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理系女子の恋  作者: 流音
64/246

62、避けられる


私がやっと落ち着きを取り戻してあゆちゃんたちと合流すると、あゆちゃんが急に私の肩を掴んでしゃがませるように力を入れてきた。


「な、な、何??」

「あんた!!なんて格好で来てんの!?」

「へ?」


あゆちゃんの焦る意味が分からなくてポカンとしていると、あゆちゃんが私の持っていたパーカーを奪って着せてきた。

私はデジャブな行動に目をパチクリさせていると、あゆちゃんが私に身を寄せて言った。


「井坂と仲直りしたのは良いけど、コレはないでしょ!!」

「コレ?って何?」


私が尋ねると、あゆちゃんは私の胸を指さしてきた。

あゆちゃんが指さした場所は赤くなっていて、蚊にでも刺されたのだろうかと思った。

でも、痒くないし変だな…と思ったら、あゆちゃんがチャックを閉めて見えなくした。


「井坂の仕業だと思うけど、惜しげもなく晒すな!!恥ずかしい!」

「…???井坂君の仕業って何で?虫刺されだよね?」


私の言った言葉にあゆちゃんは思いっきり顔を歪めると、スパンと頭を叩いてきた。


「おバカ!!これはどう見てもキスマークでしょうが!!あんた、井坂にされたんじゃないの!?」


キ…キスマーク…??


私は聞いたことのない言葉に首を傾げた。


井坂君にされたって…


私はそこまで考えて、思い当たる節があっただけに目を見開いた。


「ま…ま……まって…。…え!?!?!」

「分かればよし。という事で、今日はパーカー脱いじゃダメだよ。」


あゆちゃんは私の反応に満足そうに頷くと、ビーチバレーに戻っていってしまう。

私はさっきの事を思い返しながら、アレって痕が残るものなの!?と初めての事に恥ずかしくなったのだった。





***





私は結局、例のキスマークとやらのせいで蒼い海を目の前に一度も入る事ができなかった。

それがすごく残念で大きく息を吐いてホテルに戻ると、ちょうど玄関で井坂君が赤井君たちと話してるのが見えて駆け寄った。


「井坂君!」


私が声をかけると井坂君は驚いたように目を見開いた後、不自然に私から目を逸らしてしまった。

私はその行動の意味が分からないまま、とりあえず海での『悪い』の言葉の意味を知りたくて口を開いた。


「井坂君、あのね…海でのことなんだけど…。」

「悪い!!ちょっと用事思い出したから!!」


井坂君はそれだけ言うと逃げるように走り去ってしまって、私は呆然とその背中を見つめた。

私が傍にいた赤井君と島田君、北野君に目を向けると、彼らはこの呆気にとられた空気を和らげるように笑い出した。


「あはははっ!用事って何なんだろうな~?」

「だよな。あいつ、班長ってわけでもねーのにおかしな奴!!」

「谷地さん、あいつ修学旅行でテンションが変なんだよ。また後で声かけてやってくれるか?」


島田君が私を気遣うように言ってくれて、仕方なく頷いて「そうする。」と答えた。

そして井坂君がいなくなった方向を見つめて、今度は話ができるのか不安になったのだった。





***




その後、私の不安は的中してしまって、晩御飯のときも廊下ですれ違ったときもあからさまに井坂君に避けられ続けた。

私は何か気に触る事をしただろうかと考えて、海での事しかないとの結論に至った。


井坂君がしたいと思った事を嫌がってしまった。

彼の体を押し返そうと抵抗した事が井坂君を傷つけたのだろうか…?

私はアレが原因で避けられてるなら、なんとか嫌じゃなかったという事だけでも伝えたいと思った。


そんな事を悶々と考えていると、二日目最後の天体観測が始まって、私たちはホテルの屋上に集まって夜空を見上げていた。

解説の係員の人が星の名前を言いながら、説明しているのを聞く。

私はその声をBGMのように聴きながら、夜空を見上げて星の数に少し気持ちが浮き上がった。

沖縄の夜空は綺麗で、星がたくさんあって地元とは全然違う。

キラキラと光る星を見て、井坂君に話しかける勇気が少し芽生えてくる。


夏の大三角だという説明を耳に目を閉じると、誰かが横に座った気配がして顔を横に向けた。

するとそこには珍しく西門君がいて驚いた。


「どうしたの?」

「どうしたのはこっちのセリフ。なんか井坂君から避けられてない?」

「あー…ははは。まぁ、色々あって…。」


あれだけあからさまだとさすがに周りにも気づかれたか~と思って、私は渇いた笑いで返した。

西門君はふーっと長いため息をつくと、夜空を見上げて言った。


「しおの事だから何か我が儘でも言ったんじゃねぇの?」

「わっ…我が儘なんか言ってないよ!」

「どーだか。変に我が強いからな~、しおは。」


西門君は幼い頃からの私の姿を知ってるだけに、飽きれた様に言う。

私は自分の行動を振り返ってそんな事してないはずだと思ってむくれた。


「しないよ。好きな人の前で我が儘なんか言ったら、嫌われちゃう…。私は…井坂君に嫌われたくないし…。」


私は井坂君の目が自分を映さなくなったらと思うと、怖くて身震いがした。

西門君はふっと笑うと、その場にゴロンと寝転んだ。


「しおも大人になったなぁ~。そんな事思ってるなんて知らなかったよ。」

「そりゃ、色々経験してるもんね。」

「ははっ!言えてる。恋愛に関しては僕よりスペシャリストだもんなぁ?」

「なんならアドバイスしよっか?お代はいただくけど。」

「対価とんのかよ!!」


西門君が楽しそうに笑っていて、私は二人でこうして話すのはいつ以来だろうかと思った。

井坂君と付き合い始めてからは井坂君とばかり一緒にいるので、西門君とは少し距離があった。

でも、多少話さなかったからって幼馴染の関係が切れるわけではない。


私は気軽に話せる幼馴染というポジションの西門君に安心感があって、彼に感謝しないとなと思って笑顔を向けた。


「話聞いてくれて、ありがとう。私の様子が変だったから、ここに来てくれたんだよね?」


西門君は少し目を見開くと、少し照れて顔を背けた。


「しおはすぐ態度に出るから、分かりやすいんだよ。そういう所は子供なんだからさ。」

「あはは。そうだね。気心の知れた幼馴染がいて、助かってます。」

「幼馴染…ね。まぁ、ケンカもホドホドにしときなよ?」

「はーい。今日中には仲直りします。」

「ホントかな~?」

「ホントだよ!!」


私たちは顔を見合わせて笑うと、「そこ、静かに!!」と先生に注意されてしまった。

二人で正座して小さくなると、今度は声を殺して笑い合って、小さい頃に戻ったようで楽しかったのだった。





***





そして、天体観測が終わり、昨日よりハイペースでお風呂に入ると、あゆちゃんたちはまだゴタゴタしていたので、私は先に部屋に戻ることにした。

彼女たちに先に戻ることを伝えて脱衣所から廊下に出ると、おもむろにケータイを取り出す。


今日は呼び出しが来るのだろうかと思ってケータイを開くが、メールは来てなくて私はふっと息を吐いてまっすぐに階段を見つめた。


今から井坂君の部屋に行く?

私は連絡もきてないのに行くのは躊躇われたが、このまま避けられ続けた修学旅行ではイヤだと思って、意思を固めた。


階段を駆け上って男子部屋の並ぶ廊下をコソコソと小走りで移動して、赤井君から聞いていた部屋番号の扉をノックした。

幸い廊下には誰もいなくて、時折部屋から漏れる男子の騒ぐ声が聞こえる。

そうして中から誰かが出てくるのを待つと、「はいはい。」という声と共に赤井君が顔を出した。

赤井君は私の顔を見て一瞬固まったあと、笑顔を浮かべると「井坂だよな?」と聞いてきて私は頷いた。

赤井君は扉を大きく開けると「入って。」と促してきて、私はドキドキしながら中に足を踏み入れた。


「井坂ー。谷地さん来てるぞー。」


赤井君は扉をきっちりしめると枕投げでもしてるのか、白いものが飛び交う奥の部屋に目を向けた。

すると井坂君がお風呂上りなのかいつもと違う少し乱れた髪型で奥の部屋から顔を覗かせた。

私は彼に固い笑顔を向けて軽く手を振った。


それに井坂君は少し俯くと、今度は私と話をしてくれるのか口をもごつかせながら私の前までやって来てくれた。

それを見て少しだけ安心すると、私は胸のもやもやを尋ねた。


「井坂君…。あのね、海でのことなんだけど…。悪いってどういうこと…かな?…私…その…嫌がっちゃったから…謝られる意味が分からないっていうか…。」


私が思いつくことを口に出すと、井坂君の顔がみるみる歪むのが見えて、私はこれ以上聞くのをやめた。


……そんな顔されるほど…傷つけた…?


私は井坂君の辛そうな顔を見てたくなくて、井坂君から目を逸らして下を向いた。

どうしよう…私まで泣きたくなってくる…

私は気まずい沈黙から前みたいに井坂君と話せないんだろうかと不安になって、目の奥が熱くなってくる。

すると急に背後の扉が開いて北野君が焦った様子で入ってきた。


「ヤバい!!勝田来た!!」


北野君は入るなりそう叫んで、私がいるのに気付くと顔を青くした。


「何で谷地さんがいんの!?」

「え…。」


北野君は慌てた様子で私の背を押し始めて、私は押されるがままにスリッパを脱いで中に入った。

入るなり北野君は井坂君に「谷地さん隠せ!!」と指示して、私は傍で黙ってる井坂君を見上げた。

井坂君は一度手を出して私の手を掴もうとしたが、途中で引っ込めると「来て。」とだけ言って奥に向かってしまう。

私は今までの井坂君らしくない行動にショックを受けて足が動かなかった。


私のこと…嫌いになった…?


私はその考えが浮かんできて、胸が痛くて息が浅くなる。

するとぼーっとしてる私を見兼ねてか、北野君が私の手を引っ張ると強引に井坂君に私を押し付けて言った。


「お前の彼女だろ!?一緒に隠れろって!!」


後ろから北野君に押されて井坂君と密着して私が息をのんでいると、井坂君が焦ったように私を押し返してきた。


「わっ!!」


私は足をもつれさせて、島田君と赤井君の前で尻餅をついた。


「……井坂??」


北野君が私を拒絶した井坂君を見て目を剥いて驚いている。

私もここまでされると思わなかったので尻餅をついたまま、井坂君から目が離せない。

嫌われたと確信して体を支えている腕が震えてくる。

井坂君は一向に私に目を向けないし、部屋の空気が凍りつき誰も言葉を発さない。


すると隣の部屋に勝田先生が来たのか壁越しに怒声が聞こえて、ハッと我に返った北野君が「電気消すぞ!」と言って部屋の電気を消した。

それを合図に赤井君たちが布団に潜り込むのが分かって、私はどうしようと思っていると横から腕を掴まれた。


「谷地さん、こっち。」


声から島田君だと分かって私は腕を引かれるままに島田君の布団に潜り込んだ。

井坂君の物とは違う柑橘系の匂いがして、私は距離の近い島田君に変に緊張する。

緊張しながら何で自分がこんな状況になってるんだと改めて考えた。


北野君は勝田先生が来ると慌てていた。

きっと消灯前の見回りなのだろう。

その見回りで怒られるのを逃れるために、こうして寝たふりをしているのだろうか…

私はそう自分の中で整理して、もし自分が見つかったらどうなるんだろう…と考えて冷汗が出てくる。


私一人が怒られるならまだしも、赤井君たちまで巻き込んでしまう事になる。

私はそれだけは何とか避けたいと思ってギュッと目を瞑った。


すると私の後ろ頭に手が回ってグイッと島田君の方へ引き寄せられて、私は息を止めて目の前の島田君のシャツを見つめた。

島田君は「大丈夫。」と呟いて、私の頭を自分の体に押し当ててきて、私を守ろうとしてくれてることが伝わってきた。

でも私は井坂君以外の男の子にこんな事されてる罪悪感でいっぱいで、早く離れたくて仕方なかった。


そうして私が複雑な心情にモヤモヤしていると部屋の扉の開く音がして、勝田先生の「ここはもう寝てるのか…。」という呆れたような声が聞こえた。

それを合図に誰かがわざとらしいいびきを出し始めて、私はそれのせいでバレるんじゃと思ったが、先生は部屋の中まで入って来ることなく扉を閉めていってしまったようだった。


しばらく本当に先生は行ってしまったのかという緊張した空気が流れて、最初に動いたのは北野君だった。

彼がおそらく入り口を軽く開けて様子を見たのか、「大丈夫だ。」という声と共に部屋に電気がつく。

そのとき島田君が私を放してくれて、私は布団から出るときに彼に「ありがとう。」とお礼を言った。

島田君は余程緊張していたのか頬が赤くなって汗までかいていて、申し訳ない事をしたな…と俯いた。

そのとき突き刺さるような視線を感じて振り返ると、井坂君が睨むようにこっちを見ていて、私はゴクリと唾を飲み込んで固まった。


やっと目が合ったと思ったら…睨むなんて…

そんなに嫌われたのかな…?


私は今にも泣いてしまいそうになって、グッと堪えると顔をしかめて立ち上がった。


「ごめん。私、帰るね…。お邪魔しました。」


「えっ!?谷地さん、用事済んだわけ!?」


私が落胆と諦めを抱えて扉に向かって歩くと、赤井君が引き留めてきて、私はちらっと井坂君を見てから作り笑顔を浮かべた。


「うん。…もう、いい。」


赤井君は私と井坂君の距離間が分かっていたのか、深くは突っ込んでこなくて、困ったような顔を浮かべただけだった。

私は彼らの空気まで悪くしてしまったようで申し訳なかった。


そして井坂君には一度も引き留められないまま部屋を出ると、私はこのままダメになるんだろうかと嫌な考えが浮かんでジワ…と目の端に涙が浮かんだのだった。







すれ違い勃発です。

しばし気まずい状況になりますが、見守ってください。

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