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理系女子の恋  作者: 流音
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39、それぞれの好きな人


井坂君と一緒にイルミネーションを見た次の日、

私はあのときの事を思い出してぼけーっとしていた。

お弁当を食べる手も自然と止まる。


目の奥に今もキラキラ、チカチカ輝いている光景と井坂君の笑顔…


私は頬が自然と緩みだして、ヘラッと顔が笑ってしまう。

そんな変な行動を起こしている私を見つめて、皆が言葉を失っているのが伝わってくる。

そこへお昼を食べ終えたのか井坂君がやって来た。


「谷地さん。今日も図書室行くよな?」

「う、うんっ!!もちろん!」


井坂君が頭を掻きながら照れ臭そうにしていて、私はお箸を下ろして全力で頷いた。

自然と顔に熱を持っていく。


「じゃ、今日も行くな。」

「わっ、わかった!!」


井坂君は嬉しそうに微笑むと席に戻っていって、私は井坂君の背中を見つめて全身に鳥肌が立つようだった。


今の…会話…、彼氏と彼女みたいだった…!!


私はデレッとなる顔を手で押さえて視線を前に戻すと、真剣な目のあゆちゃんたちの視線が突き刺さってきた。

私は気まずくなってそれから自然と目を逸らすと、お弁当を食べるのを再開した。


「何!?今の!!詩織っ!!あんた、昨日何があったか白状しなさい!!」

「そーだよ!!この間まで暗かったと思ったら、今日はすんごいご機嫌だし、意味が分からないんだけど!!」

「しおりんには事情を説明する義務があるっ!!」


私はあゆちゃんと新木さん、それにタカさんに詰め寄られて、食べていたご飯を飲み込んだ。

私の好きな人を知らなかった篠ちゃんたちは顔を見合わせて、「まさか。」と呟いている。

私はこんな人目のある教室で話すつもりはなかったので、ひたすらお弁当を食べ続けた。


「こらっ!!内緒にするな!!箸を置け!!」

「言わないと、大声で好きな人バラすからね!?」


「そっ、それはやめて!!」


新木さんの脅しに、私はお弁当を机に置くとしぶしぶ立ち上がった。

みんなの目が私に集まる。


「ここじゃ、話せないから…こっち来て。」


私はベランダに出ようと足を進めた。

するとあゆちゃんを先頭になんと女子全員ついてきてしまった。

私は寒いベランダで身をすくめてしゃがみ込むと、皆が円を描くように同じようにしゃがみ込んできた。

そして期待に満ちた目が私に突き刺さってくる。


「それで?昨日、何があったの?一組に行くとき、井坂の姿がないから変だな~と思ってたんだよね…。」


あゆちゃんが一番事情を察していそうで、私は一度唾を飲み込むと事情の知らない篠ちゃんやゆずちゃんに打ち明けた。


「あのね…、私、井坂君の事が好きなんだけど…。」

「えぇっ!?そうなんだ!」

「あー!!だから、よく一緒にいるんだねぇ!!」

「…うん。その…井坂君が一組の女子と勉強するのが…なんていうか…嫌でさ…。あゆちゃんたちなら分かるよね…?」


私があゆちゃんと新木さんに話を振ると、彼女たちは何度も頷いた。

余程イヤらしい…


「だから…昨日…勇気を出して…一緒に勉強しないかって誘ったんだ…。」

「うっそ!!詩織にしては珍しい!!」

「ホント!!よくそんな下心丸出しの事、口に出せたねぇー!!」


アイちゃんに下心丸出しと言われて、私はやっぱりそうなのか…と恥ずかしくなってきた。

もうバレてもいいと開き直ることにすると、続きを口にした。


「それで昨日は一緒に図書室で勉強して…一緒に帰るときに…その…すごい良いもの見せてもらっちゃって…。」

「すごい良いもの?って何?」


みんなの大きな期待が伝わってきて、私はコホンと咳をしてから笑顔で答えた。


「河川敷のイルミネーションだよ。すっごく綺麗で…世界に二人っきりみたいだった…。」


私があのときの事を思い出してうっとりとしていると、皆から悲鳴が返ってきた。


「何それ!!何それ!!すっごいロマンチックなんだけど!!」

「井坂!!意外と乙女趣味なんだね!!笑えるっ!!」

「っていうか、わざわざ二人で河川敷のイルミネーションって!!」

「すっごいキュンキュンするーっ!!」

「私が一組の女子と格闘してたときに一人だけ幸せそうでずるいっ!!その幸せをよこせーっ!!」


あゆちゃんが私に掴みかかってきて、首を絞められる。

私は揺さぶられながらも幸せすぎて、頬が緩みっぱなしだった。


「それって…もう二人は両思いなんじゃないの?」


ゆずちゃんがメガネを押し上げると、サラッと言ってきて、私は目をパチクリさせた。

ゆずちゃんは私たちを見回して、もう一度言った。


「二人で勉強したり、イルミネーション見たりなんて…どう見ても両思いにしか見えないんだけど。」


私は自分が心のどこかで期待していた事が返ってきて、自然と顔が熱くなってきた。

そうだったらいいなと思ってた。

でも、確信がないだけに何度も否定してきていた。


「そーだよ。詩織。もう、告っちゃえば?テストが終わったらクリスマスなんだし。」

「うん。なんか私もいける気がするんだけど…。ウチのクラスの第一号カップルになっちゃえばいいじゃん?」


あゆちゃんが首を絞めてきた手を放すと、私をちらっと見て言った。

私は『告白』ということを考えて、急に怖くなってきた。

嫌な記憶が私を途端に進めなくする。


私はそれを表情に出さないように笑顔を作ると、変に思われないように口に出した。


「そ…そのうち考えるよ…。それより、あゆちゃんや新木さんはどうなってるの?」


私は話を変えようと、二人に話をふった。

あゆちゃんは私を見て不服そうにしていたけど、昨日の事を思い出したようで怖い顔になった。


「私は前進どころか後退してる気がしてならないわ。ほんっとにしつこいのよ!一組の女子!!赤井も赤井でちやほやされるから喜んでるし、何度殴りたくなったか…。」


あゆちゃんは拳を握りしめると怒りをあらわにしている。

その横で新木さんは急に落ち込み始めて、私は新木さんに視線を向けた。


「…北野はさ…、一組の子と付き合い始めたみたい。」

「うえぇっ!?」

「うそ!?」

「それ、ホントの話!?」


あゆちゃん以外のメンバーは新木さんの言葉に驚いた。

あゆちゃんは知っていたようで、顔を歪めて新木さんの背を撫でている。


「最近…よく一緒にいるなぁ…と思って、北野に聞いてみたんだ…。そしたら、告られたから付き合う事にしたって…。」

「なにそれ…、告られたからって付き合うとか軽すぎるんじゃない!?」


アイちゃんが怒りだして、新木さんはそんなアイちゃんを宥めようと首を振った。


「告白できなかった私が悪いんだよ。今の状況に甘んじてたっていうか…居心地が良くて、一歩を踏み出せなかった。とられて当然なんだよ。」

「違う!!新木さんは悪くない!!」


私は彼女の気持ちが自分と同じだと気づいて口に出さずにはいられなかった。

新木さんは驚いた目で私を見つめてくる。


「居心地が良くて失いたくないって思うのは当然なんだよ!!近かったから…新木さんが一番北野君に近かったから…関係を変えるのが嫌で…告白できなかったんだよ!それは絶対悪い事じゃない!!」


私は新木さんの辛さが乗り移ったのか、目の奥が熱くなってきて目が潤んだ。

目の前の新木さんも泣きそうな顔で唇を噛んでいる。


「少し遠かったから…一組の子は告白できたんだよ!!だから、新木さんのせいじゃない!絶対に悪いわけじゃない!!告白されたからって付き合う関係なんて…絶対長続きしないよ!すぐ別れるに決まってるから!!」


私そんな確証どこにもなかったけど、新木さんを励ましたくて口から勝手に飛び出していた。

あゆちゃんのときもだけど、私はそうなる確証もないのに前向きな事を言いすぎなんじゃないだろうか…

私は言ってから、やってしまったと思った。

でも、新木さんは涙を零しながらも笑顔になっていて、少し元気が出たようだった。


「そうだね。…ありがとう。ちょっとスッキリしたよ。」


新木さんの言葉を聞いて、みんなの空気が和らいだ。

あゆちゃんは新木さんを慰めるように優しく微笑んでいて、私は自分のおせっかい発言もたまに良いことをするなと安心した。


すると、ゆずちゃんが意を決したように私を見て声を上げた。


「実は!!私も好きな人がいるっ!!」

「えぇっ!?」「急に!?」「誰!?」


みんなが口々に尋ねていたが、ゆずちゃんの目はなぜかまっすぐ私に注がれていて、嫌な予感がした。


ま…まさか…ゆずちゃんも井坂君が好きとか…言わないよね…


私はモテる彼だけにあり得そうだと思って、背中を汗が伝った。

でも出てきた名前はもっと驚くものだった。


「私は西門君が好きなんだ!!」


「えぇーーーっ!?」


私は驚きすぎて後ろに仰け反りそうになった。

ゆずちゃんは恋する乙女の顔で赤くなっている。

私は何度か咳き込むとゆずちゃんに尋ねた。


「…えっ!?西門君の…どこがいいの?ごめん、私にはさっぱりで…。」

「…良い所なんて…全部だよ。勉強熱心なところも、部活に一生懸命な所も全部。」


ゆずちゃんの言葉を聞いて、そういえば同じ吹奏楽部だったな…と思った。

確かに西門君の唯一の良い所といえば、真面目な所だ。

やると決めたことは何でも一生懸命に取り組む。

ゆずちゃんは西門君の良い所をちゃんと見てる、それが幼馴染として嬉しかった。


「しおちゃんには…言わなきゃって…ずっと思ってて…。その…西門君と付き合ってるって思ってたから…。」

「違う!!それは断じて違うから!!」


私は赤井君や井坂君に続いて、彼女にも誤解させている事に申し訳なくなった。

ゆずちゃんは安心したように笑うと言った。


「分かってるよ。今日の話聞いて、安心したんだ。井坂君が好きなんだって…私と同じで…片思いしてるって知って…嬉しかった。」

「ゆずちゃん…。」


私は小柄な彼女をギュッとしたくなるぐらい可愛く見えた。

ゆずちゃんは頬を赤く染めたまま私を見つめて、ふと微笑んだ。


「これからは、私のことも応援してくれる?」

「もちろんだよ!!なんなら、協力もするよ!」


私は二人が上手くいくなら手は惜しまないつもりだった。

でもゆずちゃんは「それはいいよ。」と手を振った。

まぁ…人の恋路に首を突っ込むのはよくないので、私は変な行動だけはしないように気を付けることにした。


そこからはそれぞれの好きな人の話に盛り上がって、私は結局お弁当をかけこむ結果になったのだった。




***




そして放課後…


私は図書室に向かうときに、ちらと西門君を見て、ゆずちゃんと並ぶ姿を想像した。

二人とも大人しい方なので、並んだら理知的カップルですごくお似合いな気がした。

それを思ってどうしても顔が緩んでくる。


すると西門君がこっちに気づいて、目が合った瞬間に顔をしかめた。


「何見てんの?」

「べっ…別に~?」


私はどうしてもニヤけてきそうで、西門君から顔をそむけた。

それが彼を更に疑り深くさせてしまったようで、西門君は私に近寄ってくると頭をガシッと掴んだ。


「その顔!何か企んでんだろ!?付き合い長いんだから、騙されねーからな!!」

「痛いっ!何も企んでないよ!!」


私は西門君の腕を払いのけると、逃げようと教室の扉に走った。

でも後ろから腕が回ってきて、首を羽交い絞めにされた。


「嘘つくな。言わねーと、冬休み家に突撃かけるからな。」


真上から西門君の脅しが聞こえてきて、私は彼の腕を叩いて抗議した。


「ほんっとに何もないんだって!!嘘じゃない!!だから、許してよ!」

「本当だろうな?しおはすぐ嘘つくからなぁ~。」

「今回はほんっとに嘘じゃないから!!」


私はなんとか分かってもらおうと声を荒げていると、教室の入り口から井坂君がこっちを見ているのが見えた。

それを見て、こんな事をしてる場合じゃないと西門君を引きはがした。


「とにかく!!何もないから!じゃ、また明日ね!!」


西門君は不満そうにしていたけど「はいはい。」と言っていて、とりあえずは納得してくれたようだった。

私は彼に手を振ると、教室の入り口に向かった。

でもそこには井坂君の姿はなくなっていて、廊下の向こうに後ろ姿が見えたので、私は彼を追いかけて走った。


「井坂君!!」


声をかけて追いつくと、井坂君はムスッとしたまま早足で歩いていて、雰囲気からすごく怒ってるのが伝わってきた。

私は場を和ませようと、笑顔を浮かべたまま話しかけた。


「今日は勉強に集中し過ぎないようにするから、話しかけていいからね?」


私は昨日の反省を口にした。

それを聞いて井坂君は急に立ち止まると、不機嫌そのものの顔を私に向けた。


「谷地さんって、ホント分からねぇよな!」

「へ?」


私が彼の言葉に面食らっていると、井坂君はまた足早に歩き始めた。

私はとりあえず追いかけると、速さを合わせようと足を速める。


「ほんっと分からねぇよ。」


井坂君はまたぼやいていて、私は分からないの意味がよく分からなくて上手い返しが浮かばなかった。



分からないって…一体…どういうこと…?








女子トークは書いてて面白いです。

それぞれの恋の行方にもご注目ください。

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