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理系女子の恋  作者: 流音
30/246

29、打ち上げ


文化祭の結果は一年の中では断トツの一位で優勝した。

それに加えギャップ賞という特別賞まで受賞した。

これはお化け屋敷だと思って入ったら、実は違ったということに対する賞だそうだ。


そして生徒投票による総合順位戦だが…第6位という非常に微妙な成績に落ち着いた。

私的には二年生、三年生を差し置いてベスト10に入ってるのだから凄いと思うのだけど、赤井君たちはすごく悔しそうにしていた。

本気で全部一位を狙っていたようだった。


まぁ3年間同じクラスなのだから、来年リベンジすればいいと思う。



こうして結果発表も終わり、文化祭は幕を閉じた。

教室に戻ってみんなが帰ろうと鞄を持ち始めたとき、赤井君が壇上で声を上げた。


「今日、カラオケで打ち上げやろーぜ!!18時にショッピングモールのカラオケ屋集合で!!」


私は時間を聞いて、お母さんが許してくれるだろうかと思った。

今まであまり遅い時間に出かけた事がない。

私は何とか説得しなければと拳を作って気合を入れた。


「詩織、打ち上げ来るよね?」

「あ、うん。お母さんを意地でも説得するよ。」

「あはは。詩織の家、厳しいよねぇ~。」

「そうなんだよね…。そろそろ自由にさせて欲しいんだけどなぁ…。」

「まぁ、来てくれないと、私の結果報告できないから、絶対来てよね。」


あゆちゃんがウィンクして言って、私は告白の事だと分かって全力で頷いた。

あゆちゃんは「また後でね。」と言うと教室を出て行って、私はその背中にエールを送った。


頑張れ!頑張れっ!!あゆちゃん!





***





そして私はなんとかお母さんを説得して、九時までに帰ると約束して集合場所へとやってきた。

集合場所にはほとんどのメンバーが揃っていて、私はタカさんを見つけて駆け寄った。


「おっ。珍しくしおりんが時間通りに来た。」

「その言い方やめてよ~。前まではお母さんに止められたり、予定があったりしたんだってば。」


私は夏祭り等の事を言われてると分かって心苦しかった。

タカさんは「ごめん、ごめん。」と言って笑ってるし、私はムスッとふてくされた。

するとそのとき視線を感じて顔を向けると、赤井君や島田君と話していた井坂君と目が合った。

私は結果発表のときの変な空気を思い出して、思いっきり顔を背けた。


「いっ!!」


私は思いっきり逸らし過ぎて、首に激痛が走って手で押さえた。

筋違いを起こすかと思った…

私は首をさすって、意識し過ぎな自分に嫌になってきた。

井坂君にとったら何でもないことなんだから、気にしない…気にしない…

そう思うのに先輩の『大事な人』という言葉が蘇ってきて、私は頭を抱えて悶えた。


ダメだ…平常心に戻れない…


私は気疲れしてきて、タカさんの肩にもたれかかった。





そして打ち上げが始まって、クラスメイトが熱唱するのを聞きながら、私は部屋の隅っこでポテトフライをかじっていた。

というのも人数が多いので、部屋4つぐらいに分かれてクラスメイトが分散していて、井坂君は別の部屋だったからだ。

私は一度しか話した事のない内村君たちのグループが熱唱するアニソンを聞いて、これはこれで良かったのかも…と思っていた。

井坂君と同じ部屋だったら緊張して、こんなだらけきった姿をさらす事なんてできない。

私はポテトを食べきると、お茶をグイッと飲んだ。

そのとき部屋の扉が開いて、上機嫌な赤井君が姿を見せた。


「よーっす!!盛りあがってるかー!!俺もこっちで一曲歌いに来たぜー!!」


内村君からマイクを奪った赤井君が勝手に曲を入れ始めて、みんなが唖然とした後笑い出した。

赤井君の乱入で歌っていたメンバーが座り出したので、私はスペースを開けようと席を立った。


「タカさん。私、トイレ行ってくる。」

「はいはい。いってらっしゃーい。」


タカさんに一声かけると、人をかき分けて扉から外に出た。

そこで一息つくと、トイレに向かって足を進めた。

そしてトイレに入ると、鏡の前にあゆちゃんがいて足を止めた。


「あゆちゃん。」


あゆちゃんは泣いていたのか慌てて顔を隠すと、笑顔を作った。


「あ、ごめん。詩織の部屋は盛り上がってる?」

「あ…うん。」


私は返事しながら強がっているあゆちゃんから目が離せなくて、まさかという嫌な予感が脳裏を過った。


「あゆちゃん…もしかして…した?」


私の遠慮がちな問いに、あゆちゃんは意味を汲み取ってくれて、苦笑しながら頷いた。


「したよ。…ダメだったぁ…。やっぱり友達にしか見えないって…言われちゃった…。」

「うそ…。」


私は嫌な予感が当たってしまって、胸に錘が降ってくるようだった。

上手い励ましの言葉が浮かばない。

あゆちゃんはみるみる小さく肩をすぼませてしまって、私はその肩を抱きしめる事しかできなかった。


「詩織の言ってた通りだった…あいつっ…恋したことないって…。ドキドキを感じないってっ……だからいい加減な気持ちじゃ応えられないって…っ…っひっ…。」


あゆちゃんは細かく震えながら泣き出してしまって、私はもらい泣きしてしまいそうだった。

それを堪えるように腕に力を入れると、弁解するわけじゃないけど思った事を口にした。


「赤井君が…いい加減な気持ちって言ってくれて…良かったと思うよ…。だって、あゆちゃんだから…真剣に向き合いたいって…気持ちの表れでしょう?」


私は恋を知らないと教えてくれたときの赤井君の姿を思い返していた。

あのとき、彼は何も知らない子供みたいにまっすぐだった。

本当に好きという気持ちが分からなくて、知りたいという好奇心に満ち溢れていた。

それだけに言われた側の赤井君も言葉を選んだということが、あゆちゃんの言葉から伝わってきた。


「赤井君は…好きって気持ちを知らないんだよ…。だから、そういう気持ちをぶつけてくるあゆちゃんには正直に返したんだと思う。私はそれは赤井君の優しさで…あゆちゃんに向けられた好意だと思う。」


あゆちゃんはいつの間にか泣き止んでいて、私はあゆちゃんの肩を掴んで彼女の顔を覗き込んだ。

あゆちゃんはまっすぐに私を見つめて、鼻をすすった。


「あゆちゃん…私は…赤井君のこと…諦めないでほしいよ…。」

「え…?フラれたのに…どうして…?」


あゆちゃんが不思議そうに訊いてきて、私は確信を持った事を告げた。


「赤井君に別に好きな人がいるわけでもないんだよ?赤井君は何も知らないだけだから…、あゆちゃんが赤井君に好きって気持ちを教えてあげてほしいと…思う。それができるのは、あゆちゃんしかいないと思うから…。」


私の目には二人はすごくお似合いで、心も通じ合っているように見えた。

ここで壊れてしまわないで、ずっと仲の良い二人でいてほしかった。


あゆちゃんは少し目を伏せると、手で涙を拭って口元を緩ませた。


「…そうだと…いいな…。」


あゆちゃんが少し元気になったのが伝わってきて、私はひとまず安心した。


「詩織……私…、もうちょっとだけ頑張ってみるよ。」

「うん!!私も全力でサポートするよ!」

「あははっ。ありがと。」


笑顔からいつものあゆちゃんに戻ったと分かって、私は胸が弾んだ。


きっと大丈夫…いつかあゆちゃんの気持ちは赤井君に届く…

私は二人が付き合う日を想像して、そうなることを心から願った。




そしてあゆちゃんと二人でトイレから出て部屋に向かうと、廊下に井坂君がもたれかかって立っていた。

ケータイを見ているようで私達には気づいていなくて、私はまたあの雰囲気を思い出しかけて立ち止まった。

あゆちゃんはそんな私の変化に気づいて、私の腕を掴むと引っ張った。


「井坂ー!何やってんの?」


ぎゃーっ!!


私は声をかけたあゆちゃんの行動に心の中で悲鳴を上げながら、井坂君から顔を背け続けた。


「…何って…中で島田が騒いでるから、注意すんのも面倒くさくなってきて逃げてきただけだよ。」

「へぇ~。なんだぁ、じゃあ井坂は違う部屋にでも行ったら?代わりに詩織をこっちに入れるから!」

「へっ!?」「はぁ!?」


あゆちゃんの言葉に私は驚いた。

あゆちゃんはニコニコしながら、私をあゆちゃんたちがいた部屋へと押し込んでくる。


「ちょっ!!何で俺が違う部屋に…。」

「だぁって、島田君が面倒なんでしょ?詩織に相手してもらうから、安心しなよー。」

「私!?」


あゆちゃんの真意が分からなくて、私は目を剥いた。

あゆちゃんは私の背中をドンッと力強く押してきて、私は部屋の中に入った。

中では島田君がマイクを片手に熱唱していたが、私が入ってきた事で注目を集めてしまった。


『あれーっ!?谷地さんだ!!文化祭の影のMVPの登場ー!!!』


島田君がマイクを持ったまま言ってきて、なぜか部屋の中の男子から歓声が上がった。

それがうるさくて咄嗟に耳を手で押さえる。

島田君は私の腕を引っ張ると、私にマイクを向けてきた。


「文化祭3日間の感想を一言!!」

『えっ!?一言!?……なんだろう…。えっと…楽しかったけど…恥ずかしかったです。』


私は正直な感想を口にして、クラスメイトの爆笑を買った。

島田君が笑って私の肩を掴むと、その肩を叩きながら言った。


『いやーっ!!谷地さんはやっぱ真面目だねぇー!!でも、俺たちのために体を張ってくれてありがとうっ!!』

「俺たちのため…??」


私が言葉の意味が分からなくて島田君を見つめると、島田君はケータイを取り出してその画面を見せてきた。

そこにはいつの間に撮ったのか、ゾンビナース姿の私が映っていて目を見開いた。


「なっ…!?何で!?」

『隠し撮りしましたーっ!!』

「消してっ!!」


私はケータイを奪おうと手を伸ばすがヒラリと交わされてしまった。


『これだけ消しても意味ねーよ?だって、クラスのほとんどが隠し撮りしてるから。』

「うそっ!?」


島田君がマイクで言ったのをきっかけに部屋にいたクラスメイトたちが、何人かケータイの画面を見せて笑っている。

それを見て血の気がサーっとひいていって、私は口を開けて固まった。

すると部屋の扉が開け放たれて、あゆちゃんを押しのけたのか井坂君が部屋に入ってきた。

そして唖然とする私と部屋のクラスメイトを見回して、島田君に掴みかかっていった。


「島田ッ!!あんだけやめとけっつっただろが!!」

『井坂~。俺らだって男だぜ?女子のコスプレは夢だったんだよ~。』

「っざけんなっ!!すぐ消せ!!今すぐに!!お前らもだよっ!!」


井坂君は島田君の胸倉を掴んで揺さぶったあと、机に足をのせてケータイを持ってるクラスメイトを睨みつけた。

その井坂君の迫力たるや…三年生を殴ったという事もクラスメイトには刻み付けられていたので、皆ビビって素直に消し始めた。

島田君だけは消そうとしなかったので、井坂君が奪って消去してくれたようだった。


それを見てホッとすると、後ろからあゆちゃんに服を引っ張られた。

あゆちゃんは意味深なニヤけ顔を浮かべていて、肘で私を小突いてきた。


「詩織~、愛されてるねぇ。両思いなんじゃない?」

「―――ぶっ!!そんなことあり得ないからっ!!」


今日はこういう事を言われる日なのだろうかと思って、思い違いしないように全否定した。

でも、あゆちゃんはニヤけ顔をやめてくれない。

私はちらっと井坂君の様子を窺うと、井坂君が島田君を脅しているようで顔が悪い人のようだった。

あんな顔もするんだ…とこのとき初めて知って、私は新しい発見に頬が緩んだ。






文化祭編終了です。

この文化祭をきっかけに詩織の周りが騒がしくなっていきます。

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