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理系女子の恋  作者: 流音
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76、ステージ発表


待ちに待った文化祭一日目―――――


私たちは午後のステージ発表の準備のため、それぞれ着替えを済ませて教室に集合していた。

私たちの服装は、みんな黒のパーカーに黒のズボン姿。

男子も女子も一緒で、顔には作成した仮面をつける事になっている。

こうして皆同じ姿に仮面をつけると、誰が誰だか見分けがつかない。


私は黒のパーカーにズボンを持っていなかったので、パーカーは井坂君に、ズボンはあゆちゃんに借りていた。

あゆちゃんのパンツは細いので入るか心配だったけど、なんとか私の体型でもギリギリ入った。

ちょっとパツパツしてるのが気になるけど…

そして反対にパーカーは井坂君のものなので、ダボダボで袖を少し捲らないと手が隠れてしまう。

なので袖を捲って丈を調節していると、あゆちゃんが笑って新木さん達と近寄ってきた。


「やっぱりいいなぁ~…。彼氏のパーカー。ね?そう思わない?」

「思う。私も北野に頼めば良かった…。」


私はそんなに憧れるものなんだと思って、少し嬉しくなって頬が緩んだ。


「二人が言うのも分かるかも…。パーカーから井坂君の匂いもするし、なんか安心するよね。」


私は井坂君にギュッとされてるみたいだなと思って言ったのだけど、二人は驚いたように目を見開くと言った。


「詩織が恥ずかしげもなくそんな事口にするなんて!!」

「成長!!成長したね!詩織!!」


「へ…?そうかな…?」


私はそう答えながらも、目がなんとなく井坂君を探す。

でも教室内に井坂君の姿は見つけられなくて、私はあゆちゃんたちに目を戻した。

二人は大げさにリアクションを取りながら、「ここまで見守るのもヤキモキしたよねぇ…」なんてぼやいている。

何だかバカにされてるみたいで不愉快だ。


私はじとっと二人を見ると、首をすくめてから二人から離れた。

そしてダンスのグループメンバーであるタカさんたちの所へ行こうとしたら、仮面をつけてフードをかぶった人に腕を掴まれた。


私は準備万端なその人を見て、いったい誰だ?と顔をしかめた。

その人は何も言葉を発さずに、私の腕を引っ張って廊下に出た。


なっ、何!?一体誰!?


廊下は教室の中と違ってシン…としていて、人通りも少なく静かだった。


その人はしばらく無言で戸惑ってる私を見ると、肩を震わせながら笑い出した。

その笑い声から誰だか分かって、私はムスッとして声を発した。


「井坂君!私をからかってるでしょ!」

「あはははっ!!だって、ずっと困惑してる顔だったからさ!いつ気づくかなー?と思って。つい、悪戯心で!」


井坂君は仮面も取らずに笑っていて、私は表情が見えないのが嫌で彼の仮面に手を伸ばした。

するとその手を井坂君がガシッと掴んで遮ってきた。


「……ねぇ…何で止めるの?まだ、始まらないんだから仮面とって話しようよ。」

「いや…。今はこのままでいいよ。」

「何で?表情が分からないし、気持ち悪いんだけど。」

「……、そんなん…別に顔見えなくたって誰だか分かるんだから、いいじゃん?」


井坂君はそこまでして顔を見せたくないのか、言い訳を並べ立てながら遮る手に力を入れてきた。

私はそこまでされると、逆に見たくなってきて、手に力をこめて井坂君に一歩近寄った。


「とーろーうーよー!!」

「い~や~だ~!!」


お互いが一歩も引かずに押し問答していると、急に井坂君が場所を入れ替えてきて、私は壁に背を押し付けられた。

それに驚いていると、手で目隠しされて目の前が真っ暗になった。


「えっ!?何!?」


私が突然のことに焦っていると、唇に温かくて柔らかいものが触れてきてキスされてると分かった。

私はそれに息をのんで目を剥いていると、すぐに離れてしまって目隠しが外された。

目の前には仮面をつけた状態の井坂君が立っていて、しばらく呆然とする私を見たあとにサッと教室へ戻っていってしまった。


「へ…??」


なんで無言!?


私は彼の意味不明な行動に目を白黒させて、その場にズルズルとへたり込んだのだった。




そうして私がドキドキしている心臓を落ち着けようとへたり込んでいると、ステージへ移動するのかゾロゾロとクラスメイトが教室から出てきて、私は腰を上げた。

すると赤井君と一緒にあゆちゃんが出てきて、私を見るなり近寄ってきた。


「詩織。こんなとこで何やってんの?行くよ。」

「あ、うん。」


私は仮面をつけた井坂君を見つけられなかったので、あゆちゃんと赤井君の横に並んだ。


「谷地さんのそのパーカーって井坂の?」

「うん。そうだよ。貸してもらったの。」


赤井君が頭に仮面をのせた状態で私の方へ顔を向けてきて、私はあゆちゃんを挟んで向こうにいる彼に答えた。

赤井君は「ふ~ん。」と言ったあとに、顔を前に戻すと照れくさそうにボソッと言った。


「なんか男物の服着てる女子って、いいよな。小波にも俺の貸せば良かった。」

「へ?」

「は!?急に何言ってんのよ!恥ずかしい!!」


あゆちゃんが赤井君を小突いていて、赤井君は身を捩っていた。

私は褒め言葉だろう言葉がくすぐったくて、照れる顔を隠そうとフードをかぶった。


「いや、これはどの男だって思うって!!なんかそのブカブカ具合とか、守りたくなるっつーか。こう心の奥の方を刺激される感じ?なぁ、今度持ってくるから、小波も着てくれよ!」

「~~~っ!!しっ…詩織でさえこんなブカブカなんだよ!?私が着たら、ブカブカどころじゃないと思うんだけど!?」

「それがいいんじゃん?なぁ、いいだろ~?」

「―――――っ!!」


二人のやり取りを聞きながら、私は恥ずかしくて仕方なかった。

顔が熱くなるので、必死にフードに顔を埋めて隠す。

あゆちゃんは赤井君に何度も懇願されて、しぶしぶ了解したようだった。

私の前ではあんなに羨ましいと言っていたのに、あゆちゃんも天邪鬼だ。

私はイチャつく雰囲気の二人を見て、自分が邪魔者じゃないだろうかと思いながらも、二人の雰囲気を壊さないように存在を消そうと口を噤んでいたのだった。





***




そして、私たちは中庭に設置されている特設ステージの裏までやって来ると、仮面を装着した。

仮面をつけると視界が狭くなって、左右の様子があまりよく見えない事に気づいた。

この状態でダンスなんて大丈夫なのだろうか…

私は少し不安に思いながらも、同じグループであるタカさんたちの元へ向かった。


「いよいよだね。間違えないように頑張るね。」

「うん。そうだね。きっとあっという間に終わるよ。頑張ろう!!」


私はタカさんとパシンっとハイタッチすると、緊張する気持ちを落ち着けようと大きく息を吐いた。

そのとき、音楽が鳴り始めてトップバッターのグループである赤井君や井坂君、島田君に北野君が走って飛び出していった。

その瞬間、観客席から歓声が沸き上がって、仮面姿のインパクトが当たったことが分かった。

私は裏からコソッと仮面を外して、舞台を覗き見た。


ステージでは井坂君たちが音楽に合わせて、ダンスを繰り広げていて、私はそのカッコいい姿に見惚れていた。

どれだけ練習したのか分からないが、たくさん移動しながらそれぞれが一糸乱れぬ息の合ったダンスをしている。


井坂君…あまり練習してなかったのに…

やっぱりすごいなぁ…


私は何でも軽くこなしてしまう彼を尊敬した。

すると横から肩を叩かれて、私はハッと我に返った。


「しお。もうすぐ出番だぞ。」


仮面をつけてるので声でしか判断できないが、西門君がフードをかぶって言って、私は同じように仮面をつけてフードをかぶると頷いた。


「うん。ごめん。」


そうして、私がスタンバイに入ると、入れ替わるように赤井君たちがステージ上から戻ってきて、仮面をとっているのが見えた。

私はそれを横目に自分たちのグループの曲が鳴り始めたときに、舞台に飛び出した。

私は練習通り舞台の左端まで走っていくと、お客さんに向き直った。


お客さんが目に入るなり、緊張してきたけど、仮面のおかげで恥ずかしさはそれほどなかった。

そして毎日の練習の成果もあり、なんとか間違えずにダンスをすることができた。

西門君たち男子とは違うダンスなだけに間違うと目立つので、私はかなりホッとした。

そうしてステージの裏に下りると、私は仮面とパーカーを脱いで黄色のTシャツ姿になった。

一番最後は全員でカラフルなTシャツで踊るためだ。

私はタオルを持ってなかったので、手の甲で汗を拭っていたら、目の前に青色のTシャツが飛び込んできて顔を上げた。


「間違えなかったじゃん?」

「あ、もしかして見てた?」


井坂君がいつものように笑っていて、私は仮面がなくなって表情が見える事に安心した。


「うん。可愛かったよ。一生懸命なとこが。」

「―――!!そっ…そんな事、真顔で言わないで!!」


私は急な褒め言葉にさっきまでの緊張が戻ってきて、赤面する。

今は隠してくれる仮面もないので、腕で見えないようにしながら顔を背けた。


「あはははっ!詩織はホントにいいよなぁ~。」


井坂君は楽しそうに笑うと、頭をクシャクシャっと撫でてきて、私は「いいよな」の意味をくみ取れず顔をしかめた。


「さ、最後だ。行くぞ。」


井坂君は私から手を放すと先に舞台に向かって走っていって、私は乱れた髪を直しながら首を傾げて後を追った。





***





それから無事にステージを終え教室に戻ってきた私たちは、やり切った達成感から盛り上がっていた。

嬉しそうなクラスメイトたちを見ていると、疲れもどこかへ消えていく。

私は着替えをしてしまおうと教室を出てトイレへと向かった。


するとその手前で生徒会長さんとバッタリ出くわしてしまった。

私は直接会長さんと話をしたこともなかったので、ペコリと会釈だけして通り過ぎようとする。


「あなたが井坂君の彼女だったのね。谷地詩織さん。」

「へ…?」


名乗った覚えもないのに名前を知られてる事に驚いて、私は足を止めて振り返った。

生徒会長さんは私を見てフッと微笑んでいる。

何だかその笑顔が挑発されてるように見えて、内心ムカッとしてしまう。


「榊原や石川に聞いて驚いたわ。私と同じぐらい地味で真面目そうな人が井坂君の彼女だなんて。」


カッチーン!!


私はあまり頭にくる方じゃないけど、会長さんの言い方に頭にきてしまった。

分かり切ってる事を他人に言われると腹が立つ。


「だったらなんなんですか!?井坂君の彼女が誰だろうと関係ないですよね!?」

「そうね。関係ないわ。でも、西中出身女子としたら驚きよ。誰に告白されようとも靡いたりしなかった井坂君が、高校であっさり地味な女子と付き合い始めるなんて。」


なんか言い方に棘がビッシリ詰まってるんですけど!!

会長さんって一組だって知ってたけど、あの榊原さんたちと同じ人種だよ!!

一組ってこんな女子ばっかり!


私は言い返してやろうかと会長さんを睨んだ。


「よく山地たちが引いたわね。あなた山地たちに何をしたの?」

「何もしてないですけど!!あっちが勝手に井坂君に嫌われただけみたいなんで!!」

「へぇ…。井坂君の前でボロでも出したのかしら?頭が悪いからこうなるのよね…。」

「はぁ?」


私は会長さんの頭が悪い云々に意味が分からなかった。

頭の良し悪しは恋愛には全く関係ない。

会長さんは見た目のまま頭の固い人なのかもしれない…

そう感じて、私はじとっと会長さんを見つめた。


「あなたは理数系にいるぐらいだから、頭も良いんでしょ?井坂君と同じくらいには。」

「は?頭って…確かに井坂君はすごく賢いけど、私はそこまでは…。」

「なんだ。二人で研鑽し合うような仲だと思ったんだけど、違ったのね。じゃあ、井坂君はあなたのどこが良かったのかしら?」

「へ?」


会長さんにズバッと聞かれて、私は今まで井坂君に言われた事を思い返そうと顔をしかめた。

どこが好きとか言われたこと…あったかな?

井坂君は私のどこが良いんだろう?

そんなこと気にしたこともなかった…

言われてみれば、私に勉強以外の魅力なんてあるとは思えない。

考えれば考えるほど、井坂君に好かれてる実感が遠のいていくようで怖くなってきた。


「どう見ても地味で真面目だけが取り柄っぽいあなたに、井坂君を振り向かせる要素が見当たらないわ。井坂君の一時の気の迷いじゃないかしら?誰が見ても不釣合いだし。」


グサッ!


私のただでさえ弱い心に『不釣合い』という言葉が突き刺さる。

そんな事、ずっと前から思ってたはずなのに、こうも真正面から言われると堪える。


「これだけ言われて何も言い返さないのね。こんなんじゃ時間の問題ね。心配して損しちゃった。」

「え…?」

「井坂君にミスタコンの中間発表は明日のお昼すぎになるって伝えておいてくれる?それじゃあね。」


会長さんはふっと意味深な笑顔を浮かべたまま、階段を上っていってしまった。

私は言われた言葉に不安がこみあげていて、心臓がズクンズクンと嫌な音を立てていたのだった。



時間の問題って…どういうこと…??










会長さんとのバトル開始です!

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