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理系女子の恋  作者: 流音
230/246

217、東京へ

井坂視点です。


二次試験当日―――


俺は試験を受けるために、東京にある東聖大学へと新幹線で向かっていた。

東京までは新幹線で二時間程度。

そこから大学までは電車を乗り継いで30分だ。


俺は新幹線の中で詩織に写真付きのメールを送る。


『今、新幹線。朝早いから眠い。』


俺はそれに新幹線内の写真を添付して送信したら、詩織から5分も立たずに返信がきた。

中を確認すると、詩織も写真と一緒に送ってくれていて、それを見て微笑む。


『私は学校のあとバイトだよ。試験頑張ってね!』


写真が高校の外観の写真で、もう登校したんだと驚く。


そういえば三学期になってから、詩織と一回しか一緒に学校行ってねぇなぁ…

二学期まで毎日一緒だったのがかなり昔のことみたいだ…


俺はそこでふっと寂しい気持ちになりかけて、気を取り直すために鞄から問題集を取り出して前に広げた。


これからのことは受かってから考える!!


俺はそう言い聞かせて、東京に着くまで黙々と問題集に向かったのだった。





***




そうしていると東京までの道のりは早いもので、駅について降りるなり人の多さに驚き、人の流れに流されながら在来線ホームへ。

そしてちょうどラッシュの時間で満員の電車に揺られて辿りつくと、東聖大の最寄駅ホームで気分が悪くなっていた。


どこ行っても人が多いとか…

さすが都会…

これ、俺やってけんのかな…?


俺は自分が合格することよりも生活の方が不安になり、ヨロヨロと大学へ向かう。

そうして同じ受験生だろう真面目そうな面子と一緒に年季の入った豪勢な門をくぐり、案内板に書いてある受験番号の教室へと足を進める。


そうして大学とは大きいものなんだな…と色々周囲を見て歩いていると、ふっと横を見覚えのある初老の男性が通り、思わず振り返った。


「小木曽教授ですか!?」


俺は反射で声に出していて、その男性は振り返るとメガネの奥の目を細めて笑った。

その顔がそのまま持っている本の写真と合致して、俺は小木曽教授に駆け寄った。


「あの!俺、井坂拓海っていいます!!ずっと小さい頃から教授に憧れてて、教わるのが夢でこの大学を受験しに来ました!!」


俺はとりあえず言いたい事を口にして、憧れの教授を前に興奮していた。

教授は俺の目をじっと見つめると、また笑って言った。


「それは光栄だ。君のように夢見る若者に、少しでもたくさんのことを知って欲しいからね。試験、頑張るんだよ。」


教授はそれだけ言うと、急いでいたのかすぐ背を向けてまたさっきと同じペースで歩いて行ってしまう。

俺はその背に「ありがとうございます!!」と頭を下げ、試験の日に教授に会えた幸運に、背中を後押しされてると感じた。


こうなれば怖いものなんか何もなくて、俺は未来への希望しか目に入らず、絶好調をキープしたまま試験に向かう事ができたのだった。







***








そうして試験をなんの問題もなく終えた俺は、真っ先に詩織に教授に会ったことを報告しようとメールを打ちながら大学内を歩いていた。


『小木曽教授に会った!!すげー威厳があって、後光が見えた!マジ感動!!試験もばっちりだった!!』


俺はまだ興奮冷めやらぬ内容を送信すると、ふっとすぐ横に化学実験棟と書かれた建物が見えて、俺はその建物に近付いて見上げた。


すげー…

合格したらここで授業受けることになるんだよな…

小木曽教授もここにいるのかな…?


俺はキョロキョロと不審人物のように辺りを見てから、こっそりと窓を覗き込む。

でも中は暗くてよく見えず、ダメか…と思っていたらポケットのケータイが震えだして身が縮み上がる。


なんだ!?


俺はケータイを手に取ると、電話だと分かり慌てて誰からか確認もせずに出た。


「もしもし!?」


俺は覗きをしていた背徳感から怯えながら声に出すと、聞きたかった声が耳に届く。


『井坂君。試験お疲れさま。もしかして、もう新幹線?』

「あ、詩織。ううん。まだ大学。色々珍しくて見て回ってて…。」

『そっか。そういえば憧れの教授に会えたんだよね?どうだった?』


詩織は俺のメールを見て気になってかけてくれたんだとその言葉に分かり、俺はさっきの興奮を思い返しながら口にする。


「思った通りの人だったよ。落ち着いてて、威厳あって…。なんか神々しかった!!あ、でも背だけは俺より小さくて可愛かったかも。」

『あははっ。可愛かったんだ。ちょっと見てみたかったなぁ…。』

「見れるよ。俺、ぜってー合格してるから!なんせ教授に応援されたんだぜ!?神を味方にした気分だったから試験楽勝だったし、受かれば詩織がこっち来た時に会わせられるしな!」

『……じゃあ、それを楽しみにしてようかな。』

「任せろって!!」


俺は超ご機嫌で電話しながら歩いて出口に向かっていると、ふと周囲から視線を感じて辺りに目を向けた。

そこには遠巻きに俺を見る東聖大生の女子…だろうか?(同じ受験生かもしれない)がこっちを見ていて、見られてることに睨み返す。


『井坂君?どうしたの?』


俺が急に黙ったことに詩織が不安になったようで訊いてきて、俺は電話に意識を戻しながら答える。


「いや、なんか女子に見られてて…。それも一人じゃなくて、あっちこっちから…。なんか黙って見られてるとこえーんだけど…。俺、なんかやらかしたかな?」


俺がそう説明すると、詩織が『まさか…』と呟くのが聞こえ、その直後背後から誰かに腕を掴まれ、ビックリして振り返った。


「あのー、もしかしてここの受験生?」

「え…、はぁ…。」


俺は黒縁メガネに長髪の黒髪女子(まるで日本人形みたいな)に話しかけられ、ケータイを持ったまま固まる。

その女子はニコリと優雅に微笑むと、頬を赤く染めながら言う。


「私、ここのゼミの1年なの。さっき化学棟を覗いていたでしょう?あなたみたいな人…珍しいから気になって…。」

「あ、中にいた人ですか?すみません。勝手に覗いて…。ちょっと興味があったから…。」

「そうなの?じゃあ、あなたも小木曽教授に学びたくて?」

「え、もしかしてお姉さんもですか?」


そのお姉さんは「えぇ。」ととても嬉しそう静かに笑い、俺はどこまでも上品なお姉さんに若干息がつまる。

同じ人に憧れてるはずなのに、俺とは相性が悪そうだ…と感じて、その場から離れようと後ずさる。


「じゃあ、もし受かったら同じゼミかもしれないですね…。」

「そうね。あなたみたいな人が来たら、ウチのゼミもちょっと華やかになるかも。」

「へ?」


華やかってどういう意味だ…?


俺はニコニコとしているお姉さんに固い笑顔を向け、目を逸らしながら言う。


「じゃあ、新幹線の時間あるんで…。」

「あぁ、遠くから来てたのね。じゃあ、受かったら住むところとか探さなきゃいけないわよね…。そうだ!もし良かったら、いい所紹介するから、受かったら連絡して?これ、私の連絡先。」

「え…。」


お姉さんは持っていた筆箱から名刺を取り出すと渡してきて、俺はさすがに受け取れなくて断った。


「いや、結構です。住むところなら自分で探すので…。それじゃ、覗いて邪魔してすみませんでした!」


俺はこれ以上絡まれたくないと思い、軽く会釈すると門まで走った。

そして走りながらケータイを耳に当て、待たせていた詩織に声をかける。


「ごめん!なんか先輩らしい人に捕まって。」

『うん……。全部聞いてた…。』


詩織がどこかさっきより悲しげな声で言って、俺はそれが気になって訊こうとしたら、今度は門を出る前で違う女子に話しかけられる。


「あの!ここの受験生の人ですよね!!実は私も同じ教室で受験してて…。」

「悪いけど、今急いでるから。」


俺は急に女子に話しかけられるな…と不思議に思っていると、ケータイから詩織の声が聞こえる。


『お願い…。早く会いに来て。……寂しい…。』

「え…?」


俺は急に可愛いおねだりが聞こえたことにビックリして、走ってた足を止めて耳を澄ませると、詩織は電話を切ってしまったのかツーツーと無機質な音しかしなくなった。


え!?!?!?!


俺は切られたことにも驚いて焦って電話をかけ直す。

でも詩織は出てくれなくて、俺はとりあえず駅に向かって全速力で走った。


なんで!?


俺は耳に詩織の『会いに来て』という声と『寂しい』という本音が交互にリフレインして、顔が熱くなり鼓動が速くなっていく。

そしてそう言った詩織の表情を想像して、顔が緩んでどうしても笑ってしまう。


うわぁぁぁぁ!!!!!


俺は心の中で形容しがたい気持ちの連続に叫ぶことで自分を落ち着かせ、地元に帰りつくまで顔の熱は一向に引かなかったのだった。





***





俺は電車を乗り継ぎやっとの思いで地元に帰ってくると、詩織の家までノンストップで走った。

俺の人生で最高速が出たのではないかというぐらい全速力だったため、詩織の家のインターホンを押したときには息が荒く声を出すことが出来ない状態だった。


それでも一刻も早く会いたい気持ちで無理やり息を整えると、玄関の扉が開いた瞬間、門から身を乗り出した。


「詩織!!」

「あら、井坂君。いらっしゃい。」


俺はてっきり詩織だと思って呼んだのだけど、出てきたのは詩織のお母さんで、俺は勘違いした恥ずかしさに門から退く。

するとお母さんが門を開け俺を中へ通してくれた。


「詩織よね?ついさっき帰ってきたところなのよ。タイミングばっちり。約束してた?」


俺は詩織のお母さんから帰ってきたところだと聞き、部屋にいると察して、お母さんより先に玄関から上がると「すみません。お邪魔します。」と一声謝罪してから階段を駆け上がる。

そして急いで詩織の元へ行こうと、ノックもしないまま詩織の部屋の扉を開けると、俺の目に着替え中の詩織の姿が飛び込んできて入り口で固まった。


!!!!!


詩織は下は着替え終えているものの、上が着ている途中で服の隙間から下着が覗いていて、詩織は俺を大きく目を見開いて見つめてから、慌てて上のシャツを思いっきり下に下げた。

そして悲鳴を出すのを堪えているのか、真っ赤な顔でギュッと口を横に引き結ぶと固まっている俺を引っ張って部屋の中に入れ、扉をきっちりと閉めた。


「井坂君…、来るなら来るって連絡してよ…。」

「あ、いや。だって、詩織電話しても出ねーから…。」


俺は見たことを流してもいいのか?と思いながら、詩織の様子を窺いつつ答える。

詩織はぶすっとふて腐れていたけど、どこか表情は嬉しそうに見えて、俺を上目づかいで見ると言った。


「……ごめん。バイト中だったから…。来てくれたの…、私が変な我が儘言ったからだよね…?本当はあんなこと言うつもりじゃなくて…慌てて電話切ったんだけど…。切ったまんまの方が気になるよね…。そこまで考えが及んでなかった…。」


詩織は少し眉を寄せて反省し出して、俺は電話が繋がらなかった理由が自分のせいじゃなかったと安心する。


「いや、それはいいんだけどさ。なんつーか…、あんなこと言われたの…初めてだからさ…。」


俺は今も言われたときの衝撃と感動を思い返して、顔がにやけてきてしまい手で口元を隠す。

すると詩織が俺の上着の裾を掴んで、俺の胸に頭を預けてくる。


「来てくれて…嬉しい。井坂君…おかえりなさい。」


!!!!!!!


俺は詩織に甘えられてる現状と『おかえりなさい』という言葉にやられて、思いっきり詩織を抱きしめて詩織へ返す。


「……ただいま。…俺も詩織に会いたかった…。」

「うん…。」


今日は超幸せだ…

小木曽教授には会えるし、詩織には嬉しい言葉ばかりもらう…

最っ高だ~…


俺は暴れ出したいぐらいの幸福に、心の中では喜びに転げ回っていて、詩織の頭を抱き寄せてはキスして触れる。

そうして詩織の存在に癒されていると、詩織が俺から少し離れてムスッとしてから言った。


「……女の子に優しくしちゃダメ。」

「うん?女の子ってなんのこと?」


俺は詩織の少し怒る顔も可愛くて、ついゆるゆるの笑顔で返すと、詩織が俺の耳の辺りを両手で掴む。


「向こうで…、色んな女の子に声かけられてた…。こっちだけじゃなくて…向こうでもなんて…。私の見えない所で仲良くしちゃやだ。」


ぐふっ!!!!


俺は詩織の可愛すぎる嫉妬に胸を撃ち抜かれ、ギュンギュンとときめく胸を押さえつけた。


ヤバい…詩織に殺される…


俺は胸は苦しいものの、顔の筋肉は緩みっぱなしでヘラヘラと笑った状態になっていると、詩織が軽く俺の頬をつねってきた。


「なんで笑ってるの?ヤダって言ってるのに…。」

「いや…、だってさ…。」


俺はもう嬉し過ぎて表情を普通に戻すことなんかできず、気持ち悪く笑ってしまう。


「へへへへへっ。」

「井坂君。聞いてる?」

「聞いてるよ。聞いてるけどさ…、ふへっ!へへへへっ!」


ダメだ、笑いが止まんねぇ…


俺はずっと笑い続けながら、詩織を撫で繰り回したくなって、詩織の柔らかい頬をグニグニと触ったり、首や耳たぶも触る。

すると詩織はくすぐったかったのか怒った顔が徐々に笑顔に変わり、首をすくめて笑い出す。


「なんで触るの?やめてよっ。」

「いいじゃん。ははっ!やわらけーっ。」

「もう、井坂君は~!」


詩織は文句を言いながらも楽しそうにやり返してきて、俺は詩織に堂々と触れられる状況に癒されながら楽しくて仕方なかったのだった。









幸せそうな一幕でした。

受験が終わり、次は詩織父の話へと向かいます。

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