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理系女子の恋  作者: 流音
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番外1:赤井君の話

井坂の友達である赤井視点です。


俺と井坂は小学校からの昔馴染みだ。

親友だとかいうクサイ関係でもない。


そんな昔からよく知ってる奴が、今や彼女持ちだ。

この事実はあいつの事をよく知ってる俺からしたら、天変地異が起きたぐらいの衝撃だった。


というのも、俺と井坂は同じ類いの人間だと思っていたからだ。


モテるけど自分から誰かを好きになったことがない。

それが俺たちだった。

そう、高校に入る前までは……





あいつの異変に気づいたのは、入学してからしばらく経ってからの席替えのときだった。

クジを引きにきたあいつは、教壇に立っていた俺のところに来ると、こっそりと耳打ちしてきた。


「24番のクジくれ。」

「は?お前、それは不正だぞ。できるわけねぇだろーが。」

「そんなん分かってんだよ。でも、どーしても24番が欲しいんだよ。頼む!」


こいつにしては珍しく食い下がってくるので、俺はしぶしぶ箱の中から24番を探してやった。

こんなに頼むなんて何か理由があるのだろう…

そして運の良いことに24番は誰にもまだとられてなかったようで、見つけると奴にこっそりと渡した。


あいつは嬉しそうな顔をすると、クジを受け取って席に戻っていく。


俺は実際に席替えをしてみても、あいつがどうして教室のど真ん中の席が良かったのか、このときはまだ分からなかった。




その最初の違和感を感じてから、あいつが珍しい女子と話をしているのを見かけるようになった。

俺もあいつが話す女子に興味があったので、あいつに混じって話す機会が増えた。


その女子というのが、谷地詩織さん。

後の奴の彼女なのだけど、ぶっちゃけ最初は地味で大人しくて、今まであまり関わらなかったタイプの女子だと感じていた。


だから井坂も興味だけで話をしているんだと思った。


でも、あいつに妙な違和感があって、俺はあいつをよく観察するようになった。


そうしている内に、谷地さんがイメチェンしてきてクラスがざわめき立った。

このとき初めて谷地さんが可愛く見えて、自分で自分に驚いた。


井坂も驚いていて、その日は急に谷地さんと話す回数が減った。

彼女の豹変ぶりに戸惑っての反応らしいが、態度に出過ぎだと俺は思った。

そこまで気にする井坂がどうしても不思議で、俺はたまたま放課後教室に残っていた谷地さんと話をして確かめてみることにした。


谷地さんは二人で話してみると、意外にも返しが新鮮で話すのが楽しかった。

何でも真剣に返してくれて、すごく正直でまっすぐな人なんだと分かった。

井坂が話したくなる理由が分かった日だった。



そして、俺が井坂の変化を確信したのが夏祭りの日だった。


あいつはらしくもなく、待ち合わせに来なかった谷地さんを待つと一人で鳥居に残ってしまって、俺は変に優しい奴だと思った。

けれど谷地さんは来なかったようで、同中の女子と回ってる井坂を見つけて声をかけた。


「井坂!谷地さんは!?」


井坂は悲しそうに目を伏せると、今にも泣きそうな面で言った。


「来なかった…。やっぱ…俺、避けられてるよな…。」

「井坂…。」


俺はこんな井坂を見たことがなかっただけに、何て励ましてやればいいのか分からなかった。

その後は同中の女子に呼ばれて、井坂はしぶしぶ夏祭りを回ったようだったけど、全然楽しそうじゃなくて俺はある可能性を導き出してしまったのだった。


そして週明けの月曜日も谷地さんと井坂はぎこちなくて、俺としては以前のような二人でいてほしかっただけに頭を悩ませていた。


でも次の日には以前と同じ距離間に戻っていて、俺は訳が分からなかったけど安心していた。

それから井坂は谷地さんに自分のメアドを教えていて、あいつらしくない行動に俺は予感を確信に変えた。


井坂は谷地さんが好きなんだと。


俺は人を好きになった事がなかっただけに、その気持ちは理解できなかったけど、二人の雰囲気は良い感じなので上手くいけばいいと思っていた。



そんな夏休みに入ったある日、毎日のように俺の家に来ては遊んでいた井坂がやたらとケータイを見るのに気付いて、俺は気になった事を口にした。


「なぁ、谷地さんからメールきたわけ?」

「は…?何でお前にそんな事言わなきゃなんねーわけ?」


井坂は不機嫌そうにケータイをしまうと、ムスッとふてくされた。

そのバレバレな態度に、俺は自分には届いていた事を思い返して言うべきか迷った。

谷地さんの態度からも脈なしではないと思ってたんだけど…何で井坂にはメールを送らないんだろうか??

俺は女心というものが分からなかったので、その日小波たちを呼び出してみることにした。


そして遊びに来た小波たちを巻き込んで、俺は井坂に助け舟を出すつもりである提案をした。

それはクラス全員で花火大会に行こうという企画だ。

谷地さんを誘えば、井坂だって喜ぶはず!

と思っての事だったのだけど、井坂の奴はあまり嬉しそうではなくて、逆に複雑そうな表情をしていた。


ホントに訳が分からない…


もう首を突っ込むのはやめようかと思っていたら、皆が帰った後に井坂が谷地さんのメアド教えろと言い出した。

俺はそんな井坂が可愛く見えて、あいつの気持ちに気づかないフリをして教えてやった。



そこから俺は色んな場面であの二人の事に関わることになった。



最初は無理やり公園に連れて行かれたときだ。

井坂は早朝に家にやってくると、島田まで呼び出して公園に行くぞと言い出した。

公園まで来たと思ったら、急に植え込みの脇にしゃがみ込んで公園の中を覗き出して、井坂が不審者に見えた。

ま、その理由は単純明快で、谷地さんが西門君とデートするようだと待ち合わせていた二人を見て察した。

井坂は割り込んでいけばいいのに、じっと見てるだけで動こうとしないので仕方なく俺が一肌脱いでやったというわけだ。

あのときは自分を褒めてやりたかった。



その次は花火大会だ。

あの二人が来ないというので、きっと二人で行くんだろうなと思っていたら、バッタリ谷地さんに会ってしまって驚いた。

あのときは邪魔をしてしまったと反省している。

でも結果的に二人で消えたっぽいし、結果オーライだ。



そして二学期に入ると、二人は席が離れた。

まぁ、今回は不正をしてないので当然だと思う。

でも夏休みで二人の距離は縮まってるようだったので、心配はしてなかった。


――――のだけど…


谷地さんが珍しく他のクラスの男子に呼び出されたと思ったら、あいつは気になったのか教室を飛び出して追いかけていった。

俺は他人事のように、人を好きになるって事はここまで人を大胆にさせるものだろうか?なんて思っていた。

でも井坂は一人で戻って来ると、物凄く不機嫌な様子で俺の所にやって来た。

話を聞いてほしそうな面に、俺は声をかけた。


「どうしたわけ?」

「なんもねぇっ!!」


井坂は拗ねた子供みたいに顔を背けて、意味が分からなかった。

谷地さんを追いかけていって、一体何があったのだろう?


「……俺、モテるやつって嫌いだ。」

「は…?何言ってんの?」


井坂がボソッと漏らした言葉に、お前だってモテるだろと思った。

その日の井坂はそのまま不機嫌で、俺は気を遣いすぎて疲れたのを覚えてる。



その日から井坂は少しずつだけど、谷地さんに対する気持ちが大きくなってるように感じた。


まず一つに文化祭のときにナース服を着た谷地さんを見て、あいつはクラスメイトを谷地さんに近付けないようにしながら、自分は真っ赤になっていた。

俺は自分だけが見たかったんだな…とあいつの気持ちが分かってしまった。

その後も、上級生から谷地さんを守ったり、下手すりゃ停学になるっつーのに殴ったりとあいつは谷地さんの事となると見境がなくなっていた。

俺がどんだけヒヤヒヤしたか、一度あいつにきっちり分からせてやりたい。


その波乱の文化祭以降、谷地さんの株は急上昇していて、同じクラスの男子はもちろん。他のクラスからも谷地さんが注目されるようになって、あいつは気が気じゃないようだった。

度々睨みをきかせて、追い払っているのを目撃した。


谷地さんは気づいてないようだけど…

谷地さんが男子と話すと、後ろに井坂アリと言ってもいいぐらいの出現頻度だった。


分かりやすい態度にさすがに俺以外も気づき始めた。


「なぁ…井坂って谷地さんのことが好きなわけ?」


あるとき北野が谷地さんと話す井坂を見て言った。

俺は自分以外にも気づいた奴がいたと嬉しくなった。


「お前も気づいた?」

「気づくも何も…あんだけ張り付いてたら嫌でも分かるだろ。」

「はははっ!だよなぁ~。」


俺はげんなりした様子の北野を見て笑った。


「つーかさ。谷地さん、ここんとこモテてるよなぁ。井坂ヤバいんじゃないの?」

「モテてるって…ただ男子に声かけられてるだけだろ?」


俺は井坂以外に谷地さん狙いの奴を知らないので、北野の言ってる事が分からなかった。

北野は持っていたジュースの紙パックを置くと、信じられないという顔で言った。


「お前、井坂のは気づいたのに。他の奴のは気づいてないわけ!?あんだけ色んな奴と仲良いのに!!」

「は?仲良いのとそいつの気持ちに気づくのはちげーだろーがよ。っていうか、他の奴って誰のことだよ!!」


俺は井坂の味方でもあったので、ライバルを知っておきたかった。

北野はクラス内を見回すと、指折り数えて名前を口にした。


「一番近いのは…西門君だろ…。そんで次が島田だな。あと内村もだろうし。あ、あと分かりにくい所で言うと長澤君かな。」

「そんなに!?っていうか島田って言ったか!?今!!」


俺は身近な奴の名前が出たことに驚いた。

北野は目を細めて俺を見ると、大きくため息をついた。


「お前…どんだけ鈍いんだよ…。文化祭以降、島田の奴、谷地さんばっか見てるじゃねぇかよ。だから、井坂がヤバいんじゃねぇかって言ったんだよ。」

「マジか…。」


俺は島田までとは思ってなくて複雑だった。


「ま、でも谷地さんは井坂が好きっぽいし、大丈夫な気もするんだけどな。」


北野は井坂と谷地さんに目を戻すと、ジュースを飲みながら言った。

俺も北野と同じように目を向けると、嬉しそうな顔の谷地さんが見えた。


その表情から井坂が好きなんだって、見てるこっちまで伝わってくる。


「だよなぁ…。さっさと告白すればいーのに。井坂のヘタレめ。」


俺はずっと友達距離間なのが歯痒かった。

あいつはモテるクセにどこか自信がなくて臆病だから、いつになったら進展するやら分からない。

何か強制的に行動に起こさせなければいけない気がしてくる。


俺はしばらく考えると、もうすぐ体育祭があることを思い出した。

そして体育委員である北野にある提案を持ちかけた。


「北野!今度体育祭あるだろ?」

「あぁ、そうだな。」

「井坂の奴、借り物競争に出るだろ?そこで提案なんだけど…。一枚だけ『好きな人』って紙を忍ばさせてくれねぇ?」

「はぁ!?何だそれ!マンガみてーっ!!」


北野は大声を上げて笑い始めた。

俺はそんな北野の肩を手で押さえて顔を寄せると、小声で悪巧みを伝えた。


「借り物競争で井坂が走るレーンにその紙を置いて欲しいんだよ。体育委員のお前ならできるだろ?」

「まぁ…できなくはないだろうけど…。マジでやるわけ?」

「当たり前だ。あのヘタレの背を押してやるつもりで、頼むよ。」

「…しゃーねー。分かったよ。でも、その紙取るかはまでは保障しねぇからな?」

「いいよ。置いてくれるだけで。」


俺は井坂がその紙を取る事に賭けることにした。


こうして俺と北野の作戦が実行されたわけなのだけど…


あいつはまんまと『好きな人』の紙を引いたにも関わらず、それを谷地さんに見せなかったようで、ただ二人でゴールしただけで、何の進展もしなかった。


普通だったら、俺のお題これだったんだ…からの好きだ!っていう告白に繋げる予定だったのだが…


あのヘタレの臆病具合は尋常じゃなかったらしい…

あまりにも腹の立った俺は、戻ってきた井坂の頭を叩いてやった。


その後も二人の距離は変わらなくて、俺はイライラしていたら、谷地さんが井坂を勉強に誘うという大事件が起きた。


俺は嬉しそうな井坂の顔を見て、勝負をかけろ!!と思っていたんだけど…


なぜか二人の空気が悪化した。


特にテスト終了後はひどかった。


井坂はずっとため息をついていて、谷地さんに話しかけるのを怖がっているように見えた。

俺は何があったのか聞けないだけに、とりあえず励ますことにした。


「おい、何を落ち込んでんだよ。もうすぐクリスマスだぜ?明るくパーッとパーティ開いてやるよ!」

「……そんな気分じゃねぇ…。」

「バカか!!気分を上げねぇとどんどんドツボに嵌るんだよ!無理やりでも気分上げろ!」


俺はとりあえず笑顔を引き出したくて、あいつの背をバシンと叩いた。

あいつはそれにふっと苦笑すると、少し元気が出たようだったので安心した。

けど、やっぱり二人の距離間は悪化の一途を辿っているようで、原因は谷地さんにあるような気がした。


なぜなら谷地さんの井坂を見る表情が以前のものと違っていたからだ。

前までは幸せいっぱいオーラが出ていたのに、今じゃ蔑むような目を向ける事がある。

その目が辛く悲しそうなものに見えて、俺は彼女の中で何かが起きてるってことしか分からなかった。

これは俺に首の突っ込んでいいものじゃないな…と思っていると、小波が谷地さんを気遣っているのが見えた。

ここは女子に任せるのが一番だと思って、俺はとりあえずクリスマス会で二人の仲を戻そうと企画を立ち上げた。



そしてクリスマス会当日―――――


相変わらず暗い表情の井坂だったが、遅れてきた谷地さんを見るなり表情が変わった。

それもそうだろう。

谷地さんは別人のように可愛くなっていて、褒められて照れてる姿なんか普通の男だったら心を鷲掴みにされるところだ。

案の定、井坂以外の男共が何人か見惚れてるのを目撃した。


井坂は意識してるのを隠してるのか、まったく谷地さんと接点を持とうとしなくて、俺はマイク片手に王様ゲームでもやろうかと画策していた。

すると谷地さんが部屋を出ていったのを見て、井坂がソワソワし始めるのが見えた。


俺は歌いながら井坂に視線を向けて、「行け!!」と心の中で念じた。


ヘタレ!!早く追いかけろ!!そんで話しろ!バカ!!


俺はもうマイクを使って言ってやろうかと思ったら、井坂が意を決したように立ち上がった。

俺はそれを見て、胸が弾んだ。

それからは井坂が出た瞬間、マイクを置いて扉にへばりついた。


俺の様子に気づいた何人かが同じように覗き始めて、声は聞こえないけど二人が何かを話しているのは雰囲気で分かった。

すると、谷地さんが恥ずかしそうに俯いたと思ったら、ヘタレの井坂が動いた。

井坂が谷地さんを抱きしめるのが見えて、俺は息をのんだ。

そして笑いが漏れそうになって口を手で押さえた。

他のメンバーもそのようでバレないように、皆声を殺して二人を見守っている。


やった!!やったな!井坂!!


俺は心の中で拍手していたら、井坂とバッチリ目が合った。

井坂はみるみる表情を歪めて身を翻した。

俺はそれを見て咄嗟に逃げるようにマイクを手に取った。


「何見てんだよっ!!」


井坂が俺らが覗いてるのに気付いて飛び込んできて、俺は歌ってた自分を演出しようと首を傾げた。


「何の話だよ?俺ら歌ってたよなぁ?」

「そうそう!!何も見てないよ?」

「そうだよ!!誰も何も知らねーから!!」


皆ウソが下手で見るからに意味深な笑顔を浮かべていて、井坂が恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせると、手を前に突き出した。


「谷地さんの荷物貸して!!」

「へ!?」


彼女の荷物の傍にいた八牧さんが焦って、荷物を井坂に手渡した。

それを受け取った井坂は、自分の荷物を持つと俺の立ってたところに押しのけて立つと言った。


「俺ら付き合う事になったから、抜けるな。」


勝ち誇ったように笑って公言した井坂を見て、俺はマイクを持ったまま歓声を上げた。


「うぉーっ!!井坂ーっ!!やっと男になったなぁー!!」

「うっせ!!じゃーな!」


俺の歓声にかぶさるように皆もそれぞれ歓声や悲鳴を響かせていて、井坂はサッサと部屋を飛び出していった。

俺は島田たちと連れ立って廊下に顔を覗かせると、「ヒューヒュー!」と囃し立てた。

その後の俺たちは井坂の雄姿を称えて、大騒ぎしたのは言うまでもないだろう。



**




俺はあいつとは友達だ。

あいつが幸せそうなら嬉しいし、落ち込んでるなら励ましてやりたい


そう思うけど…

実際、あいつのデレ顔を見たり、人目もはばからずイチャつかれるとムカムカする


それがなぜなのか俺にはまだ理解できないけど…


でも、俺だって恋をすればきっとあいつのように、幸せそうな顔をするようになるんだろう


俺は自分だってまだまだこれからだと思って、今日もあいつをからかおうとニヤニヤ笑いを浮かべるのだった。








今までの井坂の謎行動が少し解消されたのではないでしょうか?

また、こういう第三者視点を描きたいと思います。

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