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理系女子の恋  作者: 流音
88/246

85、距離間


文化祭最終日――――


私は結果発表まで時間があるとの事で、あゆちゃんたちと丸くなって集まりながら女子トークを繰り広げていた。

皆はどうやら昨日の公開告白の件をからかいたいようだった。


「詩織でもあんな大胆なことするんだねぇ~…。」

「それだけ仲違いしたままは嫌だってことだよね!」

「なんだかんだラブラブだよねぇ~。昨日、井坂ファンの号泣すごかったんだから。」

「あ、帰りに見たやつだよね!」

「そうそう。中庭ですごかったよねぇ。」


「そんなに…?」


私は井坂君といち早く帰っていたので、そんな号泣騒動は知らなかった。

あゆちゃんたちは身振り手振りを加えながら、楽しそうに話をしている。


「女子の固まりがいくつもできててさ、あれはただの噂だって思い込もうとしてる感じだったよね?」

「うん。見たのが一年生が多かったってのもあるかもしれないけど、うちらの年代の井坂ファンが嘘言うなって怒ってる所もあったよね。」

「そうそう。拓海君がそんな事をするわけない!!ってすっごい剣幕だったよね。」

「この騒動って今後どうなっていくんだろう?」

「さぁ?当の本人たち次第なんじゃない?」


あゆちゃんの言葉を最後に皆の視線が私に集まって、私はボケっと話を聞いていただけだったので姿勢を正した。


な、なに!?


「昨日、やっと両親に井坂を紹介したんでしょ?どう?認めてもらえた?」

「あ、そのことか…。うん。大丈夫。なんとか切り抜けたよ。」


私は何を言われるのか身構えていただけに、案外普通のことにホッとした。

すると何かを期待していたのか、あゆちゃんたちがため息をついてがっかりするのが伝わってきた。


「なんだ。上手くやっちゃったんだ。」

「井坂の事だから、チャらいって一蹴されると思ってた。」

「え!?そんなことないよ!!」

「修羅場期待してたのにー!」

「修羅場!?そんなこと思ってたの!?」


私はどう見ても面白がっている皆を見て、顔が引きつった。


「だって、詩織の話からすっごく頭のかったーい両親なんだってイメージがついちゃってさ。井坂なんて門前払いだと思ってたのよ。」

「そうそう。それなのにあっさり認められるなんて、普通の両親じゃん?」

「……そ、そうかな?」


私はなかなかに厄介な両親なんだけどな…と思ったけど、言ったら根掘り葉掘り聞かれそうだったので黙り込んだ。


「まぁ、これで学校でもイチャつくんでしょ?なるべく目に痛くならない程度にしてよね。」

「ホント、ホント。昨日はビックリし過ぎて、クラスにいたメンバー衝撃受けたんだから。」

「えー!!それ私見てなかった!!」

「私も!しおりん!!一体、何したの!?」


「えっと…内緒の方向でお願いします。」


私はこれ以上醜態を広めるわけにはいかなかったので、追及を躱そうと井坂君の所へ逃げる事にした。

逃げるように立ち上がって赤井君と話をしている井坂君の所に向かうと、後ろから「熱いんだから~!」と冷やかす声が聞こえた。


熱いとかじゃなくて…ただ皆から逃げたいだけだから…


私はそう思いながら、井坂君の傍へ駆け寄る。


「井坂君。もう文化祭終わるから、最後に一緒に回ろう?」

「詩織…。」


井坂君は赤井君と話すのをやめて私に目を向けると、少し顔をしかめてから首を振った。


「悪い。島田と約束あってさ。今日は回れないかも。小波たちと回って来いよ。」

「え…島田君と?何の約束?」

「……あー…何でもいいじゃん?行くぞ、赤井。」

「おい、井坂?」


井坂君は私と目を合わせないまま歯切れ悪く言うと、赤井君の背を叩いて教室から出て行ってしまった。

私はポツンと置いてけぼりにされてしまい、今までこんな事はなかっただけにショックを受けた。


ガーン…イチャつくまでいかなくても手繋いで回れると思ったのに…


私の背後から「フラれたー。」「珍しい~。」という冷やかす声が聞こえてくる。

私はそれを牽制するように振り返ってキッと睨むと、一人で教室を飛び出した。


あゆちゃんたちの所に戻るのが癪だったので、久しぶりにナナコに相手にしてもらおうと5組を目指して廊下を歩く。

その間も昨日の今日なので女子からの注目を浴びてしまい、口々に「一緒にいないけど。」とか「やっぱり噂じゃん。」と陰口をたたかれて気分が悪い。


また仲が悪いとか、別れるの秒読みとか思われたらどうするの?


私は井坂君に避けられたような気がして、ちょっと心配になる。

そうしている内に5組に着いて、発表を終えた5組メンバーが騒いでいるのが耳に入ってきた。

教室の入り口では瀬川君たち、目立つグループがたむろっていて、私はそれを横目に窓からナナコに声をかけた。


「ナナコー!」

「あ、谷地さん。」


私がナナコを呼ぶと、瀬川君が私に気づいたのか友達と話すのをやめて近寄ってきた。

私はナナコに手を振って合図してから瀬川君に向き合う。


「ミスタコン順調だね。瀬川君。」

「それを言うなら谷地さんの彼氏だろ?一位なんてすごいじゃん。」

「……望んでのことじゃないんだよ…。瀬川君に一位をとって欲しいよ。」

「あはは!!何それ!もっと自慢すればいいのに!!公開キスの話も聞いたよ。あれってマジの話?」


ギャッ!!男の子の耳にまで入ってるわけ!?


私は笑顔が強張りそうだったが、平静を装うと手を左右に振った。


「まさか~、ただの噂だって。そんな恥ずかしい事するわけないじゃん。」

「だよな?やっぱり噂だってさ!!」


瀬川君が友達に向かって大声で言って、それが廊下を歩いていた人の耳にも入る。

何だか安心しながら通り過ぎて行く生徒がいる気がする…。


「しお、お待たせ!!って瀬川君、しおにまた絡んでんの?」

「その言い方はきつくねぇ?俺ら懐かしの幼馴染メイツじゃん!!」


幼馴染メイツ…いつからそんなことに…


私はキラキラ笑顔で笑っている瀬川君をじとっと見つめた。

ナナコはげんなりした様子で手をシッシと振っている。


「最近全然話もしてなかったのに、高校になって急に絡んでくるよね。どういう心境の変化なんだか。」

「だってさ、中学のときはなんか…その…色々あったじゃん!!気軽に話しかけられる雰囲気でもなかったんだって!!」


瀬川君がちらっと私を見ながら話すのを見て、色々というのが私の痛い初恋の事を指してるのが分かった。

それだけに私は口を挟めない。


「どうだか。瀬川君だけじゃん。私たちから離れたの。私もしおも西門君も昔から距離は変わってませんから。」

「そ…そんな言い方しなくたってさー…。ナナはまだ俺のこと許してくれないわけ?」

「許すも許さないも、あのことなかった事にしろって方がどうかしてる!!行くよ!しお!」

「えっ!?ナナコ!?」


私は二人だけの間にあるわだかまりが一瞬見えた気がしたけど、腕を引っ張られてその場を離れたのでよく分からなくなった。

ナナコは瀬川君に対して何か怒ってる。

過去に許せない何かがあったように見えた。


ナナコのこと一番よく知ってるのは私だと思ってたけど、そうじゃないのかもしれない…


私はナナコが遠くなるようで少し寂しかったのだった。



ナナコはステージの撤収作業で賑わう中庭までやって来ると、自販機の横のベンチに腰かけた。


「それで?しおは私に何の用だったの?」

「あ、うん。用は特にないんだけど、最近話してなかったなーと思ってさ。」


私はさっきの事は気にしない事にすると、ナナコの隣に座った。

そして整った顔立ちのナナコの顔を見て、白い肌に自然と目がいく。

肌がすごくつやつやしてる…同い年だよね…?

ストレートの黒髪も風になびいていて、本当に綺麗だ。

彼女は隠れ美人だと思う。


「ふふっ…もしかして井坂君と何かあったとか?」

「え!?何で!?」

「だって、すごい噂になってるよ。公開キスしてたって。」

「ナナコの耳にまで入ってるんだ…。」

「私の情報網は早いよ~。で?あれは本当なの?」


ナナコが興味津々に私に身を寄せてきて、私はナナコにだけは本当の事を言う事にした。


「実は…事実なんだよね…。あ、でも噂だってことにしておいてね。先生にはそうやって誤魔化したから。」

「うっわぁ~…。しお、やるねぇ…。中学のときじゃ考えられない。先生にお呼び出しまでされたんだ?」

「うん。担任の藤浪先生だから誤魔化せたって感じで…バレたら自宅謹慎になるかもって…。」

「キスだけで!?そんなの普通科の連中みんなあっちこっちでやってるじゃん!?」

「う…そうなんだけど…。進学クラスってのがよくないみたい…。生活指導の奥園先生がお冠だったみたいで…。」


私は片付けの進む中庭を見て、視界の端っこにイチャつく普通科生徒カップルを見つけてしまった。

人目もはばからず普通に肩を組んでイチャついている。

見てるこっちが恥ずかしくなってきそうだ。


「あー…ゾノかぁ…。あの先生、34らしいんだけどさ。今まで彼氏いたことないみたいだよ。」

「え!?34年間もってこと!?」

「そ。誰がそれを突き止めたのかは知らないけど、あの性格だもん。納得っていうか。しおより経験ないって事だよ?面白くない?」


面白くない?ってナナコの顔、なんかすごい楽しんでる。


「だから、しおと井坂君のことも目の敵っていうかさ、単に羨ましくて嫉妬してるんじゃない?」

「先生が生徒に?ってこと?」

「そうそう。そう思ったら笑えるよね~…。」


ナナコがケラケラと楽しそうに笑い出して、私は上手く笑えなかった。

奥園先生の心情を考えると、生徒にこんな事を言われるなんてかなりの屈辱だろう…

なんだか同情してしまった。


すると視界にさっきのカップルがキスしてるのが目に入ってきて、驚いて思いっきり目を逸らした。

ひゃーーー!!

自分がしといてなんだけど、こうやって他人のキスシーンを目撃するのって気分良くないなぁ…

私は俯いて汗をかいた。


すると私の様子に気づいたナナコが私を覗き込んできた。


「何初々しい反応してんの?ああいうシーンなんて日常の一部みたいなもんじゃん。実際やった人間のクセに~…。」

「だ、だって…やるのと見るのでは違うっていうか…。」

「やるだって!!しお!!やらしい事言わないでよ~!!」

「え!?やらしいとか!!だ、だって!!」

「しおも大人になったなぁ~!ぶっちゃけ井坂君とどこまでいってんの?教えなさいよ!!」

「どこまでとか…何もないし…。」

「嘘ばっかり!!白状しろーー!!」

「ホントに何もないってばーーー!!」


私はあゆちゃんたちからの追及から逃れようとここまで来たはずなのに、ナナコからも同じように追及されて頭が痛くなった。

ナナコは話すまで逃がすつもりはないようで、腕を掴んで放してくれないし、私は結局観念してナナコに根掘り葉掘りすべて話すことになったのだった。


親友ってのは私の弱い所を知ってるだけに、あゆちゃんたちよりも厄介だというのが身に染みた瞬間だった。




***




そうして文化祭も終了の時間となり、もうすぐ結果発表のために体育館へ移動となるので私は教室へ帰ってきた。

そこにはクラスメイトはほとんど揃っていて、私は島田君と騒いでいる井坂君を見つけて、今度こそと思って話しかけた。


「井坂君。島田君たちとどこ行ってたの?」

「詩織。あぁ、うん。ちょっとな。」


ちょっと…??


井坂君は私が話しかけているにも関わらず、ずっと島田君の方を向いていてこっちを見ようともしない。

私は違和感を感じていたが、めげずに話しかける。


「あ、そうだ。奥園先生の話を仕入れてきたんだ。井坂君も気にしてたし、知りたいよね?あのね。」


私はナナコに聞いたことを伝えようと、井坂君の耳元に口を近づけてこっそり話そうとした。

すると、その瞬間井坂君が飛び上がるように私から離れてしまって、微妙な空間があいた。


私はポカンとしながら井坂君を見つめると、驚いた表情をしていた井坂君が笑顔を取り繕った。


「び、びっくりするだろ~詩織。急に顔近づけんなって。」

「ごめん…。」


私は謝りながら嫌な予感がした。


前にもこんな事があったような…

いや…あのときとはちょっと違うかな…?


私はあの修学旅行のときほど、あからさまに避けられたわけじゃないとは思うものの、どうしても同じに見えてしまって心臓がズクンと痛くなる。


ただの思い違いかも…


私は勇気を出して確かめようと手を伸ばして、井坂君の手に触れてみた。

そしてギュッと握りしめようとした瞬間に手を引き抜かれてしまって、私の予感が確信に変わった。


「し、詩織。こういうのはやめよう。な?また呼び出しされても困るだろ?」

「やめようって…。なんで…。」


私はまったく井坂君に触らせてもらえないことに、不満が溜まって顔をしかめた。

避けられたダメージが胸に蓄積していく。


井坂君は変わらず笑顔のままで後ろ頭を掻いている。


「だから、詩織のご両親に約束した手前…呼び出しされるわけには…。」

「手を繋いだだけで呼び出しなんかされないよ。」


私はギュッと手を握りしめて告げた。

触らせてくれない理由を井坂君はいっつも隠してしまう。

私はそれにイライラして口を引き結んだ。


お母さんに会ってもらったのは、呼び出されても平気になりたかったからだ。

両親の理解があれば、学校でもイチャつけると思った。

悪い事をしてるわけじゃない。

そう言ってたのは井坂君だ。


「私は………井坂君とこうなりたかったわけじゃない。」

「詩織…?」


井坂君がウチの両親との約束を守ろうとしてくれてるのは嬉しい

でも、ここまでの事は思ってなかったはずだ。

私は井坂君はこのままでいいのかと知りたくなった。


「井坂君は平気なの?」

「平気って…何が…?」

「……わ、私は近づかない方がいいの?」

「そんなわけ――」

「やめようって言った!!」


私は泣きそうになったけど、堪えてジッと井坂君を睨むように見た。


このまま触らせてもらえないのだろうか…?

付き合ってるはずなのに、避けられる彼女なんておかしいに決まってる。


井坂君は困ったような顔で私から目を逸らした。


それに苛立ちが募って、私はグッと奥歯を噛みしめると言った。


「分かった。学校では距離をおけばいいってことだよね。」

「詩織…そういう意味じゃなくて…。」

「どういう意味なの?私はどうすればいいの?」


私が尋ねると井坂君は何か考えているのか俯いてしまった。

井坂君が一人で抱え込んで私に見せないようにしてるのは分かる。

でも、私は言ってくれないことに傷ついた。


彼女なんだから頼ってくれたっていいはずだ。

一人で思い込んでしまうなんて、ひどい。


私はここで自分が頭ごなしに井坂君を責めてるなと気づいて、頭を冷やそうと井坂君に背を向けた。


「ごめん。ちょっと、頭冷やしてくる。」


私はそれだけ告げると早足で教室を後にした。

そのとき体育館に集合という放送がかかったけど、私の足は体育館とは別の方向へ向かっていたのだった。





ちょっとしたケンカ勃発です。

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