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理系女子の恋  作者: 流音
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37、合コンっぽいもの


私はあゆちゃんたちと赤井君をつけてきて、カラオケボックスに入っていた。

メンバーはあゆちゃんに新木さん、そしてツッキ―にアイちゃんという面子だ。

タカさんは図書当番で来れなくて、後のメンバーは部活動があるからとの事だった。


私はジュースをずずっと飲みながら、扉にへばりついているあゆちゃんと新木さんを見た。

二人はここに来てから、ずっとああして斜め前の部屋を観察している。


まぁ、放課後…教室に来た彼女たちを見たら、気持ちもよく分かる。

私だって、不安で仕方ないぐらいだ。


放課後、石川さん達は他の一組の子達も連れてやって来た。

そのメンバーはみんなとっても可愛い子達で、私たちは一気に不安になったのだ。


そうそう、赤井君たちも顔を輝かせていた。

ホント…単純というか…


また一組のどの女の子も肉食系といった感じで、目当ての男子の横にくっつくとその横をずっとキープしていた。

私は井坂君の横にあの巻き髪女子がくっついていて、それがすごく嫌でずっとムカムカしていた。


そして今、彼らは向かいの部屋で、合コンっぽいものを展開しているようだった。



「ここからじゃ、何やってるか全然分かんない!!」

「音だって、何も聞こえないし!!」


あゆちゃんと新木さんが扉を叩きながら、歯痒そうにしている。

私は飲んでいたジュースのグラスを置くと、何の気なしに言った。


「廊下まで出て、様子を見てきたらいいんじゃないかな?」


二人は同時に私に振り返ると、指さしてきた。


「それだ!!詩織!!行ってきて!!」

「えぇっ!?何で、私!?」


私は目を剥いて二人を見つめた。

二人は私の手を引っ張ると切羽詰まった表情で言った。


「一番、怪しまれなさそうだから!!私たちが行ってもし見つかったら、つけたってバレる可能性高いでしょ!?だから!!行ってきて!!」

「えぇっ!?ちょっ!あゆちゃん!!」


私の抗議もむなしく、あゆちゃんは部屋から私を追い出した。

私は閉めきられた扉を見て、呆然と立ち尽くす。

扉にある小さな窓から、二人が「行け!!」と言っているのが見える。

私は仕方なく向かいの部屋に目を向けると、見つからないように扉の脇に立った。


見つかったら…トイレに行くフリして立ち去ればいいよね…


私はトイレの場所を確認して、そっと扉の小さな窓から中の様子を窺った。

中は何やら大盛り上がりで、赤井君と島田君がマイクを持って熱唱していた。

そして井坂君の隣にはあの巻き髪女子がいて、何かを楽しそうに話しているのが見える。

私はたったそれだけで胸が痛くなってきて、見るのが嫌になった。

でも北野君の姿を確認できていないので、引き続き様子を窺うと北野君がカップルのような距離の近さで、ふわふわした雰囲気の可愛い子と話しているのが見えた。


アレ…近すぎない…?


私は腕を組んでいる二人から目が離せなくて、これをどう報告するか考えた。

窓から目を離して、腕を組むと部屋に戻ろうと顔をしかめる。


これ…言ったら、ショック受けるよね…


私は井坂君の事もショックだっただけに、新木さんに伝えるのが嫌だった。

すると横の扉が開いて、誰かが出てきた。

私はその気配に思わず体がビクついて立ち止まる。


「あれ?谷地さん?」


声から井坂君だと分かって、私は顔も確認せずにトイレに向かって走った。

井坂君から逃げながら、私はこんなんじゃ様子を窺ってたとバレバレだと思ったが、足が止まってはくれなかった。

そしてトイレに逃げ込んで、洗面所に手をつくと大きく息を吐いた。


ヤバい…ヤバい…なんでもっと自然を装えなかったんだ!!


私はギュッと拳を握りしめると、自分の心臓が落ち着きを取り戻すのを待った。

そして一息ついて、自分の顔を鏡で確認すると、気合を入れた。


もう、井坂君も部屋に戻ってるだろうし…普通にあゆちゃんたちの所に戻ろう…


私は一度トイレの扉を開けて外を確認すると、誰もいないのを見て外に出た。

そして、あゆちゃんたちのいる部屋に戻ろうと足を進めた。

そのとき、自分のいた部屋が何番か分からなくなっている事に気づいて、私は顔面蒼白になった。


あれ…どこだったっけ…?


私は逃げるのに必死で部屋を見失っていた。


「……どうしよう…。」


私は背筋が冷えてきて、頭の中がパニックになりそうだった。

自分が走ってきた方向を思い出して、そこから部屋を導き出すことにする。

確か左側の部屋だったはず…

私は知らない人の部屋を覗くのも嫌だったが、いつかあゆちゃんたちの顔が見えるはずだと言い聞かせて、素早く覗いていく。


「あ、やっぱり谷地さんだ。」


今度は背後から井坂君の声が聞こえて、私は体をビクつかせると、おそるおそる振り返った。

彼は両手にジュースの入ったグラスを持っていて、これを取りに行っていたと見て分かった。

私は今度は逃げ出さないように姿勢を正すと、渇いた笑顔を浮かべた。


「あはは。偶然だねぇ~…。」

「何?さっき凄い勢いで走ってったけど、そんなにトイレ急いでたんだ?」


井坂君が私の行動に気づいてないと分かって、私は彼の勘違いに合わせることにした。


「あ、うん!ちょっと気分が悪くてさぁ…あはは…。」

「気分って大丈夫なのかよ?家帰って休んだ方がいいんじゃねぇ?」

「あ、もう大丈夫だから!!気にしないで!」

「……なら、いいけど…。」


本気で心配してくれてる井坂君の姿に自分の嘘が申し訳なくて、私は目を逸らして胸にわだかまりを抱えた。


「っつーか、部屋に戻らねぇの?さっきから怪しい事してたけど。」

「あ…うん。部屋番号忘れちゃって…。」

「マジで!?谷地さんって、ホント、抜けてるよなぁ~!!」


井坂君が顔をクシャっとさせて笑って、私は自分の情けなさに落ち込んだ。

すると井坂君が持っていたグラスを一つ私に渡してきて、ポケットからケータイを取り出して電話をかけ始めた。


「どうせ小波たちと来てるんだろ?部屋番号聞いてやるよ。」


彼はそう言ってあゆちゃんが電話に出るのを待っているようだった。

私はこれで助かると思ったのだけど、井坂君が顔をしかめてケータイを見つめた。


「何だ…あいつ。電源切りやがった。」

「え!?何で!!」


私は言いながら、あゆちゃんが電話に出ない理由に心当たりがあった。


そうだ…私たち…井坂君たちをつけてきてたんだった…

そんな状況なのに電話に出るはずない…


私は八方塞がりかな…と思ったのだけど、井坂君たちの部屋の斜め前だった事を思い出して、彼に声をかけた。


「井坂君たちの部屋はどこ?これ、一緒に持って行くよ。歩いてたら思い出すかもしれないし!!」


私は部屋番号を知られるわけにもいかないなと思って、咄嗟の言い訳だった。


「…そう…?…じゃあ、部屋思い出すまで、俺らのとこにいればいいよ。」


井坂君はふっと嬉しそうに笑うと、先導するように歩き出した。

私はその背に続きながら、どうやって部屋に入る前に別れるかと考えた。

赤井君たちにまで来てる事を知られたくない…

私は言ってみれば隠密活動中なので、なんとか後腐れなく彼と離れたい。


そして井坂君がある部屋の前で手をかけたのを見て、私はその前の部屋番号を確認した。

その番号をしっかりと覚えて、私は演技をすることにした。


「井坂君っ!ごめん!また気分が悪くなっちゃって…、ちょっとまたトイレに…。」

「へ?大丈夫なわけ?」

「平気だから、コレ返すね。部屋番号も大丈夫だから!部屋に帰ってね!それじゃ!!」


私は持っていたジュースを手渡すと、またトイレに向かってダッシュした。

そしてトイレまでは行かずに廊下の角に隠れると、井坂君が部屋に入ったのを確認してから、自分の部屋に逃げるように駆け込んだ。

扉を開けて中に入ると、あゆちゃんたちが驚いた顔で私を出迎えた。


「詩織!!心配してたんだよ!?井坂に見つかって逃げていくからさぁ…。その後も一向に帰って来ないし。何やってたの?」

「…部屋番号が…分からなくなって…迷ってた。」


私は安堵からその場にへたり込むと、大きく息を吐いた。

そんな私を見て皆が大爆笑する。


「迷うとか!!さっすが詩織!外さないなぁ~!!」

「ホント!普通、覚えとくでしょ!!」

「ひっどいな!!なんとか井坂君から逃げて戻って来たっていうのにさ!!」


私は送り出したのがあゆちゃんたちだっただけに、不愉快だった。

もう報告なんかしないと心に誓って、鞄を持って立ち上がった。


「もう、帰る!!支払いは明日請求して!!」


私はそう言い残すと、部屋から出て出口に向かって足を進めた。


まったく!!ひどい人たちだよ!!

人が決死の思いで切り抜けてきたっていうのに!!


私はイラッとしながらカラオケを後にした。

そして、家に帰る道中もイライラが収まってくれなくて、その矛先はあゆちゃんたちから井坂君たちへ向いた。


なんで、軽々しく下心のある女子とカラオケに行ったりするんだろう…

やっぱり…モテたいから…?

それでも、ニヤケて調子にのるなんて男らしくない!!


でも…それだけ楽しかったってことだよね…

女子の少ないクラスじゃ、恋愛もできないって事なのかな…


もしかしたら自分は恋愛対象外なのかもしれないと思って、気持ちが落ち着いてブルーになってきた。


彼女になりたいなんて思い始めて、すぐこんな状況なんて…なんてツイてないんだろう…


私は歩くペースを落とすとはぁ…と大げさにため息をついた。

そのとき、一台の自転車が通り過ぎた所で急に止まった。


「あ、やっぱりしおだ!!こんな時間に歩いてるとか珍しくない?」


自転車の主は西門君で、私は彼の隣まで歩くと立ち止まった。


「西門君も今日は早いね。部活はもう終わり?」

「うん。今日は顧問が忙しいらしくて、早々に切り上げたんだ。」

「そっか。」


西門君は私の鞄を奪って、自分の自転車のカゴに入れると、自転車から降りて私に並んで歩き出した。

私は彼のさり気ない優しさにお礼を言うと、足を進めた。


「で?しおは今まで何やってたんだよ?」

「…知ってるでしょ?一組女子の事件。赤井君たちが一組女子と遊びに行くからって、あゆちゃんたちに付き合って様子を覗きに行ってたんだよ。」

「あー…昼休みのアレか。何?わざわざつけたって事?」


西門君から『つけた』と言われて、他人から聞くと相当悪い事をしている気分になった。

やっぱり…気になるからって、つけるとか良くないよね…

私は自分のした事を後悔して、はぁとまたため息をついた。


「……そう…つけたの。やっぱり…やめとけば良かった…。」


私は楽しそうな井坂君たちを思い出して、どんどん落ち込んだ。

すると西門君がふっと鼻で笑うと、優しげな声で言った。


「しおは…後をつけるぐらい…井坂君の事が好きなんだなぁ…。」

「はっ!?」


西門君に自分の気持ちがバレていて、私は心臓が縮み上がった。

どこでバレたのか気になって彼を見て目を見開く。

西門君は目を細めてヘラッと笑うと、私に目を向けた。


「しおは分かりやすいよな。僕が気づいてないとでも思ったの?」

「なっ!?そっ…だっ!!」


私は肯定するのも恥ずかしくて、上手く言葉が出なかった。


「しおがまた人を好きになれて…喜んでんだよ。これでも。だから、そんな目で見るなよ。」

「…っ…ご…ごめん。だ…だって、気づかれてるなんて思わなくて…。」


私はからかうでもなく、まっすぐに言葉を発する西門君の気持ちに、少し落ち着きを取り戻した。


「幼馴染歴何年だと思ってるの?しおがイメチェンしたぐらいから…全部知ってたよ。」

「そ…そっか…。洸ちゃんには参るなぁ…。」


雰囲気の優しい西門君に流されて、私は昔の呼び方が勝手に口から飛び出した。

彼は中学のときも何を聞くでもなく隣にいてくれた。

この雰囲気に私はどれだけ救われたか分からない。


「それで、今日はつけてまでの成果はあったわけ?」

「あー…。むしろ悪化したかな…。」

「悪化!?って一体何したわけ!?」

「あはは…一組の女子と仲良い所を見せつけられて、自信がなくなったっていうか…。どこまでも自分はクラスメイトなんだって思い知ったところだよ。」


私が自嘲気味に言った言葉に西門君が急に立ち止まった。

私は足を止めて彼を振り返ると、彼は真剣な顔で私を見つめていた。


「クラスメイトだから、なんなんだよ!それでも、しおは井坂君が好きなんだろ!?だったら、遠慮なんかすんなよ!!一組の女子に負けないように、まっすぐぶつかって行けよ!!それが、しおだろ!!」


西門君に励まされて、私は沈んだ心に光が射すようだった。


私は自分に色々言い訳をつけては、井坂君に線を引いてこれ以上踏み込まないようにしていた。

もう傷つきたくないから…相手に何も期待しない…望まない…


友達、クラスメイトの距離間が一番良いと思ってた。


でも、初めて見る顔を見てから…気持ちが少し揺れ動いていた。


井坂君の彼女になりたい…


私は自然とそう望むようになって、迷いが生じていた。



また、過去のようにならないだろうか?

期待したら…望んでしまったら…それだけ、望みと違った時のショックは大きい。


私は怖かった…


そうなるのが、怖かっただけなんだ…


私は、私をまっすぐに見て応援してくれている西門君に勇気をもらった。

だから、それに応えなければと思って笑顔を作った。


「うん。そうだね。自分にできること…頑張ってみるよ。また、弱気になったら励ましてくれる?」


西門君は私を見て嬉しそうに笑うと、グーを作って私の頭を小突いてきた。


「今から弱気とか言うなっての!ただ…頑張って、頑張って…どーしてもダメだったら…そんときは慰めてやるよ。」


「あははっ!了解!」


私は心強い味方ができた気分で、西門君と同じように拳を作ると突き出した。

西門君はそれに拳を合わせてくると、「頑張れ。」と優しい表情で笑った。











西門君は良い幼馴染ですね…

彼は今後も良い働きをしてくれると思います。

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