表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理系女子の恋  作者: 流音
26/246

25、文化祭初日


我が大浦川高校の文化祭は3日に渡って行われる。

数少ない外部からお客さんの来る3日間なので、生徒も教師ですら浮き足立っているように感じる。

私はあゆちゃんとトイレで着替えをして、鏡で自分の姿を見て赤面した。


これ…すっごく丈が短い気が…


下にはちゃんとスパッツを履いているとはいえ、制服のスカートより短いナース服に抵抗がある。

あゆちゃんも着替えて個室から出てくると、私の姿を見て目を丸くさせた。


「わぁ…何…それ。すっごいエロいんだけど。」

「エロい!?」


あゆちゃんから正直な感想が漏れて、私はショックだった。

なんとか丈を伸ばそうと裾を引っ張る。


「っていうか、そんなナースいないでしょ。あいつら…ナースに夢見すぎなんじゃない?」

「だよねぇ…。これ…なんとかならないかな…。」


私は引っ張りながらあゆちゃんに懇願した。

あゆちゃんは鏡を見ながら猫耳をつけると、ふわふわした衣装でこっちに近付いてきた。


「う~ん…。引っ張ったら破れちゃいそうだし…。かといって…今から何かするって言っても道具もないしなぁ…。うん。諦めよう!」


物凄く悟った明るい笑顔で言われて、私はあゆちゃんを見つめて固まった。

諦めるって…3日間これでいろって事!?

私は鏡に手をつくと項垂れた。


「大丈夫だって!!詩織、すっごい足長いからさ!綺麗に見えるし。似合ってるから!井坂もメロメロかもしれないよ!!」

「井坂君が…?」


私はメロメロと聞いて、少し気持ちを持ち直した。

あゆちゃんは本音なのかおだてているだけなのかは分からないけど、良い笑顔で頷いた。

私はそれを信じる事にして、とりあえず教室までは隠そうと制服のシャツを腰に巻き付けた。


「というか、あゆちゃんも結構際どいよね。」

「でっしょ!?私、この文化祭に勝負かけてるから!!」


あゆちゃんは上半身はふわふわモコモコした衣装を着ているものの、下は私に負けず劣らずこれでもかと太ももを出していた。膝上まであるモコモコの靴下?がその太ももを強調している。

不思議の国のアリスに出てくるチシャ猫のようで、すごく可愛い。

そして後ろにちゃんとついているしっぽがチリンと鈴の音を鳴らす。


「勝負って…何するの?」

「そんなの決まってるでしょ!告白に決まってるじゃん?」

「こっ…告白!?」


私は突然の告白宣言に思いっきりむせる。

私は告白なんて考えたこともなかっただけに、あゆちゃんを尊敬の眼差しで見つめた。


「最後の日の結果発表が終わったら告おうと思って。応援してくれる?」

「も、もちろん!!頑張って!きっと上手くいくよ!!」


私は本気で二人はお似合いだと思っていたので、心の底から応援した。

あゆちゃんは満足そうに笑うと「ありがと。」と言って背を向けた。


私はその背に続いてトイレを出ながら、どうかあゆちゃんの想いが赤井君に届きますようにと願った。




***




そして教室に戻ると、セッティングは完璧になっていて、中は暗いので廊下であゆちゃんにメイクされることになった。

私はメイクなんてしたこともなかったので、されるがままお任せする。

まぁ設定がゾンビだっただけに、普通のメイクとは違うんだけど…


「はい、完成!!綺麗で怖い感じになったよ!」


あゆちゃんの声に反応して、クラスメイトの女子たちが覗き込んできた。

その中にタカさんの姿もある。


「うっわ!怖い!!でも、なんか綺麗だよね。」

「うん、うん。こんなゾンビだったら噛みつかれてもいいってなりそう!」

「しおりん!すっごい激変してるよ!!」


口々に褒められているのか分からない感想を浴びながら椅子から立ち上がって、あゆちゃんの持つ鏡で自分を確認した。


「わぁっ!?」


私は自分じゃないような顔に思わず鏡から仰け反った。


「一番驚いてるし!」

「それぐらい変わったって事でしょ。じゃあ、次はだれ~?」


私の後に長澤君がやってきて、あゆちゃんにメイクされ始めた。

私は自分の血を流しているようなメイクにドキドキした。

目の周りも真っ黒で本当にゾンビみたいだ。


そのとき肌の出ている腕や足が気になって、あゆちゃんに尋ねた。


「あゆちゃん、手と足がそのままなんだけど、これじゃ手足だけ浮いて不自然だよね?」

「あ、ホントだ。血糊でナース服と一緒に汚してもらおうか。誰か手の空いてる人お願い。」


あゆちゃんの声に女子のみんながやってきて、やってくれるようだった。

タカさんも面白がっているのかニコニコしている。


「ねぇ、これって本格的な方がいいよね?血糊だけじゃなくてさ、絵の具も使おうよ。」

「あ、それいいね!」


クラスメイト達は何かに火がついたのか相談しながら絵の具の色を作り始めた。


「しおりん、その腰のシャツとらないと汚れるよ。」

「あ、そっか。」


タカさんに指摘されて、私はシャツをタカさんに手渡した。

そして女子メンバーが血糊や絵の具で着色し始めたとき、教室の扉がガラットと空いて男子がゾロゾロと教室から姿を見せた。

どうやら最終チェックも終わったようだった。

その中にお化け組の姿もあって、赤井君や井坂君、北野君、村中君は完璧な装いだった。

中でも井坂君のドラキュラはすっごくカッコよくて、普段見ないオールバックの髪型に胸が苦しくなった。

ヤバい…メイクなんか意味をなさないぐらい顔が熱い…

私はメイクの下で赤面するわけにはいかなかったので、咄嗟に目を逸らして作業してくれている女子メンバーに目を向けた。


「あーっ!!ナース!!」


すごい大声が聞こえてそっちを見ると、教室から出てきた島田君がこっちに駆け寄ってきた。

キラキラと目を輝かせながら、上から下まで私を見ると満面の笑顔を浮かべた。


「やっぱ、俺の見立て通りっ!!足、ちょーキレー!!」

「足!?」


私は太ももを見られているのでは…と思って手で隠した。

すると島田君の後ろから井坂君と赤井君が彼を蹴っ飛ばした。


「アホ!!お前はそればっかりだな!!」

「ホントだよ!今日は文化祭なんだからな!!」


狼男とドラキュラの二人は迫力があって、いつもの悪態が2割増しされていた。

その二人の後ろから他の男子もゾロゾロやってきて「おーっ!」とか「すげー!」と言いながら見てくる。

私は見世物状態に恥ずかしくなりながら、顔を背けた。


「おい!ジロジロ見てないで仕事しろよ!!看板!!立てに行くんだろ!!暇な奴は垂れ幕の設置に行けよ!!」


井坂君の怒ったような声が聞こえて、私はちらっと男子の軍勢の様子を窺った。

井坂君は黒いマントを翻しながら指示していて、その背がすごく頼もしく見えた。


もしかして…私を気遣ってくれた…?


まさか…ね…


私はふっと頬を緩めると、作業中の女子たちに目を戻したのだった。





***




それから、なんとかメイク等が終了したころに文化祭がスタートした。


最初はお客さんも少なかったのだけど、じわじわと増えてきてローテーションのペースが上がる。

そして私の初めての接客の番になって、私は教室の外に出ると待っていたお客さんの前に行った。

お客さんは普通科の三年生3人組で、男の人ばかりだった。

私は背が高くて迫力のある3人にビクビクしながらも笑顔を浮かべた。


「こんにちは。今回の案内人のゾンビナースです。中ではご飲食はおやめいただきますよう、よろしくお願いいたします。」


私は決められたセリフ通りの事を口にした。

すると一人の先輩が私を見定めるように見ると、ニコッと笑った。


「こちらこそ。よろしくー。」


その笑顔に少し安心して、私は教室への扉を開けて中へ促した。

3人の先輩は少し警戒しながら中へ入ると、もの珍しそうに辺りを見回した。

そして私が入って扉を閉めると効果担当の子が冷気を送り出してきた。

ただのドライアイスの煙なんだけど、これはこれで雰囲気が出る。

私は先輩たちの前に行くと「どうぞ」と手で先を示して先導した。


最初は北野君のフランケンが登場する。

私はそこに入ると、決められていたスペースに身を隠した。

そしてフランケンが先輩たちをお出迎えする。


「うおっ!びびったー!」

「あははっ!よくできてんじゃん?」


フランケンは先輩たちを椅子に座らせると、曲を流して踊り始める。

そうこれこそが『おもてなし』だ。

急に踊り出したフランケンに先輩たちはポカーンとしている。

そしてポーズを決めてダンスが終わると、私が出て次へと案内する。


「…何だったんだ…今の…。」


「フランケンのダンスです。お楽しみいただけましたか?」


私は案内人のセリフを彼らに伝えた。

すると先輩たちから爆笑が巻き起こった。


「あはははっ!!ダンスって!お化け屋敷じゃないのかよ!!」

「はい。おもてなしの洋館になります。」

「おもてなしって!!あはははっ!!」


先輩たちの反応に掴みはばっちりだと心の中でガッツポーズした。

その後も順調にあゆちゃん扮する猫娘の占いを通って、狼男の気合注入を経て、井坂君のいるドラキュラ屋敷へと進んだ。

ここではドラキュラから肩もみされるというマッサージサービスだ。

先輩たちは複雑そうな顔をしながら肩もみされると、扉から一緒に廊下へと出た。

そこで私の仕事も終わり。


「お越しいただきましてありがとうございました。またのご来場をお待ちしております。」


私は最後のセリフを無事に言ってホッとした。

すると廊下に出た先輩の一人に肩を組まれた。


「すっげー面白かったよ!!君のコスチュームも最高だったし!良かったら、一緒に文化祭回らない?」

「は?」


私はニコニコと笑っている先輩を見て首を傾げた。

一緒に回るって…


「あの…私、まだここにいなければいけないので…申し訳ないですけど…。」

「いいじゃん!!今お客さんも少ないみたいだし!」

「いや!あのですね…。」


私は先輩に肩を組まれたまま連れ去られそうになって、受付にいるクラスメイトに助けを求めた。

でも残念ながら受付の新木さんは背を向けていて私に気づいていない。

そのとき教室の扉が開いて、ローテーションするため井坂君が姿を見せた。

私は口を開けた状態で出てきた井坂君を見つめた。

すると状況を瞬時に判断してくれたのか、私の手を引っ張って助けてくれた。


「すみません。当館はナンパはお断りさせていただいています。またのご来場をお待ちしております。」


井坂君が口では丁寧語で話しながらも態度は上からで、先輩たちは肩をすくめると諦めて歩いて行った。

私は助かったとホッと胸を撫で下ろすと、井坂君にお礼を言おうと見上げた。


「井坂君、ありがとう。助かったよ。」


井坂君は無表情で私を見下ろしてくると、何を思ったのか私の手を引いて受付に向かった。

井坂君は受付担当の新木さんに声をかけると私を指さした。


「新木。谷地さんには男の客あてがわないでくれるか?もし順番で当たりそうになったら、俺が変わるから。」

「え…いいけど。何かあったの?」


新木さんは不思議そうに私と井坂君を交互に見た。

井坂君はムスッと顔をしかめると、声のトーンを落とした。


「さっきナンパされてたんだよ。三年の先輩に。そんなん危ないだろ。」

「あ、そうだったんだ。谷地さん、大丈夫だった?」

「あ、うん。井坂君が気づいてくれて…なんとか…。」

「だから、これから受付の奴にもそう伝えといて。頼むな。」

「分かった。メモに書いて残しとくよ。」


井坂君は新木さんに「サンキュ」と言うと、私から手を放して見下ろしてきた。

私はお礼を言おうと頭を下げた。


「ありがとう。井坂君。何から何まで…助かるよ。」

「いいよ。こんぐらい。っていうか、ホント気を付けた方がいいよ。」


井坂君はまだ怒ってるのか眉間に皺を寄せたまま接客に戻って行った。


なんだか不機嫌だなぁ…


私はその背を見つめながら、自分も次は中に入らないと…と役割を思い出したのだった。






こんなお化け屋敷があったら楽しいなと思って、こういう設定にしました。

しばらく文化祭の話が続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ