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理系女子の恋  作者: 流音
55/246

53、絶対に違う


あゆちゃんたちから衝撃的な話を聞いてから、私はずっと悶々と考えて、ある結論に辿りついた。

あれは全部あゆちゃんたちの見解であって、私と井坂君には当てはまらないっていう事だ。


井坂君がどういうつもりで家に来て欲しいって言ったのかだって、本人に聞かなければ分からない。

それこそご両親に私を紹介してくれるつもりで、呼んでくれたのかもしれないわけで…

私はそんな事は絶対にないと思う事で、なんとか自分を保てていた。


そして、連日の煩悩を吹き飛ばそうと勉強に没頭したため、学年末試験は今までで一番良い点数を叩き出した。

それに加え、全国模試では校内の総合順位が5番以内に入っていて、教科別の順位では数学が一番を取っていていた。

私はこんな良い成績は初めてだっただけに、物凄く驚いた。

元々、数学の一次関数は得意だったので、そのおかげかもしれない。


お母さんに胸を張って報告できるとニコニコしていると、井坂君が模試の結果を覗き込んできた。


「うっわ!数学一番じゃん!!全国でも30番以内に入ってるし、すげーっ!!」

「えへへ…。我ながら頑張ったと思うよ~。井坂君は?」


私は井坂君の結果が気になって、井坂君の持っていた結果をスッと奪い取った。

井坂君は慌てて取り返そうとしていたけど、自分だけ見られるなんて不公平だ。


そして内容に目を通して、私は息を飲み込むぐらい驚いた。


「え!?英語と化学…一番なんだけど!!総合順位だって2番ってどういう事!?」

「あ~…たまたま?」


井坂君は罰が悪そうに頬をかいていて、私は彼があまり必死に勉強してる姿を見たことがないだけに信じられなかった。

それにこの結果を見ると、数学の二番は井坂君だ。

国語だって二番だし…。全国順位も10番以内に入っている。

自分の彼氏がこんなに頭が良かったなんて、付き合って三か月で初めて知った。


「……井坂君って…天才?」

「そんなわけねーよ。天才だったら全部一番とってるし!たまたま要領よくこなしただけだよ。」


私は謙遜する彼を見ながら、必死に勉強すれば全部一番とってしまうんじゃ…と思って恐ろしくなった。

私は必死に勉強してこの成績なだけに、頭の造りの違いに落ち込む。


「まぁまぁ、こんなもん大した事ねーって!それより、明日から春休みだ!!約束覚えてるよな?」


私は嬉しそうに聞いてきた井坂君を見て、真意を聞くなら今だと思った。

私は「どういうつもりで家に誘ったの?」と聞こうと口を開けるけど、声が出てくれない。

意気地なし!!自然に聞けばいいだけなのに!!

私はちらと井坂君を見ると、どうしても聞けなくて「覚えてるよ…。」と答える事しかできなかったのだった。





***





そして、春休みに入った日曜日――――


私は手土産のゼリーを手に井坂君の家の前で立ち尽くしていた。

服装は誕生日にもらったあゆちゃんたちのトータルコーディネートだ。

白のワンピースにカーキ色のジャケット。足はブーツに首からアクセサリーをつけて、いつもよりオシャレ度が二割増しされていた。

髪は井坂君からもらったゴムの一つで清楚な感じでハーフアップにしている。


私は絶対に違うと自分に言い聞かせながら、震える指先でインターホンを押した。


するとドタドタと走る足音が大きくなってきて、玄関の扉が開け放たれて井坂君が笑顔で顔を出した。


「詩織!!入って!!」

「こんにちは。……お邪魔します。」


私は満面の井坂君に促されて、静かな玄関の中に入った。

そして後ろの扉が閉まったのを確認して、家に上がる前にこれだけは確認しておこうと口を開いた。


「井坂君!!」

「うん?何??」


井坂君は玄関から靴を脱いで、中に入りながら私に顔を向けた。

私はそんな井坂君の顔を睨むように見つめると、鼻から息を大きく吸ってから一気に言った。


「あっ…あゆちゃんたちが、彼氏の家に来るのは…えっちが目的だって言ってたんだけど!!井坂君はそんなつもりで誘ったんじゃないよね!?」


私は一気に顔に熱が集まるのを感じながら、井坂君から目を逸らさないようにじっと見つめ続けた。

井坂君はぽかんとして固まったあと、私の肩を叩きながら笑い出した。


「あはははっ!!何言うのかと思って、ビックリしたんだけど!!んなわけねーじゃん!!俺ら高校生だぜ?小波も変なこと言うんだなぁ~!!」


井坂君のあっけからんとした様子にやっぱりただの勘違いだったと分かって、私は安心してその場にしゃがみ込んだ。


「はぁ~……。良かった…。」


私は高ぶっていた心臓が落ち着くのを感じながら、井坂君も私と同じ考えだと知れて嬉しかった。

やっぱり、高校生なのにおかしいよね。

私は玄関に手をついて立ち上がると、井坂君に笑顔を向けた。


「じゃあ、今日はご両親に紹介するために呼んでくれたんだよね!!私、お土産にゼリーを持ってきたんだ!!お母さんは…今はお留守?」


私は静まり返ったリビングの方に目を向けて尋ねた。

すると、井坂君がその場でウロウロしながら焦ったように笑顔を向けた。


「あー…!!そう!!今朝、急に二人で出かけてさぁ!!今日は帰って来ないんだ!だから、それは帰ってきたら渡しとくよ!」

「………そうなんだ。残念…。」


私は井坂君にゼリーの袋を手渡すと、ブーツを脱いで中に入った。

井坂君はリビングに私の持ってきた袋を置きに行くと、すぐ戻ってきて二階を指さした。


「俺の部屋、奥だから。」


そう言って案内してくれる井坂君の笑顔がいつもと違う気がして、私は少しだけ違和感が過った。


ご両親…なかなか会えないな…


私は今日こそ会えると意気込んで来ただけに、落胆も大きくふうとため息をついた。

そして二階の手前の部屋を通り過ぎて、奥の部屋につくと井坂君が開けて中に入っていった。

私はその後に続きながら中に入ると、自分の部屋と違ってシンプルで新鮮だった。

部屋の中にはマンガや雑誌が散らばっていて、筋トレの道具なんかもある所が男の子の部屋といった風景だ。


井坂君の匂いがする…


私はそれに嬉しくなって微笑むと、ふと本棚にある本が気になって近寄った。

本棚には難しそうな本が並んでいて、全部英語で書かれているもののようだった。

内容は化学系…?っぽいもので、私には理解できないだけにサッパリだった。


「何か気になるものでもあった?」


井坂君が後ろから話しかけてきて、私は本棚に並んでいる英文の本を指さした。


「これ、こんな難しそうな本。読んだりするの?」

「あー…これ。うん。読むよ。さすがにスラスラとは読めないけど、時間かけてゆっくりなら。」

「へぇ…。すごいね…。英文なのに…そんなに興味ある内容なんだ?」

「うん。…まぁね。こういう系統は興味あってさ。最新のものになると、どうしても全部英文になっちゃうんだよなぁ~…。」


嬉しそうに話す井坂君を見て、私はある事に気づいた。


「井坂君…。もしかして、研究者になりたいの?」


最新のもので英文とくれば、これは研究論文なのだろう…

私はそう思って訊いてみたんだけど、井坂君は罰が悪そうに私から離れるとベッドに座ってしまった。

私はそんな彼の目の前に座ると下から覗き込んだ。


「模試も化学と英語が一番だった。やっぱり、こういう本を読んで勉強してきたから…だよね?」


私は井坂君にはやりたい事があるんだと、そう確信した。

井坂君は照れているのか頬を赤く染めていて、それを手で隠すと視線を逸らしながら呟いた。


「な…なんで分かるんだよ…。」


井坂君が拗ねた子供みたいになっていて、私はふっと微笑むと自信を持って告げた。


「だって…私、井坂君ばっかり見てるから。分かるよ。」


私は井坂君の一番の理解者でありたくて出た言葉だった。


すると急に井坂君の手が伸びてきて、私の後ろ頭に回った。

そのまま頭をグイッと引き寄せられると、井坂君と唇が重なって私は鼻から息を吸いこんだ。

最初は強引に感じたけど、途中から優しくなって私は頬が緩んだ。


やっぱりキスだけで、こんなに幸せ


私は熱い吐息を吐き出して井坂君から口を離すと、井坂君の首に手を回して抱き付いた。


やっぱり井坂君の匂いは落ち着く…


私は気持ちよくなっていてギュッと井坂君にくっついていると、井坂君の手に肩を掴まれて引きはがされた。


「のっ…飲み物!!取ってくる!!」


私が突然引きはがされて目をパチクリさせていると、井坂君は慌てて立ち上がって部屋を出ていってしまった。

私は井坂君から中断させられたのは初めてだったので、面食らって固まった。


……急にどうしたんだろ?


私はトイレにでも行きたかったのだろうか…と考えると、部屋を見回した。

そしてベルリシュのCDが並んでいるのに和みながら、棚に目を向けていると中学の卒業アルバムを見つけてしまった。

私は勝手に見てもいいものだろうかと思ったけど、気になったので手を伸ばしてアルバムを掴んだ。

そして井坂君が戻ってこないのを確認すると、ドキドキしながら中を捲った。


何組か知らなかったので、集合写真の名前を確認しながら目を通す。

すると二組のところにタカさんと井坂君が写ってるのを見つけた。

タカさんは今と変わらなくて、制服が違うだけって感じだった。

井坂君は少し髪が短くて、今よりちょっと少年に近かった。

快活そうな笑顔で映っている。

私はそれを指で撫でてから、次のページを捲ると3組に赤井君を見つけた。

赤井君は今よりだいぶ髪も短くて、でもおちゃらけた笑顔は今と同じだった。

西中のメンバーはこれだけかなぁ…と思っていると、見覚えのある女子たちがちらほら映っているのに気付いた。

みんな少しおぼこい感じはするけど、見覚えのある彼女たちは私に文句のある…要は井坂君の事が好きな子たちだった。

私は呼び出された事を思い出して、みんな中学のときから好きだったんだな~と他人事のように思った。

そして5組のところで山地さんを見つけて、変わらずお人形さんのように可愛いな…と思った。

自分に自信がなくなりそうだったけど、頭を振って嫌な考えを飛ばすとページを捲った。

すると今度は一年生のときの写真が出て来て、井坂君は赤井君とよく一緒に映っていた。

一年の井坂君は小学生みたいに小さくて、背の高い赤井君と並んでいると不自然だった。


そういえばこの頃は背も低かったって言ってたな…


私は小さい井坂君もカッコいいと思ったけど、二年生の写真を見たときにその思いが吹っ飛んだ。

二年生の井坂君は一年生と今の間ぐらいで、幼さの中に今のカッコよさが混じっていて胸が鷲掴みにされた。


か…可愛い…


成長期真っ只中の井坂君は、カッコ可愛い笑顔こっちに向けていて、写真を切り取って持って帰りたくなる。それぐらい魅力的だった。


私は成長期真っ只中の井坂君も見て見たかったな…と思いながらページを捲ると、三年生の井坂君が出てきて、もうだいぶ今の井坂君に近かった。

どの写真もいつもたくさんの友達に囲まれて写っていて、私は自分の中学時代を思い出して正反対だな…と思った。

あの頃は私は引っ込み思案で内気だったから、友達も少なかった。

それこそ小学校時代の友達としか仲良くなかったと言ってもいい…。

まぁ…原因は一年のときの大失恋のことが尾を引いてって感じなんだけど…


でも今はたくさんの友達、大好きな人に囲まれて、すごく楽しく過ごせている。

人は変われるんだと…今なら自信を持って言える。

私は昔の井坂君の写真を触って、「ありがとう」と心の中で呟いた。


井坂君と出会えたおかげで、何もかもが上手くいってる…


私はずっと彼を大事にしていこうと誓って、アルバムを閉じた。




「拓海~。俺の部屋からCD持ってっただろーって…アレ?」



アルバムを閉じた瞬間に扉が開いて、夏に見たお兄さんが姿を見せた。

私は家におられたんだと驚いて、思わず立ち上がって頭を下げた。


「あっ…の…!お邪魔してます!!」


「あー!!君!!夏に遊びに来てた!!えっ…と!!」


お兄さんは私に近寄ってくると、頭を指で叩いて顔をしかめた。


「え…と谷地、詩織です。」

「そう!!詩織ちゃんっ!!いや~、何?あいつと付き合ってんの??」


お兄さんに手を握られて強制的に握手させられながら、私は「はい。」とだけ返事をした。

すると、お兄さんは井坂君と同じ笑顔を浮かべると私をじっと見つめた。


「ふ~ん…。あいつが…ねぇ…?」

「あ…あの…?」


お兄さんは意味深に語尾を上げていて、それが少し気になった。

お兄さんは私から手を放すと、ニコッと笑ってから口を開いた。


「詩織ちゃんはさ、あいつのどこが好きなの?」

「え!?えっと…優しくて…頼りになる…ところ…です。」


私は言いながら恥ずかしくなってきて赤面する。


「うっそ!あいつって頼りになるの?」

「はい。私はホントによく助けてもらって…。」


私はいつも井坂君に助けられている事を思い出して話した。

山地さんのときも、文化祭の時も…いつだってさりげなく助けてくれた。

私はそんな優しさを押し売りしない井坂君が大好きだった。

お兄さんは「あいつがねぇ~。」と半信半疑のようだった。


「あいつとは付き合ってどれぐらいになるの?」

「えっと…三か月になります。クリスマスに付き合い始めたので…。」

「へぇ!?そんなになるんだ!!じゃあ、やることは全部やったって感じかな?」

「は…?」


私は何を聞かれたのか理解するのに時間がかかって訊き返した。

すると、お兄さんがプッと小さく吹きだして笑い出して、私は余計混乱した。


「あははっ。その反応、可愛いね。拓海が好きになるのも分かるよ。」

「…はぁ…。」


私は何だかよく分からなかったけど、お兄さんに認められたようだったので曖昧に返した。

お兄さんは目を細めて私を上から下まで見ると、キュッと頬を持ち上げて笑った後、私の腕を掴んでグイッと引き寄せた。


「いいね。あいつのものだと余計欲しくなる。」

「え…。」


お兄さんから低くトーンの落ちた声で告げられたあと、私は瞬きする間にお兄さんに口付けられた。

私はそれに目を剥きながら、お兄さんから漂う匂いが井坂君と似ていて気持ち悪くなっていったのだった。







井坂の兄貴編スタートです。

井坂と兄の確執に少し足を突っ込んでいきます。

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