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理系女子の恋  作者: 流音
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6、校外学習Ⅱ


自然公園に着くと、早速班ごとに分かれてバーベキューの調理となった。

私はタカさんと一緒に食材を切る係りになった。

西門君たちは皿洗いとバーベキューの火を準備する係りに分かれて取り組んでいる。

私が一通り切り終えて食材をボールに入れていると、一際テンションの高い声が聞こえてきて、そっちへ目を向けた。


そこには小波さんたちの班が仲良く準備をしているのが見えて、井坂君も新木さんと何かを話していて楽しそうに笑っていた。

あんな顔…私に向けてくれたことない…。

私は胸が痛くなってきて、その一団から顔を背けた。

気にしちゃダメだ…

私は笑顔を作ると、切った食材を持って西門君たちの元へ向かった。


「食材切れたよ~!タカさんの後片付けが終わったら、すぐ食べられるよ。火はどう?」


私が尋ねると真剣な顔でバーベキューの台を見つめていた本田君が顔を上げた。


「もうちょいなんだ。ちょっと声かけないで。」

「…う…うん。」


余程火をつけるのに苦戦しているのか、男子三人が固まって真剣そのものだった。

風があるからかな?

私は手のひらを空に向けて、風が強いのを確認した。

すると「うおぉぉぉっ!!」と歓声が上がって、私は西門君たちに目を戻した。

バーベキューの台から火が上がっていて、上手く火が点いたのが見て取れた。

三人で抱きあがって大興奮状態で喜んでいる。


「…何…やってるの?」


後からやってきたタカさんが現状にげんなりして聞いてきて、私はその喜びように笑みが漏れた。


「青春だよ。タカさん。」

「はぁ…?」


私は仲の良い三人を見て、男子の友情っていいなぁと思った。





***





それからそれぞれの班でバーベキューが始まって、最初は肉の種類に散々文句を言われた。

やっぱり量を重視した選択はよくなかったか…

たくさんと言われていたので、とりあえず量を重視してしまい鳥や豚を買い忘れたからだ。

肉と言えば、牛!!というイメージから、安直に選び過ぎた。

私とタカさんはきっちりと謝ったあと、買い出しを任せたのはそっちだと責任を投げつけて、両者引き分けという形で肉戦争は幕を閉じた。


私はある程度食べると、お腹がいっぱいになって、バーベキューから離脱した。

バーベキューエリアから少し離れた所にある木陰まで移動すると、木にもたれかかって大きく息をついた。

風が強いので、頬にあたる風がすごく気持ちよかった。

すると土を踏みしめる音が聞こえてきて、顔を上げると木の影から西門君が顔を見せた。


「谷地さん、こんなとこにいた。もう食べないでいいの?」

「うん。もうお腹いっぱいだよ。」


私はお腹をポンポンと叩いて笑った。

すると西門君が横に腰を下ろしてきた。


「…なんか、谷地さん…変わったよな?」

「え…?そうかな?」


タカさんと同じことを西門君にも言われて、そこまで変わったのかと自信がでてきた。

井坂君のパワーってすごい。

私は今も頭に浮かぶ彼の笑顔を思い出して、ふっと微笑んだ。


「まぁ…今の谷地さんも好きだからいいけどさ。あ、さっきの肩もみ、今してくんない?」

「うん?いいよ。」


私は少し照れてる西門君の後ろに回ると、肩に手を置いて揉み始めた。

意外と筋肉がガシッとしていて、力を入れないと上手く揉めない。


「西門君…これって本当に私だけのせいでこんなに凝ってるのかな?常日頃からこうな気がするんだけど…。」


私は固い肩に苦戦しながら、彼に尋ねた。


「まぁ日頃ペットの楽譜と睨めっこしてるからなぁ…。肩こりは消えないよ。さぁ、頑張ってくれよ!」

「う~…手が疲れてきた…。」


私は指に力が入らなくなってきて、一旦彼の肩から手を放して空中でぶらつかせた。

すると、西門君が立てた足に顎をのせると、ボソッと呟いた。


「なぁ…何で僕のこと洸ちゃんって呼ばなくなったんだよ?」

「え…?」

「昔は呼んでたじゃん。洸ちゃん、洸ちゃんってさ。」


私は言われてみて、小学校のときには彼をそう呼んでいた事を思い出した。

でも中学に上がって…好きな人ができて、なんとなく呼べなくなった。

それから西門君も私の事を谷地さんと呼ぶようになった。

大人になっただけじゃないのかな…と思ったけど、なんとなく西門君が拗ねているように見えて、確認のために訊いてみた。


「…もしかして、洸ちゃんって呼んだ方がいいの?」


私の問いに西門君の耳が赤くなるのが見えた。

そんな反応をされるとは思わなくて、空気が急に気まずいものに変わった。

なっ…何…これ!?今まで感じたことのない空気になってる!!

私は頭の中がパニックになりかけた。

すると西門君が私に振り返って、少し赤い顔を見せた。


「僕も昔みたいに『しお』って呼ぶから、これから洸ちゃんって言ってくれよな!!言わなかったら罰ゲームするから!」

「えぇっ!?」


西門君は言うだけ言うと、立ち上がって戻って行ってしまった。

私は急な要望に反論も返せなかった。


高校生にもなって…洸ちゃんって呼ばれたいとか…恥ずかしくないのかな…?


私は西門君の考えている事が分からなくて、頭を抱えた。





***





バーベキューの後片付けを終えたあとは来る前に赤井君が言っていた、遊び道具で遊ぶこととなった。

その遊び道具と言うのが、フリスビーやバレーボール等のボール類、バドミントンまであった。

こんな量を一人で持ってきたのかと思ったけど、どうやら男子メンバーで分担して持ってきたようだった。

中には外で遊ぶものではないトランプやUNOまであって、誰が持ってきたのか気になった。


「んじゃ、まずはドッジボール対決!!一班と二班で勝負な!トーナメント戦だから、そこに記しておいてくれよ!!」


赤井君がボールを片手に言って、審判を任されたのか北野君が地面に木の棒で一班、二班と何やら書いている。

私たちの班は5班だったので、順番が回ってくるまでしばらくかかるなぁ…と思った。

ぼーっと見てるのも暇だったので、私は自然公園を一回りしようとタカさんに声をかけた。


「タカさん。順番来るまで公園一回りしない?」

「うん?一回りか~、私バーベキュー食べ過ぎで、お腹重たいんだよね…。できたら、ここで見てたいかも。」

「そっか…。じゃあ、私一人で一回りしてくるよ。」



私はタカさんに手を振ると、おしりを叩いて土を落としてから足を進めた。

前までなら一人で行くとか言えなかったけど、今は全然平気。

クラスメイトとの繋がりができてきて、少し自信になってるのかもしれない。

私は自分がこんなに人と関われるようになるなんて思わなくて、過去の自分に言ってやりたくなった。

人を怖がらなくても大丈夫だよ―――って。


ドッジボールをやっているクラスメイトたちから離れて少し来たところで、私はフェンスに囲まれたバスケットゴールを見つけた。


うわ…バスケできるようになってるんだ。


私はボールがあればできるのにな…と思って、なんとなくフェンスから中に入った。

どこかにボールが転がってないかとキョロキョロと見回したけど、残念ながらそんな事はなかった。

赤井君たちが持ってきてなかったかな…と思って戻ろうと足をフェンスに向けると、その入り口に井坂君がいて足を止めた。


「井坂君…。どうしたの?」


私は意識して顔が赤くなりそうになるのを、抑え込んで口に出した。

井坂君はニヤッと笑うと、私に向かって手に持っていたボールを投げてきた。


「わっ!!こ…これって…バスケットボール…。」


私が受け取ったボールを見つめてから、井坂君を見ると、井坂君はコートの真ん中まで移動して両手を体の前に構えた。


「パス!!」


井坂君から急に言われて、私は反射的にパスした。

すると彼はそれを受け取って、ドリブルすると綺麗にレイアップシュートを決めた。

その滑らかな動きに思わず拍手する。


「わぁ…すごい上手だね…。」

「谷地さん、俺と勝負する?」

「え…?」


ボールを拾って手で器用に回し始めた井坂君の申し出に、私は返答に迷った。

要は…ワンオンワンの勝負ってことだよね…?

いくら女子の中で背が高くて有利だったからと言って、男の子で背の高い井坂君に私が勝てるはずない。

ましてや体育の授業でしかバスケはやったことがないので、初心者みたいなものだ。


「……私、相手にならないと思うよ。井坂君、どう見ても経験者だよね?」

「そんなの手加減するに決まってんじゃん。バスケしたくないのかな~って思っただけだよ。」

「……バスケは…したい。けど…。」

「じゃ、決まり。はい。谷地さん先攻で!」


井坂君がボールを投げてきて、私は受け取ってからも少し悩んだ。

でも井坂君が嬉しそうな顔でディフェンス態勢に入ってるのを見て、ボールを持つ手に力を入れるとコートの真ん中に足を進めた。

そして井坂君と睨みあうように対面して、私はふっと息を吐き出してから左手を壁にしてドリブルを始めた。

とりあえずゴール目指して足を進める。

でも体の大きい井坂君のプレッシャーがすごくて中々進めない。


えっと…こういうときはフェイントだよね。


私は中学のとき瀬川君がしてた姿を思い返して、見よう見真似でやってみることにした。

右に行くと見せかけて、左!!

私は進むペースを上げて振り払おうと足を速めた。

井坂君がフェイントに引っ掛かって、やった!!と喜んだのも束の間…

私は自分の足にボールを当ててしまい、ボールがコートの端に転がっていってしまった。


「あ…。」


私は凡ミスをやらかした事に口をぽかんと開けて固まった。

私と同じようにボールの先を見ていた井坂君が、私から顔を背けて手で口元を覆うと急に笑い出した。


「あはははっ!!あっぶねー!一瞬騙されて、女子に負けると思ったらっ…まさかの凡ミスかよ!!マジで外さないよな~、谷地さんは!!」

「うぅ…。」


私は彼に笑われて隠れてしまいたいぐらい恥ずかしかった。

ボールを拾いに走りながら、恥ずかしさで赤くなる顔を冷やそうと手で擦る。


「じゃ、次は俺の番!!」


井坂君がコートの真ん中で手を挙げていたので、私は拾ったボールを投げて、彼の前に駆け寄った。

ディフェンスぐらいはなんとかしないと。

私は軽く腰を落として、ボールだけじっと見つめた。

私はさっきの気持ちを切り替えて、本気モードで態勢を作る。

すると井坂君がゆっくりドリブルし始めて、私は取れそうなら取ろうと手を動かした。

ボールをつくのリズムがゆっくりになったなと思ったときに手を伸ばそうとしたら、井坂君の姿勢がグッと下に落ちた。

それをきっかけに、ボールのうつ速さが速くなって、あっという間に私の横を抜けていってしまった。

私は慌てて追いかけて手を伸ばすけど、間に合わなくて井坂君は簡単にボールをゴールに押し込んでしまった。

それを見てカッコいいと思ったけど、私はそれを口にせず抗議した。


「手加減するって言ったのに!!」

「あ、そうだった。わりー、わりー!!今度は少し離れたとこからディフェンスするから、それで許してくれよ!!」


井坂君はその言葉通り私にボールを投げると、私と距離をとったところからスタートするようだった。

それを見て、私はさっきの反省もふまえて、ドリブルしない方が良いと結論づけて、立っているところからゴールに向かって投げることにした。

ドリブルしてくると思っている井坂君の裏をかけるはず。

私は両手で持って構えると、彼に笑顔を向けてからボールを放った。


「あ。」


私の投げたボールは綺麗に弧を描いてゴールリングに吸い込まれていった。

思い通りにいって、私は手を挙げて喜んだ。


「やった!!」

「うっわ、ずりー!そんなんアリかよー!」


井坂君は不満そうに顔をしかめていたけど、私が喜んでいる姿を見て頬を緩めて笑った。

その顔がさっき新木さんに向けてたものと同じに見えて、少し近づけたことに嬉しくなった。

私でも…井坂君を笑顔にすること…できるんだ。

私は顔がニヤけそうになって、ボールで顔を隠した。


「しお!!」


背後から声がかかって、笑い声をおさめてそっちを見ると西門君…いや洸ちゃんがこっちを見ていた。


「洸ちゃん。どうしたの?」

「もうすぐドッジ始まるから呼びに来たんだけど。」

「あ、そうなんだ。」


私は井坂君に駆け寄ってボールを手渡すと、バスケに付き合ってくれた事に頭を下げた。


「バスケ……ボール持って来てくれて、ありがとう。楽しかった。また、やろうね。」

「あ…うん。いつでも相手になるよ。」


井坂君が笑顔で頷いてくれて、私は顔が綻んだ。

そして彼に背を向けると、洸ちゃんのところに向かって走ったのだった。







名前で呼び合う幼馴染は憧れです。

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