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理系女子の恋  作者: 流音
229/246

216、今度は私が


井坂君とあゆちゃんが無事センター試験を切り抜け、二次試験に向けてまた勉強の日々に戻った二月―――

私は赤井君とのバイト生活に変わりはなく、ただ一つだけが胸に突っかかった状態だった。


―――というのが…あゆちゃんのことで、私はあゆちゃんに不満をぶつけられた日から一度もあゆちゃんに会っていなかった。


井坂君からあゆちゃんも反省していたと聞いていたので、すぐ来てくれるものだと待っていたのだけど…

あゆちゃんは一向に姿を見せず、日だけが経ってしまった。


私はそれに徐々に不安になっていて、本当はまだ怒ってるんじゃないか…と赤井君に訊いてみる事にした。


「赤井君。あゆちゃんって…さ…。元気?」


私は休憩中の赤井君の前に座ると、遠回しに尋ねる。

赤井君は目を丸くさせて私を見るなり、難しそうに顔を歪めて言った。


「さぁ?…俺、あいつ怒った日から会ってねぇし。」

「え…!?…えぇ!?!?」


私は赤井君とあゆちゃんの間までそんなことになってたとは知らず、淡々と口にした赤井君に詰め寄る。


「なんで!?どうしてそんなことになってるの!?」

「知らね。小波のことだから、まだ怒ってるんじゃねーの?」

「そっ…そんなこと…、えぇ~!?」


私はあゆちゃんの心境を考えると、胸が痛くなってきて、少し不機嫌そうな赤井君を見て心配になる。


「赤井君!二次試験の前にあゆちゃんと仲直りしようよ!このままはダメだよ!!」

「ダメも何も。あいつが謝りにこねーのにどうしようもねぇだろ?俺は悪くねーんだからさ。」

「そっ…、それは…。」


ふんっと鼻息を出しながら偉そうに言う赤井君に、私はもやもやしてしまって気持ち悪い。


「まさか…このままなんてことないよね?別れたりしないよね?」


私がそれだけは困る!と思って不安を口にすると、赤井君は顔をしかめた。


「あいつ次第じゃねぇの?俺からは何もする気ねーから。」

「そっ、そんな!!冷たいよ!あゆちゃんだって、きっかけ待ってるかもしれないのに…。」

「そんなの小波の勝手だろ!?これ以上あいつの我が儘に振り回されてたまるか!!」

「我が儘って…。あゆちゃんのこと、好きじゃないの!?」


私が愛情が足りない!!と思って口にした言葉に、赤井君の怒った目に射られる。


「どうだかな!!谷地さんは言われた当人なのにあいつに甘すぎるよ。俺ぐらい自分を持ったらどうだよ?」

「だ、だって…。」


私は自分が言われたことよりも、赤井君の言葉に傷ついただろうあゆちゃんの気持ちを考えてしまって、どうしてもあゆちゃん側に立ってしまう。

だから赤井君に言われても、納得できなくて歯痒くなっていたら、休憩室の扉が開いて成美さんが姿を見せた。


「なんか重そうな話してんね~。どした?赤井君は彼女と危機なのかな~?」


成美さんの能天気なからかいに赤井君は腹を立てたのか、「関係ないですよね?」と怒っている状態のまま休憩室を出て行ってしまった。

成美さんはそんな赤井君の背を見送って「相当キテるね。」と楽しそうに笑う。

私は成美さんの楽しそうな姿に赤井君じゃないけど腹が立ち、つい口が出る。


「赤井君にとったら一大事なので笑わないでもらえますか?」

「ありゃ?詩織ちゃんまで怒るなんて、本当にヤバいんだね~。」

「成美さん!!おちょくらないでください!」


私はイラッとしてつい声が大きくなり、成美さんはそんな私を見て目を丸くさせた。

でも笑うのはやめてくれなくて、嘲笑われてるのが不愉快で仕方ない。


「そんな顔で見ないでよ。二人にとっては一大事でも、私にとったらチャンスだからさ。」

「??チャンス?」


成美さんはやっと笑いを収めると、休憩室の椅子に腰をかけて言う。


「だって赤井君狙うなら今でしょ?」

「は!?」


私は成美さんの言葉にビックリして、成美さんの顔を凝視して固まる。

成美さんは笑っているけど真剣な目で私を見据えてきて、言ってる事が本気なんだと伝わる。


「年下は今まで論外だと思ってたんだけど、赤井君は違うっていうか…。彼、一本筋通ってる所がカッコいいよね。」

「ま、まま、待ってください!!赤井君はダメです!!絶対ダメ!!」


私は成美さんが何かしようと思ってることを察して、慌てて反対した。


「ダメって、なんで詩織ちゃんが言うの?彼女ってわけじゃないでしょ?」

「彼女じゃないですけどダメです!!赤井君はあゆちゃんのですから!!」

「そのあゆちゃんっていうのが、赤井君の現彼女か。詩織ちゃんとは友達なんだね。」

「はい!だから諦めてください!!」


「それは無理。恋愛はタイミングでしょ?仲違いしてる今がチャンスなのは、明らかじゃない。」


私は二人の間に割り込む隙など無いと伝えたかったのだけど、さっきの会話を聞かれてるだけに成美さんに効果はなかった。

でも、とにかくやめて欲しい気持ちでいっぱいで、私はなんとかしようと訴えるのをやめない。


「でもダメです!!成美さん、綺麗で大人なんだから、赤井君以外の人でお願いします!!」

「え~?褒められてもなぁ…。同じ女子なら、恋する気持ち止められないの分かるでしょ?」


成美さんは可愛らしく首を傾げて微笑んで、私はその言い分も分かるので反対意見が出てこない。

すると成美さんは立ち上がって私の前に来ると、私と目線を合わせてきた。


「そういうことだから。私の事は自由にさせてよね。」


成美さんはニコッと大人の余裕の笑顔を見せて、私は一瞬負けかけたけど、子供の意地でなんとか食らいつく。


「じゃあ、私は邪魔します!!」

「へ?」

「私に成美さんの気持ちは変えられないみたいだから…、成美さんのすること邪魔します!!絶対、赤井君には近づけさせない!」


私の宣言に成美さんは少し驚いていたけど、クシャっと顔を歪めて笑うと言った。


「可愛いね。分かった。やればいいじゃない?」

「はい。やります!」


余裕な笑顔を崩さない成美さんを見据えて、私は固く心に決めた。


あゆちゃんと赤井君が仲直りするまで、自分が赤井君を守ってみせる―――と



そうして、私と成美さんの激しいバトルが水面下で火蓋を切ったのだった。





***





「赤井君。ここの荷物一緒に運んでくれる?」


成美さんがバックヤードから赤井君に声をかけるのを聞き、私は赤井君の後ろからダッシュで近づき大きく手を挙げた。


「はい!!私も一緒に運びます!というか、先輩の成美さんに運ばせるわけにいかないので、私と赤井君の二人で運びますよ!!後輩なんで使ってください!」


赤井君は急に登場した私を目を丸くさせて見つめて、成美さんはこう言われると任せるしかなくなったのか少し怖い笑顔で言った。


「じゃあ、任せようかな?この段ボール、外にお願い。」

「はい。」

「はい!!任せてください!!」


私は元気いっぱいに後輩を演じて成美さんに笑顔を返すと、成美さんは内心イラついているだろう笑みと視線を残して売り場に戻って行った。

私はそれを見送りほっとしていると、赤井君が怪訝な顔で言った。


「高瀬さんと何かあった?空気こえーんだけど。」

「え?何も?――それより赤井君、成美さんに呼ばれてホイホイついてっちゃダメだよ?」

「は?なんで?」


私が赤井君と一緒に段ボールを運びながら注意すると、赤井君は不思議そうな顔を浮かべる。


「なんでって…、…この間のあゆちゃんの言葉忘れた?私に対してでもあぁなっちゃうのに、他の女の人なんて絶対ダメ!」


私は良い説明が浮かばなかったけど、こう言えば嘘ではないので大丈夫かと口にした。

すると赤井君が意外そうな顔をして、感嘆の声をあげる。


「は~…、まさか谷地さんからそんな注意されるとは…。ちょっと普通の女子っぽくてビックリ。」

「普通の女子っぽいって何?私、普通の女子だけど。」

「いやいや、なんか谷地さんって抜けてるじゃん。他人のことにそこまで気がつくとはって以外でさ。こりゃ井坂に報告しねーと。」

「しないでいいから!!」


私は自分がバカと言われてるみたいで少しムカついてしまった。

赤井君は自分だって成美さんの気持ちに気づかないくらい抜けてるのに、楽しそうに笑っていて苛立ちが募る。


だからこそ一際自分の責任感が増した気がして、私は自分に気合を入れ直したのだった。







***






そうして成美さんと水面下バトルを繰り広げている内に日は過ぎていき、あゆちゃんと井坂君の二次試験が明日へと迫った日―――



事件が勃発した。



私はいつものように夕方のラッシュ時にカゴを表へと出していて、それに気づいた赤井君が手伝いに来てくれた。

二人でやっと明日だねーと普通の日に戻れることを期待して、話をしながら作業をしていたら、成美さんが品出し用の段ボールに入ったお菓子を持って出てきた。


前が見えないぐらい積まれたそれを見た赤井君は、根っからの親切心で手伝いに向かい、事件が起きた。


赤井君が成美さんに駆け寄った瞬間、成美さんが足をもつらせるのが見えた。

私はそれを見て女の勘からわざとだと気づいたのだけど、赤井君は分からなかったのか手を差し出した。

でも前に体重を倒していた成美さんを赤井君が支えきることができず、二人一緒に倒れ込む。


私はその場に散らばるお菓子の袋の山と倒れた二人を見て、一時反応が遅れてしまった。


「だ、大丈夫!?」


私は持っていたカゴをその場に置き、駆けよって二人を確認して目を剥いた。


そこには成美さんに押し倒された赤井君が成美さんとキスしていたからだ。

赤井君は大きく目を見開いてビックリしていて、成美さんは「あ、ごめん!」と焦って離れる。


私は唖然と二人を見つめて、成美さんが事故チューしてしまったことに微笑むのが見えたとき。

私のなけなしの観察眼がキスもわざとだと訴えてきて、思わず成美さんに掴みかかった。


「成美さん!!なんでこんなことっ!!同じ女として恥ずかしいです!!!」

「詩織ちゃん…、今のは事故だから。ごめんね、赤井君。」

「あ、いえ…。」


赤井君は事故だと信じ切っているのか、少し照れた顔をしながら口元を押さえていて、私は悲しくなってきた。

それに苛立ちがプラスされて、目に涙が浮かぶ。


「もうっ!!!赤井君のバカ!!成美さんも!!なんでっ!?」


もうヤダッ!!!!


私は散々邪魔してきた苦労が全部消えてなくなったような気がして、泣けてくる顔を手で抑えた。


あゆちゃんへの申し訳なさと自分の無力さに気持ちがグチャグチャだ。

この気持ちをどこへやったらいいか分からなくて吐き気がする。


私はグイッと悔し涙を拭うと、もう成美さんの気持ち含め全部言ってしまおうと赤井君に向き直る。

するとそこで、「赤井!!」と懐かしい声が聞こえて、私は反射でそっちを向いた。



そこにはほぼ一カ月ぶりのあゆちゃんが立っていて、私は会いに来てくれたという嬉しさとさっきの場面を見られたのでは…という不安が相まって顔が強張る。

あゆちゃんは赤井君の前まで走ってくると、ちらっと成美さんを見てから、赤井君に笑顔を向けた。


「小波…。」


赤井君はその笑顔にさっきの事を見られていないと安心したのか、顔を和らげるのが見えた。

でもその直後、あゆちゃんの顔つきが変わり、あゆちゃんの平手打ちが赤井君の顔にさく裂した。


辺りにパンッ!!という弾ける音が鳴り、私と成美さんはその光景に目を見開く。


「――――っいってーな!!!何しやがる!!」

「うっさい!!人が謝りに来たってのに、嫌なもの見せられて!!気分最悪なのはこっちなんだけど!!」


あゆちゃんから出た言葉に赤井君が細く息を吸いこみ、顔を背ける。

私は見られてたことにまた悔しさで涙がでそうだったけど、我慢して二人の様子を見守る。


「でも、これでお相子だよね?私、謝る必要なくなったでしょ?」


あゆちゃんはそんな私の気持ちを払拭するようにいつもの笑顔を見せて、赤井君が苦笑した。


「お前…、ほんっと変わんねぇな。俺、平手一発もらってんだけど。」

「それは彼女として当然のことでしょ。これに関してはノーカウント。」

「ははっ!小波らしー。」


赤井君がどこか嬉しそうに笑うのを隠すように、あゆちゃんが背伸びして赤井君にキスするのが見えて、私は思わず両手で顔を隠して見ないよう努めた。


良かった…本当に良かった…!!


私は手の下で二人が仲直りしたことに嬉しくてニヤついてると、成美さんが「アホらし…。」と売り場に戻っていくのが隙間から見えた。

私はその後ろ姿にもほっとして顔が緩んでいると、ガバッと誰かに抱き付かれて隠していた手を下げる。


「あ、あゆちゃん!」


私に抱き付いていたのはあゆちゃんで、赤井君が私たちを見て微笑んでいる。


「詩織…。ごめんね。色々、ありがとう。」

「え!?」


私はお礼を言われるのにビックリしてあゆちゃんを見下ろしていたら、あゆちゃんがうっすらと瞳に涙を浮かべて言った。


「さっきの…詩織があの女の人に掴みかかったの見て…、詩織が赤井を守ってくれてたのすぐ分かった。」

「え…。守るって…、守れなかったんだけど…。」


私はあゆちゃんは何でもお見通しだと分かり恥ずかしくて、自分の失態を口にした。

でもあゆちゃんは嬉しそうに笑って首を横に振る。


「ううん。詩織が怒ってるの見て、私…赤井がキスしてるのショックだったのに、そこまで傷つかなかった。これは、詩織が私のために動いてくれたからだよ…。本当に嬉しかった。ありがとう…詩織。」

「あゆちゃん…。」


私はあゆちゃんの言葉を聞いて、自分のしてきたことが力になれていたと感激して涙が浮かぶ。


「詩織…、前に私が詩織に嫉妬してひどいこと言ったの…、許してくれる?」

「うん、…うん!!私もあゆちゃんの気持ち考えなくて、ごめん。ごめんなさいっ…。」


私はあゆちゃんとの仲が戻ったことに嬉しくて、あゆちゃんに抱き付いた。

あゆちゃんは「なんで詩織も謝るの。」と鼻声で笑って呟いて、私はあゆちゃんと一緒に笑いながらしばらくそうしていたのだった。








小波と赤井が無事仲直りです。

次は井坂、東京へ行く…です。

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