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理系女子の恋  作者: 流音
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エピローグ

井坂の親友、赤井視点です。


春の温かい陽だまりの中、幸せな空気が覆い尽くす式場に笑顔が溢れていた。

様々なドレスに着飾った女子、パリッとしたスーツに身を包んだ男子が目の前を通り過ぎて行く。


俺は高校からの付き合いであるメンバーと一緒に、ある二人を見つめてため息をついた。


「やっとこうなったか…。」

「案外、長かったよな~。」


俺と同じようにぼやいたのは高校の時とは違い髪を短く切りそろえた島田で、薄ら笑いを浮かべている。

その脇には色の黒さが持ち味だったはずの北野が、肌が白くなりキリッとした面構えに磨きをかけて目を丸くしている。


「へ?結構早かったんじゃねぇの?だって、大学卒業してすぐだぞ?普通結婚なんて、働き始めて何年かしてからだろ。」

「それは、お前があの二人の遠距離を詳しく知らねぇから言えんだよ。」

「なんだそれ。たかが遠距離だろ?俺とマイは未だに大丈夫だけど?」

「お前と井坂を同じにすんじゃねぇよ!あいつの谷地さんへのベタ惚れっぷり見てれば分かるだろ!?」

「あ~…。」


北野が島田の訴えに、二人仲良く立って誰かに挨拶してる井坂と谷地さんを見て苦笑した。

ウェディングドレス姿の谷地さんを傍で支える井坂は、もう高校のときから全く変わらない面構えでハッキリ言うと谷地さんを見る目が気持ち悪い。


俺と同じ感想を島田も北野も持ったのか、なんともいえない空気で会話が進む。


「あいつ、ほんっと昔っから変わんねぇのな~。」

「そりゃそうだろ。俺らが大学でどれだけあいつに振り回されたか!!数えきれねぇからな!」

「そんなにか?」

「そんなにだよ!!俺らが谷地さんと同じ大学なのをいいことに…。あー…、思い出しただけで俺の青春返せって感じだよ…。」

「なに?お前、今彼女は?」

「いるわけねぇだろ!!全部あいつのせいだよ!!」


島田は悔しそうに怒り出して、北野がケラケラと楽しそうに笑い出す。

俺は事の次第を傍で見て知ってるだけに、島田へ同情ばかりだ。


俺自身もだいぶあの二人には振り回されたし、ご祝儀払うどころかこっちが貰いたいぐらいだ。

それぐらいこの結婚には俺らの助力があったと言ってもいい。


すると怒ってる島田の横へ八牧さんがお酒を手にやって来て、島田にそれを渡す。


「まぁ、これ飲んで落ち着いたら?今更怒っても仕方ないんだからさ。」

「そうだけどさ…。貴音だって腹立つだろ?」

「私は高校のときからあの二人には諦めてるから。新はグチグチし過ぎなのよ。」

「どーせ、俺は井坂と違って男らしさに欠けますよ。」

「誰もそんなこと言ってないけど。」


まるで阿吽の呼吸のように掛け合う二人を見て北野が驚いているのが見える。

俺は大学で毎日のように二人を見ていたので普通の光景なのだけど、4年ぶりの北野からしたら意外な組み合わせだろう。


「ま、この二人にも色々あったんだよ。」と北野に軽く説明すると、そこへ小波が走ってきた。

俺はドレス姿で走るなと言いたかったけど、ちょっとしたことで怒るので黙った。


「赤井!詩織、写真撮ってくれるって!!今がチャンスだよ!」

「え、さっきまでなんか偉そうな人と話してなかった?」

「あ、小木曽教授でしょ?なんか井坂のことべた褒めしてて、井坂の師匠ここにアリ!って感じだった。」


小波が何を聞いたのか力説していて、俺はさっきの人を探して、井坂の憧れの教授か…と背の低い男性を見つめた。


そこまで井坂の事を買ってくれてるなら、なんで院に誘わなかったんだろう…


俺は研究者になりたいと言っていた井坂が、普通の会社に就職したことがすごく驚いた。

谷地さんと結婚したかったってのもあるかもしれないけど、まさか夢を諦めるほどだとは思わないし…


俺はそれが気になり、写真を撮りに皆で向かうと、谷地さんと皆が話し始めたのを横目に井坂を捕まえた。


「井坂、お前、なんで普通の企業に就職したわけ?」

「は?急になんだよ。」


井坂は谷地さんといるときとは打って変わって不機嫌そうに顔を歪めてきて、俺はここまで差が出るのかと若干イラついた。


「だってさ、お前小木曽教授みたいな研究者になりたかったんじゃねぇの?」

「あー…。それか。まぁ、俺が就職したの普通の企業っつっても小木曽教授の紹介だしな。一応研究部門に配属なんだよ。」

「は?研究部門??」

「そ。俺は教授に買われてそこに入社したんだよ。だから、夢を諦めたわけじゃねぇの。」

「へぇ…。」


井坂の言い方から教授の希望もあってという感じだったので、どこまでも順調そうな様子に安心する。

夢だった研究職も手に入れて、高校の時から大好きだった人ともこうして結婚して…、こいつ順風満帆だな。


俺は少しは自分に感謝して欲しいと思い、じっと谷地さんを見つめ続ける井坂を小突いた。


「井坂、俺に言う事あるんじゃねぇの?」

「へ…?言う事??」

「そうだよ。何とぼけてんだよ。」


井坂は俺の追及に顔をしかめたが、「あぁ!」と手を叩くと言った。


「そういえばお前もこっちに就職するんだよな。4年のブランク空いたけど、腐れ縁復活だな!」

「お前っ、バカか!!そんな話じゃねぇよ!!」

「はぁ?」


嬉しそうに手を差し出してくる井坂が恥ずかしくて、手を叩いて遮ると、井坂は見当もつかないのかぶすっと顔を歪める。

だから仕方なく、俺は本音をぼやいて教える。


「ったく…、誰のおかげで今まで別れずに済んだと思ってんだか…。」

「ははっ!なんだ、そのことか。それに関しては色々サンキュな。赤井がいてくれて、ホント助かったよ。」

「軽いな!!もっとちゃんと感謝しろよ!!」

「してるって!なんならお前と小波の結婚式には、その感謝を長ーくスピーチで語ってやるよ。」

「うわっ、いらねーし!!それに結婚なんて当分しねぇから!」


俺が井坂と言い争っていると、小波が耳ざとく聞きつけて「何の話!?」と目を輝かせて駆け寄ってくる。

俺は散々小波から結婚したいアピールを受けていたので、スーッと目を逸らすと島田の横へ移動する。


俺には結婚なんて、まだ荷が重いっつーの。


小波は俺がスルーしたことを怒っていたけど、すぐ写真撮影に切り替わったので、上手く空気を切り替えることに成功してほっとした。


そして写真撮影を終えた俺たちは、新郎新婦から離れてまた元の場所に戻ってきた。

そこで谷地さんと話をしていた島田たちが何やら話し始める。


「なぁ、谷地さん。顔色悪くなかった?」

「確かに。あんま食事も食べてねぇし…。緊張で気分でも悪いのかな。」


北野と島田がそう話し始めて、俺は谷地さんに目を向けた。

谷地さんは笑ってはいるが確かに顔色が白いというよりは、どこか青白い気がする。

元々色白だけど、それが今日はちょっと病的に見える。


「男って、ほんっと鈍感だよねぇ~。」

「ホント、ホント。何も気づかないんだ。」


「は?」


小波と八牧さんが何か知っているのかバカにしたような目で言って、俺たちは何も分からず目を丸くさせる。

するとデザートのケーキを取りに行っていた新木や水谷が戻ってくるなり、驚くことを口にした。


「あれ、どう見てもおめでただよね。」

「うん。隠してるみたいだけど、バレバレ。」


「「はぁぁぁ!?!?」」


おめでたぁ!?!?


俺はできちゃった婚なのかと谷地さんと井坂を食い入るように見つめる。


「井坂のことだから、いつかやるとは思ってたけど。」

「ちょっとは女のことも考えて欲しいよねぇ~。」

「そうそう。これから仕事頑張ろうってときに、もう産休とかあり得ないから。」

「あれじゃないの、婚約して箍が外れたんでしょ。」


「「うっわ、あり得る~!!」」


女子たちが口々に井坂を批判していて、俺は頭を抱えた。


結婚の次は、もう子供!?

テンポ早すぎんだろ!!!!


「俺…、もうあいつのフォローとか無理だ…。」


島田が俺と同じようにショックを受けたのか、谷地さんにも負けない顔面蒼白でぼやいた。

その横で北野が薄ら笑いを浮かべたまま固まっている。


俺は激しく島田と同意だったので、フラつく島田の肩を支えてやった。


「島田、お前は関西の高校勤務なんだから、もう井坂の呪縛から解放されるんだ。良かったな!」

「赤井…。サンキュな。俺はお前を同情するよ。」


島田に同情の目を向けられ、俺は東京の高校勤務の自分が一番可哀想だ…と涙をのんだ。

北野からも肩を叩いて励まされたが、俺はそんな北野の肩を掴み言った。


「北野。お前は同じ東京勤務だろ?お前も俺の道連れだよ!!」

「うっわ!お前一人に押し付けようと思ったのに!!」

「ふざけんな!!誰が一人で井坂の世話するか!!お前も協力すんだよ!!」

「げぇ~~~っ!!」

「げぇっ、じゃねぇよ!!4年離れてた分、働いてもらうからな!!」


俺はまだ逃げようとする北野を捕えると、これからは一心同体だと北野を説得した。


そうして久しぶりに高校メンバーでこうして笑い合って絡んでいると、まるで高校のときに戻ったような気分で、厄介な奴はいるものの、懐かしくてすごく楽しかった。



あの三年間、俺たちは苦楽を共にして学校生活を送ってきた。

あの時間はなくなるものじゃないし、これからの生活を支えてくれる大事な思い出となっている。


これから歩く道はそれぞれ別々だったとしても、こうして集まればあのときのように楽しく騒げる。

俺たちの絆は簡単に切れるものじゃない。


俺は結婚第一号カップルを見て、切れない絆の未来を見ているようで嬉しくなる。



俺たちは永遠の9組だ。

バラバラになっても、ずっと仲間であり友だ。


たとえ厄介な奴だったとしても、俺は胸を張ってこいつらと同じクラスで良かったと言い切れる。



俺は一番の親友の幸せそうな顔を見て、複雑な気持ちもあったけど、心から祝福の言葉を贈った。



そして天気の良い窓の外の空を見つめて、二人の未来がこの空のように温かく明るいものになるように願ったのだった。








個人的には貴音と島田の話を書きたかったのですが、大学生活編を書く機会があれば…という形にさせていただきます。

そしてここまでで、長かった詩織と井坂の話はおしまいです。

今まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。


ちょっとした過去番外編を一話だけ書いたので、興味のある方は次話も読んでいただければと思います。

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