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理系女子の恋  作者: 流音
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24、文化祭準備


二学期に入ってクラスの雰囲気が文化祭モードに突入した。

私は自分の机に突っ伏して二学期の初日以降、井坂君と話していない事に落胆していた。


同じクラスなのに…すごく距離を感じる…


私は少し顔を上げると、廊下側の席で赤井君と話をしている井坂君を見つめた。

遠い…遠すぎる…

私は自分のクジ運のなさを恨みたくなってきて、大きく息を吐いた。

すると前からあゆちゃんが体を横に向けて振り返ってきた。


「元気ないなぁ~、詩織。」

「…うん。」


私は飽きれたような笑顔を浮かべているあゆちゃんを見て、とりあえず頷いた。


「詩織!明るいこと考えよ!!文化祭でやる『恐怖の洋館』だけどさ、詩織は何のコスチュームにするの?」

「うーん…何がいいのかな…。さっぱりなんだけど…。」


一年生は教室での出し物という指定だったので、私のクラスは『恐怖の洋館』と銘打ってお化け屋敷のようなものをすることになっていた。

実際はお化け屋敷のように怖がらせるものではなくて、エリアごとにドラキュラ等の空想上のお化けでお客さんをもてなすというものだ。


私はあゆちゃんに巻き込まれる形でそのお化け担当になってしまった。

というのも、赤井君や井坂君もお化け担当だからだ。

私は文化祭が近付けば接点ができるかもと、少し気持ちを持ち直した。


「私はね、おもてなしするんだから可愛いのがいいと思ってるんだ。だから、猫耳のコスとかいいんじゃないかって思ってて、詩織はどう思う?」


私は猫に扮装したあゆちゃんを想像して、すごく可愛いんじゃないかと思った。

小柄な彼女にぴったりだと思う。


「いいと思うよ!!すっごく可愛いと思う!」

「だよね~。早速衣装買いに行かなきゃね~。」


あゆちゃんは照れているのか頭を掻きながら笑った。

私は自分に似合いそうなコスチュームが思い浮かばなくて、頬杖をつくと悩んだ。

すると横から島田君が椅子を寄せてきた。


「谷地さんはナースでしょ!!」

「へ?」「は?」


あゆちゃんも私も突然の発言に島田君を見つめた。

彼はキラキラと輝く笑顔で私たちを見ると、指を立てて言った。


「谷地さんは絶対ナースがいいと思うよ!!もちろんスカートの丈の短いやつね!顔はメイクで怖くすれば、廃病院に生けるナースって感じで、怖くて綺麗を演出できるしさ!!」


熱くナースを語り出す島田君を見て、あゆちゃんがげんなりした様子で島田君を指さした。


「それ、ただあんたが見たいだけでしょ!!ほんっと下心隠さないよね!!」

「いいじゃん!!ナースは男のロマンなんだよ!!絶対、男の客増えるし、優勝を狙うためにもナースでいこうよ!!」


男のロマン…

なんだか前にも聞いたことがあるな…と思った。

島田君のテンションの上がりっぷりを見てると相当良いらしい。

私は「う~ん…。」と言いながら、考え込んだ。

丈の短いナース服なんて私に似合うのだろうか?

大体どこでそんな服が売ってるのかも知らない。


私はこのまま島田君の意見を受け入れるのも怖かったので、不安要素を尋ねてみる事にした。


「優勝云々は置いといてさ、そんな服装が私に似合うのかな?」

「似合うって!!これは俺が保証する!!つーかクラスの男全員で保証するよ!!な、内村!!」


島田君に急に話を振られた内村君がビクッと肩を震わせてから、私を見て何度も頷いた。

それを見て島田君が満足そうに「ほら!!」と言って顔を輝かせている。

私はその顔に押し切られそうになりながらも、少し抵抗する。


「じゃあ、仮にそれを着る事にして…。私、そんなコスチュームどこで売ってるのかも知らないんだけど…。」

「それなら任せろ!!俺が買ってくるから!!」


どこまでも乗り気な島田君に顔がひきつる。

あゆちゃんなんか開いた口が塞がらないのか、ぽかんとしながら島田君を見つめている。

私は最終確認のつもりで後ろを向いて内村君に訊いた。


「ねぇ、正直に言ってね。本当にナースが良いと思う?」


私が真剣に尋ねると、内村君は目をパチクリさせた後、鞄から何かを取り出して見せてきた。

それはマンガ本のようで、ナースの服を着たゾンビ?の女の子が描かれていた。

私はそれを見てから、内村君に視線を移す。


「これが理想なんだと思う。今、すごい人気だから。」

「理想…?」


私が内村君の持つマンガを見ようと手を伸ばすと、それを島田君が横から奪ってしまった。

島田君はそれを後ろに隠すと、慌てたように言った。


「とにかく!ナースで決まりな!!当日になってやめるとかナシだからな!!」

「はぁ…。」


島田君の有無を言わせぬ言い方に、私は曖昧な返事を返す。

島田君はふんっと鼻から息を吐き出すと、マンガを持ったまま井坂君たちの方へと行ってしまった。


「ほんっと…男ってバカだよねぇ~。」


あゆちゃんが飽きれた様に言って、私は苦笑するしかできなかった。

とりあえず際どいものでないことを祈ろう…

私は島田君がまともな人であることを願った。





***





それから学校は文化祭一色に変わってきて、一年生はどのクラスも廊下にまで大道具を広げて作業に打ち込み始めた。

私のクラスも同じで、大道具、小道具担当のメンバーが教室の中と廊下を占領している。

そして、お化け担当のメンバーは当日の配置を決めようと、唯一空いているベランダで話し合いを始めた。


「えーっと、それぞれのコスチュームが決まったみたいだから、まとめるので教えてくださーい。」


リーダーの赤井君がルーズリーフを広げて、お化け担当のメンバーを見回した。

お化け担当メンバーは全員で7人。教室にお客さんが入ることを考えると多いぐらいだと思う。

最初にあゆちゃんが「ネコ娘!!」と言ったのを皮切りに、次々赤井君に伝えていく。

サッカー部の北野君が『フランケン』色黒だかららしい…

そしてメガネにガッシリした体型の村中君が『ミイラ男』

私と長澤君がコンビで『ゾンビの医者とナース』

長澤君はひょろっとしていて将来医者を目指しているそうなので、島田君の要望から医者になったそうだ。


最後に赤井君が『狼男』で井坂君が『ドラキュラ伯爵』と書き込んで、お化けが出そろった。


私は井坂君がドラキュラだと聞いて、すごくカッコいいんだろうな…と胸が躍る。

当日が今から楽しみになってくる。


「よしっ、じゃあ次は担当エリアだな。教室を一応六等分にしてるんだけど…どこを受け持ちたいか言ってほしい。どこでもいいって場合は適当にふるけど…。」


赤井君がルーズリーフに教室の見取り図を描いて、六等分にして経路を示した。


「私はどこでもいいけど、最後はインパクトに残るコスの人が良いと思う。井坂のドラキュラか…赤井の狼男…は弱いかな…。それかゾンビコンビかな。」

「最初のインパクトも大事だと思うから、最初はゾンビコンビがいいんじゃねぇか?」

「いや~女子の客を思うと、最初はドラキュラがいいんじゃねぇ?」


みんなが意見を出し始めて、私はそれを眺める事しかできない。

なにせ出されてるのは私の配置なだけに、自分が口出すとそこに決まってしまいそうだ。

井坂君も同じなのか黙って様子を見守っている。


すると考え込んでいた赤井君が何かひらめいたのか手を叩いた。


「じゃあ、こうしよう!!六等分したエリアから次々出てくるだけじゃ面白くないから、こうローテーション制にして、一人がお客さんを案内する係りで…教室は4等分にする。そして最後のエリアで二人一緒に出て、エリアをチェンジする。受付には常に一人いるから、お客さんを待たせないように他のクラスメイトと協力する。」

「なるほど…教室には常に4~5人いて、外に2~3いてローテーションするんだ。スムーズでいいんじゃねぇ?」

「うん!!これだったら、入る度に出てくるお化けの位置が違うから、何度も楽しめそうだよね!」


赤井君のナイスアイデアに皆が納得した。

すると突然スピーカーから音が鳴って、校内放送がかかった。


『各クラスの美化委員、至急、職員室まで来てください。繰り返します。――――』


美化委員が呼ばれるなんて珍しいなと思いながら、井坂君に目を向けた。

井坂君はふっと息を吐いて立ち上がった。


「ちょっと抜ける。谷地さん。」

「あ、うん。ごめんね。職員室まで行ってくる。」


私はあゆちゃんたちに抜けることを伝えると、あゆちゃんが意味深に微笑んできた。

私は表情に出さないようにグッと頬に力を入れると、ベランダを出る井坂君の背に続いた。



「美化委員が呼び出されるとか珍しいよなぁ?」

「そうだよね。初めてじゃないかな。」


なんとか大道具の間を抜けて廊下に出ると、井坂君が面倒くさそうに言った。

私は呼び出しに感謝しながら顔がニヤけないように、自然体を装う。

すると6組の教室から瀬川君が飛び出してきて、傍を歩いていた私にぶつかりかけた。

それを避けようとして、私は井坂君に肩がぶつかった。


「わっ!!ごめん!呼び出されたってさっき聞いて!!」

「あ、ううん。大丈夫だけど…。井坂君、ごめん。痛かった?」

「あ、いや。俺は大丈夫だけど。」


井坂君が驚いた表情でそう言ってくれて、ホッとする。

瀬川君は「あー良かった。」というと私の隣を歩き出した。

何で一緒に行く流れに…と思って瀬川君を見ると、彼はいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべた。


私は瀬川君に会うのが始業式の日以来だったので、少し気まずかった。

瀬川君が深い意味があってあんな事をしたわけじゃないっていうのは分かってる。

だけど、男慣れしてない私にとったら、相当な刺激だった。

それだけに今まで通り普通に接することなんてできない。


「ねぇ、谷地さんのクラスは文化祭何やんの?」

「えっ!?…え…っと…、恐怖の洋館っていうお化け屋敷みたいなやつだよ…。」

「へぇ!!なんか面白そうだなぁ!!谷地さんもお化けすんの?」

「あー…うん。ナースを少々…。」

「ナース!?マジで!!絶対見に行こうっと!」


瀬川君はいたっていつも通りで、変に視線を逸らしながら話す自分が意識し過ぎのように思えてきた。

瀬川君って昔っからこのノリだもんね…

小学生にされたと思って流そう!!

私は大きく息を吐き出すと、以前の自分を思い出して声をかけた。


「瀬川君のクラスは何するの?」

「俺のクラスはバスケのゲームだよ!ゴールは教室に運べないから、床に敷いた円の中に投げて落とすってだけなんだけど…障害物とか凝ってるから、やりに来てよ!」

「わ…わかった。」


またバスケか…

瀬川君=バスケのような方程式に、私は彼とは切っても切り離せないなと思った。


「んじゃ、約束!!」


瀬川君がニッと笑いながら小指を突き出してきて、私は仕方ないなと指を出そうとするとそれを井坂君に遮られた。

井坂君の手が私の手を包んでいて、驚いて彼を見上げた。


「…い…井坂君…?」


井坂君は何も言わずに瀬川君を見ている。

瀬川君はしばらく井坂君を見つめていたけど、手を引っ込めると井坂君の肩をポンと叩いた。


「そういうことか!!悪いね!じゃあ、先行くよ!」


瀬川君はそれだけ言うと職員室に向かって走っていってしまって、私は声をかけられぬままその背を見つめた。

瀬川君の言葉と井坂君の手が、私を混乱させる。


今、二人の間でなんの会話がされたの?

瀬川君は井坂君の何かが分かっているようだった。


私は手が触れてる事に心臓がドッドッと早鐘を打っていて、息をするのも苦しい。

なんで何も言わないのか私は尋ねることもできなくて、じっと私の手を包む井坂君の手を見つめるしかできない。


「…あいつ、前も谷地さん呼び出してたよな…。どういう関係?」

「え…どういうって…、小学校からの同級生だよ。中学の時、塾も一緒だった…ぐらいで…、後はそこまで接点もないけど…。」

「接点ないのに、なんか慣れ慣れしいよな。」

「そ…そうかな…。昔からあんな感じだし、だからモテるんじゃないかって気もするけど。優しいし、誰にも分け隔てなく自分を出すっていうか…。気兼ねなく話せるって感じかな…。」


何だか井坂君が怒ってるように感じて、私は瀬川君の良い所を伝えようと言葉を選んだ。

すると井坂君の手がやっと離れて、私はホッと心臓を落ち着けた。


「谷地さんもああいう奴が好きとか?」

「へっ!?」


井坂君から飛び出した『好き』という言葉に過剰に反応してしまう。

井坂君の目は真剣で、本気で聞いているというのが伝わってくる。


「ちっ…違う!!私、別に好きな人がいるから!!」


私はそれだけ言い切ると、井坂君の顔が見れなくて職員室に向かって足を進めた。


言った…!!言っちゃった…!


私は本人を目の前にして、とんでもない事を口にしたと恥ずかしさで死にそうだった。

赤井君に言った時と違う。

井坂君の前だから感じる気持ちに、私は苦しくて細く息を吐き出した。


そのとき後ろから井坂君が追いついてきて、私の顔を覗き込んできた。

私は目の前に映る井坂君の顔に肩に力が入った。


「ふ~ん。そっか、いるんだ好きな奴。ちなみに誰?」

「おっ…教えない!!」


私はからかったような顔をする井坂君を振り切ろうと足を速めた。

その後も井坂君は余程知りたいのか、職員室に着くまでずっと尋ねてきて、私は逃げるように走ったのだった。






登場人物が増えてきました。

赤井、井坂、島田、北野はクラスの中でも目立つグループのメンバーです。

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