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理系女子の恋  作者: 流音
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3、壁を壊す


私は委員会の次の日、学校に来ると物凄く緊張していた。

机に両手をのせると、ギュッと固く拳を握りしめる。


『同中以外の奴とは話しませんってか…』


井坂君の言葉が頭の中でずっと繰り返されていて、私は昨日はよく眠れなかった。


よくよく考えてみると、核心をつかれた言葉だと思った。

私が高校に入学してから話した人と言えば、中学から…いや小学校からの知り合いばかりだ。

タカさんに話ができなかったときは、クラスから逃げるようにナナコのところへ行っていた。


新しくこのクラスで友達になったのもタカさんだけ。


グループに入れないとか、男子が多くて緊張するとか理由をつけて、極力クラスメイトと話さないようにしていた。

こんなんじゃ中学のときと変わらない。

私は中学のときのあの空気が嫌で、進学クラスにきたんだ。

それなのに、クラスメイトと壁を作ってどうするの?


私は一晩悩んで、井坂君に謝ろうと心に決めていた。


昨日のような鋭い目で見られたらと思うと、怖くて手が震えるけど誤解させたままになるのは嫌だった。

私は緊張で呼吸が浅くなっていて、何度もため息をつく。

すると後ろから肩を叩かれて、私は過剰に反応して肩をビクつかせた。


「おはよって…なんかビビり過ぎじゃない?何、そんな緊張してんの?」


肩を叩いたのが西門君だと分かって、私はホッと胸を撫で下ろした。

安心感から自然と笑顔が漏れる。


「おはよー。なんか西門君で安心したよ。」

「へ?何言ってんの?」


西門君は驚いたように眉を持ち上げると、首を傾げて席についた。

私は西門君なら普通に話せるのにな…と思って、自分が井坂君に緊張する理由が分からなかった。

あの言葉だって…実はすごくショックだった。

そういう事を言わせてしまった私にも原因があるだけに、胸が苦しくなる。


「そういえば昨日の委員会どうだった?」


西門君の質問に私は昨日と同じように喉に何かが張り付いて、声が出なくなった。


「俺はさー、同中の長谷川に絡まれて大変だったよ。進学クラスに入るとかエリート気取りかーってさ。あいつ、進学クラス落ちただけに根に持っててさぁ…。」


私は長谷川君のお坊さんみたいなつるつる頭を思い出して、吹き出した。


「っぶ!!長谷川君ってここ目指してたんだ。それ初耳かも。」

「知らなかった?あいつバカなクセに受けたんだぜ?普通クラスだってよく受かったと思うよ。」


西門君は長谷川君と同じ塾だっただけに、彼の成績をよく知っているようだった。

私は西門君と話すことで緊張がほどけてきて、いつも通りに笑えている事に安堵した。


すると聞き覚えのある笑い声が聞こえて、私は教室の入り口に目を向けた。

そこには島田君とじゃれ合いながら教室に入って来る井坂君がいた。


来た…。きちんと謝らないと…。


私がじっと井坂君を見つめていると、井坂君の目が私に向いて視線が交わった。

それだけでまた緊張してきて、手に力を入れる。

けれど井坂君は私からスッと視線を逸らすと、島田君と話しながら私に背を向けた状態で席についた。


私はそれが拒絶の意思だと分かって、謝ろうと決めたはずの気持ちが揺らいだ。

ダメだ…自分から話しかけるとか…できない…。


私は席を立つと気まずさから教室を飛び出した。

早足でナナコの教室に向かいかけて、その足を止める。


今…ナナコの所に行ったら、井坂君の言葉を肯定することになる…


私は胸が痛くなるのを抑え込むと、ナナコの教室の前を通り過ぎてトイレに駆け込んだ。


トイレの洗面台の鏡を見て、自分の顔を確認する。


鏡に映った自分は今にも泣き出しそうで、眉間にすごく深い皺が刻まれていた。

こんなの自分じゃない。


私は自分の唯一の取り柄を思い出して、口角を持ち上げた。

笑え…笑って…気持ちを上げるんだ…

私は満面には程遠いけれど、何とか人に見せられる笑顔になったのを確認してふっと息を吐いた。


大丈夫…普通に謝ればいい…

何も言わないまま誤解させた状態よりは変わるはず…


私は自分の中の勇気を絞り出すと、トイレを後にして教室に足を向けた。

そして教室に戻る途中でチャイムが鳴ってしまい、私は足を速めて教室へ戻った。

教室に入るとみんなが自分の席に移動している所で、私は慌てて自分の席についた。


そのときにちらっと井坂君を見たけど、彼は私の方を見ていなかった。




***




それから井坂君と話せるチャンスはやって来なくて、とうとう放課後になってしまった。

私は掃除当番だったので、箒で掃除しながら今にも帰ってしまいそうな井坂君を気にしていた。

何とか早めに謝りたいけど、彼はいつも友達と一緒にいて話しかける事ができない。

私は無駄に箒を動かしながら、昨日のように二人になれないかと考えを巡らす。

するとクラスメイトの北野君に声をかけられた。


「谷地さん。美化委員だし、ゴミ捨てよろしく~。」

「えっ!?へっ!?どういうこと?」


委員だからってゴミ捨てを押し付けられそうになって、サッカー部で色黒の彼を見て尋ねた。

彼は周りの男子と顔を見合わせると笑った。


「だって、谷地さん掃除にも身が入ってなかったし、委員なのにおかしいじゃん?ゴミ捨てぐらいしてくれよ。」

「…あ…、ごめんなさい。」


身が入ってないと言われて、私は確かに井坂君に謝ることばかり考えていたと思った。

これじゃあ本末転倒だ。

クラスメイトと壁をなくそうと思ってるのに、井坂君以外のクラスメイトに壁を作っちゃ意味がない。


「私、ゴミ捨て行ってくるよ!次からはちゃんとするから…その、ゴミ捨てで許してくれる?」


私は少しでも彼らと向き合おうと思って、口から自然と言葉が飛び出した。

北野君たちは驚いていたけど、顔を緩ませると笑い出した。


「あははっ!冗談だったのに。谷地さんって真面目だよな。」

「そうそう。なんか見た目通りって感じ。」

「でも、今初めて谷地さんとちゃんと話できた気分。」


ひょろっとした体格の長澤君がそう言って、私は余程クラスメイトと壁を作っていたんだと分かった。

人見知りだからと言い聞かせて、男子とは関わらないようにしてきたからだ。

自分が情けなくなってくる。


「とにかく、今日はゴミ捨て行ってくるよ。みんなは先に掃除終わってていいから。」


私は贖罪だと思って、ゴミ箱を持つと焼却炉に向かって走った。

後ろから「ありがとー」という声が聞こえてきて、私は少し向き合えたかなと思って顔が緩んだ。




***



そして空になったゴミ箱を持って教室に戻ってくると、皆帰っってしまって教室はシンと静まり返っていた。

私は井坂君に謝りたくて急いだけど、間に合わなかった事に落胆してしゃがみ込んだ。

ゴミ箱がガコンと音を出して床に落ち着く。


あぁ…私の意気地なし…


そのときベランダに出る扉が開いて井坂君が姿を見せた。

私はその姿を見てポカンと口を開けて固まった。


井坂君…なんでベランダに…??


私は彼がまだいた事に驚いて思わず立ち上がると、その場に立ち尽くす。

言いたい言葉を頭に並べて、何から言おうかと口をパクつかせた。


あんなに謝りたいと思ってたのに、いきなり過ぎて頭に何も浮かばない!!


私が半ばパニックになていると、井坂君が頭をガシガシ掻き毟って、よく通る声で言った。


「昨日は…一方的なこと言ってごめん。無神経だった。」

「へ…?」


私は彼が謝る意味が分からなくて、言いたい事が頭から消え去った。

何で…井坂君が謝るの…?

私は一歩教室に入るときにゴミ箱を蹴とばしてしまい、ゴミ箱が倒れかけて焦って手で支えた。

その前のめりの姿勢のまま、一番言いたかった事だけを口にする。


「ご…、ごめんなさい…。私…同中の人とだけ…話したいわけじゃないの。」


謝罪を口にしながらゴミ箱を持つ手が震えてくる。

本当に何で井坂君に対してだけ、こんなに緊張するのか分からない。


「私…初対面の人と話すのが…苦手で…。自分で殻に閉じこもってたっていうか…。こんな地味だし…自分に自信がないのもあって…。井坂君には…痛い所を突かれたと…思った…。」


私は誤解を解きたい一心で本音を口にした。

口にすると本当に自分がダメな人間だって思い知る。


「でも、井坂君のあの言葉に気づかされたから…これからは、変わろうと思う。だから…その…委員会のときに…起こさなくて…本当にごめんなさい。」


私は一度深く頭を下げると、ゴミ箱を持って定位置に戻し、何も発さない井坂君を見ることなく鞄を手にした。

そして何かを言われるかが怖かったので、そのまま教室の外へ足を向ける。


「俺さ!地味だとか思ったことねーよ!!」


井坂君が声を張り上げてきて、私は立ち止まると彼に振り返った。

彼は昨日とは違う優しい顔をしていて、まっすぐ私を見つめていた。


「委員会のときのは俺も悪かったし。お相子って事でさ…、俺とも話をしてほしい。いいよな?」


話をしてほしいと言われて断る人がいるのだろうか?

私は当たり前の事をお願いされて、とりあえず頷いた。

すると井坂君が島田君や赤井君に見せるような笑顔で笑って、私は胸がざわついた。


何だろう…この感じ…


そして私は彼の笑顔が見れたことが嬉しくなって、自分も自然と口角が持ち上がった。


胸がポカポカするぐらい、すごく温かい…


私はタカさんに続いてクラスメイトと関わることができた。


この胸のざわつきは人見知り脱却の第一歩なんだろう。


私は井坂君にきっちりと向き合うと「ありがとう。」とお礼を口にしたのだった。








メイン二人が仲直りしました。

だんだんと距離を縮めていきます。

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