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理系女子の恋  作者: 流音
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寄り道:文化祭打ち上げにて

詩織の親友:八牧貴音視点です。


私の高校でできた親友ははっきり言ってバカップルになりつつある。

というのも、人に彼氏の写真を消すために走り回らせておいて、当の本人は公衆の面前でキスするという暴挙に出たからだ。


あのときは苛立って一回叩いてやろうかと思った。

でもまぁ、彼女も彼氏に振り回されてるだけのようだったので、心の広い私は許すことにした。


その親友であるしおりんはというと、今私の斜め前のテーブルで彼氏である井坂君と向かい合って何やら笑って話をしている。

ここに来る前は何かハプニングがあったようだが、このファミレスに顔を見せたときにはいつも通りに戻っていた。

心なしか井坂君の目元が赤いような気もしたけど、まぁ突っ込むのは野暮だというものなので、私は見て見ぬふりをした。


そうして幸せそうなしおりんをじっと観察していると、私と同じように二人のいるテーブルを見つめる人物に気が付いた。


「おい、何ぼーっとしてんだよ!!こっちが自虐ネタ披露してるってのに!!」

「あ、悪い。今日は走り回ったせいで疲れてさ。」

「ったく。今度はしっかり見とけよ!!」

「はいはい。」


私の通路を挟んで隣のテーブルにいる赤井君がよく分からない自虐ネタを披露し始めて、しおりんたちを見つめていた島田君が苦笑してからまた二人に目を戻した。


島田君の目はまっすぐ嬉しそうに笑ってるしおりんに注がれている。


それを見ても分かるように、私は島田君の気持ちにずっと前から気づいていた。


不毛な片思いだよねぇ…


私は彼の分かりやす過ぎる態度に大きくため息をついた。



私が島田君の気持ちに気づいたのは一年の頃、まだしおりんが井坂君と付き合う前だ。

何だかしおりんと井坂君の仲がギクシャクしてる時期があって、そのときに島田君がしおりんをベランダに連れ込むのを目撃した。

ベランダで何をしてたのかは知らないけど、出てきたときの島田君の赤く染まった顔を見て分かってしまったのだ。


島田君はしおりんが好きなんだと…


そして彼がすごく男前なことも知っている。

彼は自分の気持ちを決して表に出さず、密かに二人を見守り続けている。

二人の間にふとした瞬間にすれ違いが生じればフォローしたり、事あるごとに協力したり…

しおりんの幸せを願ってなのだろうその献身的な行動に、私はときに感動してしまう。


そこまで彼を突き動かすほど恋愛っていうのは良いものなのだろうか?


私は自分が恋愛をしたことがないだけに、理解不能だった。

いつか私にも分かるときがくるのだろうか?


私はテーブルにあるジュースを片手に騒ぐクラスメイトを見回して、自分の心を動かす人はいないのかと思った。

でもまったく心の動きに変化はなく、ふぅと息をついてからジュースをズズ…と飲んだ。


まだまだ先かな…


私はジュースを飲み終えると諦めるように背もたれに背を預けた。

そのとき私たちと同じ制服に身を包んだ高校生が集団で入ってきて、雰囲気から普通クラスの人たちだと分かった。


彼らは私たちに気づくと、ある男子の集団が赤井君たちのテーブルにやってきた。


「おう!赤井!!」

「鹿島。なんだお前らも打ち上げか?」

「そうだよ。俺らの場合、残念会みたいなもんだけど。…つーかお前、ミスタコン二位とかやるじゃん?彼女できてから調子のってんじゃねーの?」

「うっせ。お前ただのひがみだろ?彼女とはまた別れたのか?」

「お前のいう彼女ってのと、俺のとはちげーんだよ。ほっとけ。」


鹿島と呼ばれたことで、私は中学時代に同じクラスになったことがあるかも…とその男子を見つめて思った。

彼は赤井君と同じように軽い印象の男子で、髪を明るい茶色に染めていて耳に赤いピアスが光っていた。

目つきは井坂君に似た少し細めの目に、なんだか悪そうな光が宿ってる気がする。


そんな雰囲気から私の嫌いな人種のやつだと視線を逸らした。

でも会話だけが耳に入ってくる。


「お前らのクラスってなんか団結力つえーよなぁ~…。見た感じクラス全員打ち上げ来てるんじゃねぇの?」

「ははっ!羨ましいか!!なんてったって、もう一年半同じクラスで切磋琢磨してきた仲間だしな!!」

「そっか、理系はクラス替えないんだもんな。なんか同じ顔ばっかで退屈しそー。」


なんかケンカ売られてない…?


私は不穏な空気を感じ取って、ちらっと横目で話している鹿島君と赤井君を見た。

そのとき鹿島君の友達であろう男子が三人、それぞれに島田君や北野君にガンを飛ばしてるのが見えて驚いた。

赤井君だけは笑っているけど、一触即発な雰囲気に大丈夫なのかと心配になる。


「そんなことねぇよ。面白い奴ばっかで飽きねぇよ?一年半経っても知らない事ばっかりだ!」

「へぇ?頭でっかちなやつばっかだろうし、俺にはぜってー無理だわ。」

「お前にはそうかもなー!でも、皆勉強熱心ってだけで普通だし、何もお前らとは変わらねーよ?」

「どうだか。お前や井坂はぜってー異色だよ。理系とか似合わねーし。中学のときは俺らとバカやってたじゃん?」


ここで赤井君や井坂君と同じバスケ部にいたクラスメイトだと思い出した。

確か名前が鹿島勇一君。

井坂君や赤井君と仲が良くて、彼らと同じように女子にモテてたイメージがある。

確か下品なことを口走ってた空気の読めないおちゃらけた奴だ。

キレたら手をつけられない一面があったような気も…

私は嫌な事まで思い出してしまって、顔をキュッとしかめた。


「いつまでもバカやってられねーだろ?俺や井坂は将来のことをしっかり考えてただけだよ。」

「急に真面目ぶりやがって…。やっぱり変わったよ。お前ら。」

「そうか?俺のスタンスは昔っから変わってねぇんだけどなぁ~。」


赤井君がどんな嫌味にもサラッと笑って躱してしまうので、鹿島君は相手にするのもバカらしくなったのか視線を隣のテーブルに向けて井坂君に話しかけた。


「おい、井坂。お前も変わったよなぁ?あんだけ女子に人気あって、あの山地からも言い寄られてたんだろ?それなのに選んだ相手がそんな真面目そうな女子ってどうなの?理系クラスに毒され過ぎじゃね?」


あ…ヤバい…


私はなぜか直感でそう思ってしまった。

でもそう感じたのは私だけではないようで、赤井君や島田君も顔を引きつらせて鹿島君を見つめている。

井坂君の姿は鹿島君に隠れて見えないが、しおりんの何も分かってなさそうな顔だけが浮いて見えるぐらい、空気に緊張感が走る。


井坂君はどうやら立ち上がったようで、鹿島君がこっちに一歩下がってきた。

井坂君の方が鹿島君より少し背が高くて、ちらっと表情が見える。

その表情が険しく歪んでいて、私の直感は当たってたことが分かった。


「鹿島。お前、何様だよ?さっきから人の事に口出してきて、お前はそんなに偉いわけ?」

「偉いとかじゃねぇんだよ。俺はお前らが道を誤ったんじゃねぇかと思って、軌道修正してやろうと思ってんだよ。」

「そんなもん不要だよ。誤ったつもりもねぇし、現状に満足してる。てめーの心配はいらねぇ。」


井坂君の声がいつもの声より1トーン低い気がして、ただならぬ雰囲気を感じ取った。

鹿島君はそれに気づいていないのかまったく引く様子がない。


「本当にそうなのか?俺がお前の立場だったら、彼女一人に縛られねぇで遊ぶけどな?お前は自分の活用法を間違ってるよ。」


これには井坂君も我慢の限界だったのか鹿島君を思いっきり蹴とばしてきて、鹿島君が私の座ってるテーブルに突っ込んできて目を見張った。

ガタタッと激しい音がしてテーブルが少し歪んで、鹿島君が体を起こしながら舌打ちした。

それを見て、同じテーブルに座ってたゆずや茜が、私と同じように驚いて口をぽかんと開けている。


「てめぇの考えは兄貴みたいで反吐が出る。帰るぞ。詩織。」

「えっ?帰るって…え?えぇ!?」


井坂君はそう吐き捨てると鞄を持って、しおりんの手を強引に引っ張って立たせた。

しおりんは目を白黒させながら、いつものおとぼけっぷりを発揮させている。

そして二人が手を繋いで歩き出したのを見て、鹿島君が慌てて近くにいたしおりんの肩を掴んで引き留めた。


「待てって!!何でそんなに怒んだよ!」


しおりんが肩を掴まれたことに驚いて、足を止めてどうしようか困っている。

井坂君はそれに気づくと、しおりんの手をグイッと引っ張って自分に引き寄せるとまた鹿島君を蹴とばした。

鹿島君は蹴られて倒れそうになった所を友達に支えられている。


「詩織に触んな。」


井坂君は鹿島君を一睨みしてそう告げると、あっという間にしおりんの手を引いてファミレスを出ていってしまった。

横でゆずが「カッコいい…。」と呟いたのが聞こえる。

鹿島君はというと井坂君の態度に困惑しているのか、赤井君を見て表情で何かを伝えようとしているようだった。

それを見た赤井君が同情するような目で鹿島君を見て、口を開いた。


「今のはお前が悪いよ。」

「は!?今のどこが!?」

「谷地さん…井坂の彼女に手を出したらあぁなるって。なぁ?」


赤井君が周りの私たちに同意を求めてきたので、皆素直に頷いた。

ぴったりと同調する私たちが気持ち悪かったのか、鹿島君は更に不機嫌そうに顔を歪めた。


「意味分かんねぇ!!手を出すって、肩掴んで引き留めただけじゃん!?」

「お前は井坂のベタ惚れっぷりを知らねぇからんなことができんだよ。」

「は!?ベタ惚れって…!?そこまで仲良くねぇって聞いてたけど!?」

「分かってねぇなぁ~…。今まで誰に言い寄られようとも彼女を作らなかった井坂が、彼女を作った時点で気づくだろ?どんだけ彼女にマジなのか。」

「はぁぁ!?ぜっんぜん噂と違うじゃん!!クラスぐるみで隠してるってことか!?」

「いや~…そういうわけでもねぇんだけどなぁ~…。」


赤井君がジュースを飲みながら笑っていて、鹿島君は苛立ちながら「意味分からねぇ!!」と悔しそうにしている。


私は歪んだテーブルを直しながら、早く帰ればいいのにとじとっと鹿島君の集団を見つめた。

鹿島君は頭を掻きむしると、どうにも納得いかないようで赤井君の座るテーブルに割り込んで腰を落ち着けてしまった。


「井坂が彼女と公開キスしたって噂あったじゃん?あれはマジなわけ?」

「あー…どうなんだろうな?俺も詳しくは知らねぇよ。」

「なんだそれ!!お前、ずっと井坂とつるんでるくせに!!」

「お前だってあいつの性格知ってるだろ?あいつは基本ムッツリなんだから、そんな話俺にするわけねぇよ。」

「…それもそうか。」


鹿島君はそこで落ち着いたようで声のトーンが落ちた。

私は聞こえてくる井坂君の情報にこれは聞いてもいい話なんだろうかと顔をしかめた。

聞かないでいようと思っても席が近すぎて、自然に耳に入ってきてしまう。


「井坂はぜってー俺と同じ人種だと思ってたんだけどな…。」

「それはお前の思い込みだよ。俺だって井坂は俺と同じ人種だと思ってたさ。」

「は?お前と?それこそ思い込みだろ!お前と井坂じゃ陰と陽じゃん!!お前は基本誰でも仲良くなる太陽みたいな奴だけど、井坂は寄ってくる奴以外は興味ないって感じで陰があるじゃん!!」

「っぶ!!なんだそれ!!俺が太陽で井坂が陰とかウケる!!」


赤井君は鹿島君の例えに大笑いしていたけど、私は意外にもぴったりと合ってるかもと思った。

赤井君は太陽で井坂君は影。

井坂君一人だったら話しかけにくいけど、赤井君が横にいれば途端に場が明るくなって話しかけやすくなる。

私は中学での彼らを知ってるだけに、鹿島君の言ってることは理解できる。


「どう見たってそうだろ!だから井坂があんな地味そうな女子と付き合うとか意味分かんねぇって!!お前の彼女みたいなタイプならまだしも、あんなあいつと正反対な女子、井坂だったら絶対興味持たなそうなタイプじゃん!!」

「おっまえ、分かってねぇな~。分かってねぇよ。」


鹿島君の言い分を赤井君はケラケラと笑い飛ばした。

当の鹿島君はイライラしながら赤井君を睨みつけている。

すると、今まで黙って様子を見ていた島田君が急にテーブルを叩いて注目を集めた。


「地味だとか…正反対だとか…好き勝手言うのはいいけどさ。あいつの態度見たら分かるだろ!?どんだけあいつが谷地さんの事が好きなのか。もうその辺で終わりにしろよ。聞いてるこっちがムカついてくる。」

「あ?お前何なんだよ。俺は井坂の事をよっく知ってんだよ!!それも中学の頃からな!!お前にとやかく言われる筋合いはねぇ。」

「知らねぇから今の井坂を理解できねーんだろ。頭おかしいんじゃねぇの?」

「何だと!?ちょっと頭が良いからって上からでもの言うんじゃねぇよっ!!」


鹿島君がバンッとテーブルを叩いて立ち上がって、島田君と睨みあって不穏な空気が巻き起こった。

私たち女子は息をのんで現状を見守るしかできず、そこへ更に追い討ちをかけるように北野君が立ちあがって島田君の肩を叩いた。


「頭が良いとかじゃねぇんだよ。昔の友情振りかざして井坂の事貶すお前が、今の友達として許せねーだけ。普通クラスのおバカさんはそんな事も分からねぇのかな~?」

「は!?てめぇ、ケンカ売ってんのか!!」


北野君が参戦したことで鹿島君の友達の一人が北野君に詰め寄った。


なんかヤバい…これはヤバい…


私はゆずや茜と顔を見合わせながら、どうすればいいのやら困り果てた。


「まぁまぁ、お前ら落ち着けよ。鹿島だって悪気があって言ってるわけじゃねぇだろ?」

「どうだか。わざわざ俺らのテーブルに来て話しかけたことで、下心は見え見えだったけど?お前ら、俺らに嫉妬してからんできたんだろ?」

「あぁ!?んなわけねーだろ!!調子のってんなよ!!」

「おい!!やめろって!北野!!お前、その口の悪さどうにかしろ!!」


北野君は止める赤井君を見て、ふっと息を吐いてから腰を下ろした。

そこで少し収まるかと思いきや、今度は島田君が口を開く。


「北野の言う通りだよ。こいつら羨ましいだけなんだって。赤井や井坂のことが。だから、今になって声かけてきて、ちょっとでも自分の側に引き込もうとしてんだよ。カッコ悪いったらねぇよな。」

「島田!!お前もやめろって!!」

「てめぇら…マジで嫌味な野郎だな!!ぶっとばしてやる!!」

「おう、やれるもんならやってみろよ。即退学だぞ。おめでとう。これでお前らと顔を合わす事もなくなるし、こっちは万々歳だよ。」

「―――――っ!!!!」


また北野君が悪態をついて、腕を振り上げかけた鹿島君が動きを止める。

背中から怒気が迸っていて、私はゴクリと生唾を飲み込んだ。

散々宥めていた赤井君ももう術がないのか、北野君と島田君を叩いたあと鹿島君を見て顔を強張らせている。


すると動きを止めていた鹿島君がテーブルをガンッと蹴とばすと、ドスのきいた声で言った。


「ムナクソわりぃ!!お前ら覚えてろよ。このケリは必ず返してやるからな。」

「おーおー、勝手に返しにこいよー!!」

「北野!!」


ケリってなんだ?そこは借りじゃないのか…?


私は鹿島君の悪役の捨て台詞に思わず心の中で突っ込んだ。

その鹿島君は北野君を一睨みしたあと、「行くぞ。」と言って友達とつるんでファミレスを出ていった。

それを見て私たち女子は安心感から大きく息を吐いた。


寿命が縮まった気分…


私はドラマか何かの場面に遭遇した気持ちで、気疲れからテーブルに突っ伏した。

でもケンカをしていた北野君や島田君は屁でもないようで、「逃げやがった。」と言いながら笑っていて、私はよそでやってよ!!と言いたくなり隣のテーブルを睨みつけたのだった。





初登場、鹿島勇一をよろしくお願いします。

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