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理系女子の恋  作者: 流音
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77、幸せな文化祭

井坂視点です。



ヤバい…可愛すぎる…


俺は昨日の詩織のダボダボパーカー姿を思い出して、写真を撮っておけば良かったと後悔した。

詩織が俺の服を着てるってだけでポイント高いのに、あの守ってやりたくなるようなぶかぶか具合に昨日は一日ずっと顔の熱が引かなかった。

仮面という顔を隠す道具があって本当に良かった。


今日は頼りの仮面もないため、表情に出ないようにしようと自分を戒めながら、文化祭を詩織と一緒に回る。

去年は叶わなかった詩織と回る文化祭を実現できて、俺は大満足で早速顔が緩む。


「ねぇ、井坂君はどこ行きたい?」


詩織が不意打ちで俺の顔を覗き込んできて、俺は一気に顔が上気しそうで顔を背けて傍の教室を見た。

そこの教室はコスプレ写真館と書かれていて、俺はピンときて詩織に振り返った。


「ここ!!ここ入ろう!」

「…コスプレ…写真館?」


詩織が少し怪しんだ目をしたけど、俺はただ写真が欲しい一心で詩織の手を引いて中に入った。

1ー6の催しである教室は、意外と客が入っていて順番が回って来るのを待たなきゃならないなと思った。

詩織はコスプレしてる生徒を見ながら、何だかホッとしているようで去年の事が尾を引いてるのかもと感じた。

詩織のゾンビナース姿は俺としたら最高だったのだけど、着ていた本人にしたら複雑な心情だったのだろう。

俺は詩織に嫌われたくなかったので、その話題を振るのはやめることにした。


「詩織は好きなやつ着てくれればいいからな。」

「好きなやつ…?でも、二人で撮るなら衣装統一した方がいいよね?」

「そうか…。じゃあ詩織が決めてくれよ。俺、何でも着るからさ。」


俺は詩織を楽しませたくてドンと胸を叩いて言った。


すると詩織から返ってきたのは、とても意外なものだった。





「ギャーーーーーッ!!!!」


俺が着替えを終えて試着室から出てくると、いつの間にこんなに集まってたのか、たくさんの女子がこっちを覗いていて、俺は目を丸くした。

ギャーギャーと騒ぐ声がうるさくて、顔をしかめながらギャラリーを睨みつける。

そうしただけで更に歓声が巻き上がり、耳を塞ぎたくなった。


マジでうぜぇな…


俺はイライラしながら、詩織が試着室から出てくるのを腕を組んで待った。

その間カシャカシャと写真を撮る音が聞こえてきて、俺もさすがに無視できなり、この催しの責任者っぽい生徒に声をかけた。


「おい、勝手に写真撮られてんだけど。写真館として売り出してる方としてはどうなわけ?」

「あ…そう…ですよね!」


俺に指摘された男子生徒は教室の窓や扉を閉め始めて、俺はこれで少し心が休まると思って試着室に目を戻すと、ちょうど詩織が出て来て、俺は彼女の姿に見惚れて固まった。

詩織は綺麗なドレス姿で、スタイルの良い彼女に良く似合っていた。

照れ臭いのか頬が赤く染まってる姿が心を擽る。


やっべ…すげぇ綺麗だ…


俺は自然と頬がだらしなく緩みそうでキュッと口角に力をこめた。

詩織はというと俺が詩織を見て固まるのと同じように、俺を見て固まっている。

薄く開けた口と大きく見開かれた瞳が妙に不安になる。


要望通りのはずだけど、似合ってないのかな?


俺の衣装は詩織のリクエストである執事姿だ。

燕尾服というものを初めて着ただけに、似合ってるかどうかを自分で判断できない。


「……カッコいい…。」


詩織がぼそっとそう呟いてきて、俺は幻聴かと思って詩織を見つめた。

詩織はいつの間にかキラキラした瞳で俺を見つめていて、嬉しそうに頬を赤く染めている。

その姿からほっとして、詩織に近寄った。


「執事ってこんなん着るんだな。俺、初めて知ったよ。」


俺がちょっとした気恥ずかしさからぼやくと、詩織が少し目を逸らしてしまった。


「リクエストして良かった…。すっごく…執事っぽくてドキドキする…。」


詩織が耳まで赤く染めながら言って、俺は詩織がすごく喜んでるのが伝わってきて俺まで照れてしまう。

そんな詩織をもっと見ていたくて、俺は喜ばせようと詩織に手を差し出した。


「……お嬢様。私にお手をどうぞ?」


俺が執事になりきって声のトーンを落として言うと、詩織が潤んだ瞳で俺を凝視しながら差し出した手に自分の手をのせてきた。

表情がムズムズとするぐらい恥ずかしかったけど、詩織が今までにないぐらい喜んでいるのが伝わるので、グッと我慢して写真を撮り終えるまでは執事になりきって過ごしたのだった。





***




そして写真を受け取って写真館を後にすると、詩織がその写真を大事そうに持ってニコニコとしていた。

俺も同じものをもらったけど、早々にポケットに入れてしまった。

そこまで喜ばれるなんて、俺のひらめきから入ったけど当たりだったな…と自分の行動を褒めた。

すると前から下級生女子の軍団が走ってきて、俺の目の前で止まった。

俺と詩織は行く先を塞がれて自然に足を止める。


「拓海先輩!!もう衣装脱いじゃったんですか!?」

「急いで来たのにーっ!!」


「は?」


俺は何かに悔しがる女子を見てから、詩織に目配せした。

詩織は彼女たちが悔しがる理由に見当がついているのか、困ったように苦笑している。


「あ、でも写真館ですし、写真撮ってもらったんですよね!!それ!写メらしてください!!」

「それだ!!お願いします!」

「はぁ!?」


俺は執事姿なんか見せたくもなかったので、嫌だと言おうとしたけど下級生は食い下がって「お願いします!!」と懇願してきて困った。

このままじゃ見せるまで先に進ませてもらえなさそうだな…

俺は詩織との時間が減ると思って、しぶしぶ写真を取り出そうとポケットに手を入れると、詩織がその手を掴んできて驚いた。


詩織は俯いてムスッとしながらジッと黙っている。

掴まれた手に力が入って嫌がってるのだけが分かると、俺は掴んでいた写真をポケットに戻して告げた。


「悪い。写真どっかにやったみたいだ。そういうことだから、じゃあな。」


俺は下級生にそれだけ言うと追求されるのを逃れようと、詩織の手を掴んで足早に廊下を進んだ。

そして人気のない階段下のスペースに二人で身を隠すと、黙ってる詩織に声をかけた。


「詩織、どうした?」


詩織は大事に持っていた写真の袋をギュッと握ると、少し潤んだ瞳で俺を突き刺してきた。


「写真…誰にも見せないでほしい…。」

「え…?」


詩織らしくない言葉に俺は自分の耳を疑った。


「……執事姿の井坂君は…私だけの…ものでしょ…?」


詩織から独占欲の塊ともとれる言葉が飛び出して、俺は胸を鷲掴みにされるようだった。


まさか…嫉妬?…詩織が?


詩織は俺のシャツをギュッと掴んでくると、俺に身を寄せてきて詩織の髪からシャンプーの花の香りがフワッと香った。


うっわ!やべぇ…!!なんか甘えられてる!!!!


シャツ越しに詩織の温かさを感じて、俺は心臓がバクバクしながら手を詩織の背に回して抱きしめた。

その感触がすごく儚げに感じて、俺は庇護欲をかきたてられた。


可愛い…可愛すぎる!!

俺だって詩織を俺だけのものにしてーよ!!


俺は自分の欲がポコポコと顔を出し始めて、詩織に声をかけることで堪える事にした。


「写真、誰にも見せねーよ。俺と詩織だけの大事な時間の証だもんな。」


俺の言葉に詩織がピクッと反応して顔を上げる。

詩織は頬を紅潮させていて、俺と目を合わせると嬉しそうに微笑んだ。


それ反則だろ!!!!


俺はそれを見て我慢できなくなり、衝動のままに詩織と唇を合わせた。

誰にも見られていないという安心感から、俺は何度も向きを変えながら求め続ける。


「…んっ……っ!」


詩織から小さな喘ぐ声が聞こえて、俺は口から唇を離すと彼女の首元に落とした。

詩織の白い首元に唇を這わせていくと、声を堪えている詩織の足の力が抜けるのが分かって、俺は彼女を支えてその場に詩織を座らせた。


ダメだ…止まらねぇ…


詩織はいつも甘い匂いがする。

それがいつも俺を昂らせて、セーブしてる気持ちを溢れさせてしまう。

俺の大好きな匂いのする首筋に何度もキスしていると何だかいけない気持ちになってきて、俺はいけないと思うのに手が止まらなくて、彼女のシャツの下から手を忍ばせた。


「――――っ!!あっ…!!」


直に肌に触れただけで詩織が堪えていた声を漏らして、俺は瞬間的にハッと我に返った。


~~~~~っっ!!!ここ学校だぞ!!


俺はまた自分の気持ちを優先してしまったと自分にショックを受ける。

詩織が嫌がってないのはなんとなく分かっていたが、このまま進めるのはよくないと思って、名残惜しく手を引いた。

すごく、すっごーーーく惜しいが…仕方ない…。

俺は詩織の肩に両手を置くと、詩織の顔を覗き込んだ。


詩織は感じてくれてたのか艶っぽい表情で俺を見つめ返していて、俺は引っ込めたはずの手が出そうになって横の壁に自ら頭を打ち付けた。


ダメだから!!!


頭に鈍い痛みが走って煩悩を吹き飛ばす事に成功して、俺は冷静に詩織に言った。


いってぇ…やり過ぎた…


「……い、行くか。」


俺はズキズキする頭に顔をしかめながら、詩織の腕をとって立ち上がらそうとしたのだけど、詩織はその場から動こうとしなくて、俺はしゃがんで詩織の顔を覗き込んだ。


「詩織?」


俺が声をかけるのと同時に詩織の腕が俺の首に回ってきて、優しく引き寄せられて驚いて固まった。


!!?!?!?!


詩織からこんな事してくるのは本当にほっんとーに!珍しいだけに、心臓が今までにないぐらい荒ぶってくる。


「……もう、ちょっとだけ…。あと…ちょっとでいいから…。」


詩織の懇願するような声に、俺はあとちょっとってどういう事だと考えた。

もうちょっと触ってても良かったって事か?

途中でやめるなよって事を暗に言ってるのか?

いや、でもここでやめないとホントに最後まで止まらなくなるしな…

俺が色んな憶測を立てて悶々と考え込んでいると、詩織の指が俺の首筋に当たって体がビクッと反応した。


あれ…?詩織が…俺を…触ってる…?


詩織が遠慮がちに触ってるのを感じて、俺はその感触にゾワゾワしてきて息苦しくなる。


「……井坂君も…ギュッてして…?」


詩織から可愛いお願いが聞こえてきて、俺はそんな事お安い御用だったので、詩織の背に腕を回して自分に引き寄せた。

すると詩織が俺の耳元で笑ってきて、俺は何で笑ってるのか分からなくて詩織に意識を集中した。


「……幸せ。」


詩織が嬉しそうに呟いて、俺は無性に嬉しくなって「俺も。」と彼女に伝えた。

それからどれだけそうしていたのか、時間間隔はおかしかったけど、ずっとそうしていたかったと感じてなかなか離れられなかったのだった。





***





俺は詩織と文化祭を回り終えて教室で寝転んでいた。

横では赤井と北野、島田が雑誌片手に騒いでいる。


俺は午前中の幸せな時間を思い返しながら、自分の首元に手をやって頬が緩む。


詩織から俺に触ってきたの…初めてじゃねぇ…?


俺はそれが死ぬほど嬉しくて、その場で身を捩って笑いを堪える。


「気持ちわりーなぁ…井坂。一人でニヤニヤしてさー。何?そんなに良い事でもあったわけ?」


赤井が雑誌を北野に押し付けながら、俺の頭を叩いてくる。

島田や北野の目を俺に向くのが分かって、俺は視線を逸らした。


「お前らには教えねーよ。」

「何!?落ち込んでるときは散々愚痴ってくるクセに!!良い事だけ内緒にするなんてずりーぞ!!」

「そうだ、そうだ!!吐けよ!!」


赤井が尋問でもするように俺の胸倉をつかんで揺らしてきて、島田がそれに乗っかるように囃し立てる。

冷静な北野は雑誌をめくると、ぼそっと口を開いた。


「どうせ谷地さん絡みだろ。午前一緒に回ってたんだし、そこで何かあったんじゃねぇの?」


北野に言い当てられて俺が表情に出してしまうと、赤井が揺するのをやめて俺の頭をガシッと掴んで声を荒げた。


「とうとうヤッたのか!?」

「ああああ、アホかぁっ!!!!でっけー声出すな!!学校でするわけねーだろがっ!!!」


俺は反射的に起き上がるとその勢いのまま赤井の横っ面を蹴とばした。

俺は大きく息を吐きながら赤井を睨みつける。

背中に汗が滲むぐらいビックリして、心臓が縮み上がった。

誰にも聞かれてねーだろうなと教室を見回すと、教室内にいた小波と新木とばっちり目が合ってしまった。

ニヤ~っと意味深に笑われて聞かれたと分かり、顔が引きつる。

詩織が八牧と文化祭を回ってくれていて良かった。

彼女がいなかった事だけが唯一の救いだ。


そう思って今のやり取りは忘れようと思っていると、赤井が顔を押さえて起き上がったのと同時に北野が呟いた。


「井坂、一昨日、空き教室でやろうとしてたじゃん?アレは未遂なわけ?」

「は!?!?」「何だそれ!!初耳なんだけど!!」「空き教室!?!?」


北野の発言に赤井と島田が食いついてきて、俺はここでバラすか!?と北野を睨んだ。

北野はあの後何も言わなかったから、てっきり黙ってくれるもんだと思いこんでいた。

なのに…こいつっ…!!

北野は雑誌をパシンと閉じると、胡坐を組み直してニッと口の端を持ち上げた。


「まだ経験のない俺としては、あのシーンは衝撃的だったんだよ。友達のあんな姿は見たくなかったしなぁ…。」

「なっ…!?!?」

「そっ…そんなに衝撃的なことをしてやがったのか!?どんなだ!!どんなだったんだ!?」

「ギャーーーッ!!」


島田が聞きたくないのか耳を塞いで騒ぎ始めて、北野の声が聞こえにくくなる。

俺は反論する言葉もなくて、ただ口を開けて焦る事しかできない。

北野は興味津々な赤井に寄ると、実演しようとしてるのか赤井のシャツ越しの胸に手を触れ始めて、俺はそれを手を出して阻止した。


「だぁーっ!!やめろっ!!んな事してねぇからっ!!」

「嘘つけ。俺はばっちり見たんだからな。」

「井坂~…お前はやっぱりムッツリだったんだなぁ…。」

「わぁ~~~っ!!想像したくねぇーーーっ!!」


「経験者がいけしゃあしゃあとムッツリとか言うなっ!!」

「わーーーーーーっ!!聞きたくねーっ!!」


島田の騒ぐ声がうっとおしくて、俺は島田を叩いて「うるせぇっ!!」と怒鳴る。

すると赤井と北野が爆笑し出して、俺は苛立ちと恥ずかしさから顔の熱が引かなかった。


そうして俺たちの集団がギャーギャーと煩く騒いでいると、教室に篠原さんと千葉さんが焦った様子で帰ってきた。

そして小波たちに何かを報告し始めると、小波と新木が俺たちの方を向いて駆け寄ってきた。


「いっ!井坂っ!!!!あんた何したの!?」

「は?」


小波は焦って手を不自然に動かしている。

俺は言われてる意味が分からなくて、顔をしかめると小波を睨むように見た。


「ミスタコンの中間投票発表で!!あんたが一位なんだって!!!」


「……。」


俺は理解するのに多少の時間を有すると、『一位』という単語だけが頭に残り思わず声を上げた。



「はぁぁぁぁっ!?!?!?」







詩織の大胆行動は生徒会長の言葉が尾を引いてます。

井坂視点はすごく幸せそうで、書いてて楽しかったです。

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