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理系女子の恋  作者: 流音
65/246

63、頭痛


修学旅行 最終日―――――


私は昨日のショックが消えなくて、最悪の気分で目を覚ました。

なかなか寝付けなくてしっかり寝た気分じゃない。

そのせいか頭がハッキリしなくて痛いような気もする。

私はベッドから抜け出すと、顔を洗おうと洗面所へ向かった。

そこの鏡で自分の顔を確認して、昨日に比べて二割減でひどいというのが分かった。


昨日の事を思い出すだけで胸が痛くなって、目の奥が熱くなる。


私は消えてくれない頭痛に顔をしかめると、朝ご飯の時にきちんと話をしようと決めたのだった。



そして、後から目を覚ましたあゆちゃんたちに心配されながらも身支度を整えると、私たちは制服で朝ご飯の会場へ向かった。

そのとき、入り口で井坂君たちの班と会ったので、私はチャンスとばかりに井坂君に駆け寄った。


「おはよう。」

「おはよ。」


私が挨拶しても井坂君は視線を合わせてくれなくて、私はこっちを向いてもらおうと井坂君の腕に触れた。

すると、井坂君が驚いたように振り払ってきて、私は手を出したままその場に固まった。

井坂君はハッと何かに気づいたように私をちらっと見ると、口を引き結んで慌てて中へ入っていってしまった。

私は拒絶された事がショックでその場から動けなくなる。


やっぱり…嫌われたんだ…


私はそう確信して胸が張り裂けそうに痛くなる。

今にも涙が出そうで息を吸いこむとなんとか堪える。

すると横からあゆちゃんたちが心配そうに覗き込んできて、私はせっかくの修学旅行に心配をかけさせたくなくて無理やり笑顔を作った。


「朝ごはん食べに行こ?」

「……うん。」


あゆちゃんは私の強がりに気づいていたかもしれないけど、笑顔を浮かべて頷いてくれた。

私はそんな彼女に救われながらも、頭と胸が痛くて気分はどんどんと沈み込んでいった。



そして、私は朝ご飯を食べるものの、あまり喉を通らなくて、早々にお箸を置くと隣に座っていたタカさんに声をかけた。


「ごめん。私、先に部屋に戻るね。」

「しおりん。大丈夫?起きたときから、なんか変だよ?」

「大丈夫。ちょっと頭が痛いだけだから。」


私は心配をかけないように笑顔で告げると、痛む頭を押さえて会場から出た。

ズキズキとこめかみが脈打つのに合わせて痛む。

私はなんとかバスに乗るまでには回復したいと思って、部屋で休もうと足を進める。


そのときロビーの椅子で騒ぐ声が耳に飛び込んできて、私がそっちに目をやると一組女子と一緒にいる井坂君が目に入った。

私はその光景に心臓が震えた。


井坂君はうっすらと笑っていて、女の子のボディタッチだって気にしてないようで平気で触らせている。

私は拒絶された事を思い出して、この差は何なんだろうとサーっと熱が引くのが分かった。

井坂君の腕に触れてる女子の手から目が離れない。


私の手は振り払ったのに…

…なんで………私は…


もう自分が井坂君にどう接すればいいのか分からなくなって、私はギュッと手を握りしめる。

それと同時に自然と目に涙が溜まってきて、それを手で隠すと私はその場を逃げるように後にした。

涙を拭いながら階段を駆け上がると、途中で島田君とすれ違って声をかけられた。


「谷地さん?どうしたの?」

「ごめん。何でもない。」


私は泣き顔なんか見せたくなかったので、足を止めずに階段を上った。

島田君は話しかけられたくない私の気持ちを察してくれたのか、それ以上は訊いてこなくて、私は部屋まで走って戻った。

そして扉を閉めると、私はその場にへたり込んでしばらく涙を零したのだった。




***




それからバスで水族館へ移動する間も、私は気分が最悪で頭痛もひどくなってきていた。

私は隣に座っているタカさんに頭痛薬を持ってないか尋ねて、タカさんは丁度持ってると言ったので、私はそれをもらって水で飲んだ。


これでなんとか今日一日はもつかな…


私はそう思って窓の外に視線を向けていたのだけど、水族館につく直前から気持ち悪くなってきて、何だか気分がより悪化したのだった。


私たちは水族館に到着すると、それぞれ班で回るように指示されて、あゆちゃんが赤井君と回りたいとの希望で、私は気まずいながらも赤井君の班と一緒に回ることになったのだった。

今日は一度も井坂君と目が合わなくて、相当嫌われたことだけは分かった。


もう…終わりかな…


私はその考えが度々過って、その度に気持ち悪くなってグッと口を引き結んで堪えた。

すごく綺麗なはずの水族館も綺麗に見えなくて、全然楽しくない。

これなら去年の夏休みに行った地元の水族館の方が楽しかったな…と思った。


私はぼーっと大きなクジラの泳ぐ水槽を眺めて、気持ち良さそうだな…と現実逃避する。

クジラはきっとこんな悩みなんかないのだろう。

ゆっくり泳ぐ姿からも、時間がゆっくり流れてるように感じるし、人生を余裕で送ってる感じだ。


いいなぁ…


私はクジラみたいになりたいと考えてフッと微笑んだ。


「谷地さん!!何やってんの!?」


急に横から声がかかって、私が現実に戻ると島田君が息を荒げてこっちにやって来た。


「どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ!!皆、もっと先に行ってるっていうのに、一人だけいないから心配したんじゃん!!」


私は自分がどれだけぼーっとしてたのか時間間隔がおかしくなっていて気づかなかった。


「ごめん。気づかなかった。行こっか。」


私は少し頭を下げて謝罪すると、進もうと足を動かした。

すると島田君に腕を掴まれて、私は彼に顔を向けて足を止めた。

島田君は苦しそうに顔をしかめて俯いていて、私は首を傾げて彼の様子を窺った。


「井坂…のことだろ?そんなになってんの?」


私は井坂君の名前が出ただけで胸が痛くなって、視線を逸らした。

島田君は一歩近づいてくると、真剣な表情で言った。


「…何があったか知らないけどさ…、谷地さんはそんなに思いつめなくてもいいと思うよ。」

「……どういう意味?」


島田君は井坂君の何かを知っているのか頬を掻きながら、言葉を選びながら口を開いた。


「…その…少し時間が必要なんだと…思う。あいつもあいつなりに…何か考えてるみたいだし…。谷地さんの事…嫌いになったとかそういうんじゃないからさ…。」

「何でそんなこと分かるの…?」


私は井坂君をフォローする島田君の発言に、今まで溜まり溜まった鬱憤を吐き出した。

島田君が驚いたような顔で私を見つめてくる。


「嫌いじゃないなら…何で避けるの?何で話をしてくれないの?…なんで…他の女の子には触らせて…私は…っ…ダメなのっ…!?」


私は抱え込んだ疑問を吐き出して、目から勝手に涙が溢れてくる。


なんで…?…どうして…?


そればかりが頭に浮かんで消えていく。

答えは井坂君から返ってこない。

だって話をしてくれないんだから…


私はこんな事を島田君に言っても仕方ないのは分かってた。

でも、口に出してしまったら止まらなくなった。


「私が何かした?…私の顔を見たくもなくなるような…嫌がる事…。…ちゃんと言ってくれなきゃ分からない…。分からないんだよっ…。」


私が手の甲で涙を拭うと、目の前の島田君の顔が辛そうに歪むのが見えた。

言う相手を間違えてる。

私は彼の顔を見てそう気づいて、口を噤むとゴシゴシと顔を拭って無理やり笑顔を作った。


笑え…笑え…


私は自分の唯一の取り柄を絞り出すと、顔を隠したままで謝った。


「ごめん。今の忘れて…ただの独り言だから…。」


私はそう言うと皆と合流しようと足を進めた。

するとその道を塞ぐように島田君が立ち塞がってきて、私はまだ涙の残る目で彼を見上げた。

島田君は今にも泣きそうな顔でギュッと眉間に力を入れていて、私の顔をじっと見ると口を開いた。


「あいつとちゃんと話をしよう!!」

「え…?」


島田君はガシッと私の手を掴むと、その手に力を入れて言った。


「あいつ…きっと自分の事でいっぱいいっぱいで、谷地さんの気持ち見失ってる。このままダメになるなんてダメだ!!ただすれ違ってるだけなんだ!!ちゃんと話をすれば、なんとかなる!!」


島田君は怒ったように告げると、私の手を引っ張って歩き出して、私は引っ張られた瞬間、急に立ちくらみがして彼の方へ身を預けた。


「谷地さん??」

「ご…ごめ…。頭が…。」


私は頭を押さえて態勢を整えようとすると、急にズキンッと頭がきつく痛んで顔をしかめた。

一人では立っていられなくなって島田君にもたれかかってしまう。


「谷地さん?大丈夫?」


島田君が不安そうな声で声をかけてくれながら、支えてくれてるのが感触で分かる。


「いっ…!!」


私は痛みで目尻が涙で滲んでくる。

こんな頭痛は初めてのことで、どうすれば楽になるのか分からない。

私は手で押さえるしかできなくて、苦しさに耐えていた。

すると、急に浮遊感が襲ってきて、後から島田君が私を少しだけ浮かせるように抱き上げたのが分かった。


「先生のとこ、連れてくよ。俺の首に手回して!!」


焦った島田君に指示されて、私は言われた通りに手を回した。

それを確認した島田君が走り出したのが振動で伝わってきて、私はぼやけた視界の中で先生をどうやって見つけるのかなと考えていた。

そのときまた井坂君が女の子に囲まれてるのが見えて、私は幻覚だといいと思いながらジワ…と目尻が濡れてきた。


そしてしばらくすると、あゆちゃんたちの声が聞こえてきて振動がおさまった。


「救護の先生知らない!?」

「えっ!?詩織!?どうしたの!?」

「なんか頭痛くなったみたいでさ。とりあえず運んできたんだけど。」

「井坂はどこ行ってんの!?あのバカ!!」

「とにかく先生だって!知らないのかよ!?」


島田君とあゆちゃんのやり取りが聞こえていて、私は痛さを超えて頭がぼーっとしていて薄く目を開けるぐらいしかできなかった。


「とりあえず最後まで行けば誰かいるんじゃねぇ?」

「そうだよな。とりあえず、行ってくる。」

「待って!私も行くよ!!」


また走る振動が伝わってくると、今度は誰かが走る音も聞こえてきた。

きっと足音が軽いのであゆちゃんだと思う。

私は額にジワ…と汗をかいていて、ぼーっとする頭の中で井坂君の姿がちらついて悲しくなった。

どうして井坂君はいないんだろう…

私は島田君の肩に目を押し付けると、悪いとは思ったけど涙でシャツを濡らしてしまった。


こんなに迷惑かける自分が大嫌いだ…


私は何もかも上手くいかない事に嫌気が差してしたのだった。



そして視界が明るくなると、水族館の外に出たようで振動が収まった。


「先生!!谷地さんが頭が痛いって!!」

「は?谷地?大丈夫なのか?」

「それを診てくださいよ!!」


誰だか分からないけど男の先生とのやり取りが聞こえたあと、私は椅子に下ろされるのが分かった。

そのときに頭がガンガンし出して、私は手で頭を押さえて顔をしかめた。


「詩織、平気?」

「う…平気じゃない…かも…。」


私は声を出すのも響くので、小声であゆちゃんの声に答えた。

すると冷たくて細い手が額に当たるのが分かって、私は目を開けた。

目の前には保健室の先生がしゃがんでいて、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。


「少し…熱があるかもしれないわね。どう?体はだるい?」

「…だるくはないけど…ちょっと気持ち悪いです…。」

「そう。ここで寝るわけにもいかないし…バスまで移動しましょうか。立てる?」


先生の言葉に頷くと、私は立とうとあゆちゃんの手を借りた。

そのとき走ってくる足音が聞こえて、それと一緒に名前を呼ばれた。


「詩織っ!!」


私が立ち上がって目を向けると、井坂君が息を荒げてこっちを見ていて、私は足元がフラついた。

そのときに横にいた島田君が支えてくれる。


な…何で今来るの…?


私は気分の良くないときに見たくなかったと顔を背けた。

すると、井坂君が近づいてくるのが気配で分かって身を縮めた。


「先生!!詩織、どこ行くんですか!?」

「今からバスに移動するところよ。椅子を倒して寝かせてあげた方が良いと思って。」

「俺が運びます!!」


キッパリと言い切った声が聞こえて顔を上げると、真剣な顔の井坂君が近づいてきて、私の腕を掴んだ。


「ひゃっ!!」


井坂君は私の腕を首を後ろに回すと、ひょいっとお姫様だっこしてしまって、私は井坂君の首にしがみついた。

急なことに頭痛よりも恥ずかしさが上回って、心臓がバクバクと大きく鳴り始めた。

先生は「じゃあ、お願いするわね。」と言って歩き出すし、私は井坂君の考えてる事が分からなくて眩暈が復活してきたのだった。








二人のすれ違いも次で解消します。

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