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理系女子の恋  作者: 流音
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213、妙な共通点



「それ小波も同じだ。」


私が学校からバイト先へ向かう道中で、昨日の井坂君の様子を赤井君に報告していたら、赤井君が驚いたように目を丸くさせて言った。


「あゆちゃんも同じって…。ホントに?」

「うん。谷地さんと一緒にバイトするって言ったら、なんかムッとしちまってさ。呑気でいいよねー!なんて嫌味な言い方までされちまったし…、ムカッときて帰ったんだ。」


私はあゆちゃんまでと聞いて、やっぱり受験前でピリピリしてるのかも…と思ったら、赤井君も同じことを口にした。


「やっぱ、受験勉強で切羽詰まってんのにバイトなんて呑気な話したからだよなぁ…。昨日は俺が悪かったかな。」

「だよね。私も反省したんだ。勉強頑張ってるのに、会いたいからって邪魔しちゃって…。」

「俺も。一緒にいられる時間が残り少ないからって、向こうの気持ち無視すんのはよくないって反省。せめてセンター終わるまでは、陰で応援するって方向にするよ。」

「やっぱりそれがいいよね…。」


赤井君が私も思ったことを言って、私は昨日井坂君のお母さんに「毎日来て」と言われたものの、どうしようか…と悩む。


とりあえず差し入れだけ届けに行って、井坂君に会うかは向こうで決めればいいか…


私は全く顔を出さないのも心配させてしまうかもしれないと思い、とりあえずバイト終わりに行くだけは行こうと決めた。


「ま、センターまであと3日だからさ。言ってる間だよな。俺たちはその間バイト頑張るぞ!」

「うん。今日から接客だもんね。頑張ろー!」


私は気合を入れる赤井君にのっかって、元気よく腕を振り上げた。

するとそれが意外だったのか、赤井君が笑い出して、らしくないことをしたことに少し恥ずかしくなってしまったのだった。





***





「いらっしゃいませ~。」


バイトを始めて一時間――――

私はスーパーの入り口でお客さんにカゴを渡して、声かけし続けていた。

さすがにレジにはまだ入らせてもらえないようで、笑顔で接客を続ける。


そして、こうして入り口にいると、食材や日用品の場所をよく聞かれ、私は毎回店長に場所を聞きに行き案内する。

さすがに何回も聞かれると自然と売り場内の配置が頭の中にインプットされてきて、私は少しずつではあるが自分で案内もできるようになってきた。


それを見られていたのか、最初の休憩に入ったとき、店長さんに声をかけられた。


「谷地さん。君、物覚えが早いね~。さすが進学クラスだけある。ちょっと休憩終わったらレジにも入ってみようか。」

「え!!もうレジに入るんですか!?」


私は急に緊張してきて声が裏返る。

店長さんは柔和な笑顔を見せたまま頷くと、楽しそうに言う。


「さすがに一人じゃないよ。もうすぐバイトの大学生が来るから、その子と一緒にね。彼女なら君の良い手本になるだろうから。」

「はい…。分かりました…。」


私は『彼女』と聞き、女の人でほっと一安心する。

すると同じように休憩をしていた赤井君が店長さんに手を挙げて訴える。


「店長!俺は!?レジはまだですか!!」

「んー…、赤井君はなぁ…。レジより、呼び込みの方があってそうなんだよなぁ…。レジもいいけど、ちょっと外でその元気を生かしてもらおうかな。」

「外!?!?」


赤井君はガーン!!と丸分かりな表情を浮かべ、店長さんは「はっはっは。」と笑い出す。

私はそんな二人を見て、赤井君のアピールが店長さんの心に欲を生んだと思った。


赤井君、おばさま受け良さそうだもんなぁ…

売り上げ向上を考えるなら、当然の采配だと思う


私はずっと元気な赤井君の姿を見ていたので、店長さんの心の中がすぐ読めた。

でもこれを赤井君に言うと赤井君の機嫌が悪くなりそうなので、あえてスルーすることにする。


「この寒空の中、外とか…。あり得ねぇ…。」

「ご愁傷さま。」

「他人事だと思って!」


ありゃ…言葉を間違えたかな…


ぶすっとふて腐れてしまった赤井君を見て、私は変に励ましてしまったな…と苦笑する。

するとそんな少し気まずくなりかけていた空気を打ち破るように、バンッ休憩室の扉が開け放たれ、背が高くてモデルのようなお姉さんが入ってきた。


「あれ?若い子がいる。」


お姉さんはかけていた黒縁メガネ(伊達だろうか…?)を外して上着のポケットにしまうと、二重で整った瞳で私たちを見つめた。


「成美ちゃん。この子たちは今日から売り場に出てる高校生だよ。谷地詩織ちゃんと、赤井瞬君だ。二人とも三年生で大学に合格したらしくて、3月までの短期なんだけどね。」

「へぇ~。高3か。じゃあ、私とは2つ違いだ。」


『成美ちゃん』と店長さんに呼ばれたお姉さんは、私たちの前まで歩いてくると手を差し出してくる。


「初めまして。高瀬成美。栄央大、社会学部二年。どうぞよろしく。」

「あ、はい。大浦川高校三年の谷地詩織です。よろしくお願いします。」


私は井坂君のお姉さんとは違った大人の空気に緊張して、立ち上がると握手した。

すると成美さんが私の頭頂部をガシッと掴んできて、私は急なことに縮み上がる。


「私と同じぐらいの身長の子と久しぶりに会った~!なんか部活でもやってるの!?」

「え、いえ。ウチは単なる遺伝で…。」


私は私より少しだけ背の高い成美さんを見て、ビクつきながら返す。

すると成美さんは目を輝かせると「へぇ~。」と掴んでた手を放す。

そして今度は赤井君と挨拶を交わそうと、視線を赤井君に向けてくれて少し緊張から解放される。


「どうも。聞いてただろうけど、高瀬成美。あなたは詩織ちゃんの……彼氏?」


成美さんは赤井君に手を差し出しながら首を傾げていて、私は『詩織ちゃん』と普通に名前で呼ばれたことに内心ビックリした。

赤井君は成美さんの手を握ると立ち上がって説明してくれる。


「違いますよ。俺も谷地さんもお互い別に相手いるんで。ここには同じ目的で入ったっていう同志であり、友達でクラスメイトって関係です。そこは誤解しないよ―――――」

「うわっ!!!!君、すっごく背高いね~!!!私、男の子見上げたの、かなり久しぶりなんだけど!!ちょっと、等身どうなってんの!?」


成美さんは赤井君から少し離れると興奮しながら、赤井君を上から下まで眺め出す。

私はそれを横で見ながら、赤井君が説明の途中で話をぶった切られたことにイラついているのが目に見えて分かる。


「年下とか惜しいなぁ~!!いや~、その身長だけでちょっときちゃった!君、学校でもモテるでしょ!?」

「………それほどでもないですよ。っていうか、俺らもうすぐ休憩終わりっすけど。」


赤井君が明らかに成美さんとの接触を拒んで、部屋を出ようと背を向けた。

すると店長さんが「成美ちゃん!時間!!早く着替えて!」と赤井君を見る成美さんの背中を押し始めた。

成美さんは「分かってますよ!」とちらっと赤井君の背を見て、頬を染めていて嫌な予感がする。


………まさか…ね?


私は今会ったところで、あり得ないと思い込み、赤井君と一緒に部屋を出ようとしたら、店長さんに声をかけられた。


「谷地さんは成美ちゃんが来るのを待って、成美ちゃんと一緒にレジに入って、赤井君は僕と一緒に外行こうか。」

「げっ!?やっぱ外っすか?」

「当然。君、元気なんだから、そんな嫌そうな顔しない。」


赤井君は「えぇ~!?」と店長さんに抗議の声を発していたけど、店長さんは有無を言わせず赤井君を引っ張っていく。

私はそれを見送りながら、心の中で応援する。


すると赤井君たちが出て行ったのと入れ違いにいつ着替えたのか成美さんがやって来て、私に目を向ける。


「あれ?店長は?」

「あ、えっと赤井君と外に…。」


私は成美さんと二人という状況に緊張して、遠慮がちに伝える。

すると成美さんが長い髪をてっぺんでお団子にしてまとめながら笑う。


「あははっ!!店長もあの顔に目、つけてんだね~。良い客寄せになるでしょ。」

「客寄せ…。」


言ったら赤井君は嫌がるだろうなぁ…

まぁ、気づいてるかもしれないけど


「ところで詩織ちゃんはこの後は?」

「あ、あの、店長さんが成美さんと一緒にレジに入って欲しいって。」

「あー、研修ね。オッケー。」


私が店長さんに言われたことをそのまま伝えると、成美さんは慣れっこなのか軽く受諾してくれた。

そして私に目配せしてから「行くよ。」と部屋を出て行く。

私はその姿を見て慌てて追いかけると、成美さんの堂々とした背中を見つめて、あんな大学生になれるのかな…とこれから先の自分を思ったのだった。





***






そうして私は成美さんと二人でレジに入り、成美さんから丁寧にやり方を教わった。

―――と言っても、品物を通してカゴに移すのと、レジの操作方法だけだけど…


成美さんは私に教えてくれながら、お客さんへの接客も完璧にこなしていて、手際の良い姿に尊敬してしまう。

成美さんを見ていると、自分の将来の理想像が見えてきて、こういうお姉さんになりたいな…なんて憧れを抱いてしまった。


そして成美さんと二人、案外楽しくレジを打っていると、あっという間にバイトの時間が過ぎて、店長さんから「あがっていいよ~。」と声をかけられた。

成美さんはまだ終わらないようで「お疲れ。」と笑顔で背中を叩かれて、私は教えてもらったことに「ありがとうございました。」とお礼を言って、休憩室へと戻る。


ふ~…、なんだかちょっと楽しかった…


私はサバサバした成美さんとのバイトを思い返して部屋に入ると、赤井君がテーブルに突っ伏していて驚いた。


「赤井君…。」

「あ~…、お疲れ…。初レジどうだった?」


赤井君は外の呼び込みが余程ハードだったのか、疲労困憊な様子で身体を起こさず顔だけ私に向ける。


「うん。楽しかったよ。成美さんも優しくて…。」

「いいなぁー!こっちは地獄だったぞ!?あの店長、優しそうな顔して鬼だな!」

「あははっ。赤井君、店長さんに気に入られてたもんね。」

「あれは気に入られたっていうのか!?文句言うたんびに若いんだからって何回言われたか!」

「そんなに大変だったんだ…?」


私は店長さんが笑顔で赤井君を窘める様子を思い描いて、笑みが漏れる。

赤井君は嫌そうな顔をしたまま立ち上がると、着替えに行くのか更衣室の扉に手をかける。


「ここで話してたら店長に聞かれるかもしんねーし、とりあえず帰りながら話す。」

「あははっ。了解。じゃあ、着替えたら外で。」

「おっけー。じゃあ、あとで。」


私は更衣室に入って行く赤井君を見て、自分も更衣室に入ると指定エプロンと三角巾を外し、ブレザーを身に着ける。

そこで井坂君への差し入れのことを思い出し、慌ててエプロンと三角巾を鞄に突っ込むとロッカーを閉めて更衣室を出た。


ちょうどスーパーだから、差し入れ何でも揃うよね…


そう思い今度はお客さんとしてさっきまで働いていた売り場に赴き、合格パッケージになっているチョコレートのお菓子と、栄養ドリンク、それに眠気覚ましのブラックガムを手に取った。


あまりたくさん持って行くと、明日も行く口実がなくなるもんね…


私はそう画策してその3点だけを成美さんのレジで購入して、異色な買い物に不思議そうな顔をする成美さんに「お先です。」と言って、赤井君の待つ外へ急いだ。


「お待たせ!!」

「お~、ってなんでそっから出てくんの?」


赤井君が社員用の裏口ではなくスーパーの入り口から出てきたことに目を丸くさせていて、私は買った品物の袋を目の前に上げて説明した。


「井坂君に差し入れしようと思って。」

「へぇ…、なんだかんだ今日も井坂んとこ行くんだな?」

「うん。まぁ…、会うかどうかはお母さんに探りを入れてからにしようと思ってるけど…、行くのは自由でしょ?」


私は会いたい気持ちを隠しながら口をすぼめると、赤井君が吹きだして笑い出す。


「ははっ!!まぁな!じゃ、俺も今日は井坂の様子見に行くかな~。」

「あれ?あゆちゃんはいいの?」

「おう。小波はきっと今日も会いに行ったって良い顔しないだろうしさ。それなら井坂をからかってる方がマシ。」

「からかうとか…、勉強の邪魔は私が許さないから、それだけはやめてね。」


私が井坂君を見守るガードマンのように赤井君を軽く睨むと、赤井君はニヤッと悪い顔で笑いながら意味深な言葉を発しながら歩き出す。


「それはどうだろうな~?俺にその気なくてもあいつが絡んでくる場合もあるからさ。」

「赤井君。じゃあ、井坂君の前で一切口を開かないで。」


私はそれが一番手っ取り早いと思って言うと、赤井君は楽しそうに笑いながら「谷地さんは厳しーな!」とぼやく。


赤井君はほんっとに井坂君で遊ぶのが好きなんだから…


井坂君の彼女として、この時期にそれだけはさせられないと赤井君を見張ることに決めて、私は赤井君と一緒に井坂君のお家へ足を進めたのだった。






***






そうして道中赤井君のおしゃべりに付き合いながら井坂君の家へやってくると、玄関に見慣れない女物の靴があり、私は出迎えてくれたお母さんの顔を見て首を傾げた。


「詩織ちゃん。あ、舜君もいらっしゃい。あのね今、拓海のお友達が来てて…、一緒に勉強してるみたいなんだけど…。」

「「友達??」」


お母さんの複雑そうな顔に私と赤井君が顔を見合わせて同時に口に出すと、お母さんはなぜか小声で言う。


「それが女の子なのよ!」

「女の子…。」


私は女の子と聞いて、急に胸の中がもやっとしてしまう。

するとそれに気づいたのか、赤井君が横から詳しく訊こうと身を乗り出す。


「その女子って名前とか分かんないですか?」

「えっと…、確か…小波さんって言ってたかしら…?」


「小波?」「あゆちゃん?」


私はあゆちゃんだと聞いてほっとするのと同時に、どうして井坂君の家で勉強する流れになったのか気になった。

それは赤井君もだったのか、少し眉間に皺を寄せて複雑そうな顔をしている。


「あら、二人の知り合い?」


お母さんは私たちの知ってる人だと分かり、少し安心したようでさっきよりも顔が緩んでいる。


「はい。あゆちゃん…、その小波さんは私の親友で…。赤井君の―――」

「彼女です。」


赤井君が私の説明を引き継いで少し照れくさそうにして言って、お母さんの目がキラリと輝くのが見えた。


「まぁまぁまぁ!!そうなの!?えっ!?じゃあ、親友同士でカップルなの!?それってすごく素敵!!」


井坂君のお母さんは興奮気味にそう言って、まるで女子高生のようにわたわたと騒ぎ始める。

それを見て、私はこのままだと二人の勉強の邪魔をしてしまうかもしれないと思い、差し入れの袋をお母さんに差し出した。


「あの!二人が勉強中なら、今日は帰ります。これ、差し入れなんですけど。井坂君に渡してください。」

「あら!!詩織ちゃん、拓海呼ぶから会って行けばいいのに。」

「いえ。本当はセンター試験が終わるまでは来ないつもりだったんです。それなのに気になっちゃって…。また、改めます。井坂君には応援してるってことだけ、伝えておいてください。」


私は少し強引に差し入れを井坂君のお母さんに渡すと、引き留められる前に外に出た。

すると赤井君も一緒に出てきてしまって、私は焦って赤井君に言った。


「赤井君は会ってきてもいいよ?あゆちゃんもいるって言ってたし…。」

「いいよ。谷地さんが我慢してんのに、俺だけ我を通すわけにいかないじゃん。」

「我慢って…。そんなこと…。」


私は我慢なんかじゃないと思って返したのだけど、赤井君はしょうがないなぁって顔で微笑んで言う。


「会いたかったから、ちょっとの差し入れ買ってきたんだろ?それなのに井坂のためだーとか言って、会わずに帰るとか。我慢以外の何でもねぇじゃん?谷地さんは井坂に良い顔し過ぎだよ。」


赤井君に自分の本心を丸裸にされ、私は恥ずかしくて顔が熱くなってくる。


赤井君に全部筒抜けとか…


私は恥ずかしい気持ちを隠したくて、赤井君を軽く小突くと家へ足を向けた。

赤井君はそんな私の気持ちも分かってるのか、笑いながら後ろを追いかけてきて並んで歩き出す。


「怒んなくてもいいじゃん。俺も谷地さんと一緒。谷地さんが帰るってのにのっかって、小波の勉強を邪魔しない良い彼氏でいたかっただけ。」


赤井君は急に私のご機嫌をとるように本心を打ち明けてきて、恥ずかしさが和らぐ。

赤井君は「俺ら似てるよな?」と少し寂しげな笑顔を浮かべ、私は赤井君の底抜けの明るさの裏にある本当の顔を垣間見たような気がした。



きっと私が思うよりもずっと、赤井君はあゆちゃんのことを想ってる…



私は自分と同じ気持ちを抱える人がすぐ傍にいたことに、なぜか心強くなって寂しい気持ちが薄らいだのを感じたのだった。











仲の良いバイト組の話でした。

次は受験組になります。

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