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理系女子の恋  作者: 流音
68/246

66、とびっきり

一応R指定です。


井坂君の誕生日である8月8日。


私は夏期講習を受けてる予備校に休みの連絡を入れると、誕生日プレゼントとケーキを持って、井坂君の家の前に立っていた。

井坂君の家に来るのは春休み以来の事で、今日はお兄さんと会いませんように!と祈ってインターホンを押した。


すると中から井坂君が笑顔で出迎えてくれて、玄関に入ったときの雰囲気から誰も家にいないことが伝わってきた。

私はサンダルを揃えて上がると、「お邪魔します。」と言ってから井坂君の背に続いて二階へ上がった。

私は着いてからずっと心臓が爆音を奏でていて、耳に響く鼓動の音がうるさかった。

意識し過ぎなのかもしれないけど…

散々あゆちゃんに教えられたり、雑誌からの情報でそういう事になるのは覚悟してきていた。


せっかくの誕生日ぐらい我慢せずにいてほしい…


私は部屋に入るとふーっと息を整えた。

井坂君は飲み物を持ってくると、下に一旦降りていってしまって、私は荷物を下ろして座った。

そのときに部屋を見回して、ベッドに目がいってしまって、頭をブンブンを振った。


考えるな…考えるな…自然に…普通に…


私はそう言い聞かせても、修学旅行での事が蘇ってきて胸の苦しさでいつでも死ねると思った。



そんな事を悶々と考えていると、井坂君がジュースを持って戻ってきて、私は不自然な笑顔を浮かべた。


「お待たせ。なんかすごい荷物だけど、何持ってきたんだよ?」


井坂君が私の隣に座ったあと、私の大きな荷物を見て指さしてきた。

私はとびっきりの誕生日にしたかったので、色々と準備したものを見せることにした。


「じゃあ、まずは…誕生日おめでとう!!」


私は朝から奮闘して作った手作りのケーキを机の上に出した。

形は市販のものに比べたら歪だけど、味は大丈夫なはず…

本当は板チョコに『拓海くん誕生日おめでとう』と書いたプレートをのせたかった。

でも、私にはまだその技術がなくて、誕生日ケーキというよりも、イチゴののったただの生クリームケーキだ。

彼女として誕生日ケーキの一つも作れないってどうなんだろう…?

私は井坂君の反応が怖くて、ちらっと井坂君の表情を見ると、彼は手で口元を押さえて頬を赤くしていた。


「うわ…なんか…やべ…。え…これって手作り…だよな?」

「…うん。練習したんだけど、なかなか綺麗にはできなくてさ…見た目が悪いのだけごめんなんだけど…。」


井坂君が喜んでいるのが伝わってきて、私はとりあえず思いつく言い訳を並べた。

井坂君は輝くような笑顔を私に向けると、いつもより声のトーンを上げて言った。


「ありがとう!マジで嬉しい!!」


そう言った井坂君が少年のように見えて、私は頑張って良かったと安心した。

井坂君はケータイを取り出すと写真を撮りだして、私はその間に次を準備した。


私は袋の中から悩みに悩んだ誕生日プレゼントを取り出すと、ケータイを持って笑っている彼に差し出した。


「はい。誕生日プレゼント。」


両手で抱えるような少しサイズの大きいプレゼントを井坂君は驚いた顔で受け取ると、ケータイを床に置いた。


「何?コレ。」

「開けてみて。」


私が笑顔で促すと、井坂君は包装紙をめくりだして、私は喜んでくれるかドキドキしながら見守った。


「あ…コレ…。」

「うん。悩んだんだけど、これがいいかなって思って…。」


私が井坂君にプレゼントしたのは、ヘッドホンだ。

ベルリシュ仲間だっていうきっかけが、私と井坂君を近づけてくれた。

それを考えると、音楽が聴ける何かがいいと思った。


「これ…ベルリシュからだろ?」

「えへへ…バレた?」

「分かりやす過ぎるだろ?」


井坂君が嬉しそうに笑ってくれて、私は大満足だった。

それにヘッドホンにはある隠れた秘密がある。

これは私から言わずに、彼に気づいて欲しくて黙っておいた。


そして、ヘッドホンをデッキに繋ぎ始めた井坂君を横目に、私の最後のプレゼントを袋から全部出した。

バサバサと音を立てて本が滑り出てくる。


「うわ…何コレ…。」

「これ、全部あげる。」


私が出したのは本屋でみつくろってきた化学関係の本だ。

普通の本から洋書まで、化学と名のつくものを店員さんと一緒に選んだ。

井坂君は一冊一冊を確認すると、目を輝かせていて、私はとびっきりのお返しに成功したと鼻が高かった。


「すげー…。これ、小木曽教授の本じゃん。よく、こんなにたくさん。」

「うん。井坂君が夢にしてること、ちょっとでも応援したくて…それ考えてたら、なんかこんなに増えちゃって…。あはは!やり過ぎたかな?」


私は床に散らばってしまった本を重ねて揃えていくと、その手を井坂君に掴まれた。

ドクンと心臓が跳ねて、井坂君の顔を見ると、井坂君が懐かしい真剣な顔をしていた。


「応援してくれて…すっげー嬉しい…。ありがと…。」

「…うん。どういた――――」


私が答える口を塞ぐように、久しぶりに井坂君から唇が重なって、私は嬉しくて頬が持ち上がった。

井坂君は久しぶりで遠慮してるのか、すぐに離すと少し俯いたあとに顔を上げてじっと見つめてきた。

私はその瞳を見つめ返して、ゴク…と唾を飲み込む。


「……これ以上は…やめた方がいいよな…。」


井坂君がふっと微笑んで言ったのを見て、胸が痛くなった。


また我慢してる!!


私は思わず手を伸ばして、身を引こうとしている井坂君の頭を抱え込んだ。

自然と鼓動が速くなって、息が浅くなって苦しくなる。

私は速い心臓の音が聞こえるんじゃないかと、すごく恥ずかしかったけど構わなかった。


「いいっ…。いいよっ…。」


私は胸がギューッと苦しくなりながら、熱い吐息と共に口に出した。

こんな事を言うなんて、昔の自分じゃ考えられない。

でも、どうしても同じ気持ちだっていうのを、彼に伝えたかった。

その方法がコレしかないなら、覚悟を決めなければいけないと思った。


私は井坂君がどう思ったのかが気になって腕に力を入れたら、抱え込んだ井坂君の頭が動くのが分かった。

その瞬間、私は井坂君にお姫様だっこされて、あっという間にベッドの上に下ろされた。


「ひゃっ!」


私はその間数秒のことで、瞬きしている間にベッドに背をつけていて目を見張った。

目の前には井坂君が手をついて見下ろしていて、私は息をのんで彼を見つめる。


井坂君は何度か口を薄く開けたり閉じたりした後、目を細めて言った。


「ホントに…いいの…?」


彼から出た掠れた声に、私はギュッと目を瞑って頷いた。


いいに決まってる!

こういう事する決心をしたのは、井坂君だからだ。


私はまだ何をしているわけでもないのに心臓が忙しく動いていて、その音が耳の奥に響く。

すると井坂君が動く気配がしてベッドがギシッと鳴ると、井坂君から激しいキスが降ってきた。


「…んっ…んんっ…!」


いつもより激しいキスに、出したくない声が漏れる。

激しさから求められてるのが伝わって嬉しい反面、自分も井坂君を求めたくなる。

私は井坂君の頭の後ろに手を回すと、高鳴る心臓を押さえつけたくて力を入れた。

全身がピリピリと痺れてきて、頭がジンジンとしてくる。

そのとき私のTシャツの下から、井坂君の手が入ってきてシャツを徐々に上に持ち上げられる。

私がそれにどうしようと不安が押し寄せたときに、口が離れて一気に脱がされた。


「―――――っ!?」


私は恥ずかしさから身を縮めて、両手で体を隠した。

顔が今までにないぐらいカーッと熱くて、息をするのが苦しい。

覚悟はしてきたけど、実際裸を見せるのは抵抗がある。


「ちょっ!!…まって…私だけ…恥ずかしいっ…。」


私がそう懇願すると、井坂君が自分のシャツを脱いで裸になった。

私はその体を見つめて、少し呼吸が楽になるのを感じた。

海のときと同じ逞しい体に目が釘付けになる。


井坂君の体…

こんな事思うの変態かもしれないけど…すごく綺麗…


「これでいい?」


井坂君はそう尋ねると、私をギュッと抱きしめてきて、私は肌に直に伝わる体温にドキドキが加速した。


ひ~~~っ!!!!死ぬ!!私はここで死ぬ!!

私は井坂君と触れ合ってる部分が熱く熱を持っていて、心臓は病気かと思うほどに暴れ回っている。

どうなるの!?ここからどうするの!!!

私は泣きたくなるぐらいパニックで、体を強張らせてジッと井坂君の様子を窺うしかできない。

すると井坂君が私の背中を軽く撫でてきて、私はビクッと体が勝手に反応した。


「…こうしてるだけでも夢みたいで…幸せだ。」


井坂君が耳元でそう呟いてきて、私は少し緊張が解けて呼吸が楽になった。


もしかして…井坂君も私と一緒で緊張してる…?


私の背にある井坂君の手が少し震えてるのが伝わってきて、胸がキュッと締め付けられた。

こういうのは男の子でも一緒なんだ…。

私は井坂君が愛おしく感じてきて、上半身を起こしながら井坂君の背に手を回して抱きしめた。


「私も…幸せ。」


井坂君の体はあったかい…

さっきまでの恥ずかしさがどこかに飛んでいって、こうしてるのがすごく安心する…


私がくっついた事で、より一層肌と肌が合わさって、まるで全身でキスしてるようだった。

私がそんな乙女チックなことを思っていると、急にブラのホックが外されて瞬間的に息を飲み込んだ。


えっ!?うそっ!!!


「いいいいいいいっ!!井坂君っ!?!?」


私はパニック復活で慌ててしまい、井坂君の背から手を放したときに、井坂君の手によってブラがどこかへいってしまった。


ちょ、ちょちょちょちょっ!!ちょっと待った!!!

なんて言えないけど、自分の貧乳を披露するのにはまだ覚悟が足りない…

じゃなくて!!!井坂君から離れたら、すぐ目に入るわけで!!

隠すにも手を放さなきゃいけないし、どうすれば!!

いや、覚悟を決めて流れに身を任せるか…


などと私が脳内で激しいせめぎ合いを繰り広げていると、少しの隙間から井坂君の手が滑りこんできて私の胸に触れた。


ひーーーーーーっ!!!

恥ずかしい恥ずかしいっ!!死にたい!!消えてなくなりたい!!!!


私はこれ以上触られないように、思いっきり井坂君の体に自分の体をくっつける。

井坂君の手が挟まっていたが、そんなことよりもこれ以上進める勇気が出なかった。

ギューッと力を入れて井坂君の背中を抱きしめ続けていると、井坂君がコホンと咳払いした。


「詩織…力抜いて…?」

「や…やだやだ!!!無理っ!!恥ずかしくて死ぬっ!!」


井坂君の優しい声に歯向かうように、私は早口で捲し立てた。

すると、井坂君から小さなため息が聞こえてきた。


「…じゃあ、やめようか。」


やめ…る…??


私は悲しげに発せられた言葉に思わず井坂君から離れて、彼の顔を見た。

井坂君の顔は赤かったけど、表情は寂しげな笑顔が貼りついていた。

その表情に胸が締め付けられて苦しくなる。


「…俺の誕生日だからって…詩織に無理はさせたくない。嫌なら…またにしよう。」


井坂君が俯いてしまったのを見て、私は自分が口にした言葉を取り消したくなった。


いいよって…誘ったのは私なのに…

また井坂君に我慢させるの?

それじゃあ、昔の私と変わらないじゃない!!


私はもう一度自分の中に覚悟を固めると、息を大きく吸ってからショートパンツを脱いで、井坂君の顔を両手で包み込んだ。

そして井坂君としっかり目を合わせて告げた。


「ごめん。私は大丈夫。しよ?」


自分から催促するのは心臓が破裂するぐらい恥ずかしかったけど、でも嫌じゃなかった。

井坂君は驚いたように目を見開くと、一気に顔が真っ赤になった。

照れてる井坂君ってなんだか可愛い…

私はふっと嬉しくなって笑顔になる。

すると井坂君が照れた顔のままで頷くと「優しくする。」と呟いてから唇を合わせてきた。


もう逃げない…

井坂君の気持ちをまっすぐに受け止める。


私はそう心に誓ってキスに応えていると、また井坂君の手が胸に触れてきて体がビクついた。

経験したことのない感触に勝手に声が漏れる。


「あっ…!!やっ…!!」


私は恥ずかしさも最高潮で、触れられてる所からおかしくなりそうだった。


や、やっぱり恥ずかしい!!


すると井坂君の唇が胸に落ちてきて、かかる吐息のせいで背筋にゾワッと鳥肌が立っていく。


もうダメっ…!!なんか変な感じになるっ!!


私が井坂君の頭を抱え込んで、ギュッと目を瞑って耐える。

そのとき井坂君の片手が私の太ももに触れてきて、くすぐったいんだか何だか分からない感覚になった。


~~~~~っ!!死にそうっ!!逃げたいっ!


私は浅い呼吸を何度も吐き出して、自分がジワ…と汗をかいているのに気付いた。

井坂君の肌も汗ばんでいて、肌が貼りつくようになって気持ち悪いはずなのに、そんな感じじゃなかった。


私がそうして荒い呼吸を何度も繰り返していると、頭がぼーっとなってきて、腕の力が緩んだとき、井坂君が少し離れて私を見下ろしてきた。


「詩織…。」


井坂君が吐息と一緒に吐き出した熱を持った声を聞いて、私は手のひらで顔を隠した。

井坂君の顔が見たことのない色っぽい顔になっていて直視できないからだ。


「……っ…なんか変になる…っ…。」


私は自分が自分じゃないみたいで、それを井坂君に分かってほしくて漏らした。

井坂君はふっと微笑むと、「もっと変になって。」と言って、深く口付けてきた。


キスだけで体の熱が上がるなんて、井坂君と付き合って初めて知った。

それだけに彼に溺れていってしまって、もう抜け出せなくなる。

井坂君の全部が欲しい。

私はキスが気持ちよくって、自分から応えていると、井坂君の手がショーツにかかって体が震えた。



そのとき、ガチャと不吉な音が階下に響いた。


私と井坂君はキスをやめてお互いを食い入るように見つめあうと、耳だけがちょっとの音でも拾おうと働き出した。


その直後、「拓海~?」という女の人の声が聞こえて、私たちは身が縮み上がった。


「やっべ!!」


井坂君が慌ててシャツを着るのを見て、私はベッドから飛び起きると散らばっている服をかき集めた。


あああああ、あの声って!!

もしかしてお母さん!!?!?!


私はビックリし過ぎて、井坂君のようにすぐに体が動かなかった。


「詩織!ごめん!!早く着て!!」

「わ…分かってる!!」


井坂君の焦った声を聞いて、私はやっと体の動きを取り戻した。

とりあえず先に下着をつけると、階段の上がってくる音が聞こえ出して焦った。


どっどっ、どうしようっ!!!!

焦りで手が滑って上手く着れない!!


着替えを完了させた井坂君も同じよう焦ると、落ちていた私のシャツを手に取って、上からかぶせてきた。

私はなんとかそれに袖を通して、ショートパンツを履くと、手で髪の毛を整えた。


「拓海?お客さん来てるの?」


私がなんとか着替えを完了させた直後、扉が開く音と共に優しそうな印象の女性が顔を覗かせてきて、私は思わず立ち上がって起立で固まった。


あ、あ、あ、あ、危なかった!!!


私が冷汗をかきながら、扉の前に立つ私よりも少し背の低いお母さんを見つめた。

年はうちのお母さんと同じぐらい…それか少し上…?

綺麗に染められた濃い茶髪がすごく上品な雰囲気を漂わせている。


「か…母さん…。なんで今日こんなに早いわけ…?」

「なんでって、お教室が中止になったのよ。それで、あなたの誕生日だからと思って早めに帰ってきたのに…。あら…?そちらのお嬢さんは??」


私は井坂君のお母さんから目を向けられて、慌ててお辞儀する。

井坂君が焦って私の隣にくるのが伝わって顔を上げる。


「おっ…俺の彼女で…。谷地詩織さん。」

「初めまして…。谷地詩織です。」


私は挨拶する声が震えてきて、まっすぐお母さんが見れなかった。


こんな形で対面するなんて…!!


私は手土産も何もない状態が悲しかったけど、とりあえず印象よく笑顔だけは浮かべていた。


「彼女…って…。以前ゼリーを持って来てくれたお嬢さんね?」


井坂君のお母さんは優しげな笑顔を浮かべると、私の前に近寄って来た。

私は覚えてもらっていた事が嬉しくて、自然と頬が緩んだ。

緊張が解けてきて、肩の力が抜ける。

井坂君も同じようで、「そう!!そうだよ!」と言って笑っている。


「こんな息子と付き合ってくれて、ありがとう。正直で優しいだけが取り柄の子だけど、これからもよろしくね。」

「いえ!!私の方こそ、た…拓海君には色々お世話になりっぱなしで…。こちらこそ、よろしくお願いいたします!!」


私は優しいお母さんに嬉しくなって、しっかりと頭を下げた。

すると、お母さんが井坂君に向き直って、笑顔のままで言った。


「拓海。どうして彼女が来るって言わなかったの?」

「え…。だ…だって…、どうせ会わないだろうと…思ってたし…。」

「それはどういう意味?私がいない時間を分かってて、彼女を呼んだってことよね?」

「だ…それは…。その…。」


井坂君がお母さんに問い詰められて、困ったように顔をしかめている。

私はさっきまでの優しい笑顔なのに、雰囲気がすごく怖く感じて息をのんで見守ることしかできなかった。


「ねぇ、拓海。私はね、あなたは陸斗とは違うと思って、何でも信用してきたのよ。」

「…??」


井坂君が首を傾げてお母さんを見つめていると、お母さんが部屋を見回してから言った。


「あなたはまだ高校生でしょ?それは分かってるわよね?」

「…?分かってるけど?」

「それなら、高校生らしいお付き合いをなさい。陸斗の真似をすんじゃありません。」


お母さんが語気を荒げてピシャリと言い切って、井坂君が肩を震わせるのが見えた。

するとお母さんは私に目を向けると、ニコッと微笑んで言った。


「この子が色々とごめんなさいね。後でお詫びにアイスを持ってくるわね。」

「あ…いえ。」


お母さんはそれだけ言うと、背を向けて扉に向かっていって、出るときにふっとこっちに振り返ると、私を見て服を指さした。


「シャツ、後ろ前になってるわ。直した方が良いわよ。扉は開けておくわね。」


お母さんに指摘されて、私は自分のシャツを見て心臓が飛び上がった。

井坂君も同じようで、目を剥いてお母さんを見つめている。

お母さんはふふっと笑ったあとに、扉を開けたまま階段を下りていって、足音がここまで聴こえてきた。

そして足音が聞こえなくなると、私たちは同時にその場にへたり込んだ。


びっくりした…びっくりした…びっくりしたっ!!


私は慌ててシャツの向きを変えながら、恥ずかしさで顔が真っ赤だった。

井坂君も顔を手で覆って真っ赤になっているようで、耳が赤いのが目に入った。


「マジで、ごめん。ほんっとにごめん。帰ってくるなんて思わなくて…。」

「ううん。それはいいんだけど…。」


私はお母さんに何をしてたのかバレてしまった事の方が気がかりだった。

どう見ても全部分かってて、井坂君に注意していた。


今後、この家には来られないかもしれない…


私はお母さんに合わせる顔がないと思って深く項垂れたのだった。






実家だとこういう事があるかな~っと思って書きました。

詩織が大きく成長した回でした。

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