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理系女子の恋  作者: 流音
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46、年越し


お母さんに何度も大輝と離れない事と電話には必ず出る事を注意されて、私は大輝と連れ立って家を出た。

私はこんな遅い時間に家を出たことがなかっただけに、非日常な感じにドキドキしていた。

横を歩く大輝は大きく欠伸をしながら眠そうに目を瞬かせている。


「大輝、向こうに着いたら余計な事言わないでよね。」

「余計って何のこと?」


私が釘を刺した言葉に大輝はしれっとしている。

私はイラッとしながらも、何かする前に阻止しようと決めた。


「っつーかさ、姉貴の彼氏ってどんな奴?」

「どんなって…カッコ良くて…すごく優しい…かな。」


私は熱くなる頬をマフラーで隠して言った。

すると大輝は「ふ~ん。」と言いながらムスッてしまった。


その反応はどういう事…?


聞いてきたのは大輝なだけに意味が分からなかった。

不機嫌になられる事なんか口にはしてないはずだけど…


私はこれ以上気分を害されると拗ねて帰ってしまうかもと思ったので、口を閉じて話すのはやめることにした。


そして二人で神社の鳥居にやってくると、あゆちゃんや新木さん、アイちゃんはもちろんの事、井坂君と赤井君に島田君、北野君までいて驚いた。


北野君は彼女がいたはずなのに、こんな所に顔を出してていいのだろうか?


私は北野君からずっと会いたかった井坂君に目を移すと、自然と笑みがこぼれた。

井坂君もふっと微笑んでくれて、私は胸が熱くなった。


「詩織、遅い!!ここ、すっごい寒いんだから!!」


あゆちゃんが両腕を抱えながら怒っていて、私は「ごめん。」と謝った。

すると赤井君がもの珍しそうに近寄ってきて、大輝の目の前に立った。


「へぇ~。君が谷地さんの弟?すっげーカッコいいな。モテるだろ?」


赤井君に品定めされるように見られた大輝はカチンときたのか、赤井君を睨みつけると胸を張った。


「あんたが姉貴の彼氏?随分とチャラそうなんだな。頭悪そーだし。進学クラスって言ってもレベルがしれてるな。」

「大輝!!」


急にケンカを売り出した大輝を見て、私は誤解させてることに焦った。

赤井君は売られたケンカを買うような態度で大輝を睨みながら一歩近寄ってきてるし、私はなんとかしようと赤井君と大輝の間に割り込んだ。


「大輝!!この人は赤井君だよ!井坂君はあっち!」


私は大輝の顔を両手で挟むと、グイッと井坂君の方へ顔を動かした。

大輝の視線が井坂君に注がれてるのを確認して、自分も井坂君に振り返る。

すると井坂君がこっちに向かってきて、好意的な笑顔を浮かべた。


「初めまして。井坂拓海です。お姉さんと付き合ってるんだ。よろしくな。」


井坂君が挨拶すると握手しようと手を差し出してきて、大輝はじとっと井坂君を見ると私の手を振り払った。


「さっきの奴とたいして変わんねーじゃん。姉貴、遊ばれてるんじゃねぇの?」

「だっ…大輝!!」


私は突然失礼なことを言う大輝に肝が冷えるようだった。

私は大輝をドンッと手で押すと、井坂君に向き直ってフォローした。


「じょ、冗談だからね!?ホント、いっつも悪態ばっかつく嫌な弟で困ってるんだ。その…気にしないでね?」


井坂君は私を見て顔をクシャっとさせて笑うと、差し出した手をそのまま私の頭にのせてきた。


「いいよ。俺の兄弟も似たようなもんだし。突っかかってくんのなんか可愛いじゃん?」

「か…可愛い…??」


私は憎たらしい弟と可愛いの単語が結びつかなくて顔をしかめた。

すると井坂君が私の頭を軽く撫でてから、その手を前に差し出してきた。

私は髪の毛を整えながらその手を見つめると首を傾げて、彼を見上げた。


「何、不思議そうな顔してんの?こうされたら普通、手だって気づくだろ。」

「あ…あぁ!!」


井坂君が少し照れながら言って、私はドキドキしながらその手を握った。

すると後ろから重みがかかってきて、大輝が抱き付いてきたのが分かった。


「今日はそういうの禁止で。俺、姉貴のお目付け役で来てっから。」


大輝はそう言うと繋いでいた手を引きはがして、私の背を押すように歩き出した。

私は井坂君と引き離されて、大輝を見上げて睨んだ。


「大輝!!邪魔しないでよ!好きに遊びに行ってくればいいでしょ!?」

「母さんから電話きたらどうするつもりだよ。俺は誤魔化すなんてできねーし、正直に言っちまうかも。」

「なっ!?」


大輝は私を脅すつもりなのか、ニヤッと笑っている。

腹が立つけれど言う通りにしなければ、家に帰ってからが怖い事になる。

私はグッと我慢すると、後ろに振り返って井坂君を見つめた。


こんなに近くにいるのに…!!


私は背中に大輝の重さを感じながら歯痒くてたまらなかった。


「それじゃ、早速境内に行くか!屋台も出てるみたいだし、それぞれ欲しいものは自分で調達するってことで。」


赤井君が先導するように歩き出して、あゆちゃんがその隣に走っていった。

私は意外にも赤井君や島田君がからかってこなかったな…と不思議で気持ち悪かった。

付き合い始めのカップルなんて、彼らの良い標的だと思うのだけど…

私は楽しそうに話している赤井君と島田君の背を見ながら、首を傾げたのだった。


すると新木さんがサッと私の隣にやって来ると、私にコソッと耳打ちしてきた。


「しおりん…あのね。北野、彼女と別れたんだって。」

「うそ!!」


私はまさかこんなに早く別れるとは思ってなくて驚いた。

自分がフォローで言った言葉だとはいえ、一カ月ももたないなんて…

新木さんは嬉しそうに頬を赤く染めていて、私はその顔を見てるだけで笑顔になる。


「北野は彼女のこと、そこまで好きじゃなかったみたい。面倒だから別れたって言ってたし、これってチャンス回ってきたって事だよね!?」

「そりゃそうだよ!!別れて傷心してるかもしれないし、早速アピールしてこなきゃ!!」

「だよね!!ちょっと行ってくるね!!」


新木さんは気合の入った顔を浮かべると、私に手を振ってから井坂君と話していた北野君の所へ走っていった。

私は心の中で彼女にエールを送ると、いい加減重くなってきた大輝に声をかけた。


「大輝。いい加減、離れない?重いんだけど。」

「んあ?いいじゃん。俺は楽だし。大体仮にも姉さんなんだし、弟の一人ぐらい面倒見てくれよ。」

「いくら姉だからって、自分よりも大きい弟を背に担いで階段上れるわけないでしょ!?自分の体型を半分にしてから出直してきてよ!!」


私は境内に上がる階段の前で弟と押し問答した。

すると大輝はしぶしぶ背から離れると、今度は肩に手を回してきて、そのまま私の方へもたれかかってきた。

私は今度は肩に重みを感じて、イライラも絶頂だった。


「重いって言ってんでしょ!?離れてよ!!」

「夜中に連れ出されてねみーんだよ。誰かさんのお守りさせられてさぁ?」


私はまた脅されそうで、仕方なく大輝の背に手を回すと階段を駆け上がることにした。


「とりあえず上までだからね!?上に着いたら離れてよ!?」

「へいへーい。」


私はムカつく!と思いながらも、自分よりも重い大輝を支えて階段を上り始めたのだった。



そして上に着くころには私は息も絶え絶えだった。

下にいたときは寒かったはずなのに、今はコートの下がぽかぽかしていて、少し汗をかいてるような気もする。

大輝は呑気に「楽できたぜー!」とか言っているし、締め上げたくなってきた。

そんな息を荒げてる私の横にアイちゃんがやって来ると、私に手を差し出してくれた。


「なんだか強烈な弟さんだねぇ?」

「ほんっと…いつまでも子供でさ…。」


私は有難くアイちゃんの手を取ると姿勢をまっすぐに正した。

アイちゃんは口元を手で隠して笑うと、大輝に視線を投げかけた。


「でも二人って並んでたら姉弟に見えないよね?仲も良いからさ、知らない人が見たらカップルだって誤解しそう。」

「へ?そうかな?顔は似てないかもだけど、背の高さは我が家の特徴を現してるよ?」

「背の高さって…。だから中学生なのにあんなに背が高いんだね。赤井君や井坂君とも変わらないよね?」


アイちゃんは飽きれた様に笑うと、ちらっと赤井君と井坂君を見て言った。

私は大輝と二人を見比べてみて、確かにそうかもしれないと今気づいた。


「背だけだよ。他は全部子供だからね。」

「でも、カッコいいよね。年下なのがもったいないよ。」


アイちゃんが大輝を見つめてそう言って、私はその真剣な目を見て嫌な予感がした。


「ア…アイちゃん…?」

「あ、ごめん。そういう意味じゃないからね。世間一般の感想だから。きっと学校でもモテてるでしょ?」

「あ…うん。よく女子に囲まれるみたい。本人はそういうのが嫌みたいだけど。」


私は否定したアイちゃんを見てとりあえずホッとしたけど、疑いは完全に消えなかった。

アイちゃんはニコニコと笑いながら、「そこは中学生男子って感じだね。」と言っている。

するとケータイを手にした大輝がこっちにやって来て、私はアイちゃんから大輝に目を移した。


「姉貴。母さんから電話。」

「あ、うん。貸して。」


私は大輝からケータイを受け取ると、おそるおそる電話に出た。


「もしもし、お母さん?」

『詩織?無事にお友達とは会えたの?』

「うん。今、みんなで境内にいるよ。」


私はそこまで怖がることもなかったかなと話しながら思った。


『そう。それなら良かったわ。年が明けたらサッサと初詣を済ませて帰って来るのよ。お蕎麦作って待ってるから。』

「うん。分かってる。また帰るときに電話入れるようにするね。」

『そうしてちょうだい。それじゃ、気を付けるのよ。』

「はい。」


私はお母さんを安心させられた事にホッとして電話を切った。

でもこれで、もう向こうからは電話がかかって来ないんじゃ…

私はケータイを閉じてそう思って、大輝を見つめた。


「大輝…。ちょっとだけ…どこかに遊びに行ったりしない?」

「は?何、食いもんでも奢ってくれんの?」


私は横にいたアイちゃんを見て、アイコンタクトで察してとお願いした。

アイちゃんは私の気持ちに気づいてくれたのか、大輝と私の前に進み出ると言った。


「大輝君!このアイお姉さんが何でも奢ってあげるよ!ついでにゲームもやってみる??」

「え…でも、俺…姉貴といねーといけねぇし。」

「大輝!!私ならあゆちゃんたちと一緒にいるから大丈夫!せっかくだから、アイちゃんと一緒に行っておいで!」


私はあゆちゃんや赤井君のいる集団を指さして告げた。

大輝は顔をしかめていたけど、アイちゃんに「好きなもの何でも言ってよ!」と言われて誘惑に負けたようだった。

私に「すぐ戻るからな。」と言い残して、大輝はアイちゃんと並んで露店に向かっていった。

それを確認すると私は大輝のケータイを握りしめたまま、井坂君のいる集団へ走った。

井坂君は島田君たちと何やら笑いながら話をしていて、私は少し躊躇ったけど井坂君の腕を掴んで引っ張った。


「…や…谷地さん。あれ…?弟さんは?」


井坂君よりも先に島田君が尋ねてきて、私は井坂君の腕を掴んだまま「今は別行動中。」と口にした。

すると井坂君が事情を察してくれたのか、腕を掴んでいた私の手を握ってきた。


「悪い。俺ら別行動で!」


私は反射的に彼を見上げると、井坂君が嬉しそうな顔をしているのが見えた。

赤井君たちは「勝手にしろよ!」とムスッとしながら手をシッシッと動かしていて、やっぱり以前のようにはからかってこなくて、それに違和感を感じた。

井坂君は「わりーな!」と言い残すと、私の手を引いて歩き始めた。

私は並んで歩きながら横目で井坂君を見上げて、すぐ近くにいる事に嬉しくなった。

手のゴツゴツした感じもクリスマスの日と同じで胸がキュッと締め付けられる。


「どんぐらい時間あんの?」


井坂君がおもむろに聞いてきて、私は大輝の言葉を思い出して「少しだけ。」と答えた。

すると井坂君はケータイで時間を確認してから、私を見て言った。


「じゃあ、先におみくじ引きに行こう。年が明けるまで10分ぐらいあるからさ。」


私は井坂君を見つめると、今まで感じたことのない気持ちが湧き上がってきて即答できなかった。


おみくじよりも…もっと近くに行きたい…かも…


私は井坂君をギュッと抱きしめたくなって、でもそんな事できないので、代わりに握ってる手に力を入れて頷いたのだった。




おみくじの引ける社は人でごった返していて、私は井坂君の背に隠れながらなんとか人混みを抜けることができた。

井坂君は私の分まで料金を払ってくれると、先におみくじの入った筒を渡してくれた。

私はそれを両手で持って振ると、良いのが出ますように!!と願ってからひっくり返した。

そして出てきた棒の番号を読み上げると、井坂君に筒を手渡した。

井坂君は私のときよりも激しく筒を振っていて、本気が伝わってきた。

私は先に巫女さんからおみくじを受け取ると、中を確認した。


そこには『中吉』と記されていて、微妙だな…と思ってしまった。

でも恋愛の所に良い事が書かれていて、私は頬が緩んだ。


『傍にいる人を大切にすべし』…か、当たってるかも…


私は井坂君のおみくじも気になって、巫女さんからおみくじを受け取っている井坂君に目を向けた。


「どうだった?」

「ん…と…。お!!大吉だ!やりーっ!!」


井坂君が嬉しそうに喜んでいて、私まで嬉しくなる。


「谷地さんは、何だった?」

「私は中吉。でも、良い事書いてあったから持って帰るよ。」

「良い事?って何が書いてあったわけ?」

「内緒。」


私は相手が相手だけに言うわけにはいかなかった。

井坂君は「ちぇっ。」と残念そうな顔をすると、自分のおみくじに目を戻した。

私がその表情をじっと見ていると、井坂君の目が見開かれた後、口元がゆっくり持ち上がって、何か良い事が書かれていたのが伝わってきた。


まぁ自分が内緒にしちゃっただけに、訊くのはやめることにした。


そうしていると、周りが騒がしくなってきて年明けのカウントダウンが始まったみたいだった。

あちこちからテンションの高い声が聞こえてくる。


「ここいると危ないかもな。なんか大人の人も多いし…。あっち行こう。」


井坂君は私の手をとると、人の少ない社の横を指さしていて私はそっちに目を向けて足を進めた。



そしてなんとか人の喧騒から離れて少し静かな所までくると、カウントダウンも30を切っていた。

私は井坂君との年明けを実現できそうで、胸が高鳴った。

繋いでる手に力を入れると井坂君を見上げて、小さくカウントダウンを口にした。

すると井坂君も同じように数えはじめて、10を切ったぐらいから声の音量を上げた。


「9、8、7!!」


私は声を上げる井坂君を見て笑いながら、一緒に声を出した。

そして『1!!』と数えた後に、人だかりから歓声とクラッカーの音が鳴り響いた。

あの集団が盛り上がって胴上げし始めたのを見て、離れてきて良かったと思った。


「谷地さん。あけましておめでとう。今年もよろしくな。」

「こちらこそ!あけましておめでとう!こんな私だけど…今年もよろしくお願いします!!」


私は彼女としての役目も何も分からないだけに、深々と頭を下げた。

そして顔を上げると、井坂君が声を殺すように笑っていて、私はまたあの顔で笑ってる…と思って嬉しくなったのだった。






次で冬休みは終わりになります。

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