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理系女子の恋  作者: 流音
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7、校外学習Ⅲ


洸ちゃんに呼ばれて行ったドッジボール対決は惨敗だった。

というのも、相手は男子ばかりの6班でボールの威力が桁違いだったからだ。

私は必死に逃げ回ることしかできなかった。

足手まといだったのではないだろうかと思いながら項垂れていると、タカさんが横に座って声をかけてくれた。


「お疲れ。まぁ、あれは仕方ないよ。落ち込まない、落ち込まない。」

「あはは…だよね。」


私は一度もボールに触れなかっただけに、ダメージは大きかった。

これなら井坂君とバスケしてたときの方が楽しかったな…。

さっきの二人きりの時間を思い返して、自然と顔が熱くなってくる。

ヤバいなぁ…気づいた途端どんどん好きになってる気がする。

私は息苦しさを和らげようと、息を吐き出した。


「そういえば、さっき何してたの?西門君と帰ってきたとき、もう汗かいてたみたいだったけど。」

「あー…うん。井坂君とバスケしてた。」

「井坂君と!?」


私は井坂君だけはやめておけと言われてただけに、タカさんの反応が怖かったけど、彼女には自分の気持ちを打ち明けておこうと思った。


「昨日…タカさんに言われた通りでさ…。私、井坂君のことが好きみたいなんだ。」

「しおりん…。」

「あ、でも。告白して彼女になりたいとか思ってないから!!その…身の程は分かってるから…さ…。」


井坂君がこんな地味で冴えない私のことを好きになってくれるはずもない。

井坂君は人気者で友達も多い。

可愛い女の子だって、周りにたくさんいる。

そんな人の彼女なんてあり得ない。

中学のときに痛いほど学んでいるだけに、身の程はわきまえていた。


「大丈夫。想ってるだけにしとくから。だから、やめておけなんて言わないでね?」


タカさんは必死に弁明する私をじっと見たあと、大きくため息をついた。


「それなら…いいけど。でも、応援はしないよ。想うだけでいいなんて、苦しいに決まってるし。すぐやめてほしい。」

「…タカさん…。」


タカさんが心配してくれてるのは痛いほど伝わる。

でも、やめようと思ってやめられる気持ちじゃないので、タカさんの気持ちには応えられない。

苦しくても…井坂君を好きでいたいと思ってる。

こんな気持ち、中学のときには感じなかった。


「だいたい、しおりんには西門君があってると思う。」

「―――っ!?にし…洸ちゃん!?何で洸ちゃんが出てくるの!!」

「あ、今はそう呼んでるんだ。仲良いもんね。」

「いや、これには事情が…じゃなくて!!洸ちゃんはただの幼馴染だよ!!恋愛対象じゃない!!」


私はタカさんに誤解されてそうで、必死に否定した。

彼女は横目でじとっと見ると、諦めたように鼻から息を吐いた。


「まぁ、今はそういう事にしとくけど。」

「―――っ!?ちっ…違うからね!?そういう目で見ないでね!?」

「はいはい。」


投げやりに答えるタカさんを見て、私はまだ誤解を解ききれていない感じでもやもやした。




***




それからドッジボール対決は男子ばかりの班である6班の優勝で幕を下ろした。

他にも対決しようと思っていた赤井君だったが、意外にも時間がかかっていたようで、担任から撤収と言われて悲鳴を上げていた。

まだまだやり足りなかったようだ。

そんな赤井君を小波さんが励ましていて、まるでカップルのようだった。

私は横目に二人を見て、自然に隣にいける関係っていいな…と思った。

私が井坂君の隣に行こうものなら、きっとクラスの注目の的になるだろう。

今は席が隣ってだけで仲良くしてもっらている関係だ。

仲良くなったと言っても、席が離れれば話す事もできなくなるのでは…と思って自然とため息が出る。

私は井坂君に借りた帽子のつばを手で持つと、顔を隠すように下に引っ張った。


そしてバスに乗り込んだ私たちは、行きと同じ場所に腰を落ち着けた。

たくさん遊んだだけに眠気が襲ってくる。


「しお。また肩貸してやろっか?」


瞼の落ちかけた目を開けて隣を見ると、洸ちゃんが意味深に笑っていて、私は断固として拒否した。

またあんな恥ずかしい思いをするのは嫌だ。

頭が揺れないようにするためにリクライニングするかと、後ろに振り返って声をかけた。


「あのー、椅子倒してもいいかな?」


声をかけてみて、後ろが島田君と井坂君だと初めて知って、私は固まった。

島田君はニッと笑うと「いいよー!」と言ってくれて、私は「ありがと。」と言って顔を前に戻した。

島田君の言葉に甘えて私はゆっくりと椅子を倒すと、できた隙間から井坂君が窓の外を見てるのが見えて、目が冴えてきてしまった。

タカさんも椅子を倒してくれないと、井坂君の姿が丸見えで寝られない。


う~わ~…変に緊張してきた…


私は早くなる心臓の音を聞きながら、とりあえず目を瞑った。

気にするな…寝るために椅子を倒したんだから、バスに揺れてる内に眠たくなるはず…

私は井坂君に貸してもらった帽子を手で抱え込んで、自分に言い聞かせた。


すると思い込みのおかげか、少しずつ意識が遠のいてきて、落ちる直前に「見過ぎ!!」という島田君の声と「うっせ!!」と怒る井坂君の声が聞こえた。

私はいつも仲が良いなぁ…と思いながら、胸があたたかくなっていったのだった。




***



そしてバスは学校へ到着すると、降りたところで今日は解散となった。

私は井坂君の帽子を返さなければと、井坂君の姿を探した。

すると自転車で帰るのか自転車置き場にいる姿が見えたので、私はそこへ向かって走った。


「井坂君!」


井坂君は自転車の鍵を開けると、私に顔を向けた。

それを見て、私は帽子を彼に差し出した。


「今日は帽子、ありがとう。」

「あぁ…うん。いいよ。」

「あ、ちょっと待って!」


私は帽子を受け取ろうとする井坂君から帽子を取り上げると、汗臭くないか帽子の匂いを嗅いだ。


「……う~ん…。クリーニングしてから返そうかな…。」


私は匂いが良く分からなくて、ボソッと呟いた。

すると帽子をパッと井坂君に奪われてしまって、私は目をパチクリさせて彼を見つめた。


「クリーニングとかいいから。俺、何回もかぶってるし。」

「え…。でも、他人の汗とかついてたら嫌じゃない?」

「そんなの気にしねーから。」


私の心配をよそに、井坂君は帽子をかぶってしまった。

私は今まで接してきた井坂君を思い返して、ここで自分が引かなかったら怒るんだろうなと思って、有難く言葉に甘える事にした。


「井坂君は優しいよね。今日は井坂君のおかげですごく楽しかったよ。また、明日からも教室でよろしくね。」


私は今日感じた気持ちを彼に伝えると、恥ずかしい事を口にしたと思って帰ることにした。

井坂君に背を向けると軽く手を振って、足を進める。


井坂君を前にするとなんか大胆になっちゃうなぁ…


「俺も!!谷地さんと一緒で楽しかったよ!!…特にバスケが一番楽しかった!!」


私は後ろから声をかけられて、自転車のハンドルを握りしめて少し俯いている井坂君に振り返った。

耳に『バスケが一番楽しかった』という言葉が何回も繰り返される。

私は胸が苦しくなると、嬉しくて返す言葉が出てこなくなった。

何も返さないと変に思われてしまうので、私は笑顔を作ると大きく頷いた。


すると井坂君が自転車を押して、私に近寄ってきて少し迷ったあと口を開いた。


「谷地さん…その…、俺と一緒に…。」


「しお!!」


井坂君が何か言いかけたとき、背後から自転車を押した洸ちゃんに声をかけられた。

洸ちゃんはいつもと同じ笑顔を浮かべて、口の横に手をそえて言った。


「家まで乗ってくか?ニケツして送ってやるよ!!」

「え……っと…。」


私は洸ちゃんと井坂君を交互に見て悩んだ。

疲れてるだけに自転車にのせてもらえるなら、有難い…

でも、井坂君が何を言いかけたのかが気になる。


「…井坂君…。何か言おうとしてたけど…。」


私が先に井坂君の用件を訊こうとすると、井坂君はじっと洸ちゃんを見た後、帽子をかぶり直して笑った。


「ううん。…何でもない。また、明日な!」


「あ…うん。また明日。」


私は自転車に跨った井坂君を見て手を振った。

井坂君はさっきとは違う笑顔を浮かべると、洸ちゃんの横を通り過ぎていってしまった。

私はその姿を見送って、井坂君との距離が近くなったのか遠くなったのか、よく分からなくなった。






校外学習の話はこれで終了です。

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