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理系女子の恋  作者: 流音
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58、球技大会


春の球技大会が行われるという事で、私はあゆちゃん、新木さん、アイちゃん、タカさんの五人でバスケにエントリーしていた。

私は大好きなバスケをできるので張り切って、ここ数日あゆちゃんに付き合ってもらって猛特訓をした。


やる以上は勝ちたい!!


私はジャージの上着を脱いで体育館の脇に置くと、第一試合に臨んだ。

相手は1-5で下級生だ。

普通クラスだけあって、みんな茶髪に染めていたり、ピアスを開けていたりと派手な子達だった。

私は全く真剣でない相手を見て、勝てると確信していた。

なんせこっちには現役バスケ部員が三人もいる。


やる気のない下級生になんか負けるか!!


あゆちゃんも同じ気持ちのようで、目がギラギラしている。

きっと今は下級生ってだけで敵対対象なのかもしれないけど…


私は自分が背が高いのもあってジャンプボール担当だったので、丸いサークルの中で味方のいる場所を確認した。

そしてピッという笛の音と共に、ボールが上がって私は思いっきりジャンプした。

相手より私の方が背が高かったというのもあり、私の手にボールがあたったので、あゆちゃん目がけて叩き落とした。

あゆちゃんはそれを受け取ってくれて、物凄いスピードでドリブルしたあと、あっという間に決めてしまった。

その華麗なプレーに私は見惚れてしまうぐらいだった。


あゆちゃんは人差し指を立てて「一本止めよー!!」と言っていて、私は頼もしい彼女を見て、自分もと気合を入れたのだった。





***




そして結果は当然のように私たちが勝ちを収めて、バレーも出場するあゆちゃんと新木さんとアイちゃんは第二体育館へ走っていってしまった。

私のクラスは女子の人数が少ないので、誰かが二種目出なければいけないのだ。

運動神経の良い彼女たちだったら、きっとバレーも勝ってくれるはずだ。


私とタカさんは隣のコートに向かうと、男子のバスケを応援することにした。

なんせ男子のバスケには井坂君が出る。

私は準備体操している彼を見つめて、いつ見てもカッコいいなぁ…なんて思っていた。

すると二階応援席から「拓海先輩、瞬先輩頑張って~!!」なんて黄色い声が飛んできた。

声の主は下級生で、赤井君に手を振られて「キャーっ!!」と騒いでいる。


私は途端に不機嫌になると、二階席を見ないようにムスッとふてくされた。


「しおりん。大変だね。」


タカさんが同情の目で見てきて、私は余計に虚しくなってきた。


「あれって…同中の後輩?」

「う~ん…どうかな…?下級生までは顔を覚えてないしなぁ…。」

「そっか。」


私はこの黄色い歓声の中、応援する声を出せるのだろうかと考えて、黙り込んだ。

すると上から何かが振ってきて、私の頭にかぶさって前が見えなくなった。


「なっ!?何!?」


私は焦って目を塞いでいるものを取ると、それは青色のジャージだった。

この色は男の子のものだと思って見つめていると、目の前に同じ色のズボンが見えて見上げた。


「それ、持ってて。」


目の前には井坂君が立っていて、井坂君は私の持っているジャージを指さした。


「あ、うん。分かった。」


彼は嬉しそうにニッと微笑むと、コートの中に向かっていって、私は井坂君の匂いのするジャージを握りしめた。


「役得だね。しおりん。彼女はいいなぁ~。」


タカさんがからかうように言ってきて、私は恥ずかしかったけど、私に渡してくれたって事がすごく嬉しかったのだった。


そして試合をしてる井坂君はすっごくカッコよくて、いつもの倍…いや10倍ぐらいカッコ良かった。

中学時代バスケ部だったいうのもあって、動きは滑らかで指示する姿まで様になっていた。


これでモテなかったら、ただの詐欺だよね…


私は彼のモテる要素の一面を見た気分で、今後が大変かもな~なんて思っていた。

二階からの声援が物凄く耳につくからだ。

明日から教室に突撃かけてきたりして…

私は明日からの様子を予想しながら、意外と当たるかもと思ってしまった。


そのとき私に向かって取り逃したボールが飛んできて、私は思わず両手でガードした。


当たるっ!!


私は衝撃に備えて目を瞑っていたんだけど、まったく来なかったのでおそるおそる目を開けると、目の前にバスケットボールをダダンッとついた瀬川君が立っていた。


「大丈夫?谷地さん。」

「あ……うん。平気…。ありがとう。助けてくれて…。」

「ううん。たまたま近くにいたからさ。当たらなくて良かった。」


瀬川君はコートの中のメンバーにボールを投げると、なぜか私の横に腰を下ろしてきた。


「谷地さん、今あの井坂だったっけ?と付き合ってるんだって?」

「あ、うん。そうなんだ。クリスマスから…。」

「そっか!じゃあ、もうすぐ半年になるんだ!!そかそか、佐伯も身を引いた甲斐があるってもんだなぁ~。」


私は急に佐伯君の名前が出てきて驚いた。

瀬川君はケラケラと笑っていて、私はそんな瀬川君の腕を掴んで問い詰めた。


「身を引いたって何の話!?」

「あれ?谷地さん、体育祭の日に佐伯から告られなかったの?」

「え…?告られって…??」


私は見に覚えのない告白に動揺した。

あのとき、もしかしたらそうかもと思った事はあったけど、佐伯君は何も言わなかった。

だから勘違いだと思っていたのに、彼の友達である瀬川君は違う事を言う。


「あー…ハッキリ言わなかったってこういう事かぁ…。あいつさ、体育祭で勝てたら谷地さんに告白するって言ってたんだよね。」

「な…っ…!?」

「でもさ、谷地さん体育祭のとき、井坂君と良い雰囲気だったじゃん?借り物競争とか、棒倒しのときとか…。それで、あいつ谷地さんの気持ちに気づいたっぽくて…、ハッキリ言えなかったって言ってたんだよね。」

「うそ……。」


私はこんな形で佐伯君の気持ちを知ることになるとは思わなくて言葉を失った。

瀬川君はポンポンと私の肩を叩くと、いつもの爽やかスマイルを浮かべた。


「まぁ、気にしないでいいよ。あいつ、今は柔道に打ち込んでて大会で良い成績残せてるみたいだし。谷地さんと話せたおかげで、以前ほど女子にビビらなくもなったからさ。言えなかったのはあいつの弱さだから。谷地さんは井坂君と幸せそうに笑っててくれれば、それがあいつの幸せになるはずだよ。」


私は柔道に一生懸命だった佐伯君の姿を思い出して、とりあえず頷くことにした。


「うん…。瀬川君…佐伯君にありがとうって伝えて?あと、今すごく幸せだって。」


私は佐伯君の気遣いがあったからこそ、私は彼をフルという形で傷つけなくて済んだことを知った。

あのとき、私は告白だったらどうしようと、そればかり考えていた気がする。

それが佐伯君に伝わったのかもしれない。

彼はすごく優しい…だからこそ、好きになってくれてありがとうと伝えたかった。

でも、直接伝えるのは違う気がしたので、瀬川君に頼んだ。

瀬川君は嬉しそうに笑うと「任せろ。」と言ってくれた。


そのときピーッと笛の音が鳴り響いて、試合が終わったようだと分かった。

どうやらウチのクラスの圧勝のようで、瀬川君は立ち上がると「決勝で戦うのは9組かもな。」と言って去っていってしまった。

そのとき汗だくの井坂君が駆け寄ってきて、グイッと腕を掴まれて立たされた。


「あ、お疲れ。はい。ジャージ返すね。」


私が畳んでおいたジャージを差し出すが、井坂君は受け取らずに私を引っ張って歩き出した。

私はタカさんに振り返ると「待ってて!」と声をかけてから、引きずられるような形でついていった。


すると井坂君は水道の傍で立ち止まると、水道で水を出して顔を洗い出した。

私はタオルがないかなと思って、ジャージをパタパタさせるけど持ってるわけもなく、仕方なくポケットに入っていたハンドタオルを差し出した。

けれど井坂君は水道を止めてもそれを受け取らなくて、ポタポタと滴をたらしながら口を開いた。


「何、話してたんだよ。」

「へ…?何の話?」


私はいつの話を言われてるのか分からなくて訊き返した。

すると井坂君が雫を滴らせながら、こっちに振り向いてきて怒った顔で言った。


「瀬川だよ。あいつに決まってんだろ!?助けてもらって、ちょっと嬉しそうだったクセに!!」

「へ!?嬉しそうって…私が!?まさか!!」


私は思わぬところで誤解させてると、必死に否定した。

でも井坂君は信じてくれてないようで、拳をギュッと握りしめて顔をしかめた。


「助けられた後も、何か話して嬉しそうにしてただろ!?」

「嬉しそうって…そんな顔してないと思うけど…。」

「してたんだよ!!俺にしか向けてなかった顔をしてた!!」


井坂君の目にどんな私が映っていたんだろうか…?

私は何を言っても否定されそうで、どうしたものかと困った。

井坂君は濡れた顔を自分の体操服の裾で拭い始めて、そのときにお腹が丸見えになり、思わず凝視してしまう。


ふ…腹筋…ちょっと割れてる…


私は怒らせてるはずなのに、自分だけ胸がギュッと締め付けられて複雑だった。


井坂君は服を元に戻すと、キッと私を睨んできた。

私は赤くなる頬を隠したくて、口を引き結んで耐えた。


「見とけよ。絶対、あいつには負けねー…。絶対優勝してやるから!!」


井坂君はそう吐き捨てると、大股で体育館に戻っていってしまった。

私はその背を見つめて、お腹を見てしまった恥ずかしさと、どう誤解を解こうかという複雑な感情が入り混じったのだった。





***





それから私たちも井坂君もバスケで勝ち進み、なんと両方とも決勝まで残ってしまった。

そのため、私は井坂君の試合を応援することができず、隣同士のコートでお互い試合だった。

私は黄色い声援の飛び交う体育館で、「拓海せんぱーい!」と気軽に名前で呼ぶ下級生にイラついていた。

もちろん一組女子の「拓海く~ん!」という甘ったるい声も耳障りだ。

私は試合が始まる前にちらっと男子コートを見ると、井坂君が対戦相手である瀬川君と何か話していて、私はそのツーショットに不安が募る。

井坂君はなぜだか分からないけど、瀬川君との仲を疑ってくる。

あんなにモテる瀬川君が私なんかを相手にするはずがないのは分かり切ってるだけに、井坂君が疑うのが理解できない。

今だって「拓海く~ん!」という声よりも、明らかに「歩く~ん!!」「瀬川くーん!」という声の方が多い。


私は試合が終わったら、どうにかして誤解を解こうと視線を自分のコートに戻した。



そして両コートの決勝戦が始まって、私たちの相手は三年生だった。

あゆちゃんたちの先輩であるバスケ部レギュラーメンバーが3人もいるようで、私たちは始まってすぐその力の差に唖然とした。

あゆちゃんたちは何とか食らいついてるけど、どう見たって私とタカさんが足手まといだ。

私はちらっと隣のコートを見て、向こうも苦戦しているのが点差から見て取れた。

ずっとは見ていられないだけに、またすぐ自分のコートに目を戻す。



そして、なんとか食らいついて5点差まで縮めたけど、もう私は体力の限界がきていてゴール下から動けない事が増えた。

膝に手をついて荒い呼吸を繰り返す。


しんどい…日頃の運動量が…あゆちゃんたちと違うから…もう…往復できないかも…


私は向こうのゴール下で戦っているあゆちゃんたちを見てから、井坂君の様子も確認した。

井坂君も同じように苦しそうな顔をしながら、必死に瀬川君をマークしているようだった。

向こうの点差は2点。すごい接戦まで持ち込んでいる。

私は自分も負けてられるかと目を戻した瞬間、目の前にボールが飛んでくるのが見えて、慌ててキャッチした。


「詩織っ!!」


あゆちゃんの声が聞こえて、私は3ポイントラインまで下がると、落ち着いてボールを放った。

投げたボールが去年井坂君と1対1をしたときのものと重なって見える。

私は入ると確信して、手を握りしめた。

その確信通り、綺麗にボールがゴールに吸い込まれていって、私は両手を上げて振り返った。

するとあゆちゃんがハイタッチしてくれて、私は2点差まで縮めたことに喜んだ。


そこからはボールの奪い合いで緊張状態が続いたけど、最終的にタイムアップになってしまって、女子は優勝には一歩届かない結果となってしまった。

私が力不足だった…と落胆していると、男子コートから雄叫びが上がって、井坂君たちが抱き合って喜んでいるのが見えた。

その様子から勝ったというのが伝わってきて、私は心の中で「おめでとう」と呟いた。


そして整列をした後、私は疲れ果ててしまって、体育館の壁にもたれかかって何度も呼吸する。


疲れた…


私は今までで一番運動したんじゃないだろうかと思って、呼吸が落ち着いてきた頃に目を閉じた。

すると、そのままストンと眠りに落ちてしまって、私は自分のジャージに顔を突っ伏した感触だけ感じていた。





***





ふわふわ…ゆらゆら…




私は肌に気持ちの良い風が当たるなと思って、目を覚ますと視界に天井が映った。

私は何だか柔らかいところに寝てると思って体を起こすと、白い保健室のベッドだと分かった。


「あれ…?」


私は自分がここまで来た記憶がないだけに、なぜベッドで寝てるのか不思議だった。

するとシャッとカーテンが開いて、保健室の先生が顔を覗かせた。


「あら、お目覚めみたいね?そろそろHRも終わる頃よ。目が覚めたのなら、教室に帰りなさい。」


30代ぐらいの美人の保健室の先生に優しい笑顔を向けられて、私は疑問に思ったことを尋ねた。


「あの…私、どうしてここに?」

「何も覚えてないの?体育館で寝てしまったあなたが片付けの邪魔だってことで、ここまで運んできてくれたのよ。」

「運んで…?って誰がですか?」


私はそこが気になって尋ねると、先生は「ふふっ」と笑って「秘密。」と可愛らしく言われてしまった。

私は大人なのに可愛い仕草に、少しキュンとしてしまって、尋ねるのはやめて教室へ帰ることにした。


それにしても体育館で爆睡とか…恥ずかしい事をしたものだ…


私はそんなに疲れたのか…と思って複雑だった。

そのとき、保健室の扉がガラッと開いて、制服姿の井坂君が姿を見せた。


「あ、起きたんだ。」

「つい、さっきね。連れて帰ってあげてちょうだい。」


井坂君は手に私の分の荷物も持っていて、私は駆け寄るとそれを受け取った。


「ごめん。わざわざ、ありがとう。」

「いいよ。帰ろ。」


井坂君は機嫌が直っていて、いつも通りの笑顔で保健室を出ていく。

私は何もかもが不思議で、保健室の先生に「ありがとうございました。」とお礼を告げると後を追いかけた。

そのとき、自分がまだ体操服姿だという事に気づいて、井坂君に声をかけた。


「井坂君。私、着替えないと。」

「あー、もういいんじゃねぇ?あと、帰るだけなんだしさ。」

「…そっか…。もうHR終わったんだよね?」

「あぁ、さっき終わった。ウチのクラスはバスケとサッカーの男子が優勝。それ以外はバスケ女子の二位と女子バレーの4位。後は、惨敗ってとこだな。」


私はバレーも4位だと聞いて驚いた。

あゆちゃんたち、すごいな…

私は二つ掛け持ちした彼女たちを尊敬した。


「あ、バスケ優勝おめでとう。すごいね!勝つって言ってたの本当だったね!」


私はバスケで瀬川君に勝ったからご機嫌なんだと分かって、素直に褒めた。

すると井坂君は立ち止まって振り返ってくると、顔をむずつかせて照れてるように言った。


「…その…瀬川のことだけどさ…。瀬川から話してたこと全部聞いた…。一方的なこと言って悪かった。」


私は試合前に話していた二人の姿を思い出して、あのとき!と合点がいった。


「ううん!!いいの!そういう表情してたからかもしれないし…。」


私はよくよく考えたら、井坂君と一緒で幸せだと言ったときに、嬉しそうな顔をしたのかもしれないと思った。

すると井坂君がふっと微笑んで、私の頭をクシャクシャッと撫でてきた。


「嬉しそうな顔するぐらい、俺と一緒にいるのが幸せなんだもんな?」

「なっ…!?!?」


井坂君が意地悪そうな笑顔で私を見て、私は自分で言った事とはいえ恥ずかしくて赤面した。

その後も、井坂君は帰りながら事あるごとに「幸せ」という単語を出して、私をからかってきた。


それが恥ずかしくて、私はもう二度と口にしないでいようと心に誓ったのだった。






男子の腹チラってドキドキします。

詩織に共感していただけると嬉しいです(笑)

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