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理系女子の恋  作者: 流音
63/246

61、海


修学旅行二日目――――


私は部屋で身支度を整えながら、意識はぼーっとしていた。


あんな感覚初めてだった…


私は昨夜のことを何度も思い出しては、首筋に手を当てる。

井坂君の唇が触れた所は熱くて、『もっと』触ってほしいなんて思ってしまった。

私は熱くなる頬を気にしながら、頬にキュッと力を入れて髪を梳かした。


そのとき上機嫌のあゆちゃんがやって来て、同じように鏡を覗き込んできた。


「あれ?なんか詩織、可愛くなってない?」

「えっ?」


あゆちゃんに言われて、私はじっと鏡で自分の顔を確認するが何も変化はないように見える。

するとあゆちゃんが軽く笑いながら私の肩を叩いた。


「あははっ!そういう意味じゃないって、雰囲気がなんか女の子って感じに見えたの。女の私でも一瞬ドキッとしたよ~?」

「そ…そうかな…?」


私は褒められて嬉しかったけど、自分では全然実感がなかったので複雑だった。

そして今日の髪型はどうしようか考えていると、鏡に映ったあゆちゃんが嬉しそうに笑ったのが見えた。


「詩織もこうして可愛くなろうと努力するなんて変わったよねぇ~。どんどん可愛くなる詩織に井坂も焦ってるだろうなぁ。今日の海水浴では水着で驚かしてやろうね!!」

「あはは…焦らせることができたら、どれだけいいか…。」


私はいつも余裕な井坂君が焦ってる姿なんて見てみたいと思った。

昨日だって私だけがいっぱいいっぱいで井坂君は普通に「また今度」と言っていた。

自分ばっかりがどんどん井坂君にどっぷりとハマっていくようで、ちょっと悔しいぐらいだと髪を纏めながら思ったのだった。





***




そして午前中はバスで移動をすると、目的地であるビーチへと到着した。

今日泊るホテルに荷物を置くと、それぞれ水着に着替える事になった。

私はあゆちゃんと一緒に買いにいった水着に着替えると、上からパーカーを羽織った。

あゆちゃんも水着の上にカーディガンを羽織っていて、スタイルの良い彼女に羨ましくなった。


「あゆちゃんってスタイル良いよね…。いいなぁ…バランス良くて…。」

「それを言うなら詩織でしょ!?何、その足!!嫌味!?」

「足って…、それだけじゃん。」


私はもう少し胸のボリュームが欲しかっただけにため息をついた。

すると、あゆちゃんが私を指さして言った。


「詩織は自信なさすぎ!!その足にどれだけの男子が触りたいって思ってるか分かってない!!」

「なっ!?そんなわけないでしょ!?」

「そんなわけあるのよ!!なんなら賭ける?」

「賭け?」


あゆちゃんがニヤッと笑って言って、私はどういう賭けなのか聞いてみることにした。


「井坂に足触りたいか聞いて、触りたいって言ったら、私の勝ち。別にとか微妙な反応だったら、詩織の勝ち。どう?」


私は井坂君の姿を想像して、「触りたい。」とか面と向かって言う姿が出てこないだけに、その賭けにのる事にした。


「分かった。いいよ。じゃあ、私が賭けに勝ったら、今後私たちの仲に首を突っ込んでこないって約束してくれる?」

「そんなのでいいんだ?じゃあ、私が勝ったら…今日の夜は帰ってこないでね?」

「…へ…?」


私はあゆちゃんの言ってる意味が分からなくて訊き返した。

あゆちゃんはにんまりと笑うと、私の肩を叩いた。


「赤井たちに頼んで、井坂と二人で一晩過ごしてもらいます!!」

「え…えぇぇぇっ!?!?!」


私は驚きすぎて壁に背をつけて声を張り上げた。

あゆちゃんは腰に手を当ててふんぞり返ると、ふんっと鼻から息を出して言った。


「これは詩織のためなんだから!!大体、賭けに勝てばいいのよ!分かった!?やるって言ったのは詩織なんだからね!!」

「でっ…だって!!そんなっ…!!」


私はこんな事になるとは思わなくて泣きそうだった。

あゆちゃんは楽しそうに笑うと、「彼氏を信じなよーっ!」と言っているし、私は井坂君の答えに頼みの綱を賭けるしかなくなったのだった。




***




そして、先生にいくつか注意されたあと、私たちは自由時間となり、それぞれビーチに散らばっていった。

私はあゆちゃんに背を押されながら、井坂君の所へ連れて行かれて、私は彼の眩しい姿に直視できなかった。

球技大会のときにも思ったけど、井坂君って程よく筋肉がついてて逞しい。

私は裸の上半身を見て真っ赤になった。


「井坂!!詩織が聞いて欲しい事があるんだってさ!」

「え…?何??」


私は自分から訊くの!?とあゆちゃんに振り返ったら、あゆちゃんは「パーカー脱げ」と手で示してきて、私は不思議そうな顔をしてる井坂君を見て、チャックに手をかけた。


もうなるようになれ!!


私はパーカーを脱いでフリルのついたビキニの水着姿になると、一気にまくし立てるように尋ねた。


「いっ…井坂君はっ…わっ私の足に触りたいって思った事ある!?」


私は心臓がバクバクいっていて、『ない』という返答を期待した。

私はまっすぐ井坂君が見れなかったので、俯いて耳を澄ませた。

すると私の耳に井坂君以外の囃す声が聞こえて、「足なげーっ!」とか「別人みてー。」とか色々と私の姿の感想が聞こえてきた。

井坂君はなかなか返事をしてくれなくて、私は息も苦しくなってきて顔を上げると、井坂君が今までにないほど真っ赤になっていて驚いた。


あれ…??


井坂君と視線が合った瞬間、彼は腕で顔を隠すと、踵を返して海に向かって走り出した。


「え…??」

「あれ??」


残された私とあゆちゃんはポカンとしながら、お互い顔を見合わせて、返事が聞けなかったことにどうしようかと首を傾げた。

あゆちゃんは眉をひそめて笑うと、私を見て言った。


「賭けはなしだね。ほら、井坂を追いかけないと、珍しい顔してたんだからさ。」

「あ…うん。ありがと。あゆちゃん!」


私はパーカーを手に走ると、井坂君の姿を探した。

彼は足が速いのでどこにいったのか分からなくなった。

探しながらビーチを歩いていると、西門君と瀬川君が話しているのが見えて声をかけた。


「ごめんっ!井坂君、見なかった?」

「わっ!!誰かと思ったら谷地さん!!すっげー可愛いじゃん!!」

「しお!!何て格好してんの!?」


二人から真逆の感想が飛び出して、私はそんな事どうでも良かったので、「井坂君知らない!?」ともう一度尋ねた。


「えー?俺らは見てねーよなぁ?」

「うん。っていうか、何で一緒にいないわけ?」

「それは…ちょっと色々あって…。」


私は井坂君が走って逃げてしまった理由が私自身分からないだけに、曖昧に誤魔化した。

すると瀬川君が私の腕を掴んで、ケータイを手に言った。


「写真撮ろうぜ?せっかく、谷地さん可愛い格好してんだし。」

「え…。」

「僕はいいけど。」


瀬川君は近くにいた男子に「撮って!」とケータイを渡すと、私に近付いてきて、私は男子二人が近くて身を縮めた。

水着姿とはいえ、ほぼ裸みたいな状態でくっつくのは抵抗がある。

私は早く終われーっと思って固い笑顔をケータイに向けていると、カシャっと音のした後に横から腕を引っ張られた。

私を引っ張ったのは井坂君で、井坂君はもう全身が濡れていて、海に潜ってたんだと分かった。


「何やってんだよ!!服着ろよ!!」


井坂君は急に怒鳴ると、私が手に持っていたパーカーを奪って、私の肩からかけてチャックをしめてしまった。

私は腕を通してないので、身動きが取れなくなって戸惑った。


「え…ちょ…これ。」


私が自分の姿と怖い顔をしている井坂君を交互に見ると、井坂君は私の肩を掴んで大股で歩き出した。

私は逃げたのはそっちのクセに…と思いながら、怒っている井坂君に抱きかかえられるように足を進めた。

井坂君はしばらく無言で歩き続けると、人の騒ぐ声の届かない静かな岩場でやっと立ち止まった。

私は後ろにある林を見て、なんだかすごく不気味な場所だな…と思っていた。


「ねぇ…、コレ脱いでもいい?」


私は腕が使えないので、パーカーを脱いでも良いか尋ねた。

すると不機嫌な顔の井坂君が振り返って、小さく頷いた。

私はふぅと息を吐くと、モゾモゾしながら手を出してチャックを下ろした。

窮屈さから解放されて、動くのが楽になった。

そしてパーカーを適当に畳んでから、顔を上げると井坂君がまたさっきと同じ顔をしていて驚いた。


井坂君が……真っ赤になってる…


井坂君は赤い顔を隠そうとしているのか、濡れた髪を手でガシガシとかいていて、彼が動揺してる姿に胸が苦しくなってきた。


何これ…何コレ!!こんな井坂君初めて見る。


私は今だけは自分が優位に立てるかもしれないと思って、息を飲み込んで一歩近寄った。

すると明らかに井坂君がビクついて逃げようとするので、私は腕を掴んだ。


「待って!!何で、さっきから逃げようとするの!?」


井坂君は真っ赤な顔を惜しげもなく私に晒すと、顔をしかめて腕を振り払ってきた。

私はそれがショックで呆然としていると、背後でガサガサッと不気味な物音がして、私はお化け屋敷の事がフラッシュバックした。


「――――――っ!!!!」


私は林から逃げたい一心で井坂君に向かって体当たりした。


「ちょっ!!!!」


私は勢いのあまり井坂君を押し倒して、倒れた後に慌てて手をついて起き上がった。


「ごっ、ごめん!!」


私が顔を上げて井坂君を見ると、砂浜に寝転んだ井坂君とバッチリ目が合う。

私は井坂君としばらく見つめ合って、自分から初めて触りたいと思ってしまった。

心臓がバクバクといっていて煩かったけど、大胆にも自分から欲望のままに井坂君に唇を重ねる。


『もっと』井坂君が欲しい


私はそれが伝わるように吸い付くようにキスした後、井坂君を見つめた。


好きがどんどん積もっていく…。


井坂君はまだ真っ赤な顔のままで目を見開いていて、私は自然と笑みが漏れた。


「あははっ!」


井坂君もこんな顔するんだ。

私はこれが焦ってる顔かもしれないと思って笑いが止まらなかった。

すると急に頬を引っ張られて、強制的に笑いを止められてしまった。


「笑いすぎ。なにがおかしいんだよ。」

「わっふぇ…。」


井坂君はムスッとすると顔をしかめて、私は頬をつねられていたので変な言葉になってしまった。


「つーか。可愛すぎだから。襲うよ?」

「ふぇ?」


井坂君がいつの間にかいつもの意地悪な顔に戻って、私は嫌な予感が脳裏を過った。

私の予感通りで井坂君は上半身を起こしてくると、頬をつねったまま口付けてきて、私は鼻から息を吸った。

そのあと井坂君は私の頬から手を放すと、私の体に手を回してきた。

そして息をさせてくれる隙もないほど攻めてくるので、徐々に後ろに仰け反って、私の背中が岩場に当たった。

ここでいつの間にか形勢逆転してる事に気づいて、私は井坂君の肩に手を置いて押し返した。


「んっ…んんっ…!!」


でも井坂君は手を全然緩めなくて、私は昨日の感覚が戻ってきて体温が上がった。

すると今度は井坂君の手が太ももに触れてきて、私は体がゾワッと鳥肌が立ったあと目を見張った。


「んんっ!?」


井坂君が太ももを撫でているのが、くすぐったくて、でもなぜか気持ちよくて、自分がおかしくなりそうだった。

井坂君はやっと口を離してくれると、私の太ももに手を置いたまま言った。


「触りたいかって聞いたけどさ…、そんなん当たり前だから。足だけじゃなくて、全部欲しいんだよ。」

「―――――っ!?!?!」


井坂君の告白に今度は私が真っ赤になる番だった。

私が拗ねたような顔をする井坂君を見つめて、目を白黒させていると、彼はふっと微笑んだあと、今度は胸に唇を落としてきた。


「やっ…!!井坂君!?」


私は太ももと違って、さすがに胸は恥ずかしくて、井坂君の頭を抱えて抵抗した。

でも井坂君はやめてくれなくて、太ももから胸に手を移動させると、水着に指をかけてきて、私は心臓が爆発しそうに苦しくなった。

そのとき砂浜を走る音が近づいてくるのが耳に入ってきて、井坂君の手が止まった。


「井坂ーっ!!」


遠くから島田君の声が近づいてきて、井坂君は慌てて私から離れた。

そして何度か咳払いすると、「悪い」と呟いてから私にパーカーをかぶせて、走っていってしまった。

私は走り去る音を聞いてから、体の緊張を解いて、その場に力が抜けたようにズルズルと寝転んだ。


「し……死ぬかと思った…。」


このときの体験は私の壁に大きく亀裂を入れて、私はしばらくその場から動けなかったのだった。







これがきっかけで少し関係に変化が訪れます。


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