表情になったのを見て、少しは気が紛れたかなとくっつくのをやめて離れた。

まだ学校の傍なので誰かに見られたら困るかな…と思っての行動だったのだけど、井坂君がガシッと腕を掴んできて目を見張った。


「…何で…離れんの…?」

「え…。だ、だって…誰かに見られたら…困らない?井坂君もそれで距離空けてたでしょ?」


私が訊くと井坂君は一度口を開きかけてから何か言い迷ってまた俯いてしまった。


何…考えてるんだろう…?


私が井坂君の思ってることが分からなくてじっと俯く井坂君を観察していると、井坂君の顔がみるみる赤く染まって、それから井坂君が小声で何かを呟いた。


「…いい……。」

「…???」

「……それは…もういい…。」

「…??もういいってどういうこと?」


私が井坂君の顔を覗き込むと、井坂君が顔を上げて熱をもった目で私を射抜いてきた。

その目にドキッとする。


「くっついてていいから…。もう他の色んな事、考えんのやめた。」

「…え…。じゃあ…学校でも普通にベッタリしててもいいの?」

「いいよ。っていうか、俺がそうしたい。四六時中詩織とベタベタしたいから、詩織も遠慮すんな。」


私は四六時中と言われて照れて顔が赤くなる。

でもここまで言われて離れる理由はないので、おずおずと井坂君の腕にひっついた。

すると井坂君が咳払いしたあとに言った。


「やべ……ニヤける…。」

「ニヤける…?って何で?」

「そ、そんなん決まってるだろ?彼女にくっつかれて嬉しくねー男なんていねーよ。」


そうなんだ…


私は自分がしたかった事が井坂君を喜ばせてると分かって、こっちまで嬉しくなった。

自然と笑い声が漏れそうになるのを口を噤んで堪える。

でも頬は持ち上がりっぱなしで、かなり気持ち悪い顔をしてると思う。


ちらっと見上げた井坂君の横顔も心なしか緩んでいるように見えて、私は二人してニヤけて歩いてるなんておかしいなと思ってギュッと手に力を入れたのだった。





***





その日からというもの、私と井坂君は学校でも所構わずくっついたりするようになった。

基本井坂君からだけど、私も負けじと移動教室のときなどにくっつくようにする。

まぁ、慣れてないから少し不自然になったりすることもあるけど…


井坂君は私が遠慮がちにくっつく度、照れてるのかいつも口をもごもごと動かす。

そしてその後に少しだけ口の端を持ち上げる。

その表情は喜んでいるものなんだと、井坂君にくっつくようになってから分かった。


なんか可愛い…


こんな井坂君を知ってるのは私だけだろうな…と思うと、自然と顔が緩む。

でも、私はニヤける顔を周囲に晒さないようにキュッと頬に力を入れて堪えた。




そんなニヤけるほど幸せな毎日を送っていると、とうとう藤浪先生に勘付かれたのか問い詰められた。


「お前ら、文化祭のときは違うって言ってたわりには、最近よく一緒にいないか?」


授業を終えた休み時間に藤浪先生が私と井坂君の所にやって来て、首を傾げて尋ねてきた。

井坂君は少し考えたあと、ちらっと私を見てから言った。


「あの後付き合い始めたんですよ。言ってましたよね?好きな奴がいるって。」

「あぁ!!あれ!!谷地のことだったのか!!」

「そういうことですよ。告ったらOKもらえたんで、今は幸せ絶頂期なんです。」

「おお~!!!いいな!!なんかいいな!!俺も聞いてただけに嬉しいよ!!そうか、そうか!!」


井坂君のでっち上げた嘘にあっさり騙されて、藤浪先生は嬉しそうに笑いながら井坂君の肩を叩いた。

私は付き合ってるのは本当なので経緯はどうあれ別にいいか…と思って、上機嫌な藤浪先生を見つめた。


「谷地も良かったな!でも、この間注意したことは守るんだぞ?奥園先生に絡まれたくないからな!!」


藤浪先生がガハガハと大げさに笑い出して、井坂君が「分かってますよ。」と言って微笑んだ。

藤浪先生はそれに満足したのか、「それならいい。」と言って教室を出ていった。


「藤ちゃんはホント憎めないよな~…。あんなアッサリ信じるなんてさ。」

「……そうだね。でもちょっと心苦しいっていうか…。」

「気にすることねーって。悪い事してるわけでもねぇんだし。」

「…うん。」


私はケロッとしている井坂君を見て、それもそうかと自分を納得させた。



そうして藤浪先生にも打ち明けたことで、私も井坂君も気にしてた要素がなくなったことに解放された。

その反動かは分からないけど、くっつく頻度が知らず知らずの間に増えて、学校の名物カップルとして定着し始めた。


それを感じるようになった頃から、私はあまり女子に絡まれることが少なくなった。

きっとバックに井坂君がいるので、彼女たちも大げさな事はできないのかもしれない。


あとは、一組の榊原さんたち井坂君ファンのメンバーはクラスに顔を出すことがなくなった。

もしかしたら諦めてくれたのかもしれないが、井坂君が騒がれることも少なくなったので、私としては嬉しい変化だった。


こんなに穏やかな学校生活が送れるなら、最初から両親に打ち明けてイチャついておけば良かったと思った。

だって今は毎日井坂君を独り占めできてる気分で、学校に来るのが毎日すごく楽しい。



だから私はまだ家に帰る気分にならず、放課後に井坂君と教室に残って幸せな時間を噛みしめていた。

隣では井坂君が窓の外に目を向けながら、これからくる体育祭に向けての話をしている。


「赤井は今年も優勝狙ってるみたいだけどさ、ぶっちゃけ文化祭と違って体育祭で優勝するのは難しいよなぁ…。」

「そうだね。私たちのクラスだけでどうにかできるものじゃないもんね。」

「そこなんだよな~…。今年はどこのクラスと同じ色になるんだろうな?」

「三年生のクラスが多いと有利になるんじゃないかな?去年の棒倒しとか見てそう思ったから。」

「あー…あれなー。」


井坂君は棒倒しで何かを思い出したのかふっと表情を崩すと、何やら嬉しそうに言った。


「あんとき俺、意識失ったじゃん?」

「あ、棒倒しの時?」

「うん。あのときさ、目が覚めたら一番に詩織の顔が見えて…、詩織が俺の事心配してくれたってのが伝わってきて…、なんかすっげー嬉しかったんだよな…。」

「…そうなの?…全然そうは見えなかったけど…。」


私は気が付くなり勝ったかどうかを聞いてきた彼を知ってるだけに、信じられなかった。

井坂君はヘラッと笑いながら、頬を少し赤く染めた。


「そうだったんだよ。だから詩織が傍にいたことで、俺…ちょっと調子にのったっていうかさ…。俺と同じ気持ちなんじゃねぇかって思って…。去年の体育祭の帰りに告ろうと思ってた。」

「……??…ん?…え?」


私は初めて聞く話に目をパチクリさせた。

井坂君は照れ臭そうにしながらも、頭を掻きながら続ける。


「でもさ、詩織…。佐伯との約束優先しただろ?」

「あ…、あのとき!?」


私は井坂君に「行くなよ。」と言われたときのことだと思い出した。

あのときは自分に自信がなかったのもあって、井坂君の気持ちを見て見ぬふりをしていた。

勘違いだって思い込もうとしてた…

でも、あれは勘違いじゃなかったってことか!!

私は照れてる井坂君を見て、開いた口が塞がらなかった。


「俺さ…あそこで一回心折れたんだよなぁ…。すっげー勇気出して引き留めたのに、あっさり佐伯のとこ行かれてさ…。こんなに好きなのに何でだって腹が立った。」


私は一年越しに聞く井坂君の本心に心苦しい。

あのときそんな風に想われてたなんて知らなかった。

知ってたら佐伯君の所には行かなかったかもしれない…

私は返す言葉もなくて、口を噤んで俯いた。


「それと同時に…佐伯にとられたらどうしようって思ってた…。俺が心を折れたまんまにしなかったのは…そこかもな…。佐伯にとられたくなくて、カッコ悪くても情けなくても…詩織を手放すわけにはいかないと思って…、靴箱で待ち伏せしてたんだ。詩織が佐伯と来るのを。」

「え…。」


井坂君の言葉に待っててくれたわけじゃなくて、待ち伏せだったと知って驚いた。


「でもさ、詩織。佐伯と一緒に来なかっただろ?」

「う、うん。」

「俺、それに驚いたんだけどさ、それと同じくらい安心してさ…。詩織の隣にいられる方を選んじまって、告白はできなかったんだよなぁ…。」


「情けねぇだろ?」と言いながら笑う井坂君を見て、私はどう答えればいいのか分からず、とりあえず井坂君の袖を掴んだ。

井坂君の優しい笑顔がこっちを向く。


「わ…私はそのとき…、やっぱり井坂君の事が好きだって思ってた…。」

「え…今のどこで…?」


「わ、私のこと待っててくれたり…肩貸してくれたり…。すごく嬉しくて、でも勘違いしちゃいけないって思ってて…。」

「勘違い…?」

「うん。井坂君はクラスメイトだから優しいだけだって…、私の事を特別だと思って優しくしてくれてるわけないって…思おうとしてた…。」


私があのとき感じていた事を打ち明けると、井坂君が大きくため息をついた後に「んなわけねぇじゃん…」と呟いて項垂れてしまった。


「俺が誰にでもあんな事すると思う!?ただでさえ人の事待ったりするの嫌いなのにさ、詩織好きになってから何回待ち伏せしたか…。」

「え…。」


井坂君から飛び出した言葉に固まっていると、井坂君が自分の失言に気づいたのか目を見開いたあと口を噤んで思いっきり顔を背けてしまった。

顔は見えなくなってしまったけど、耳が赤くなってるのに気付いて、私はちょっとした悪戯心が顔を出した。


「井坂君。待ち伏せって…いつの話?教えて欲しいなぁ?」

「いっ…言わねぇ!!ぜってー言わねぇ!!」


井坂君は私に完全に背を向けてしまって、頑として言わない姿勢になってしまった。


焦ってる背中がすごく可愛い…


私はその背中をギュッとしたくなったが、我慢すると井坂君に声をかけた。


「井坂君。教えてくれたら…何でもいう事きくよ?」


私が出した条件に井坂君がゆっくり振り返ってきて「何でも?」と聞くので、私は笑顔で頷いた。

単純すぎる姿に吹きだしそうだったけど、笑顔の裏に押し隠す。

井坂君は少し考えたあと、私に向き直ると口をもごもごさせながら言った。


「…さ、最初は…詩織と初めて話した日の次の日…。俺、一方的な事言って傷つけたのを謝りたくて、ベランダで詩織がゴミ捨てから帰ってくるのを待ってた…。」

「あ、あの日…。」


私は井坂君と友達になったときの事を思い出した。

あのときがなかったら、今の私はきっといない。


「後は…一年の一学期の期末テスト週間に図書室で毎日詩織を待ってた…。一回会ったっきり会わなくなって、かなり凹んだけど…。」

「あー…。」


私は山地さんと揉めてたときの事を思い出した。

そういえばそんな事を言ってた気がする。


「他にも夏祭りとか、詩織が山地に絡まれてるって聞いたときとか…夏休みに西門君と出かけるって言ってた日とか…花火大会なんか楽しみ過ぎて、一時間も早く行ったりして…。」

「え…えぇ!?」


私は自分の知らないことまで飛び出して、驚いて目を白黒させた。


西門君と出かけた日は偶然じゃなかったの!?

それに花火大会…一時間って…!!


「あ、でも一番待たされたのはメールかな…。アドレス教えたのに一向にメールこねーし…毎日、毎日ケータイと睨めっこしてた…。あんとき程詩織に苛立ったことはねーかな…。」

「え!?あっと…そのごめん…。」


私は一年越しに再度謝りながら、ふと違和感が過った。

今の話を聞いてると、井坂君と付き合う前の出来事は全部彼のアプローチによるものだと気づいた。

自分からは一向に動いてない気がして私の方が情けないのでは…と胸がズーンと重くなる。


「こうやって思い返すと、俺詩織の事待ってばっかだな…。必死だったなー、あのときは。」

「い、井坂君!!」


私は井坂君にたくさんのお返しをしたくなって、自然と声が大きくなった。

井坂君は自嘲気味に笑ってた顔を私に向けると「ん?」と首を傾げている。

その可愛い姿に胸が打たれたが、熱を持ち始める顔のままで言った。


「私にしてほしい事は!?何でもするよ!!」

「あー…条件な。そうだな…。」


私は何を要望されるのかと心臓がドキドキしてくる。

井坂君は少し照れると、頭を掻きながら言った。


「俺の頭抱えてギュッとするやつやってくんねぇ?」

「……そんなことでいいの?」


私はてっきりキスでもお願いされるかと思っていたので、拍子抜けしてしまった。


「うん。俺、アレ好きなんだよな…。詩織の心臓の音聞こえるし…好かれてるって実感する。」


井坂君の照れた表情、仕草にキュンとしてしまって、私は衝動のままに手を伸ばすと、井坂君の頭を抱えてギュッと抱きしめた。


好き…大好き…


自分の気持ちが少しでも伝わるように腕に力を入れて、井坂君の頭に自分の頭をのせると、井坂君が笑いながら言った。


「詩織の心臓早いな。」


そんなことを言われると心臓の動きを意識してしまう。

平常心と心がけるけど、心臓は収まるどころか更に早くなった気がする。


「あ、なんか早くなった。ははっ!」

「い、言わないでよ…。」


私が恥ずかしくて懇願すると、井坂君が私の腰に腕を回してきた。

そして力を入れてくるので、体が井坂君と密着してしまう。

それに緊張して体まで熱くなってきたら、笑っていた井坂君がふっと息を吐いて言った。


「そういうとこ可愛いよなぁ…。」


~~~~~っ!!!!


可愛いのは井坂君だよ!!と言い返したくなったけど、こんな甘い時間を手放したくなくて、井坂君の存在を確認するように目を閉じたのだった。







今回はラブラブな話でしたが、次から少し周りを巻き込んでの体育祭編へ入っていきます。

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