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理系女子の恋  作者: 流音
233/246

220、登校日兼バレンタインデー


二月初めての登校日の2月14日―――――


私は井坂君へのチョコレートを手に、ウキウキしながら久しぶりに井坂君と一緒に登校した。

登校中、井坂君はチラチラと私の持つ袋を気にしていたけど、私はお楽しみはとっておきたくて帰りに渡すと決めていた。

だから、あえて井坂君の視線は気にせず、クラスで皆との久しぶりの再会を喜んだ。


「みんな、久しぶり!!今日まですごく寂しかったよ~!!」


私は一番にタカさんに抱き付いて、他の皆に目を向ける。


「しおりんは変わんないねぇ~。どうせ学校なくても井坂君とイチャついてたんでしょ?」

「そうそう。きっと寂しかったなんて口だけだよ。」

「口だけじゃないよ!毎日赤井君とばっかり話して、本当に寂しかったんだから!」


私がムスッとして訴えると、後ろから背中を小突かれ振り返る。


「ちょっと!羨ましい発言はやめてくれる!?赤井と毎日一緒でいいじゃないの!」

「あゆちゃん。」


あゆちゃんはもう一発小突いてくると、女子の輪の中に入り不機嫌そうに腕を組む。

私は「ごめん。」と謝りながら苦笑すると、あゆちゃんも微笑んで「別にいいけど。」と返してくれる。

その姿にからかわれただけかも…と思っていたら、ちょうど良いタイミングで赤井君が女子の輪に乱入してきた。


「みんな、はよーっ!!いやぁ、やっぱ皆がいる教室っていいな!!この騒がしい感じが懐かしい!!なぁ、谷地さん!!」

「うん。改めて皆の存在の大切さに気づいた1カ月だったよ…。ほんっとに寂しかったんだから!!」


私は赤井君とタッグを組んで再度訴えると、やっと皆に分かってもらえたようで「なんか照れるね。」と笑顔が広がる。

そうして皆で笑っていたら、教室の入り口から「赤井君~!」と呼ぶ声がして、皆の目がそっちへ向く。

教室の入り口には何人かの女子が屯していて、皆手に様々な柄の袋を手にしている。


その姿からバレンタインデーだったということを思い出し、赤井君より先にあゆちゃんがすっ飛んでいく。

そうしてあゆちゃんは、赤井君にチョコレートを渡そうと思っていた女子たちと口論を始める。


あゆちゃんは変わんないなぁ…


私はそれを他人事のように見ていたけど、ふっと井坂君の姿がないことに気づいて教室内を見回した。


あれ!?


私はさっき一緒に来たばかりの井坂君がいないことに一抹の不安が過る。

体育祭のときのように、もし女子に囲まれていたら…

私はそこまで想像してサーっと顔の血の気が引いていく。


だから再会に盛り上がる輪の中を抜け出すと、廊下に出て井坂君の姿を探す。


どこに呼び出されたんだろう…


私は告白なら校舎裏か体育館裏が定番…と思い廊下を走り出すと、階段で曲がろうとしたらちょうど井坂君と鉢合わせして慌てて止まる。


「お~、詩織どした?なんか慌ててんな?」

「慌ててんな?じゃないよ!!どこ行ってたの!?」

「え、それはトイレだけど…。」

「トイレ?」


私はただのトイレかとほっとして身体の力が抜ける。

そして何も持ってない井坂君を見て、余計な心配をしてしまった自分が恥ずかしくなる。


井坂君が受け取るはずないよね…


井坂君は赤井君とは違い、毎年受け取ってなかったことを思い返して、あゆちゃんの必死な様子に自分まで引きずられてしまったと笑って誤魔化す。

井坂君はそんな私を見て何か勘付いているようで、ニコニコと嬉しそうに笑いながら「詩織でも焦るんだなぁ~。」と顔を覗き込んできた。


私は心が読まれないように表情を無にするけど、顔が近いことにドキドキしてしまって、頬が徐々に紅潮してくる。

それを見た井坂君はまた楽しそうに笑って、私の熱くなる頬を触りながら、ご機嫌状態で教室へと戻ったのだった。






***





そして登校日の授業はLHRを合わせて3時間で終わり、お昼前に解散となった。

残す登校日は卒業式の予行練習日と卒業式を合わせた二日。

久しぶりに学校に来たメンバーは名残惜しいのか、終わってからもすぐ帰るメンツは少なく、それぞれ固まって近況を話しては盛り上がっている。

でもそんな中、三次試験(後期試験)も受ける人たちは勉強最優先のようで、少し名残惜しそうに帰って行った。

長澤君もその一人で、「みんなに会えて元気もらったよ。」と笑顔を残し手を振って出て行くので、私は予備校仲間でもあるので「頑張れ!」とエールを込めて手を振り返した。


すると横から「何やってんの!?」とタカさんに頭を叩かれる。

手を振ってただけなのに理不尽だ…とタカさんを若干睨んでいたら、赤井君がまた下級生に呼ばれて教室を出て行くのが見え、あゆちゃんが追いかけて行った。


あゆちゃんも大変だなぁ…


私は今日何度思ったか分からない同情をあゆちゃんに向けていたら、さっきまで島田君たちとバカ騒ぎしていた井坂君がいなくなっていて、キョロキョロと辺りを見回した。


またトイレかな??


私はまるで忍者のように教室からいなくなる井坂君が不思議で、首を傾げていたら、横からアイちゃんと篠ちゃんに怖い事を言われる。


「しおりんはあゆみたいに焦らないけどいいのかなぁ?」

「そうそう、井坂君も今日何度も呼び出されてるってのにさ。」

「え…。呼び出されてた?いつ?」


私は今日一度もそんな場面を見てないので、二人の言う事が信じられない。

すると二人は目を見開きながら言う。


「うっそ。今朝から赤井並にすごいのに。一回も見てないわけ?」

「……うん…。だって前みたいにキャピキャピした声聞こえてないよね?」

「そうだっけ?結構聞いた気がするんだけど…。だってさっきも一年の子が井坂君のこと連れてったし…。」


あれ??

なんで私だけその声聞いてないの?


私はそんなに鈍感だっただろうか…と考えていたら、横からタカさんが疑問を解いてくれる。


「それは井坂君が呼ばれる前に出て行くからでしょ?まるで毎回誰かが来ると見越してたかのように物凄く俊敏に。それを窓際の席のしおりんが気づかないのも無理はないかも。二人はこの辺にいたから視界に入ったんだろうけどさ。」

「そっか。言われてみればそうかも。」

「だね。―――というか、井坂…そんな待機するほどチョコ欲しいわけ?ちゃんとした彼女がいるっつーのにさ。」

「いやいや、見たところ井坂君、一回も受け取って帰ってきてないから。赤井君はあゆが阻止してる割にはたくさんもらってるのにね。」


私はアイちゃんの『チョコが欲しい』発言にビクッとしたけど、タカさんのフォローにほっとする。

すると二人は黙って話を聞いている私を見て「愛されてるよねぇ?」と気持ち悪い笑みを向けてくる。


私はそんな二人の反応が恥ずかしくてその場を離れようと思っていたら、ちょうど井坂君が教室に戻ってきた。

そして戻ってきた井坂君の手に握られている一つの袋を見て、私はその袋から目が離せなくなった。


すぐ横で二人が同じように井坂君を見て、タカさんを小突きながら小声で話しだす。


「ちょっと持ってるけど!!どういうこと!?」

「受け取ってないんじゃないの?」

「………、私が聞きたいよ…。おかしいな…。」


タカさんは言った事が覆されたことに複雑そうな顔をしていて、私は島田君たちの所に戻った井坂君が持ってる袋のことでからかわれているのを見て、ギュッと胸が痛くなった。

だってからかわれてる井坂君の表情が、照れてる時に見せるものだったからだ。


私はそんな姿を見ていたくなくて、足が勝手に教室の外へ向く。


そしてタカさん達の引き留める声が聞こえたにも関わらず、廊下を早足で歩き、どこに向かうでもなく階段を駆け下りる。


チョコ…もらったってことだよね…

どういうこと?


それだけくれた人が特別だったの?


私以外にそういう人がいるの??


私は気になるなら本人に聞けばいいのに、足は止まらずいつの間にか一階まで降りて渡り廊下をずんずんと職員室棟へ向かって進んでいた。


そうしてモヤモヤとした気持ちをなんとか解決させようとひたすら歩いていたら、後ろから「詩織!!」と声がかかり足を止めて振り返った。


そこには井坂君が私を追いかけていたのか息を荒げていて、私はまだ整理がついてなかっただけに顔を見るなり逃げるように走り出す。


なんで今来るの!?


私はとりあえず落ち着くための時間が欲しくて、逃げ場を求めて走り続けた。

でも足が速い井坂君に追いつかれるのは時間の問題で、私は捕まる前にどこかに隠れようとすぐ横の扉を開けて駆け込んだ。


「あら、谷地さん。」


入るなり保健室の北条先生に声をかけられ、私は駆けこんだのが保健室だと分かって思わず頼み込んだ。


「あ、あの!!少しの間、匿ってください!!」

「え?」


私はとりあえずカーテンにしきられた二つのベッドのうち、空いていた方のベッドまで行くと、カーテンを閉めて布団に潜り込んでお願いした。

北条先生は困惑していたようだったけど、そのすぐ後にやって来た井坂君を見て何もかも分かってくれたようだった。


「すみません!ここに詩織来ませんでした!?」

「まぁ、井坂君。谷地さんなら来てないわよ?どうしたの?」

「え…いや、ここに入るのが見えた気がしたんですけど…。」

「いいえ?ここには気分の悪い生徒が二人いるだけよ。」

「……そうですか?」


井坂君はどこか勘繰るような声を発していて、私はドキドキしながら布団にくるまって息をひそめる。


「いないって分かったなら出てちょうだい。寝てる子に迷惑だから。」

「あ…、はい…。分かりました…。」


先生からの注意に井坂君はシュンと声のトーンを下げ部屋を出て行ったようで、パタンと扉が閉まる音を聞いて、私はホッと一息ついて体を起こした。


そこで北条先生がカーテンを開けて、私に目を向け微笑んでくる。


「谷地さん。井坂君はひとまず追い返したわよ?」

「……あ、すみません…。お手数おかけして…。」

「それはいいけど。逃げてるだけじゃ解決しないんじゃないかしら。何があったか知らないけど、自分には正直にね。」

「……はい…。」


私は先生からの当然のお説教に肩をすぼめると、すぐ横のカーテンに仕切られたベッドから怒声が飛んできた。


「谷地さんは贅沢よね!」

「え…。」


どこかで聞いた声に目を丸くさせて隣を見つめていたら、そこのカーテンが開き、整った顔立ちに大きなくまを浮かべた山地さんがいて息が喉に詰まった。


「大好きな人に追いかけられてるのに、何が不満なのよ!!ほんっと、幸せ過ぎて自分の身の程を見誤ってんじゃないの!?」

「や…山地さん…。ど、どうしたの…?そのくま…。」


私は久しぶりに見た山地さんの綺麗な顔に見えるくまに驚いて、怒られてる事が耳を素通りしていく。

山地さんはギロッと私を睨むと「私の事はいいでしょ?ほっといて!」と怒る。


「それより、なんで拓海君から逃げてんのよ!!あんだけ私に食って掛かって拓海君を横取りした身分のクセに信じらんないんだけど!!」

「えぇっと…、それには諸事情あって…。」


私はこんな自分の気持ちを井坂君のことを好きだった山地さんに言うわけにはいかず、目を泳がして不自然に答える。

すると山地さんはじとっと私を見つめた後、ふて寝するように横になって言った。


「諸事情ね。拓海君にあんな悲しそうな声させて事情も何もないと思うけど?」

「え…?」


私が山地さんからの言葉に首を傾げると、山地さんはこっちに目を向けて睨んでくる。


「すっとぼけないでよ。あなたと拓海君のバカップルぶりは学校中の周知の事実なんだから。何を事情とか言って揉める必要があるのよ。意味わかんない。」

「……周知の事実…。」


私は『バカップル』という単語が妙に残って、嬉しさと恥ずかしさが入り混じり顔が熱くなる。

すると山地さんが呆れたようにため息をついて、顔を反対側に向けてしまう。


「めんどくさっ。なんで私がこんな助言しなきゃなんないの!?さっさとここから消えてくれる?」

「え…、あ、ごめんなさい…。」


私は助言だったのか…と思いながら謝るとベッドから下りる。

そして背を向けて顔の見えない山地さんに「お騒がせしました。」と一声かけてから、北条先生にも同じように謝罪した。


「先生も…、お騒がせして…協力までしていただいて…すみませんでした。」

「いいのよ。井坂君と仲良くね。山地さんも、これが言いたかっただけだと思うから。」


先生はコソッと山地さんに聞こえないように言って、私はちらっと横目で山地さんの寝るベッドを見ると苦笑した。


「…はい。」


私は先生と山地さんの二人から励まされてしまい、細かい事を気にしてる自分がバカらしくなってきた。


井坂君に直接聞かずに逃げるとか…、私も変わんないなぁ…


私は山地さんの言うように自分がすごく面倒くさく思えて、「失礼しました。」と保健室を後にすると、来た道を戻り教室へと向かった。


そうしてまた渡り廊下をさっきとは違う気持ちで歩いていると、その先に立ち尽くしている瀬川君を見つけて声をかけた。


「瀬川君。どうしたの?」


私が声をかけると瀬川君はハッと我に返ったようで、子犬のように人懐っこい瞳を私に向けるなり手に持っていたものを突き出してきた。


「谷地さん!!これ!!これ見て!!」

「これ?」


私は突き出されたそれを受け取ると、ただのバレンタインチョコの包装をされた箱だと認識して、何をそんなに焦る必要があるのかと不思議な気持ちになった。


瀬川君のことだから、毎年山のようにもらってるだろうに…


すると瀬川君がわなわなと表情を震わせながら、もらった人物の名を口にする。


「これ…ナナがくれたんだよ!!」

「え?ナナコ??良かったね。ナナコがチョコとか珍しいなぁ~。」


私はナナコにしては珍しいな~と笑っていたら、瀬川君が世界でも終わったかのように私に詰め寄ってくる。


「だろ!?ナナが俺にチョコとか、どういう風の吹き回しだよ!!ドッキリかと思って反応に困って呆然としてたら、ナナは『義理だから』ってことだけ言って消えちまうし…。何だこれ!?怖すぎる!!俺、人生の幸運を使い果たしたかもしれない…。」


瀬川君は最後に悲愴な顔を浮かべてしまって、私は義理チョコを貰っただけでこんな反応をする瀬川君がおかしくて仕方ない。

目の前で笑うわけにもいかないから我慢するけど、チョコを持つ手が震えてくる。


もうナナコの気持ちを言っちゃいたいぐらいだけど…

ナナコが本当に自覚してるか微妙だもんなぁ…


うん、瀬川君には悪いけど、ナナコがちゃんと素直になるまで待ってもらおう…


私はなんとか表情に出す前に笑いを収めると、詰め寄る瀬川君から離れてチョコを返す。


「大丈夫だよ。きっとナナコは瀬川君への誤解を消化して、ちょっと素直になりたかっただけなのかもしれないから。これは仲直りの証みたいなものなんじゃない?」

「あ…そっか、だから義理ってあんなに強調して…。」


そこまで…

ナナコ素直になれないからなぁ…


私は瀬川君に『義理だから!!』と言っているナナコの姿を想像して、すごくしっくりくることに少し呆れる。


「う、うん。だから瀬川君が普通に受け取っておけば、ナナコの気も晴れるだろうし、深く考えないでもいいと思うよ。瀬川君は貰って嬉しくなかった?」

「いや。すげー嬉しかった。だって、ナナからの初めてのチョコなんだぞ!?超貴重じゃん!」


瀬川君は恋する男子の笑顔になって、私はその笑顔にやられそうで少し視線を逸らした。


イケメンがこんなに無邪気に笑うと心臓に良くない…


私はとりあえずチョコを押し付けて返すと、早く教室に戻ろうと瀬川君の横を通り過ぎる。


「じゃあ、ナナコにちゃんとお礼言ってあげてね。きっとナナコ喜ぶから。」

「了解!!話聞いてくれてありがとな!」


瀬川君は今度は女子が騒ぐ爽やかな笑みを浮かべて手を振ると、私より先に教室棟へ走っていく。

私はそんな瀬川君に手を振ってから、自分も帰ろうと足を速めた。


瀬川君の話をきいてのほほんとしてる場合じゃない…

他人のことよりも自分の厄介な嫉妬心を解決しないと。


私はとにかく井坂君と話そうと思っていたのだけど、まさかあんなシーンを見てしまうことになるとは、このときには全く思いもしなかったのだった。











久しぶりの山地さんでした。

彼女が保健室にいたのは、受験生特有の事情です(笑)

バレンタインデー後編に続きます。

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