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理系女子の恋  作者: 流音
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228、合格発表


私がアイちゃんやツッキー、それに篠ちゃん、ゆずちゃんの明かされる恋バナに衝撃を受けて、卒業ムードではなくなっていると、とうとう教室内が夕暮れに照らされはじめた。

その雰囲気に別れることを思い出したのか、皆の笑ってた表情に陰りが見え、笑い声が収まり静かになる。


私はもうそんな時間かと思うと話題が浮かばなくて、つい皆と同じように口を閉じてしまう。

すると横にいたあゆちゃんが、急に私の制服の袖を掴んで言った。


「詩織、何かあったら、必ずタカちゃんと赤井に相談するんだよ?」

「へ?」


あゆちゃんは真剣な目で私を見つめていて、私は面食らってしまう。


「すぐ落ち込んだりして、余計な方向へ悩みを深めるから心配なんだよね…。ただでさえ井坂と離れるのに、私も傍にいないからさ…。」

「あゆちゃん…。」


私はまるでお母さんのように心配してくれるあゆちゃんの言葉に、ジンと感動してくる。


「絶対、何かあったら誰かに相談してね?一人で考え込むのだけはやめるって約束して。」


あゆちゃんのまっすぐな瞳を見つめ返して、私は「分かった。」と頷いた。

そして、いつも私の事を一番に心配してくれていたあゆちゃんとの思い出を思い返して、私はつい涙腺が緩んでしまう。


この高校に入学して、別世界の人だと思ってたあゆちゃんと仲良くなれたこと…

昔の私にとったら夢みたいな出来事だった。


あゆちゃんは私の知らない事ばかりを知っていて、地味だった私を変えてくれた一番の功労者。

いつも私と井坂君の事を優しく…ときには厳しく見守ってくれて、まるで自分のことのように応援してくれた。

私はもうあゆちゃんの厳しい一言や怒声が聞けなくなるのか…と思うと、鼻の奥がツンとしてきて、あゆちゃんから目を逸らした。


すると、あゆちゃんが突然ガバッと私に抱き付いてきて、教室に響き渡る音量で泣き出した。


「うわぁ~!!!やっぱり寂しいよ~!!詩織~~~っ!!!!」


あゆちゃんの細腕が強く私を締め付けてきて、私も胸が詰まって涙が目から溢れてくる。


「………私も寂しいよ…。あゆちゃん…今まで、本当にありがとう…。」


私は耳にあゆちゃんの泣き声を聞きながら、感謝の気持ちをなんとか口にした。


あゆちゃんがいてくれたから、私はここまで頑張れた…

井坂君に告白できたのも、あゆちゃんが背を押してくれたからだ。


私はあゆちゃんからの数々の励ましの言葉を思い浮かべて、あゆちゃんを抱きしめ返した。


「あゆちゃんと会えて良かった…。私と友達になってくれて…ありがとう…。」

「そんなもう会えないようなこと言わないで~っ!詩織のバカ!!最後までバカ!!!」


先にお別れの空気を醸し出したのはあゆちゃんなのに、泣きながら怒り出して、私はつい笑ってしまう。


あゆちゃんはきっとずっと変わらないんだろうなぁ~


私は「何かあったら、あゆちゃんにも相談するよ。」とあゆちゃんの背を叩いて、怒るあゆちゃんを宥めようと試みた。

あゆちゃんは「当然でしょ!?」とまだ怒りを引きずっていたけど、泣き声は収まっていたので落ち着いたんだと感じた。


あゆちゃんは高校でできた、大事な私の親友―――


そのあゆちゃんの彼氏である赤井君と私は同じ大学なので、あゆちゃんとはこれで会えなくなるわけじゃない。


私はそう自分に言い聞かせて、なんとか涙を止めると再度「ありがとう。」と彼女に誠意をこめて伝えたのだった。







***








そして涙、涙の打ち上げもとうとうお開きの時間となり、片づけを済ませた私たちは、三年間を過ごした学校を後にすることになった。

時間もだいぶ遅くなっていたので、それぞれ同じ方向の面々で集まって帰る運びとなり、私は逆方向の井坂君に「明日家に行くから。」と告げて、その日は送ってくれようとするのを断った。


ただなんとなく卒業という空気に浸って静かに帰りたくて、私は同じ方向の男子たちが騒ぐのを見ながら、その後ろをゆっくりと歩く。


この道をこうして制服で歩くのも最後か…


私はつい名残惜しくなって、来た道を振り返って遠目に高校の校舎を見つめた。

もう暗くなっているのでよくは見えなかったけど、しばらくその姿を目に焼けつけてからまた前に目を戻す。

すると、少し先で西門君が男子の輪から外れて待ってくれていて、私は小走りで駆け寄った。


「ごめん。待っててくれた?」

「いや…、ちょっと見てただけだよ…。」

「見てた?って、学校を?」


私は少し気まずそうに顔を歪めながら歩き出す西門君の隣に並ぶ。


「………まぁ、そんなとこ。」

「ふ~ん…?」


煮え切らない答えを口にする西門君を見上げて、私はどういうことなのかと首を傾げた。

そこで西門君が徐に話し出す。


「……しおとの腐れ縁もとうとうここまでだな…。」

「え?あ、そうだね~。西門君、地元の栄央大だもんね。ゆずちゃんと一緒の。」


私が順調そうな二人を思い返して、ついからかい口調で言うと、西門君が鼻で笑った。


「っふ。言うじゃん?しおは精々遠距離頑張りなよ?」

「分かってますー!」


私は少しだけ明日の井坂君の合格発表が怖くもあったけど、それを西門君に見せずにプイッと拗ねたフリをする。

すると西門君が楽しそうに笑いながら言った。


「余計な心配だったか。ま、井坂君だったら大丈夫だろ。」

「?やけに井坂君の肩持つね?」

「そりゃ、そうだろ。こんな厄介なしおと付き合ってくれる井坂君には、幼馴染として感謝ばっかりだよ。」

「何それ。まるで私が手のかかる子供みたいに…。」

「実際そうだろ?井坂君を散々振り回してるクセにさ。」


……否定はできない…


私は全て見られてるだけに言い返せなくて、ぶすっとしたまま口を噤んだ。


「離れても井坂君のこと、大事にしろよ?井坂君に愛想つかされたら、しおは一生独身もあり得るからな。」

「分かってるよ!!言われなくても愛想つかされないように大事にしますっ!!」


くどくどと説教してくる西門君にイラッとして言い返すと、西門君はクシャっと顔を歪めて笑った。


「その意気だよ。何かあったら木崎さんや周りの奴に相談しろよ?僕はもう近くにはいれないからさ。」


西門君はそう言うと、「じゃあな!」と男子の群れの方へ小走りで走っていってしまう。

私はその背を見つめながら、これは別れの挨拶だったのだろうか…?と西門君からの最後の言葉を聞いて思った。


西門君とは保育園からの長い付き合いだ。

その長い腐れ縁もここで一旦切れてしまうとなると、西門君も少し名残惜しかったのかもしれない。


私は最後の最後まで心配してくれたことを感謝しながら、幼馴染と離れる寂しさをそっと胸の奥にしまい込んだ。






***







そうしてたくさんの別れのあった卒業式から夜が明けた、次の日―――――


私はとうとう井坂君の合格発表の日だと、ドキドキしながら目を覚ました。

受かってほしいと思いながらも、まだ遠距離になることに踏ん切りのつかない微妙な心境で、私は自分の胸の中がモヤモヤと色んな感情がごちゃ混ぜ状態で気分が悪かった。


受かってたら、ちゃんと喜んであげなきゃいけないのに…

なんだかスッキリしないなぁ…


私はこんな心持で井坂君の所に行くのは気が進まなかったけど、昨日行くと約束したのと、やっぱり結果が気になるので、足取りは遅くなりながらも井坂君の家へと向かう。


いつもなら20分程で着く道のりもゆっくり歩いたというのもあり、30分ぐらいかけて井坂君の家の前までやってくると、ごちゃごちゃ考えるのをやめてインターホンを押した。


「まぁ!!詩織ちゃんっ!久しぶりね~!!」


まるで私が来ることを見越してたかのように、井坂君のお母さんがインターホンを押してすぐ出て来られて、私はビックリしながらも笑顔を返す。


「お久しぶりです。あの、井坂君は…?」

「拓海なら上にいるわよ~。それより、詩織ちゃんと話したかったのよ~!!さ、入って!」


お母さんは私の手を引っ張ると、ウキウキしながら中へ促してきて、私は流されるままに中に入る。

すると階段から井坂君が駆け下りてきて、お母さんに手を引かれた私を見るなり顔を歪める。


「母さん!!」

「はいはい。言いたい事は分かってるわよ。でも、私はあなたより詩織ちゃんと会うの久しぶりなのよ?ちょっとぐらいいいじゃないの。」


私の目の前で親子喧嘩が勃発しそうで二人を交互に見ていたら、井坂君がお母さんから私の手を引き離して掴む。


「もう!!ケチなんだから!」

「ケチで結構。発表見たんだから俺にもう用はないだろ!?絶対部屋に邪魔しに来んなよな!」


え!?発表を見た!?――――ってもう結果出たの!?


私は「分かったわよ!」と怒りながらリビングへ戻るお母さんとその背を睨む井坂君を交互に見て、結果が気になって仕方ない。

するとその視線に気づいたのか、井坂君が私に目を向けて顔を緩ませた。


「やっぱ気になるよな。心配いらないよ。ちゃんと受かってたからさ。」

「え、そっか!!良かった…。おめでとう、井坂君!」


私はちゃんとお祝いを言えるか心配していたのだけど、案外スルッと言葉が出てきてホッとした。


意外とちゃんと遠距離になること…、受け入れられてるのかも…


私はもうイヤだとか寂しいという感情よりも、素直に井坂君の合格が嬉しくて、自分の成長が少しだけ誇らしい。

そう感じて微笑んでいたら、井坂君に掴まれていた手が引っ張られて、井坂君が二階に向かって歩き出す。


「なんか負けた気分…。」

「ん?なんで?」


井坂君が階段を上りながら言って、私は何の話かと井坂君の後ろ頭を見つめた。

こっちを向いてくれないとどんな顔で言ったのか見えない。


「詩織はずるいよ。」

「……どうして?」


私は井坂君に手を引かれるまま井坂君と一緒に部屋に入ると、扉を閉めるなり熱くキスされ目を剥いて固まった。

井坂君はどこでスイッチが入ったのか、グイグイ攻めてきて、私は息苦しくなってきてジリジリと後ろに下がる。

すると背に棚が当たり、これ以上逃げられなくなり、自然と腰を落とす。

そこで一瞬口が離れて、私は荒い息を吐き出しながら手を差し入れた。


「待って…。急にどうしたの…?最近、ちょっと…変だよ?」


私は一昨日のカラオケでもこうして我を失いかけてる井坂君に襲われたことを思い出して、彼の急な変貌に心臓がついていかない。

井坂君はブスッと顔を歪めると、なぜか私の上着を脱がしながらぼやく。


「だってさ…、なんか詩織、一人で勝手に大人になって…、俺と全然違くて…ムカつくっていうか…、寂しいっていうか…。」

「??そうかな??私、そんなに大人じゃないよ?」

「俺から見たら十分大人だよ!なんで合格したって聞いて、そんな平然としてんだよ!普通、ちょっとは取り乱すだろ!?」


えぇ…??


私は自分が誇らしかった部分を全否定され、井坂君の不満に同調できなくて顔をしかめる。


あの会わなかった強化期間はこの日のためのものじゃなかったの…?

いつまでもウジウジしてたって仕方ないよね??


私は今朝と違い、ちゃんと心の整理がついてスッキリとしていたので、今更どういう反応を返せばいいのか分からない。


「詩織だけ…ずりぃよ…。」


井坂君はボスッと力なく私の胸に顔を埋めてくると、背に手を回してくる。

私はその頭を見下ろして、まるで子供みたいな井坂君に笑みが漏れてしまう。


要は寂しいってことだよね?

そんなの私も一緒なのに、可愛いなぁ~


私は甘えてる井坂君が可愛くて、つい彼の頭に頬ずりして胸いっぱいになっていたら、井坂君から子供らしくないことをされ心臓が跳び上がった。

―――というのが、背に回ってた井坂君の手がいつの間にか服の中に入り、私の背中の肌を触り始めたのだ。


「………井坂君…?」


私は井坂君を抱え込んでいた腕の力を弱めて尋ねると、井坂君が少し嬉しそうな顔でちらっと私の顔を盗み見てきて、嫌な予感しかしない。


「…今日は落ち込む俺を慰めてもらう予定だから。いいよな?」

「それ、落ち込んでるの?」

「見て分かんない?」


見るからにワクワクと嬉しそうに顔を緩めだす井坂君を見て、私は全く見えない!と心の中で叫んだ。

でも私の叫びが井坂君に通じるはずもなく、私は井坂君の望み通りまた流されてしまうのだった。











西門君、あゆちゃんの登場もここまでです。

最終話まであと少しお付き合いください。

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