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理系女子の恋  作者: 流音
59/246

57、新学期


二年生初日――――


私は久しぶりに制服に袖を通して、一年前とは全然違う自分を鏡で見て笑顔を作った。

短かった髪も胸の辺りまで伸びて、私は井坂君に貰ったゴムでハーフアップにした。

そしてもう板についた短いスカートを見て、クルンと鏡の前で回ってみた。


ちょっとぐらい可愛く見えるようになってきた?


私はアップで自分の顔を見た後、ふっと息を吐くとKEIのシロクマのついた鞄を持って部屋を出たのだった。





学校に着くと新入生で賑わっていて、真新しい制服姿で騒ぐ姿が可愛く見えた。

私はそんな新入生を横目に靴箱でスリッパに履き替えると、階段を上がって2-9の教室へ足を向けた。

慣れない三階の廊下を歩いて一番端の教室に足を踏み入れると、お馴染のクラスメイトたちがいて安心してしまった。


「おはよー。しおりん。」

「おはよ。タカさん。」


私は懐かしい名簿順の席へ向かうと、タカさんの前の席に座った。

そして鞄を机の横にかけると、横を向いてタカさんに話しかけた。


「なんか廊下側の席、懐かしいかも。」

「だね。こうして前後の席で話すと一年前みたいで変な感じ。」


私はあの頃よりも前向きで楽しい気持ちでクラスにいられる自分に成長を感じた。

すると後ろの扉から西門君が入ってきて「おはよー。」とだけ挨拶した。

西門君も挨拶だけして自分の席に向かっていって、最近以前ほど話をしなくなったなぁ~なんて思った。

そのとき目の前にいつのまにか井坂君が立っていて、私は彼を見上げて「おはよ。」と言った。

彼は朝から不機嫌そうな顔で私を見下ろすと、机に手を置いた。


「なぁ、なんで一番におはよって言いにこないの?」

「へ…?あぁ…井坂君もう来てたんだ。私の席と離れてるから気づかなかった。」


私はあははっと笑いながら言い訳すると、井坂君の顔が近づいてきて後ろに仰け反った。


「なぁ、俺は何?」

「………彼氏です。」

「だよな?そうだよな?普通、彼氏ってのは一番じゃねぇの?俺は新学期初日に一番におはようって言おうと思って早くから登校して待ってたんだけど、詩織は違ったんだなぁ?」

「……ごめんなさい…。」


私は朝から俺様モードの井坂君を見て、素直に謝るのが一番だと察した。

たまーに、こうなるんだけど…一体どこにスイッチがあるのかいまだに分からない…

私はどうやったら機嫌が直るかなーと考えた。


「もう、いいよ。春休みケータイ買って、すぐ連絡とれると思ったら、全然だし。メールの返事だって夜にしか来ねーし。なんのためのケータイだって話だし…。詩織ってそういう奴だもんな!!」


井坂君は余程鬱憤が溜まっていたのか、言うだけ言うとサッと自分の席に戻っていってしまった。

私はその姿に面食らって固まったあと、なぜそこまで怒るのか意味が分からなくて首を傾げた。

すると横から肩をつつかれて、タカさんがげんなりした顔で言った。


「しおりん…あれはないよ…。」

「何?私、そんなに怒らすようなことした?」


タカさんは何かを分かってるようで、私はタカさんの方に体を向けた。

タカさんははぁ~っと大げさにため息をつくと、説明してくれた。


「ケータイだけど、メールが来たならすぐ返しなよ。」

「え?だって、ケータイ机の上に置きっぱなしだったら、気づくの遅くなるよね?」

「携帯しなよって話!!なんのための携帯電話って名前だと思ってんの!?」

「あー…そっか。でも、ケータイから電磁波が出てるらしくて、あまりポケットとかには入れない方がいいって何かでやってたよ?」

「しおりん…。それなら目の届くところに置いて持ち歩けばいいじゃん…。」

「なるほど!!そうだよね!そういう考え抜けてたかも。」


私はケータイを持ち歩く習慣がなかったので、基本家では机の上に置きっぱなしだった。

だからリビングにいたりすると全く気付かない。

春休みに井坂君から電話がかかってきたときも気づかなくて、どれだけ怒られたことか…


「なんか井坂君が気の毒になってきた…。」


タカさんの呟きを聞いて、私はあゆちゃんも似たような事を言ってたなと思った。

井坂君が可哀想とか…気の毒とか…私ってそんなにひどい仕打ちをしているのだろうか…?

そう考え込んでいると、今度はあゆちゃんが私の前にやってきて机の上にバンッと何かを置いた。


「おはよ…あゆちゃん…。なんか…機嫌悪い…?」


あゆちゃんは不機嫌そうに歪んだ顔を私に向けると、急に目を潤ませ始めた。


「詩織…。聞いてよ…。赤井がぁっ!!」


あゆちゃんが泣きつくようにくっついてきて、私は意味が分からなかった。

あゆちゃんは肩を震わせながら、教室の入り口を指さして、私はそっちに目を向けて驚いた。


「んじゃーなー!いつでも遊びに来てくれていいぜーっ!!」


赤井君は新入生に囲まれていたようで、ご機嫌な顔で教室に入ってきた。

初日から…モテてたってこと…??

私はあゆちゃんが泣いてる理由を理解して、同情してしまった。


「あ…あゆちゃん…。」

「あいつ…下級生に囲まれてヘラヘラと…。もう、別れてやるっ!!」

「えぇっ!?そっ…それは、ちょっと!!落ち着こう!落ち着こうね!!」


私は一気に別れ話にいってしまいそうなあゆちゃんを、なんとか宥める。

するとあゆちゃんはキッと私を睨むと、私の机に置いた本?雑誌かな…?をバンバンと叩いた。


「詩織は井坂を自由にしちゃダメだよ!!下級生なんて、私たちよりも若くてピチピチしてるんだから!!すぐ持ってかれるよ!!」

「えっ…!?ピチピチって…たった一つしか変わらないし…。」

「それが傲りなのっ!!女子力の低い詩織なんかすぐだよ!!すぐ!!だから、これで勉強!!分かった!?」

「……はい…。」


あゆちゃんの勢いに押されて頷くと、あゆちゃんは満足そうに胸を張ったあと赤井君を叩きに行ってしまった。

私はあゆちゃんに渡された雑誌を開くと、タカさんと一緒に見ることにした。


「下級生ってそんなに強敵なのかな…?」

「う~ん…それは人によるんじゃない?赤井君も井坂君もモテるから、気を付けた方がいいのは確かかもしれないけど…。」

「それって…もしかして中学のときも?」

「あー…そうかも。赤井君も井坂君も人気あったから…。もしかしたら同じ中学の下級生が追いかけてきても不思議じゃないよ。」


タカさんから中学のときの事を聞いて、私は山地さんたちのような下級生が増えるのかと思って落ち込んだ。

あゆちゃんが不安に思うのも当然かもしれない…

私は彼女のアドバイス通り勉強しようと、パラパラと雑誌をめくっていって、付箋のついているページを見つけた。


「何…コレ…。あゆちゃんがつけたのかな…。」


私が付箋を触ってそのページに目を落とすと、そこには衝撃の事が書かれていた。

そこには『赤裸々告白!!皆の初体験!』と大きな字で書かれていて、思わず雑誌を閉じた。


「なっ…なっ…!!」

「あー…勉強ってそういうことかぁ…。」


私は真っ赤になる顔を俯かせると、雑誌を握りしめて立ち上がった。


あゆちゃんっ!!!


私は机の上に残っていたもう一冊も手に持つと、あゆちゃんの所へ返しに向かった。


「あゆちゃん!!コレ、返す!!」


あゆちゃんは赤井君と話していたので、振り返ると差し出された雑誌を見て顔をしかめた。


「詩織~…。逃げずに読みなってば。」

「いらない!!知りたくない!!」


私はこんなものを読む勇気がなかったので、あゆちゃんに押しつけた。

あゆちゃんはそれを更に押し返してくると、私の頭をスパンと叩いた。


「詩織。いい加減にしなよ。今すぐ読めなんて言わないから、そういう気持ちになったときに目を通してみなよ。よく分かるから。分かった?」


私はお母さんに怒られたような気持ちになって、雑誌をギュッと握りしめると目が潤んできた。

あゆちゃんの言いたい事も分かる…でも、まだ今のままがいい…

私は知ってしまったら、今の関係が壊れてしまいそうで怖かった

だから知ろうという行動を起こさなかったんだと、怒られて気づいてしまった。


「詩織。泣かないでよ。そんなつもりで渡したんじゃないんだからさ。」

「うんっ…うん。分かってる…。分かってるけど…。」


私は優しくなったあゆちゃんに頭を撫でられて、零れそうな涙を手の甲で拭った。

あゆちゃんは私のことを考えて渡してくれたんだ。

なら、その厚意は受け取らなくては失礼だ。


「ごめん。これ、預かっとくね。」

「うん。そうして。返すのはいつでもいいから。」


あゆちゃんがふっと微笑んでくれて、私は気持ちが少し楽になるのを感じた。

そうしてあゆちゃんと向かい合っていると、あゆちゃんの後ろに井坂君がいるのに気付いて何か気づかれたかな…と不安になった。

でも、彼はずっと視線を逸らしたまま窓の外を見ていて、さっきの事が尾を引いてるのが分かった。


こっちもなんとかしないとな…


私は怒らせてしまった井坂君のご機嫌をどう取ろうか考えながら、トボトボと自分の席へと戻った。






***





そして始業式が終わって、私たちが体育館から教室に移動するときに、赤井君と井坂君が一組の女子に囲まれているのが見えて、私はムカッとしてしまった。

井坂君は私の前では不機嫌だったのに、彼女たちの前では笑顔を浮かべている。


不公平だ…


私は自分が彼女なのに!!という嫉妬心が顔を出していて、イライラしながら教室へ足を進めた。

そのとき朝、井坂君が言っていた『彼氏って一番じゃねーの?』という気持ちがスルッと理解できた。


私も今…同じこと思ってる…


彼女だから一番に笑いかけて欲しい…

これって…同じ…だよね…?


私はそう思うとイライラが消えて、タカさんに「先に戻ってて」と言い残すと踵を返した。

そしてまっすぐに井坂君のところに走ると、一組の子の目も構わずに井坂君の腕をとった。

井坂君が目を見開いて私を見つめてきて、私は一度息を吐き出すと腕を引っ張った。


「ちょっと…来て。」


私は一組の子達の文句を聞きながら、井坂君を引っ張って渡り廊下を戻る。


「詩織。どこ行くんだよ。」

「いいから、来て。」


私は体育館まで戻ると、辺りに人気のない倉庫の横までやって来た。

周りを見回して誰もいないのを確認してから、私は井坂君をまっすぐに見つめた。


「ちょっとここにしゃがんで。」

「はぁ?一体、何すんだよ?もうすぐHR始まるぞ?」

「いいから!!早く!!」


私は不機嫌な井坂君を無理やりしゃがますと、「目瞑って。」と命令した。

ここで井坂君も何されるのか気づいたようで、今度は文句を言わずに目を閉じてくれた。

私は無防備な井坂君を見下ろして、胸がほんのりと暖かい色に染まった。

井坂君がこんな姿を見せるのも、私だから…だよね…。

そう思うと自信が出てきて、私は井坂君の前髪に触れた。

私はサラサラしているその前髪を手で避けると、おでこに向かって唇を落とした。

唇にするのとは違った感触がして、私はすぐに離した。


すると井坂君の目が開いて、眉間に皺が寄ったのが見えた。


「は!?なんでおでこ!!」


私はその文句を遮るように、井坂君の頭をギュッと抱きしめた。


「ごめん。朝、言ってた一番っていう気持ち…私も今ならよく分かるから!!ケータイも…なるべく近くに置いとくようにする。それでも気づかなかったときは…謝るしかできないんだけど…。」


私は正直に謝罪すると、腕に力を入れて井坂君の頭に顔を押し付けた。

井坂君の髪の毛から爽やかなシャンプーの匂いがする。

もしかしたらワックスの香りかもしれないけど…


私だって井坂君の一番がいい。

怒らせたまま話せないなんて苦痛だった。


すると井坂君の腕が私の腰に回ってきて、私は少し腕の力を緩めた。


「……分かったんなら。いい。」


井坂君の顔が私の胸の位置にあるので、言葉を吐き出した時に彼の吐息で胸が温かくなった。

私は許してくれたことに嬉しくなってまた力を入れると、井坂君がボソッと言った。


「そろそろ離れない…?」

「え…?」


私が力を緩めて離すと、井坂君が動いて私を見上げてきた。

その顔が少し赤い気がして、私も同じ顔かなと思っていると驚きの言葉が飛び出した。


「俺の頭…どこにあるか分かってる…?」

「……――――っ!?!?」


私は衝動的に抱き付いてしまって気づかなかったけど、自分の貧乳に井坂君の頭があって思わず仰け反った。

井坂君から離れようとするけど、腰に彼の腕があるのでそこまで離れられない。


「ごめっ!!はっ…放して…っ!!」

「あはははっ!!自分でやっといて。逃げるとか。あははっ!」


井坂君が大爆笑していて、私はますます恥ずかしくなった。

でも、彼はなかなか放してくれなくて、私はその後も格闘し続け、教室に戻ったのはHRも始まった頃だったのだった。







理系クラスは進学クラスのためクラス替えがありません。

そのため一年のときと同じメンバーでお届けします。

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